軽減税率制度の概要と経理記帳処理上の留意点

既にご案内の通り、2019年(令和元年)10月1日より消費税率が8%から10%に引き上げられるに伴い、日々の生活で幅広い消費者が、買い物の都度、痛税感の緩和を実感されることを目的として、同日に軽減税率制度(8%軽減税率の適用)が導入されます。当軽減税率制度は初めての制度であり、国税庁等からも内容についてのお知らせがなされていますが、適用上で判断に苦慮されそうな側面が少なくないようです。以下に、商品・サービス等の購入者・支払者としての事業者の経理記帳処理時でのポイント・留意点を中心に纏めてみました。
A 軽減税率制度の概要のついて
1.軽減税率の対象品目
(1)飲食料品(酒類・外食を除く生鮮食品と加工食品)
(2)新聞(定期購読契約が締結された週2回以上発行される新聞)
(3)保税地域から引き取られる課税貨物(上記(1)の飲食料品)
軽減税率の対象品目は何かをより具体的に理解することが必要になりますので、ポイントを含めて以下に記載します。

(1)酒類・外食を除く飲食料品(生鮮食品と加工食品)の譲渡「飲食料品」とは、
食品表示法に規定する食品(添加物を含む)をいいますが、軽減税率の適用対象から、酒税法に規定する酒類及び外食サービスが除かれます。
ポイント:
①人間の飲用又は食用になっている食品であること
従って、同じ食品でも工業用や動物等の人間以外の飲用・食用の用途になっているものは対象外となります。
②対象外に、酒税法に規定する酒類(アルコール度1%以上の酒類)、並びに医薬品類(医薬品・医薬部外品・再生医療等製品)になっています。
③一体資産(飲食料品と飲食料品以外の資産が一体となっている資産)の取扱い
「一体資産」については、飲食料品には該当しませんが、次の2つの要件を満たせば、その全体が軽減税率の対象となります。
イ一体資産の価額(税抜き)が1万円以下であること
ロ一体資産の3分の2以上の部分が飲食料品から構成されていること
従って、一体資産として一つの価格表示(合理的に割合計算可能なものを含む)が必要であり、複数の個別価格表示の物(選択可能な組合せ品)は対象外です。

(イ)飲食料品に当たる事例(8%軽減税率対象)
*みりん風調味料(アルコール1度未満)
*食用のかぼちゃの種
*栄養ドリンク(医薬品等に該当しない)
*食用、清掃用の重曹(食品添加物に該当するもの)
*ノンアルコールビール
*ミネラルウオーター等の飲料水
*特定保健用食品、栄養機能食品、健康食品、美容食品(医薬品等に該当しない)

(ロ)飲食料品に当たらない事例(10%標準税率対象)
*観賞用等の動物
*ペットフード
*苗木、植物の種
*みりん、料理酒(アルコール度1%以上の為)
*水道水、ドライアイス

④対象外に外食やケータリング・出張料理等は役務の提供(食事の提供(サービス))に該当します。
*「外食」とは、食品衛生法上の飲食店営業、喫茶店営業その他の食事の提供を行う事業者が、テーブル・椅子等の飲食に用いられる設備がある場所(場所要件)において、飲食料品を飲食させる役務の提供(サービス要件)。
*「ケータリング・出張料理等」とは、相手方が指定した場所において行う加熱、調理又は給仕等の役務を行う飲食料品の提供。従って、単なる出前・宅配は飲食料品の譲渡に該当し軽減税率の対象となります。
なお、有料老人ホーム、学校等での提供される食事は、求めに応じてその施設の設置者等が提供するもので、一定の基準を満たすものは軽減税率の対象となります。

(イ)外食に当たる事例(10%標準税率対象)
*牛丼屋・ハンバーガー店等での店内飲食
*そば屋等での店内飲食、ピザ等での店内飲食
*フードコートでの店内飲食、寿司屋での店内飲食
*コンビニのイートン・コーナーでの飲食を前提に提供される飲食料品(トレイに載せられて座席まで運ばれる、返却の必要がある食器に盛られた食品)
*テーブル椅子等の飲食設備がある場所で屋台での飲食
*ケータリング・出張料理
*列車内の食堂設備での飲食
*学生食堂
*カラオケボックスの客室での飲食

(ロ)外食に当たらない事例(8%軽減税率対象)
*基本は、テイクアウト・持ち帰り・宅配の場合であり、
牛丼屋・ハンバーガー店等のテイクアウト
*そば屋等の出前、ピザ等の宅配
*屋台での飲食(テーブル椅子等の飲食設備がない場合)、寿司屋等のお土産
*コンビニ等での弁当・惣菜(イートン・コーナーのある場合であっても、持ち帰りとして販売される場合)
*自販機の販売
*移動ワゴン販売(旅客列車等)での飲食料品の販売
*売店(映画館等)での飲食料品の販売(飲食設備がない場合又は持ち帰りの場合)
*学校給食
(2)定期購読契約が締結された週2回以上発行される新聞の譲渡定期購読契約に基づき一定の題号を用い、政治、経済、社会、文化等に関する一般社会的事実を掲載する週2回以上発行される新聞に限られます。
従って、コンビニエンスストア等での新聞は、定期購読契約に基づきませんので軽減税率の対象外となります。又、電子版の新聞は「電気通信利用役務の提供」に該当しますので、対象外となります。
(3)保税地域から引き取られる課税貨物(上記(1)の飲食料品)
軽減税率適用の判定時期販売業者の販売時点で判定することになります。
従って、代金支払時にテイクアウトと言われて軽減税率を適用して販売後に、店内飲食に変更されても標準税率に修正変更の必要はありません。その逆のケースも同様です。

2.請求書の記載事項
軽減税率適用に併せて請求書(及び帳簿)の作成・記載事項等は、以下の様になりますが、2019年10月より全ての事業者の請求書作成にも影響しますので理解しておく必要があります。 2023年4月に、インボイス制度として「適格請求書等保存方式」を導入されますが、 それまでの間は、簡素な方法として「区分記載請求書等保存方式」としています。
いずれにしましても、請求書の様式の見直しが必要となります。
請求書等保存方式(現行制度)
区分記載請求書等保存方式
(2019年10月1日~)
適格請求書等保存方式
(インボイス制度):
登録事業者の方のみに適用
(2023年10月1日~)
①請求書発行者の氏名又は名称
②取引年月日
③取引の内容
④対価の額
⑤請求書受領者の氏名又は名称
①~⑤同左の記載①~⑤同左の記載
⑥軽減税率対象課税品目である旨(帳簿にも要記載)
⑦税率の異なるごとに合計した対価の額
(注)記載が不備の場合に、請求書の交付を受けた事業者による追記も可
同左の記載
⑦税率の異なるごとに合計した対価の額及び適用税率
*売手に区分記載請求書の交付・保存義務は課されません。
*買手に区分記載請求書の保存を仕入税額控除の要件になりますが、追加記載事項(⑥と⑦)は買手が事実に基づき追記することが認められます。
偽りの請求書の交付行為に対しての罰則はありません。
⑧登録番号
⑨消費税額等
*「適格請求書発行事業者」から交付を受けた「適格請求書」又は「適格簡易請求書」の保存が仕入税額控除の要件となります、「適格請求書等保存方式」(インボイス制度)が導入されます。
*適格請求書発行事業者には、「適格請求書」又は「適格簡易請求書」の交付・保存を義務付け、偽りの請求書の交付行為に対して罰則があります。
*「適格請求書発行事業者」とは、免税事業者以外の事業者であり、所轄税務署長に申請書を提出し、交付事業者として登録を受けた事業者です(登録番号を受領)。登録申請は、2021年10月1日から登録制度が開始されます。 登録後、その氏名又は名称及び登録番号等はインターネット上で公開となります。なお、2023年10月1日から登録を受ける為には、原則、2023年3月31日までに登録申請書を提出する必要があります。
*「適格請求書」とは、上記事項を記載した請求書、納品書、その他これらに類する書類をいいます。
*一つの適格請求書に記載されている個々の商品ごとに消費税額を計算することはできません。複数商品の税率区分ごとの合計金額に対して消費税額を計算し表記します。税額の円未満の端数処理は、任意となります。

適格請求書発行事業者の対応(2023年10月1日~):
(1)適格請求書交付義務の免除項目
適格請求書発行事業者は免税事業者を除く他の事業者から求められたときには適格請求書を交付しなければなりませんが、次の課税資産の譲渡等は交付義務が免除されています。
(イ)公共交通機関の船舶、バスまたは鉄道による旅客の運送(但し、3万円未満に限る)
(ロ)媒介または取次ぎに係る業務を行う者(卸売市場、農業協同組合または漁業協同組合等)が委託を受けて行う農水産品の譲渡等
(ハ)自動販売機により行なわれるもの(但し、3万円未満に限る)
(ニ)その他請求書等の交付が困難な課税資産の譲渡等のうち一定のもの

(2)適格簡易請求書の交付可能な事業者
適格請求書発行事業者が、小売業、飲食店業、写真業、旅行業、タクシー業又は駐車場業等の不特定かつ多数の者に課税資産の譲渡等を行う一定の事業を行う場合には、適格請求書に代えて適格簡易請求書を交付することができます。 適格簡易請求書は、適格請求書と異なる点は、書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称が省略でき、又、消費税額等か適用税率のどちらかの記載とするところです。

3.納付税額の計算方法

区分記載請求書等保存方式
(2019年10月1日~)
現行通り、適用税率ごとに取引総額に110分の10、或いは108分の8を乗じて計算する「割戻し計算」を維持する。
適格請求書等保存方式
(インボイス制度)
(登録事業者の方のみに適用で2023年10月1日~)
適用税率ごとに取引総額に110分の10、或いは108分の8を乗じて計算する「割戻し計算」と、「適格請求書」に記載のある消費税額の「積上げ計算」のいずれかを選択できます。
但し、売上税額を「積上げ計算」する場合には、仕入税額も「積上げ計算」としなければなりません。

4.税額計算の特例
複数税率に対応した区分経理が困難な中小事業者(基準期間の課税売上高が5千万円以下の事業者)を想定して、軽減税率制度を導入して一定の間は、「税額計算の特例」を認めています。
軽減税率の適用となります売手の譲渡事業者には影響がありますが、通常の買手側・支払側の事業者には、あまり影響がありませんのでこの説明は省略します。

5.免税事業者、適格請求書発行事業者登録されていない課税事業者等からの仕入税額控除
インボイス制度が導入されます2023年10月以降、仕入税額控除を受けるには、「帳簿」及び税務署に申請して登録を受けた課税事業者である「適格請求書発行事業者(登録事業者)が交付した適格請求書」の保存が必要となります。従いまして、免税事業者、適格請求書発行事業者登録されていない課税事業者、並びに事業者で無い消費者からの課税仕入れに対して、仕入税額控除の適用を受けることが出来なくなります。但し、下記の様に特例で2023年10月から2029年9月までの6年間は、仕入税額相当の一定割合を税額控除できる経過措置が設けられています。

区分記載請求書等保存方式免税事業者等からの仕入についても、仕入税額控除できます。
適格請求書等保存方式
(インボイス制度)
原則、免税事業者、適格請求書発行事業者登録されていない課税事業者等からの仕入は、仕入税額控除ができませんが、次の期間内での特例が認められています。
2023年10月~
2026年9月までの3年間
仕入税額相当額の80%控除
2026年10月~
2029年9月までの3年間
仕入税額相当額の50%控除
2029年10月~仕入税額控除の対象とすることができません。

インボイス制度が導入後も、免税事業者及び適格請求書発行事業者登録されていない課税事業者は、適格請求書を交付することができませんが、10%の消費税を付加した請求書は発行できます(①軽減税率対象品目である旨、②税率の異なるごとに合計した税込金額の記載)。国税庁の経理・申告ガイド上に、免税事業者には、請求書に「消費税額」等を表示して別途消費税相当額等を受取ることは、消費税の仕組み上は予定されていません、と記載されていますが、これは、免税事業者は消費税相当額を請求してはいけないということではありません。消費税法第4条において、「国内において事業者が行った資産の譲渡等には消費税を課する」と規定されているのみであり、免税事業者は消費税を上乗せして請求してはいけないと記されている規定はありません。ただ、一定の事業者(免税事業者)には、消費税の納税を免除するという規定があるだけです。今後の免税事業者は、次の事項を考慮・検討する必要があるかもしれません。

免税事業者の留意事項:
免税事業者の請求に対して、2029年10月より相手課税事業者は仕入税額控除の対象とすることが出来なくなります。免税事業者が適格請求書発行事業者として登録を受けるためには、消費税課税事業者選択届出書を提出し、課税事業者となる必要があります。2029年10月以前に適格請求書を交付できる課税事業者となる登録手続は、以下の様になっています。

 右記の前事業年度以前2023(令和5)年10月1日の属する事業年度
(経過措置適用の期間)
左記の翌事業年度以降
消費税課税事業者選択届出書提出不要提出し、同時に課税事業者となる事業年度の前日から1ヵ月前までに登録申請書の提出が必要
(登録日が4月1日ならば、申請の提出期限は2月28日)
適格請求書発行事業者の登録申請書申請し登録を受けた日から課税事業者となる(登録日以前は免税事業者期間)。
免税免税課税事業者及び適格請求書発行事業者

B 軽減税率適用後の経理記帳処理について
1.適用税率
適用期間1997年4月以降2014年4月以降2019年10月以降
軽減税率標準税率
消費税率(国税)4.0%6.3%6.24%7.8%
地方消費税率(地方税)1.0%1.7%1.76%2.2%
 計5.0%8.0%8.0%10.0%

述の様に、現行の標準税率と軽減税率における適用税率は、同じ計8%ですが国税と地方税の税率が異なることに留意する必要があります。

2.記帳上の画区分・税率区分
(1)区分記載請求書等保存方式(2023年9月まで)
消費税計算の為に、上述の軽減税率対象を含めた税率区分及び画区分(課税、非課税、不課税等)を識別できるように記帳処理する必要があります。
(2)適格請求書等保存方式(インボイス制度)(2023年10月以降)
上述しました免税事業者、適格請求書発行事業者登録されていない課税事業者等からの仕入に対して、経過措置の適用を受けるには更に識別きるように記帳処理する必要があります。

3.価格表示
事業者が不特定多数の消費者に対して課税商品の販売を行う場合の商品の価格表示は、税込価格で表示することが総額表示義務規定により義務付けられています。
総額表示義務の特例(2021年3月31日までの時限立法)として、現に表示価格が税込価格であると誤認されない措置が講じられている限り、税抜価格での表示も認められています。

2019年9月2日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant