老後の資産形成方法(主にイデコ)の検証

最近のニュースの中で国の公的年金だけでは老後の生活資金が2千万円不足するとかということが話題となりました。確かに、現行の年金受給金額からすれば、大多数の方は、計算上では年金受給金額だけでは、生活資金が不足することは否定できないところです。その為に、老後資金・資産を十分に確保するには自助努力が欠かせないところです。各種の資産形成方法がありますが、以下では税制上優遇のある年金等を中心に列挙しますが、その中で最近存在感が高まっている確定拠出年金の個人型(イデコ)を含めて紹介してみたいと思います。

1.年金・退職金制度
(1)公的年金(国の組織運営)
① 国民年金(老齢基礎年金、遺族基礎年金、障害基礎年金)
国民年金基金(任意加入)
② 厚生年金(老齢厚生年金、遺族厚生年金、障害厚生年金)
(2)企業年金(企業の組織運営)
① 確定拠出年金(企業型):下記4を参照
② 確定給付年金
③ 厚生年金基金(厚生年金の上乗せ部分)
④ 中小企業退職金共済制度(中退共制度)
⑤ 中小企業主掛金納付制度(イデコプラス):下記4を参照
⑥ その他退職金制度
(3)個人年金(個人の組織運営)
① 確定拠出年金(個人型:イデコ):下記4を参照
② 貯蓄型個人年金保険
③ 小規模企業共済(個人事業)

2.有価証券投資運用
(1)特定口座取引・一般口座取引
(2)少額上場株式等に係る配当所得及び譲渡所得等の非課税制度
① 少額投資非課税制度(NISA)
② 少額投資累積非課税制度(積立NISA)
③ 未成年者少額投資非課税制度(子供版ジュニアNISA) 
最近、税制優遇のあるNISAの口座数が約1,200万口座になっています。

3.その他
他にも様々はものがあり、身近なものでは、不動産投資、暗号資産(仮想通貨)投資、先物・FX取引、等があります。

4.確定拠出年金(DC)の概要:個人型(イデコ)
確定拠出年金とは、確定拠出年金法を根拠に私的年金であり、個人の加入者が所定の掛金額を納め、その資金の運用を個人自身が指示してその運用の結果総額を将来受給するものです。この確定拠出年金には、企業型と個人型があります。

 企業型 個人型(イデコ)
定義確定拠出年金制度を設ける会社が掛金を毎月積立て(拠出)し、従業員が自ら年金資産の運用を行う制度です。個人が積極的に老後の資産形成を図ろうとする制度です。このイデコと呼ばれる確定拠出年金は、金融機関(運営管理機構)を個人で選択して、掛金限度額の範囲内で掛金額を決めて、国民年金基金連合会に定期的に積み立て行くことになるものです。
加入対象者確定拠出年金制度を設けている企業の従業員(国民年金の第2号被保険者)①自営業、学生等の20歳以上60歳未満の方(国民年金の第1号被保険者)
②専業主婦・主夫、パート労働者等の20歳以上60歳未満の方(国民年金の第3号被保険者:厚生年金に加入している第2号被保険者に扶養されている方)
③会社員、公務員の60歳未満の厚生年金の被保険者の方(国民年金の第2号被保険者)
加入者数直近で約720万人と増加傾向(対象会社員の約2割加入)直近で約130万人と増加傾向(2017年に専業主婦、公務員等の加入対象を拡大)
掛金月額5,000円から1,000円単位で選択し、掛金は年1回変更可能で、60歳まで積立できます。
月額掛金限度額年額掛金限度額月額掛金限度額年額掛金限度額
他の企業年金が無い場合55,000円660,000円①自営業等68,000円816,000円
他の企業年金と組合せている場合27,500円330,000円②専業主婦等23,000円276,000円
③会社員(注2)

会社に企業年金制度が無い
23,000円276,000円
(注1) 企業型確定拠出年金加入者について、 その者が①マッチング拠出を行なわないこと及び②個人型確定拠出年金制度の加入者になることができることについて、 企業型確定拠出年金の規約の定めがある場合にのみ個人型確定拠出年金制度の加入者を可能とします。 その場合の企業型確定拠出年金制度の年間拠出限度額は、 下記の金額となります。③会社員(注1)企業型確定拠出年金加入者(他の企業年金がない場合)(注1)
20,000円240,000円
③会社員(注1)企業型確定拠出年金加入者(他の企業年金がない場合)(注1)
12,000円144,000円
③会社員・公務員確定給付型年金のみ加入者及び公務員等共済加入者
12,000円144,000円
月額掛金限度額年額掛金限度額
他の企業年金が無い場合35,000円420,000円
他の企業年金と組合せている場合15,500円186,000円
税制優遇①掛金積立時:全額が会社の経費(損金)
②運用時:運用益は非課税
③受給時(原則、60歳以降):
イ 年金として受給(65歳以降):雑所得として公的年金等控除の適用
ロ 一時金として受給:退職所得として退職所得控除の適用
①掛金積立時:全額が社会保険料控除対象
②運用時:運用益は非課税
③受給時(原則、60歳以降):
イ 年金として受給(65歳以降):雑所得として公的年金等控除の適用
ロ 一時金として受給:退職所得として退職所得控除の適用
イデコプラス(注2)イデコの個人加入者に対して、会社(対象は、会社に企業年金制度が無い従業員100人以下の企業)が掛金(中小事業主掛金)を上乗せし、従業員の老後の資産形成を支援するものです。この場合、月額掛金限度額は、中小事業主掛金と個人加入者掛金の合計額は、23,000円となります(個人加入者掛金が既に23,000円の場合には、中小事業主掛金の上乗せはできません)。
掛金納付は、個人加入者掛金分は給与天引し、これに中小事業主掛金を加えて会社が国民年金基金連合会に行います。
確定拠出年金デメリット確定拠出年金制度のデメリットもありますので、制度内容をよく検討し選択する必要があります。
①受給開始は早くて60歳以降になります(60歳まで引出不可)。又、途中で積立てをストップすることは可能ですが、その場合でも60歳までは、所定の管理手数料を負担する必要があります。又、「60歳」から受取れるのは、確定拠出年金の加入期間が「10年以上」の場合に限られます(10年未満は所定の受給年齢が決まっています)。同時に、加入・積立が、60歳未満という条件があり、中高年の方には不向きな面があります。なお、積立運用は最長90歳までは可能。
②リスクの高い商品に投資している場合、運用益も高くなることもありますが、逆に運用損になり積立掛金額よりも下回り、いわゆる元本割れとなるリスクがあります。又、途中での株式等の損失は申告分離課税等を適用できません。
③企業型確定拠出年金は、持運び可能ですが、転籍先企業に当該年金制度が無い場合には、個人型に移行するしかありません。
④金融機関(運営管理機構)ごとに取扱い商品が異なり、個人が希望する商品を選択することができない場合もあります。
2019年8月16日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

ふるさと納税と個人寄附金控除

A. ふるさと納税の見直し
ふるさと納税の適用を見直し、令和元年(2019年)6月1日以後に行われる寄附金から適用となりました。
総務大臣は、所定の基準に適合する都道府県等をふるさと納税適用の対象とします。
① 寄附金の募集を適正に実施する都道府県等
② 上記都道府県等で返礼品は、以下のいずれも満たす都道府県等であること。
(イ)返礼品の返礼割合は3割以下とすること
(ロ)返礼品は地場産品とすること
総務大臣から指定された都道府県等に対する寄付金のみがふるさと納税(個人住民税の寄附金税額控除)の適用対象となります。対象外ものは、通常の寄附金控除として取扱うことになります。

ふるさと納税の控除方式は、所得税におきましては所得控除ですが、住民税では所得控除ではなく税額控除(ふるさと納税では住民税特例控除となります)となりますので、所得金額の多寡により寄付されたふるさと納税から2千円控除後の全額と税金負担減とがイコールとなります。このイコールになる寄付金額(限度額)は、後述していますが次の計算式で算出できます。
 寄附金限度額 = 個人住民税所得割額X 20%÷(90%-所得税率X1.021)
+ 2千円

B. 個人寄附金控除
ふるさと納税を行う人が増えていますが、 これも寄附金ということで税制上では、 税負担の軽減が図られています。 以下では、個人からの寄附行為に対する税務上の取扱いを確認したいと思います。
1.税務上の寄附金控除(所得控除と税額控除)とは
寄附金控除の適用を受けるには、寄附の相手先が「特定寄附金」の対象として認められていることが必要となります。 「特定寄附金」に該当すれば所得から一定の寄附金額を控除できるという「所得控除」が認められ、更にその中で一定の寄附金に該当しますと、所得控除に代えて、税額から一定金額を控除できるという「税額控除」を選択することができます。
2.「特定寄附金」の主な範囲
(1)国又は地方公共団体に対する寄附金
ふるさと納税もここに含まれます。
(2)指定寄附金
公益を目的とする事業法人(公益社団法人、公益財団法人等)、又は一定の要件を満たす団体に寄附するもののうち、財務大臣が指定した緊急性を要するものとした寄附金
(3)政治活動に関する寄附金
(4)特定公益増進法人に対する寄附金
公益社団法人、公益財団法人、社会福祉法人、一定の学校法人等
(5)認定特定非営利法人等(認定NPO法人等)に対する寄附金
3.「税額控除」対象の寄附金と税額控除額
税額控除を税務上では「特別控除」という表現で規定しており、以下のものがあります。
① 政党等寄附金特別控除
特定の政治献金のうち、政党や政治資金団体へ寄附された場合の税額控除額
(イ)年間の政党等特定寄附金合計額(注1)又は総所得金額等の40%相当額のいずれか少ない金額 - 2千円(注1)
(ロ)上記(イ)X 30%
(ハ)所得税額 X 25%
(ニ)上記(ロ)と(ハ)のいずれか低い金額 = 政党等寄附金特別控除
② 公益社団法人等寄附金特別控除
一定の要件を満たす公益社団法人、公益財団法人、社会福祉法人、学校法人、国立大学法人、公立大学法人等へ寄附をされた場合の税額控除額
(イ)年間の公益社団特定寄附金合計額(注1)又は総所得金額等の40%相当額のいずれか少ない金額 - 2千円(注1)
(ロ)上記(イ)X 40%
(ハ)所得税額 X 25%(注2)
(ニ)上記(ロ)と(ハ)のいずれか低い金額 = 公益社団法人等寄附金特別控除
③ 認定NPO法人等寄附金特別控除
一定の要件を満たす認定NPO法人へ寄附された場合の税額控除額
(イ)年間の認定NPO特定寄附金合計額(注1)又は総所得金額等の40%相当額のいずれか少ない金額 - 2千円(注1)
(ロ)上記(イ)X 40%
(ハ)所得税額 X 25%(注2)
(ニ)上記(ロ)と(ハ)のいずれか低い金額 = 認定NPO法人等寄附金特別控除
注1:この控除対象寄附金額(総所得金額等の40%相当額)及び控除適用下限額(2千円)の判定は、 所得控除対象の寄附金額及び税額控除対象の寄附金額と合わせて総合計でおこないます。
注2:この判定は、公益社団法人等寄附金と認定NPO法人等寄附金との合計でおこないます(政党等寄附金は含まず別枠での判定)。

上記の①~③の特定寄附金に該当された場合には、当該税額控除と下記の所得控除の有利な方をそれぞれ選択適用することができます。
4.「所得税寄附金控除」の計算
ふるさと納税(税額控除の適用は認められません)等の特定寄附金には寄附金所得控除額が認められていますが、その計算式は次のとおりです。
(イ)年間の特定寄附金合計額(注1)
(ロ)総所得金額等 X 40%
(ハ)上記(イ)と(ロ)のいずれか低い金額
(ニ)上記(ハ)の金額 - 2千円 = 寄附金所得控除額
(ホ)所得税の軽減税額
    寄附金所得控除額 X 所得税率 X 1.021% 
5.「住民税寄附金税額控除」の計算
上記では、所得税における寄附金の控除についてでしたが、同時に住民税におきましても特定の寄附金に対しては寄附金控除が認められています。 例えば、次の様な寄附金が対象となります。
① 都道府県・市区町村へのふるさと納税
② 住所地の日本赤十字社支部
③ 住所地の都道府県共同募金会
④ 住所地の都道府県が条例で指定する社会福祉法人
⑤ 住所地の都道府県・市区町村ともに条例で指定する認定NPO法人
なお、住民税においての控除方式は、税額控除のみとなっています。 住民税は、都府県民税と市町村民税とに分かれ、寄附金も特定寄附金になるものか否かは条例により異なりますので別々に計算する必要があります。
(1)住民税基本控除分
(イ)年間の都府県、市町村又は特別区等への特定寄附金合計額
(ロ)総所得金額等の30%相当額
(ハ)上記(イ)と(ロ)のいずれか低い金額
(ニ)上記(ハ)の金額 - 2千円 
(ホ)上記(ニ)の金額 X 10%(都府県民税4%、市町村民税6%:平成30年度分より2%と8%に標準税率の変更)= 住民税基本控除分
(2)住民税特例控除分
(イ)年間の都府県、市町村又は特別区への特定寄附金合計額 - 2千円
(ロ)上記(イ)の金額 X (90% - 所得税率 X 1.021 X 5/5(平成30年度分より都府県民税1/5、市町村民税4/5)
(ハ)住民税所得割額 X 20%相当額
(ニ)上記(ロ)と(ハ)のいずれか低い金額 = 住民税特例控除分
(3)住民税の寄附金税額控除額 = (1)+ (2) 
6.寄附金限度額の計算
ふるさと納税でよく言われるのが、寄附金額から2千円控除した金額の全てが税金計算上、控除されることになるということですが、 これは正しいでしょうか。 これまでの寄附金の限度計算では、総所得金額等(注3)の40%或いは30%、又は住民税所得割額(注4)の20%が限度という算式がありましたので、寄附金には所得金額の多寡により一定の寄附金額控除に限度があることが分かります。 上記から、
寄附金限度額 = 個人住民税所得割額X 20%÷(90%-所得税率X1.021)+ 2千円
の算式が導かれます。 ご存知の様に所得税率は、累進税率の7段階に分かれていますので、次の表が寄附金限度額の目安となるかと思います。

所得税の課税所得額所得税率寄附金限度額
195万円未満5%個人住民税所得割額 X 23.558% + 2千円
195~330万円未満10%個人住民税所得割額 X 25.065% + 2千円
330~695万円未満20%個人住民税所得割額 X 28.743% + 2千円
695~900万円未満23%個人住民税所得割額 X 30.067% + 2千円
900~1,800万円未満 33%個人住民税所得割額 X 35.519% + 2千円
1,800~4,000万円未満40%個人住民税所得割額 X 40.683% + 2千円
4,000万円以上45%個人住民税所得割額 X 45.397% + 2千円

注3:総所得金額等とは
所得税計算での総合課税所得金額及び申告分離課税所得金額を合算し、かつ、各種の繰越損失控除を使用していた場合には、その使用額を加算(控除前に戻す)したところの所得金額。
注4:住民税所得割額とは
住民税計算での課税所得金額に税率を乗じた税額(総合課税に係る税額控除前所得割額と分離課税に係る税額控除前所得割額との合計額)から調整控除額(通常2,500円)を控除した後の税額。

例えば、給与所得500万円、社会保険料50万円、基礎控除38万円(住民税では33万円)の場合の人が、ふるさと納税30万円を行った場合と行わなかった場合の所得税及び住民税は以下のようになります。
(1)ふるさと納税30万円を行わなかった場合
① 所得税額
5,000,000 - (500,000 + 380,000) = 4,120,000
(4,120,000 X 20% - 427,500) X 1.021 = 404,826  404,800(所得税額)
② 住民税額
5,000,000 - (500,000 + 330,000) = 4,170,000
4,170,000 X 10% = 417,000円(住民税額)
(2)ふるさと納税30万円を行った場合
① 所得税額
(イ)特定寄附金合計額 300,000
(ロ)5,000,000 X 40% = 2,000,000
(ハ)上記(イ)と(ロ)のいずれか低い金額 300,000
(ニ)300,000 - 2,000 = 298,000寄附金所得控除額
(ホ)所得税額
5,000,000 - (500,000 + 298,000 + 380,000) = 3,822,000
(3,822,000 X 20% - 427,500) X 1.021 = 343,974  343,900 (所得税額)
(へ)寄附金による所得税額の軽減税額
   寄附金所得控除額 X 所得税率 X 1.021 = 298,000 X 20% X 1.021 = 60,900円 
② 住民税額
(1)住民税基本控除分
(イ)特定寄附金合計額 300,000
(ロ)5,000,000 X 30% = 1,500,000
(ハ)上記(イ)と(ロ)のいずれか低い金額 300,000
(ニ)300,000 - 2,000 = 298,000 
(ホ)298,000 X 10% = 29,800
(2)住民税特例控除分
(イ)特定寄附金合計額300,000 - 2,000 = 298,000
(ロ)298,000 X (90% - 20% X 1.021) X 5/5(都府県民税2/5、市町村民税3/5)= 207,348
(ハ)住民税所得割額 (4,170,000 X 10% - 2,500) X 20% = 82,900
(二)上記(ロ)と(ハ)のいずれか低い金額 82,900
(3)住民税の寄附金税額控除額 = 29,800 + 82,900 = 112,700円
(4)住民税額
5,000,000 - (500,000 + 330,000) = 4,170,000
4,170,000 X 10% - 112,700 = 304,300円(住民税額)
③ 所得税・住民税への軽減税額
所得税60,900 + 住民税112,700 = 173,600円
④ 寄附金限度額
以上の寄附額300,000円の例からは、 制限・上限に該当となるケースでしたが、 該当しない寄附額はいくらであったかは、 以下の計算で算出できます。
個人住民税所得割額X 20% ÷ (90% - 所得税率X 1.021)+ 2,000 = 414,500 (4,170,000 X 10% - 2,500) X 20% ÷ (90% - 20% X 1.021) + 2,000 = 240,286円
計算結果から、 240,286円相当額が制限・上限に触れることのないレベル、 即ち、寄附金限度額ということになります。

以上

2019年8月15日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

暗号資産の取扱い

これまでの「仮想通貨」の呼称が、日本円や米ドルなど法定通貨との誤認を防ぐという目的や国際会議等の外国での使用表現に合わせ、「暗号資産」に変更されました。この暗号資産(仮想通貨)に関する規制強化策を盛り込んだ「改正資金決済法」、及び「金融商品取引法」が参院本会議で可決、法案が成立し。 2020年4月から施行されます。
2019年度の税制改正で暗号資産の取扱いが、以下の様になりました。
1.法人税:暗号資産の評価方法等
(1)事業年度末の暗号資産のうち、活発な市場が存在する暗号資産(市場暗号資産)については、時価評価により評価損益を計上する。

       区分評価方法評価損益の取扱い
市場暗号資産自己の計算において有する暗号資産時価法益金(損金)算入
自己以外の者の計算において有する暗号資産益金(損金)算入しない
市場暗号資産に該当しない暗号資産原価法

活発な市場が存在する暗号資産(市場暗号資産)とは、次の要件の全てに該当するものをいいます。
イ 継続的に売買価格等(売買の価格又は他の暗号資産との交換比率)の公表がされ、かつ、その公表される売買価格等がその暗号資産の売買価格又は交換比率の決定に需要な影響を与えているものであること。
ロ 継続的に上記イの売買価格等の公表がされるために十分な数量及び頻度で取引が行われていること。
ハ 次の要件のいずれかに該当すること。
① 上記イの売買価格等の公表がその法人以外の者によりされていること。
② 上記ロの取引が主としてその法人により自己の計算において行われた取引でないこと。
(2)暗号資産の譲渡時の譲渡損益は、譲渡契約時の事業年度に計上する。
(3)暗号資産の単価算出方法は、移動平均法又は総平均法による原価法とし、法定算出方法は移動平均法による原価法とする。
(4)未決済の暗号資産の信用取引等については、事業年度末に決済したものとして損益相当額を計上する。
(5)棚卸資産及び固定資産の範囲から暗号資産が除外となります。
上記改正は、2019年4月1日以後に終了する事業年度より適用する(時価評価に関して経過措置有り)。

2.所得税:暗号資産の所得計算方法
移動平均法又は総平均法で算出することになりますが、法定評価方法は総平均法となりました。
法定評価方法:総平均法(従って、移動平均法を採用したい場合には、所轄税務署に要届出)
評価の方法:移動平均法又は総平均法
所得区分:原則は雑所得(事業と認められる場合は事業所得)

2019年7月16日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

確定申告時の添付不要項目

2019年4月1日以後に提出する確定申告等から以下の書類が添付不要となります。
(1) 給与所得、退職所得及び公的年金等の源泉徴収票
(2) オープン型証券投資信託の収益の分配の支払通知書
(3) 配当等と見做す金額に関する通知書
(4) 上場株式配当等の支払通知書
(5) 特定口座年間取引報告書
(6) 未成年者口座等につき契約不履行等事由が生じた場合の報告書
(7) 特定割引債の償還金の支払通知書
(8) 相続財産に係る譲渡所得の課税の特例(取得費加算)を適用する際の相続税額等を記載した書類

2019年7月14日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

ふるさと納税の見直し

ふるさと納税の適用を見直し、2019年6月1日以後に行われる寄附金から適用となります。
総務大臣は、所定の基準に適合する都道府県等をふるさと納税適用の対象とします。
① 寄附金の募集を適正に実施する都道府県等
② 上記都道府県等で返礼品は、以下のいずれも満たす都道府県等であること。
(イ) 返礼品の返礼割合は3割以下とすること
(ロ) 返礼品は地場産品とすること
総務大臣から指定された都道府県等に対する寄付金のみがふるさと納税(個人住民税の寄附金税額控除)の適用対象となります。対象外ものは、通常の寄附金控除として取扱うことになります。

2019年7月13日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

大法人(資本金1億円超の法人等)の電子申告義務化

2020年4月1日以後の開始事業年度から大法人が行う税務申告(添付書類を含めて)はe-Taxにより提出しなければならなくなりました。従いまして、電子申告義務化に向けて書類の作成方法の見直しが必要となるものもあるかと思います。以下は、電子申告義務化の概要となります。
1.対象法人
(1)内国法人のうち、その事業年度開始時の資本金額又は出資金額が1憶円超の法人
(2)相互会社、投資法人及び特定目的会社
2.対象税目及び申告書
(1)国税の法人税及び地方法人税並びに消費税及び地方消費税
(2)地方税の法人住民税及び法人事業税
上記税目の確定申告書、中間(予定)申告書、仮決算の中間申告書、修正申告書及び還付申告書
3.電信申告対象書類
申告書及び申告書に添付すべきものとされる書類(財務諸表、勘定科目内訳明細書など)の全て
4.届出規定
対象法人は、所轄税務署に適用開始事業年度等を記載した届出書(e-Taxによる申告の特例に係る届出書)の提出が必要となります。
5.適用日
2020年4月1日以後の開始事業年度(課税期間)から適用
6.罰則規定
電子申告の義務化は、申告方法をe-Taxに限定するもので、書面による申告書の提出は認められません。 このため、電子申告の義務化の対象となる法人が、e-Taxにより法定申告期限までに申告書を提出せず、書面により提出した場合、その申告書は無効なものとして取り扱われることとなり、無申告加算税の対象となりますので、ご注意ください。
なお、法定申告期限までに書面により申告書を提出した後、法定申告期限後にe-Taxにより提出した場合でも同様です。
7.添付書類のデータ形式
電信申告義務化の対象書類は、PDF形式でのデータ提出は認められていませんので注意が必要です。これまで認められていたデータ形式として、財務諸表はXBRL形式、申告書・勘定科目内訳明細書・その他はXML形式でしたが、今後は、CSV形式(CSVはテキストファイルですので、データをカンマ区切りにして保存しますが、名前をつけて保存のときに拡張子を.CSVとすることでエクセル形式やワード形式をCSV形式に変換可能)が認められることになります。
なお、申告書に証明書などの書類添付が求められものについては、イメージデータ化(PDF化)によりe-Taxにより提出が可能となります。法人税等の申告に当たって、別表や添付書類のうち、e-Taxにより提出できない別表等については(こうした別表については国税庁が提供しているe-Taxソフトを利用するなどして提出していただく必要があります)、PDF形式による提出も認めることとしています。
8.法人税確定申告書における電信申告義務化の対象書類
(1)法人税申告書
(2)法人税申告書別表
(3)財務諸表
(4)勘定科目内訳明細書
(5)法人(会社)事業概況書
(6)適用額明細書
(7)第三者作成等の添付書類
なお、一部を書面して提出することは認められません。又、光ディスクによる提出は、e-Taxによる提出ができない場合(添付書類が大量にある場合等)となります。

2019年6月7日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

社会保険料等の保険料納付及び年金受給のタイミング

公的年金保険・健康保険等の社会保険料納付がいつまで続くのか、働く年齢との関係で決まりますが、原則的な取り扱いを周知されている方は少ないような気がします。以下に現行制度での内容を確認してみたいと思います。

1.社会保険料の範囲
公的な保険に関しまして各種の用語が出てきますが、国民年金・厚生年金、国民健康保険・健康保険・後期高齢者医療保険、介護保険、雇用保険、労働保険等が代表的なものです。以下では、年金と医療に関する保険に言及したいと思います。

2.年金(厚生年金・国民年金)

  保険料の納付年齢年金の受給年齢
厚生年金会社員として会社に勤務の方69歳(最長)まで65歳から(原則):老齢基礎年金と老齢厚生年金(注1)の受給
会社員の配偶者(妻:第3号)59歳(原則):保険料の負担なし(但し、会社員が65歳になった時点で第3号から第1号となり60歳になるまで国民年金分の保険料の納付義務が発生)65歳から(原則):老齢基礎年金の受給
国民年金自営業等の方59歳(原則)65歳から(原則):老齢基礎年金の受給

厚生労働省が発表した平成31年度(2019年度)の国民年金から支給される老齢基礎年金は、20歳から60歳まで40年間保険料を支払った人で、1人1カ月65,008円。また、会社員の厚生年金から夫婦2人分の老齢基礎年金を含む標準的な年金額として1家庭1カ月221,504円とされています。この年金額だけでは、少なくとも都市部では老後の生活資金としては十分とは言えないと思います。

3.医療(健康保険・介護保険)

   ~39歳 40歳~~64歳65歳~75歳~
健康保険会社員(健康保険) 健保組合、又は
協会けんぽ
会社経由で給与から天引納付(保険料の半額は会社負担のうえ、配偶者の保険料はゼロ)会社経由で給与から天引納付(保険料の半額は会社負担のうえ、配偶者の保険料はゼロ)会社経由で給与から天引納付(保険料の半額は会社負担のうえ、配偶者の保険料はゼロ) 会社経由で給与から天引納付(保険料の半額は会社負担のうえ、配偶者の保険料はゼロ)後期高齢者医療保険制度(個人で納付)
自営業等(国民健康保険)市区町村個人で納付
介護保険会社員
自営業等
非該当第2号被保険者
(健康保険料と一緒に介護保険料を納付)
第1号被保険者
(年金から天引き、不足分は別途納付)

(注1)老齢厚生年金(在職老齢年金)の支給カット(支給停止)
厚生年金保険は、 雇用中で70歳未満の方が加入するものですので、 70歳になりますと厚生年金の加入資格が無くなり脱退手続きをします。 脱退後は厚生年金の保険料は徴収しませんが、 それ以前の60歳から在職中で厚生年金保険料を納めながら老齢厚生年金を受給する場合、 その年金額の全部又は一部が以下に示すように1カ月間の年金受給額と給与収入の合計額に応じてカット(支給停止)されることがあります (国民年金部分の老齢基礎年金についてのカットはありません)。 雇用中に老齢厚生年金を受給される場合の年金は、「在職老齢年金」といいます。
老齢厚生年金のカット額(在職老齢年金の受給額)について:

年齢


1カ月の年金額(基本月額)と給与(総報酬月額相当額 = 現時点の標準報酬月額 + 直近1年間の賞与総額 X 1/12) の合計額(1カ月間の金額判定基準)老齢厚生年金のカット金額
60歳から64歳月28万円以下の場合カット無し(年金は全額支給)
月28万円超の場合計算が多少複雑になります(下図を参照)
65歳以上月46万円以下の場合カット無し(年金は全額支給)
月46万円超の場合月46万円を超えた額の2分の1

年齢が60歳~64歳で1カ月の年金受給額と給与収入の合計額が28万円を超える場合の年金カット額:

基本月額 総報酬月額相当額支給される月額の年金額
28万円以下
46万円以下基本月額 - (総報酬月額相当額 + 基本月額 - 28万円) ÷ 2
46万円超基本月額 -{(46万円 + 基本月額 - 28万円) ÷ 2 + (総報酬月額相当額 - 46万円)}
28万円超
46万円以下基本月額 - 総報酬月額相当額 ÷ 2
46万円超
基本月額 -{46万円 ÷ 2 + (総報酬月額相当額 - 46万円)}

なお、上記の総報酬月額相当額の「46万円」は、2018年度の適用であり、2019年度(平成31年4月分以降)は「47万円」へ変更となっています。最近では、年度ごとに金額が交互に変更になってきています。
働きながら年金を受給する場合に、一定の年金額を調整する制度である在職老齢年金が、就労意欲を抑制しているとの指摘もあり、当該年金額の減額調整する制度を見直す方向にあります。

2019年6月5日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

定期保険等の保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合の取扱い(法人税基本通達案)

国税庁は先月、生命保険各社が節税対策になると販売していた解約返戻率が高い定期保険等について、課税ルールの見直しの基本通達案を発表しています。その概要は以下の通りですが、来月の6月には外部コメントを受け最終化される予定になっています。過熱した節税保険ブームに歯止めをかけるということから、見直しの基本方針には変更が無いかと思われます。
1.対象の保険とは
法人が契約者で役員又は使用人(これらの親族も含む)を被保険者とする保険期間が3年以上の定期保険又は第三分野保険で最高解約返戻率が50%超の加入保険が対象となります。
従いまして、対象外となる全損タイプの定期保険等は、次のものになります。
(1)保険期間が3年未満の定期保険等
(2)最高解約返戻率が50%以下の定期保険等
(3)最高解約返戻率が70%以下、かつ、年換算保険料相当額(保険料総額÷保険期間)が20万円以下の定期保険等

2.保険料の取扱い
(1)最高解約返戻率 50%超~70%以下のケース

保険開始から終了までの各期間支払保険料 積立保険資産
資産計上損金計上
100分の40相当期間(資産計上期間)40% 60% 40%積立
資産計上期間経過後から100分の75相当期間100%
100分の75相当期間から保険終了まで100%当該期間に均等取崩して損金計上

注:但し、被保険者1人当たり年換算保険料相当額が20万円以下の場合には、全額損金計上。

(2)最高解約返戻率 70%超~85%以下のケース

保険開始から終了までの各期間支払保険料 積立保険資産
資産計上損金計上
100分の40相当期間(資産計上期間)
60% 40% 60%積立
資産計上期間経過後から100分の75相当期間100%
100分の75相当期間から保険終了まで
100%当該期間に均等取崩して損金計上

(3)最高解約返戻率 85%超のケース

保険開始から終了までの各期間 支払保険料 積立保険資産
資産計上 損金計上
開始から最高解約返戻率となる期間(各期間において、その解約返戻金相当額から前期の解約返戻金相当額を控除した金額を年換算保険料相当額で除した割合が70%を超える期間がある場合には、その超えることとなる最も遅い期間)の終了までの期間(資産計上期間:但し、資産計上期間が5年未満の場合には、開始から5年経過までとし、保険期間が10年未満の場合には、開始から当保険期間の100分の50に相当する期間終了までとする)支払保険料X最高解約返戻率X70%(但し、保険期間開始10年までは70%ではなく90%)支払保険料X最高解約返戻率X30%(但し、保険期間開始10年までは30%ではなく10%)所定割合の積立
資産計上期間経過後100%
資産計上期間経過後で解約返戻金相当額が最も高い金額となる期間経過後から保険終了まで100%当該期間に均等取崩して損金計上

3.記帳処理の例示
設例:
保険期間:20年(事業年度の月始め契約)
保険料:月額20万円(年額240万円)
最高解約返戻率:70%
(1)資産計上期間
20年X40%=8年目までは、保険料の60%は資産計上、40%は損金計上
各年の年間の仕訳:

 (借方)積立保険資産 144万円  (貸方) 現預金    240万円
     保険料     96万円 
(2)資産計上期間後から75%相当経過までの期間
9年目(資産計上期間後)から15年目(20年X75%)までは、保険料の100%は損金計上
各年の年間の仕訳:
 (借方)保険料    240万円  (貸方) 現預金    240万円
(3)75%相当経過後から契約終了までの期間
20年-15年(20年X75%)=5年間(契約終了までの残期間)は、保険料の100%は損金計上
144万円X8年間=1,152万円(積立保険資産の総額)
1,152万円÷5年=230.4万円(年間積立保険資産の取崩額)は、取崩し各年に損金計上
各年の年間の仕訳:
 (借方)保険料    470.4万円 (貸方) 現預金    240万円
                       積立保険資産 230.4万円 

以上

2019年5月3日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

働き方改革法施行による労働環境の変化

残業時間規制等を柱とする働き方改革関連法が4月に施行され1ヵ月が経過しましたが、今後の働き方にどの様に影響されてくるのか、改めて導入時期から確認してみたいと思います。

1.2019年4月(大企業)から残業時間規制
A. 労働時間給のケース:残業時間の上限規制
残業時間は、原則として月45時間、年間360時間が上限
特例として最大でも単月100時間以内、年間720時間以内(但し、2~6ヵ月平均80時間以内、月40時間超は年6ヵ月までの制限)
違反事業者の罰則:6ヵ月以下懲役または30万円以下の罰金
適用開始時期:大企業は2019年4月
中小企業は2020年4月
特定業種は2024年4月(建設業、自動車運転業、医師などの業種)

B 脱時間給(高度プロフェッショナル)制度の導入
労働時間に縛られず、仕事の成果で報酬が決まる制度が新たに導入され、適用対象者は年収が1,075万円以上で、かつ、対象業種は以下の5業種に限定されます。
① 金融商品の開発(金融工学の知識などに基づき、金融商品を開発する業務)
② トレーダーやディーラー(金融知識を用いて自ら投資判断し、資産運用したり有価証券を売買したりする業務)
③ アナリスト(調査・分析のうえで今後の企業価値を予測し、推奨銘柄について投資判断につながるレポートを作成や助言する業務)
④ コンサルタント(コンサルティング会社で顧客企業の事業調査・分析をもとに経営戦略を助言・支援する業務
⑤ 研究開発(新たな技術や商品の研究開発する業務)
当制度を導入する条件:労使の委員会で対象業務や社員の範囲などを決議し、労働基準監督署に届出る必要があります。又、対象社員には年104日以上の休日を取得させる他、健康確保措置も組み合わせます。例えば、翌日の勤務までに11時間以上間隔を空けることや、臨時の健康診断を受けさせるなど、健康を守る対策の中から労使で選択します。対象社員から書面での同意を得ることも必要となります。

2.2020年4月(大企業)から同一労働同一賃金
同一労働同一賃金は、同じ企業のなかで同じ仕事をしていれば、正規か非正規かといった雇用形態に関係なく同じ待遇(賃金)であるべきという規制です。同一賃金ガイドラインは以下のとおりです。

待遇差異を認めない手当

出張手当、通勤手当、深夜・休日手当、単身赴任手当
福利厚生食堂、更衣室、慶弔休暇、病気による休職
待遇差異を認める基本給
能力や経験、成果などに差が有れば、違いに応じて支給
ボーナス
業績への貢献に差が有れば、違いに応じて支給

適用開始時期:大企業は2020年4月
中小企業は2021年4月

3.2023年4月から法定時間外労働した場合の残業割増賃金率

 残業時間が月60時間以内残業時間が月60時間超
大企業25%以上 50%以上
中小企業25%以上 50%以上(注)

注:残業割増賃金を軽減(25%)する特例が廃止となります。

以上

2019年5月2日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

賃上げ・設備投資促進税制:所得拡大促進税制の改組

2018年(平成30年)4月1日~2021年3月31日までの開始事業年度より(通常、2019年3月期末の企業より適用)、これまでの所得拡大促進税制は2018年(平成30年)3月31日の適用期限をもって終了し、賃上げ・設備投資促進税制に改組となりました。当制度の適用要件は、大企業と中小企業とは異なる内容となっています。
1.賃上げ・設備投資促進税制:大企業の場合
大企業において、十分な賃上げや国内設備投資を行った場合には、賃上げ金額の一定割合の税額控除ができることになります。又、更に人材投資を増加させた企業に対しては、税額控除割合が上乗せとなります。なお、これまでの基準事業年度、継続雇用者の定義及び適用要件が変わった点に留意する必要があります。

対象法人・対象期間青色申告の大法人で、2018年4月1日~2021年3月31日までの期間に開始する各事業年度
但し、設立初年度は対象外
適用3要件と税額控除①賃金要件(2要件):
(イ) 雇用者給与等支給額 > 比較雇用者給与等支給額
(ロ)(継続雇用者給与等支給額 - 継続雇用者比較給与等支給額)÷ 継続雇用者比較給与等支給額 ≧ 賃上げ率3%
②投資要件:
(ハ) 国内設備投資額 ≧ 減価償却費総額 X 90%

税額控除額:給与等支給額増加額(雇用者給与等支給額 - 比較雇用者給与等支給額)X 15% = 税額控除額
上乗せ要件
(適用第4要件)と税額控除
③教育費要件:
(ニ) (教育訓練費 - 比較教育訓練費)÷ 比較教育訓練 ≧ 
20%
教育訓練費要件を満たし上乗せ税額控除率(20%)を適用する場合には、申告書に明細書(教育訓練等の実施時期、実施内容、受講者及び支払証明)を添付する必要があります。

税額控除額:給与等支給額増加額(雇用者給与等支給額 - 比較雇用者給与等支給額)X 20% = 税額控除額
国内雇用者の範囲国内雇用者とは、 役員、役員の特殊関係者及び使用人兼務役員を除く使用人で国内事業所に勤務し賃金台帳に記載されている雇用者(従って、 雇用保険の一般被保険者でない雇用者も含む)
役員の特殊関係者役員の特殊関係者とは、次に掲げる者をいいます。
① 役員の親族 (配偶者、6親等以内の血族、及び3親等以内の姻族)
② 役員と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者
③ 上記以外の者で役員から生計の支援を受けているもの
④ 上記の者と生計を一にするこれらの者の親族
継続雇用者の範囲継続雇用者とは、適用年度(当期)およびその前年度の両方において給与等の支給(24ヵ月間継続)を受けた国内雇用者であり、継続雇用者に係る金額は、雇用保険法における一般被保険者に該当する者に対して支給したものに限ります(年齢は65歳未満の国内雇用者)が、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」9条1項2号に規定する継続雇用制度の対象である者に対して支給したものを除く、ということになっています。
具体的に継続雇用者とは、
①前期及び当期の全ての月分の給与等の支給を受けた国内雇用者であること
②前期及び当期の全ての期間において雇用保険の一般被保険者であること(加入手続きの有無は関係ありません。又、一般被保険者とは、年齢65歳未満の雇用者です)
③前期及び当期の全ての又は一部の期間において高年齢再雇用者制度の対象となっていないこと
従って、一定の週20時間以上のパート・アルバイトで雇用保険法の適用要件を満たす一般被保険者は含まれます。
つまり、 第1に、雇用保険法における一般被保険者に該当する者に対して支給したものに限られますので、
(イ) 正社員、及び
(ロ)パート・アルバイトのうち週所定労働時間が20時間以上で継続して31日以上の雇用が見込まれ一般被保険者になっている者
ということになりますが、 但し、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」9条1項2号に規定する継続雇用制度の対象である者に対して支給したものを除くとされていますので、定年が65歳未満の会社で、65歳未満で定年退職した者を対象とする継続雇用制度を採用している会社の場合、定年以降の継続雇用制度の対象者に支給した金額は控除しなければなりません(この対象者の定年後の給与額は、 通常引下げられることとなり会社にとって不利とならない配慮により含めない処置となっています)。
給与等の範囲給料、 賃金、 賞与等で賃金台帳に記載された支給額(非課税とされる通勤手当等の額も含む)のみを対象としますが、 合理的な方法により継続して給与等の支給額を計算している場合には、 これも認められます。 退職金等は対象外です。
雇用者給与等支給額・比較雇用者給与等支給額雇用者給与等支給額とは、適用年度(当期)の損金算入される国内雇用者に対する給与等支給額。 なお、 控除すべきものとして、 国等から支給を受けた助成金や出向先法人から受けた出向者分の給与負担金受給額、 等は控除します。
なお、 出向先法人では、 その賃金台帳に出向者を記載している時には、 その給与負担金は含まれます。
比較雇用者給与等支給額とは、比較用年度(前期)の損金算入される国内雇用者に対する給与等支給額。 前期の事業月数が12ヵ月未満の時には、年換算に調整計算を行います。
継続雇用者給与等支給額・継続雇用者比較給与等支給額継続雇用者給与等支給額とは、適用年度(当期)における国内の継続雇用者に対する給与等支給額をいいます。
継続雇用者比較給与等支給額とは、比較年度(前期)における国内の継続雇用者に対する給与等支給額をいいます。
国内設備投資額とは国内で当期中取得(取得又は製作もしくは建設)の減価償却資産(有形固定資産、無形固定資産及び生物)で当期末に有する取得価額の合計額をいう。原則、国内資産に対する資本的支出の金額も含む。又、少額減価償却資産及び一括償却資産の金額も含む。なお、圧縮記帳が適用している場合には、適用前の実際の取得金額を含める。
減価償却費総額とは全減価償却資産の損金経理した減価償却費の総額(過年度分の減価償却超過額の当期認容額を除き、特別償却準備金の積立額を含む)をいう。なお、当期の減価償却費総額の対象は、法人が有する全ての減価償却資産であることから、国外で保有する資産に対する減価償却費も含まれます。
教育訓練とは国内雇用者の職務に必要な技術又は知識を取得させ、又は向上させる次の費用(外部支払)をいう。
①法人が教育訓練等を自ら行う場合の社外講師謝金等の費用
②他の者に委託して教育訓練等を行わせる場合のその委託費
③他の者が行う教育訓練等に参加させる場合のその参加に要する費用(授業料、受講料、受験手数料、等)
なお、従業員の資格取得費に要する費用のうち教育訓練費の対象は以下のとおりです。
対象*業務遂行に必要となる資格取得費
*資格取得後の法定更新講習会への参加費用(更新料等は除く)
対象外*従業員が自己研鑽等の目的で資格を取得した場合の受験料等
*福利厚生の一環として支払った報奨金
*資格取得のために企業側が用意した教材費
比較教育訓練費とは前期及び前々の教育訓練費の年平均額をいう。
税額控除額の上限税額控除の上限は、法人税額の20%

適用要件等を整理しますと、
(1) 要件
* 給与等支給総額の対前年度増加
* 継続雇用者給与等支給額:対前年度増加率3%以上
* 国内設備投資額:当期の減価償却費総額の90%以上
(2) 税額控除
* 給与等支給総額の対前年度増加額の15%の税額控除
* 追加要件:教育訓練費増加要件(当期の教育訓練費:対前期・前々期の教育訓練費の平均増加率20%以上を満たす場合には、控除率を5%上乗せ(合計20%の税額控除)

2.賃上げ・設備投資促進税制:中小企業の場合
中小企業において、十分な賃上げを行った場合には、賃上げ金額の一定割合の税額控除ができることになります。又、更に人材投資を増加させた企業に対しては、税額控除割合が上乗せとなります。なお、大企業と同様に適用要件等が変更になっています。

対象法人・対象期間青色申告の中小企業者等で、2018年4月1日~2021年3月31日までの期間に開始する各事業年度
但し、設立初年度は対象外
中小企業者等中小企業者等とは、青色申告法人のうち、中小企業者又は農業協同組合等をいいます。
中小企業者とは、次に掲げる法人をいいます。
① 資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人
 ただし、同一の大規模法人(資本金の額若しくは出資金の額が1億円を超える法人又は資本若しくは出資を有しない法人のうち常時使用する従業員の数が1,000人を超える法人をいい、中小企業投資育成株式会社を除きます) に発行済株式又は出資の総数又は総額の2分の1以上を所有されている法人、 及び2以上の大規模法人に発行済株式又は出資の総数又は総額の3分の2以上を所有されている法人を除きます。
② 資本又は出資を有しない法人のうち常時使用する従業員の数が1,000人以下の法人
適用2要件と税額控除額①賃金要件(2要件):
(イ) 雇用者給与等支給額 > 比較雇用者給与等支給額
(ロ)(継続雇用者給与等支給額 - 継続雇用者比較給与等支給額)÷ 継続雇用者比較給与等支給額 ≧ 賃上げ率1.5%

税額控除額:給与等支給額増加額(雇用者給与等支給額 - 比較雇用者給与等支給額)X 15% = 税額控除額
上乗せ要件
(適用3要件)と税額控除額
要件(3要件):
(イ) 雇用者給与等支給額 > 比較雇用者給与等支給額
(ロ)(継続雇用者給与等支給額 - 継続雇用者比較給与等支給額)÷ 継続雇用者比較給与等支給額 ≧ 賃上げ率2.5%
(ハ) 次のいずれかの要件を満たす場合
Ⅰ 教育費要件:
(教育訓練費 - 前期教育訓練費<中小企業比較教育訓練費>)÷ 前期教育訓練費 ≧ 10%の場合、又は
Ⅱ その事業年度終了日までに中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定を受け、その計画に従って経営力向上が確実に行われたものとして証明がされた場合

税額控除額:給与等支給額増加額(雇用者給与等支給額 - 比較雇用者給与等支給額)X 25% = 税額控除額
国内雇用者の範囲大企業と同じ
役員の特殊関係者大企業と同じ
継続雇用者の範囲大企業と同じ
給与等の範囲大企業と同じ
雇用者給与等支給額・比較雇用者給与等支給額大企業と同じ
継続雇用給与等支給額及び継続雇用比較給与等支給額大企業と同じ
教育訓練とは大企業と同じ
中小企業比較教育訓練費とは当期開始前の前1年以内に開始した各事業年度の教育訓練費(前期の教育訓練)をいう。
税額控除額の上限税額控除の上限は、法人税額の20%

適用要件等を整理しますと、
(1) 要件
*給与等支給総額の対前年度増加
*継続雇用者給与等支給額:対前年度増加率1.5%以上
(2) 税額控除
  *給与等支給総額の対前年度増加額の15%の税額控除
  *追加要件:継続雇用者給与等支給額:対前年度増加率2.5%以上であり、かつ、教育訓練費増加要件(当期の教育訓練費:対前期の教育訓練費の増加率10%以上、又は中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定を受け、その計画に従って経営力向上が確実に行われたものとして証明を満たす場合には、控除率を10%上乗せ(合計25%の税額控除)

以上

2019年4月14日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant