賃上げ・設備投資促進税制:所得拡大促進税制の改組

2018年(平成30年)4月1日~2021年3月31日までの開始事業年度より(通常、2019年3月期末の企業より適用)、これまでの所得拡大促進税制は2018年(平成30年)3月31日の適用期限をもって終了し、賃上げ・設備投資促進税制に改組となりました。当制度の適用要件は、大企業と中小企業とは異なる内容となっています。
1.賃上げ・設備投資促進税制:大企業の場合
大企業において、十分な賃上げや国内設備投資を行った場合には、賃上げ金額の一定割合の税額控除ができることになります。又、更に人材投資を増加させた企業に対しては、税額控除割合が上乗せとなります。なお、これまでの基準事業年度、継続雇用者の定義及び適用要件が変わった点に留意する必要があります。

対象法人・対象期間青色申告の大法人で、2018年4月1日~2021年3月31日までの期間に開始する各事業年度
但し、設立初年度は対象外
適用3要件と税額控除①賃金要件(2要件):
(イ) 雇用者給与等支給額 > 比較雇用者給与等支給額
(ロ)(継続雇用者給与等支給額 - 継続雇用者比較給与等支給額)÷ 継続雇用者比較給与等支給額 ≧ 賃上げ率3%
②投資要件:
(ハ) 国内設備投資額 ≧ 減価償却費総額 X 90%

税額控除額:給与等支給額増加額(雇用者給与等支給額 - 比較雇用者給与等支給額)X 15% = 税額控除額
上乗せ要件
(適用第4要件)と税額控除
③教育費要件:
(ニ) (教育訓練費 - 比較教育訓練費)÷ 比較教育訓練 ≧ 
20%
教育訓練費要件を満たし上乗せ税額控除率(20%)を適用する場合には、申告書に明細書(教育訓練等の実施時期、実施内容、受講者及び支払証明)を添付する必要があります。

税額控除額:給与等支給額増加額(雇用者給与等支給額 - 比較雇用者給与等支給額)X 20% = 税額控除額
国内雇用者の範囲国内雇用者とは、 役員、役員の特殊関係者及び使用人兼務役員を除く使用人で国内事業所に勤務し賃金台帳に記載されている雇用者(従って、 雇用保険の一般被保険者でない雇用者も含む)
役員の特殊関係者役員の特殊関係者とは、次に掲げる者をいいます。
① 役員の親族 (配偶者、6親等以内の血族、及び3親等以内の姻族)
② 役員と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者
③ 上記以外の者で役員から生計の支援を受けているもの
④ 上記の者と生計を一にするこれらの者の親族
継続雇用者の範囲継続雇用者とは、適用年度(当期)およびその前年度の両方において給与等の支給(24ヵ月間継続)を受けた国内雇用者であり、継続雇用者に係る金額は、雇用保険法における一般被保険者に該当する者に対して支給したものに限ります(年齢は65歳未満の国内雇用者)が、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」9条1項2号に規定する継続雇用制度の対象である者に対して支給したものを除く、ということになっています。
具体的に継続雇用者とは、
①前期及び当期の全ての月分の給与等の支給を受けた国内雇用者であること
②前期及び当期の全ての期間において雇用保険の一般被保険者であること(加入手続きの有無は関係ありません。又、一般被保険者とは、年齢65歳未満の雇用者です)
③前期及び当期の全ての又は一部の期間において高年齢再雇用者制度の対象となっていないこと
従って、一定の週20時間以上のパート・アルバイトで雇用保険法の適用要件を満たす一般被保険者は含まれます。
つまり、 第1に、雇用保険法における一般被保険者に該当する者に対して支給したものに限られますので、
(イ) 正社員、及び
(ロ)パート・アルバイトのうち週所定労働時間が20時間以上で継続して31日以上の雇用が見込まれ一般被保険者になっている者
ということになりますが、 但し、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」9条1項2号に規定する継続雇用制度の対象である者に対して支給したものを除くとされていますので、定年が65歳未満の会社で、65歳未満で定年退職した者を対象とする継続雇用制度を採用している会社の場合、定年以降の継続雇用制度の対象者に支給した金額は控除しなければなりません(この対象者の定年後の給与額は、 通常引下げられることとなり会社にとって不利とならない配慮により含めない処置となっています)。
給与等の範囲給料、 賃金、 賞与等で賃金台帳に記載された支給額(非課税とされる通勤手当等の額も含む)のみを対象としますが、 合理的な方法により継続して給与等の支給額を計算している場合には、 これも認められます。 退職金等は対象外です。
雇用者給与等支給額・比較雇用者給与等支給額雇用者給与等支給額とは、適用年度(当期)の損金算入される国内雇用者に対する給与等支給額。 なお、 控除すべきものとして、 国等から支給を受けた助成金や出向先法人から受けた出向者分の給与負担金受給額、 等は控除します。
なお、 出向先法人では、 その賃金台帳に出向者を記載している時には、 その給与負担金は含まれます。
比較雇用者給与等支給額とは、比較用年度(前期)の損金算入される国内雇用者に対する給与等支給額。 前期の事業月数が12ヵ月未満の時には、年換算に調整計算を行います。
継続雇用者給与等支給額・継続雇用者比較給与等支給額継続雇用者給与等支給額とは、適用年度(当期)における国内の継続雇用者に対する給与等支給額をいいます。
継続雇用者比較給与等支給額とは、比較年度(前期)における国内の継続雇用者に対する給与等支給額をいいます。
国内設備投資額とは国内で当期中取得(取得又は製作もしくは建設)の減価償却資産(有形固定資産、無形固定資産及び生物)で当期末に有する取得価額の合計額をいう。原則、国内資産に対する資本的支出の金額も含む。又、少額減価償却資産及び一括償却資産の金額も含む。なお、圧縮記帳が適用している場合には、適用前の実際の取得金額を含める。
減価償却費総額とは全減価償却資産の損金経理した減価償却費の総額(過年度分の減価償却超過額の当期認容額を除き、特別償却準備金の積立額を含む)をいう。なお、当期の減価償却費総額の対象は、法人が有する全ての減価償却資産であることから、国外で保有する資産に対する減価償却費も含まれます。
教育訓練とは国内雇用者の職務に必要な技術又は知識を取得させ、又は向上させる次の費用(外部支払)をいう。
①法人が教育訓練等を自ら行う場合の社外講師謝金等の費用
②他の者に委託して教育訓練等を行わせる場合のその委託費
③他の者が行う教育訓練等に参加させる場合のその参加に要する費用(授業料、受講料、受験手数料、等)
なお、従業員の資格取得費に要する費用のうち教育訓練費の対象は以下のとおりです。
対象*業務遂行に必要となる資格取得費
*資格取得後の法定更新講習会への参加費用(更新料等は除く)
対象外*従業員が自己研鑽等の目的で資格を取得した場合の受験料等
*福利厚生の一環として支払った報奨金
*資格取得のために企業側が用意した教材費
比較教育訓練費とは前期及び前々の教育訓練費の年平均額をいう。
税額控除額の上限税額控除の上限は、法人税額の20%

適用要件等を整理しますと、
(1) 要件
* 給与等支給総額の対前年度増加
* 継続雇用者給与等支給額:対前年度増加率3%以上
* 国内設備投資額:当期の減価償却費総額の90%以上
(2) 税額控除
* 給与等支給総額の対前年度増加額の15%の税額控除
* 追加要件:教育訓練費増加要件(当期の教育訓練費:対前期・前々期の教育訓練費の平均増加率20%以上を満たす場合には、控除率を5%上乗せ(合計20%の税額控除)

2.賃上げ・設備投資促進税制:中小企業の場合
中小企業において、十分な賃上げを行った場合には、賃上げ金額の一定割合の税額控除ができることになります。又、更に人材投資を増加させた企業に対しては、税額控除割合が上乗せとなります。なお、大企業と同様に適用要件等が変更になっています。

対象法人・対象期間青色申告の中小企業者等で、2018年4月1日~2021年3月31日までの期間に開始する各事業年度
但し、設立初年度は対象外
中小企業者等中小企業者等とは、青色申告法人のうち、中小企業者又は農業協同組合等をいいます。
中小企業者とは、次に掲げる法人をいいます。
① 資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人
 ただし、同一の大規模法人(資本金の額若しくは出資金の額が1億円を超える法人又は資本若しくは出資を有しない法人のうち常時使用する従業員の数が1,000人を超える法人をいい、中小企業投資育成株式会社を除きます) に発行済株式又は出資の総数又は総額の2分の1以上を所有されている法人、 及び2以上の大規模法人に発行済株式又は出資の総数又は総額の3分の2以上を所有されている法人を除きます。
② 資本又は出資を有しない法人のうち常時使用する従業員の数が1,000人以下の法人
適用2要件と税額控除額①賃金要件(2要件):
(イ) 雇用者給与等支給額 > 比較雇用者給与等支給額
(ロ)(継続雇用者給与等支給額 - 継続雇用者比較給与等支給額)÷ 継続雇用者比較給与等支給額 ≧ 賃上げ率1.5%

税額控除額:給与等支給額増加額(雇用者給与等支給額 - 比較雇用者給与等支給額)X 15% = 税額控除額
上乗せ要件
(適用3要件)と税額控除額
要件(3要件):
(イ) 雇用者給与等支給額 > 比較雇用者給与等支給額
(ロ)(継続雇用者給与等支給額 - 継続雇用者比較給与等支給額)÷ 継続雇用者比較給与等支給額 ≧ 賃上げ率2.5%
(ハ) 次のいずれかの要件を満たす場合
Ⅰ 教育費要件:
(教育訓練費 - 前期教育訓練費<中小企業比較教育訓練費>)÷ 前期教育訓練費 ≧ 10%の場合、又は
Ⅱ その事業年度終了日までに中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定を受け、その計画に従って経営力向上が確実に行われたものとして証明がされた場合

税額控除額:給与等支給額増加額(雇用者給与等支給額 - 比較雇用者給与等支給額)X 25% = 税額控除額
国内雇用者の範囲大企業と同じ
役員の特殊関係者大企業と同じ
継続雇用者の範囲大企業と同じ
給与等の範囲大企業と同じ
雇用者給与等支給額・比較雇用者給与等支給額大企業と同じ
継続雇用給与等支給額及び継続雇用比較給与等支給額大企業と同じ
教育訓練とは大企業と同じ
中小企業比較教育訓練費とは当期開始前の前1年以内に開始した各事業年度の教育訓練費(前期の教育訓練)をいう。
税額控除額の上限税額控除の上限は、法人税額の20%

適用要件等を整理しますと、
(1) 要件
*給与等支給総額の対前年度増加
*継続雇用者給与等支給額:対前年度増加率1.5%以上
(2) 税額控除
  *給与等支給総額の対前年度増加額の15%の税額控除
  *追加要件:継続雇用者給与等支給額:対前年度増加率2.5%以上であり、かつ、教育訓練費増加要件(当期の教育訓練費:対前期の教育訓練費の増加率10%以上、又は中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定を受け、その計画に従って経営力向上が確実に行われたものとして証明を満たす場合には、控除率を10%上乗せ(合計25%の税額控除)

以上

2019年4月14日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

返戻率50%超は損金算入に制限 節税保険で国税庁

国税庁は11日、生命保険各社が節税対策になると販売していた中小企業の経営者向け保険について、課税ルールの見直し案を発表した。解約時に戻ってくる保険料の割合を示す返戻率が50%以下の契約は保険料の全額損金算入を認めるが、節税効果の大きい50%を超える場合には損金に算入できる割合を制限。過熱した節税保険ブームに歯止めをかける。早ければ6月に新ルールを適用とするが、見直し前の契約に遡っては適用しない方針だ。
見直し案では、返戻率が最高で50%から70%以下の場合は損金に算入できる割合を6割、70%から85%以下の場合は4割にそれぞれ制限する。85%を超える場合にはさらに制限し、過度な節税を予防する。

2019年4月12日 | カテゴリー : 社会情報 | 投稿者 : accountant