住宅を購入することは、 通常、 一生涯に何回も経験するものではないと思います。 購入時に、 その住宅の所有者が誰かということで、 不動産登記(土地及び建物)で持分割合(所有割合)を必ず明らかにして所有権登記を行います。 夫婦で購入された場合にも、 土地及び建物の別に、 それぞれの持分割合を確定し登記します。 この持分割合を、実際は全額、夫の資金負担(例えば、自己資金10%・住宅ローン資金90%の場合のケースで、以下は同様の設例)にも拘らず、 むやみに土地について、 夫は3/4・妻は1/4、 そして建物については、 夫は1/2・妻は1/2というように購入資金の負担割合を無視して登記しますと、 実際の資金負担割合と乖離していた場合には、 その乖離金額部分が、 たとえ夫婦間であっても税務上は「贈与」があったものとして取扱われます。 不動産を購入しますと、税務署より購入内容、資金の出所、等に関する「お尋ね」の書面が送られてきます。 これは、不動産登記事項より購入されたことを把握し、登記上の持分割合、資金の出所、等から贈与されたものが無いか否かを確認するためのものです。
1.住宅ローンの繰上返済
住宅購入後に余剰資金ができ、住宅ローンの繰上返済を行うことがあります。 この時に、夫の余剰資金を住宅ローンの繰上返済に充当する場合には、特に問題となることはありませんが、妻の預金口座から5百万円で繰上返済した場合には、以下の問題が生じてきます。
(1)持分割合の変更無しのケース
5百万円で住宅ローンの繰上返済しても夫の持分割合が変わらず100%のままの場合には、この5百万円は、妻から夫への「贈与」があったものとして税務上は見做されます。
(2)持分割合の変更を行なうケース
持分割合の変更原因には、売買、贈与、相続のいずれかしかありませんので、夫から妻への5百万円相当分の「売買」があったものとして取扱われます。 不動産の時価で5百万円の売買として、その持分割合分が夫から妻に移動しますので、持分の変更登記を行います。 なお、その時価相当額よりも移動した持分割合との間に乖離がある場合には、その乖離金額相当は「贈与」と見做されます。
夫は、不動産売却ということで簿価相当額よりも5百万円の方が大きい場合には、譲渡所得を得ることになりますので確定申告が必要となります。
住宅ローンの設定時に担保設定者が金融機関や信用保証会社である場合には、担保物件の内容変更になりますので、所有権変更登記する前に承認が必要となります。
2.配偶者控除の特例
夫婦間においては、居住用不動産関連の贈与で配偶者控除が以下の一定の条件の下で認められています。
① 贈与税の配偶者控除とは
婚姻期間が20年以上である配偶者から、居住用不動産、または居住用不動産の取得のための金銭を贈与された場合には、その不動産の課税価格から基礎控除のほかに2,000万円が配偶者控除額として控除できるというものです(基礎控除を含めて合計2,110万円)。
② 婚姻期間
婚姻届出日から贈与日までの期間(1年未満は切捨)で20年以上であること。
③ 居住用不動産
贈与日の翌年3月15日までに受贈者の専ら居住用に供し、かつ、その後も継続して居住用の見込みがあること。
④ 居住用不動産の取得用金銭
贈与日の翌年3月15日までに居住用不動産を取得し、かつ、居住用状態は上記の居住用不動産のケースと同じであること。
この控除は一生に一度のみであり、贈与金額が2,000万円未満であっても翌年以後への繰越は認められません。また、この控除の適用を受けるためには、所定の控除明細を作成し、贈与税の申告書を提出する必要があります。 当該配偶者控除に関連して、相続開始前3年以内の贈与財産との関係では、相続開始の前年以前の贈与による特定贈与財産に該当するものについては、相続税の課税価格に加算しないことになっています。
3.参考
(1)相続税における配偶者に対する優遇
① 相続税における配偶者の税額控除
配偶者は被相続人の財産形成に大いに寄与していること、及び将来の生活保障面を考慮して相続税の減額を特例として認めています。 配偶者が取得した遺産額のうち次のいずれか大きい方までは配偶者には相続税がかからないことになっています。
(イ)総課税価格の金額に対する配偶者の法定相続割合相当額
(ロ)1億6千万円
②配偶者の相続権並びに法定相続分
言うまでもなく被相続人の配偶者は相続順位に関係なく常に法定の相続人となっています。 又、 配偶者の法定相続割合(遺留割合を含めて)は、 常に高い割合で貢献分を反映している形になっています。 以下は、 配偶者の法定相続分と遺留分(最低保障の相続分として留保されるべき部分)の相続人との関係を示しています。
相続順位 |
相続人 |
法定相続割合 |
遺留分割合 |
第1 |
配偶者 |
1/2 |
1/4 |
子 |
1/2 |
1/4 |
第2 |
配偶者 |
2/3 |
2/6 |
直系尊属(父、母等) |
1/3 |
1/6 |
第3 |
配偶者 |
3/4 |
1/2 |
兄弟姉妹(又は子) |
1/4 |
無し |
第4 |
配偶者 |
全部 |
1/2 |
(2)贈与税の課税(歴年課税制度)
贈与を受けた場合には、受贈者は通常、歴年課税制度より課税価格がある場合には贈与税の申告を行なわなければなりません。 その歴年課税制度の概要と税率は、次のとおりです。
歴年内(1月1日から12月31日までの1年間)に受けた贈与財産の合計額 - 基礎控除額 110万円 = 課税価格
年間110万円までの贈与を受けても贈与税の課税とはなりません。 年間110万円を超える贈与を受けた場合の贈与税額は、 以下の算式となります。
課税価格 × 税率 - 控除額 = 贈与税額
贈与税の速算表 |
課税価格 |
直系尊属からの特定贈与 |
一般贈与 |
税率 |
控除額 |
税率 |
控除額 |
2,000千円以下 |
10% |
- 千円 |
10% |
- 千円 |
3,000 |
15% |
100千円 |
4,000 |
15% |
100千円 |
20% |
250 |
6,000 |
20% |
300 |
30% |
600 |
10,000 |
30% |
900 |
40% |
1,250 |
15,000 |
40% |
1,900 |
45% |
1,750 |
30,000 |
45% |
2,650 |
50% |
2,500 |
30,000千円超 |
55% |
4,000 |
45,000千円以下 |
50% |
4,150 |
45,000千円超 |
55% |
6,400 |
なお、 同一年中に特定贈与財産と一般贈与財産の両方がある場合には、 その贈与財産合計額から基礎控除額(限度110万円)を控除した総課税価格に各該当税率を乗じて算出された税額に対して、 各贈与財産割合(特定贈与財産額、 又は一般贈与財産額 / 贈与財産合計額)を乗じて贈与税額を導くという調整計算が必要となります。
暦年課税の場合、 原則として相続開始前3年以内の贈与財産は相続財産として加算する必要があります。