公的年金制度の改正と公的年金の受給開始時期

会社勤めの方(サラリーマン)は、公的年金、いわゆる老齢基礎年金・老齢厚生年金を通常の65歳から受給するか、それとも繰下げで受給するか迷われることもあるかと思います。以下に、令和4年4月1日より公的年金制度の改正がありますので、通常疑問に思う事項に言及しながら公的年金の受給開始時期に関して検討してみたいと思います。

1.老齢基礎年金及び老齢厚生年金とは
老齢基礎年金は、いわゆる国民年金のことであり、個人事業の方が加入されている年金というと分かり易いですが、加入対象としては国民全員が加入するものです。従って、サラリーマンの方は、この国民年金に加えて老齢厚生年金(まとめて厚生年金)にも加入していますが、この支払う保険料(社会保険料)は、健康保険と厚生年金の双方(40歳以上から介護保険にも加入)をカバーし給与額を基準にして会社と折半(半額ずつ負担)となっています。

広義の社会保険とは、病気・介護、怪我、失業、老齢等に備えて加入する公的な保険のことを指していますが、健康保険(75歳から後期高齢者医療保険)、年金保険、介護保険、雇用保険、労災保険の5つの制度で成り立っています。法律により加入条件が決められており、その条件を満たす場合には、加入することが義務付けられているものですが、狭義では健康保険・年金保険・介護保険を「社会保険」と言われています。

2.年金の社会保険料はいつまで支払が継続するのか
(1)厚生年金
正社員のサラリーマンとして勤務されている場合、厚生年金の加入は、原則満70歳未満まで加入要件を満たしますが、70歳になりますと厚生年金保険の被保険者資格は失いますが、通常「70歳以上被用者」という特別枠になります。その場合、70歳以上の方は、厚生年金保険料の徴収はなく、年金額計算の基礎にもなりません。しかし、既に公的年金を受給されている場合、後述します「在職老齢年金制度」の年金調整(減額)の対象となります。
(2)健康保険
健康保険の加入は、満75歳未満まで加入要件を満たしますが、75歳になりますと健康保険の被保険者資格は失い「後期高齢者保険制度」に移行することになります。会社での保険料支払いは、満75歳未満までとなっています。
(3)介護保険
介護保険の加入は、満40歳以上から死亡まで継続しますが、会社での保険料支払いは、満65歳未満までとなっています。

3.老齢基礎年金及び老齢厚生年金の受給開始資格と年金受給の繰下げ
老齢基礎年金及び老齢厚生年金(以下、特別な区分が必要ない場合には、「公的年金」という)の受給開始は、原則、満65歳からとなっています。この65歳受給開始を66歳以降に「繰下げ」を選択(双方又はいずれか一方)することも可能となっています。
「繰下げ」は、65歳時の年金(65歳到達月の前月までの年金加入記録によって計算された年金)を66歳以降の希望する月からもらい始める制度です(65歳以降(65歳到達月以降)厚生年金保険に加入した分は、繰下げによって増額されることはありません)。
繰下げによる増加率は、繰下げ月数×0.7%となります(繰下げ受給の特徴として、1カ月遅らせるごとに本来の年金額の0.7%分が増額)が、昭和27年4月2日以後生まれの人は、最高75歳までの繰下げができるようになり、次のいずれかを選択することが可能です。
(1)66歳から75歳までの希望する月まで繰下げて増額された年金を受取る
75歳まで繰下げた場合には、最高の年金額の増額率は84%(繰下げ月数120か月×0.7%)となります。
(2)65歳からの老齢基礎年金や老齢厚生年金を繰下げるつもりで待機している人が、繰下げをやめて遡って請求する。
この様に遡って年金を受け取るための請求を行った場合、時効消滅していない5年分の増額されない年金を一括受給できますが、5年超分は時効消滅期間分の年金として、受給できません。
なお、令和5年4月1日以降は、(昭和27年4月2日以後生まれの人が)70歳に達した日後に年金を請求し、その請求の際に繰下げ申出をしないときは、請求をした日の5年前の日に繰下げ申出があったとみなして繰下げ増額(5年前時点での増額)された年金を受け取ることが出来ます(ただし、老齢厚生年金のうち在職老齢年金制度が適用されれば支給停止となっていたはずの部分については増額されません)。(なお、80歳に達した日以後や、請求をした日の5年前の日以前に「他の年金」の受給権者であったときは、このみなし規定は適用されません)。
なお、75歳に達した日後に繰下げ申出をしたときは、75歳に達した日に繰下げを申出たものと見做されます。
繰下げの選択は、老齢基礎年金と老齢厚生年金は双方又は片方を行うことができます。なお、厚生年金基金や企業年金連合会からも年金を受け取っている場合は、こちらも併せて繰り下げになります。
繰下げをしたい場合、年金は自分で年金事務所に請求の手続きをしない限り、支給が始まらないので、何もしなければ支給開始は66歳以降に延びて自動的に繰り下げの扱いとなっています。実際にもらい始めたいと思ったときに手続きをすれば大丈夫ですが、実際に請求する際には「65歳に遡って増額していない年金を一括で受け取る」又は「繰下げした増加した年金を受け取る」を選ぶことになります。

4.繰下げによる過去分の一括支給年金額と所得税課税
公的年金収入は所得税上では「雑所得」となります。繰下げ待機から遡及請求を選択して過去年分を一括支給を受けた場合の課税は、各年度ごとの雑所得として取扱われることになることに注意すべきです(つまり、年度ごとに修正申告を行う必要が出てくる場合があります)。

5.繰下げと新たな在職定時改定との関係
繰下げ以外に、新たな「在職定時改定」の適用により、60歳到達月以降に厚生年金保険に加入した期間や、その期間の標準報酬月額・標準賞与額が反映して、老齢厚生年金額が毎年10月分から増額されることになります。
繰下げは、65歳到達月の前月までの厚生年金保険加入記録によって計算された年金額が増額されますが、65歳以降の加入による老齢厚生年金については、繰下げしても年金額は増額に反映されません。

6.最高75歳までの繰下げ制度と在職老齢年金制度との関係
在職老齢年金とは、60歳以降も働き続け、厚生年金に加入している人は、給与・賞与、厚生年金額の合計が一定額を超えると、受給する年金が減額されたり、全額が支給停止になったりする調整の仕組みのことをいいますが、このときの年金を「在職老齢年金」と言われます。在職老齢年金の支給金額は、以下の様に算定されます。
{(基本年金月額+標準月額給与額+標準月額ボーナス)-470,000円}×1/2 = 支給基準となる在職老齢年金の調整額(月額年金の減額)
以上の算式から、給料金額が高額となり、基本年金月額<支給基準となる在職老齢年金の調整額の場合には、年金の全額が支給停止となります。
①年金(基本年金月額):
在職老齢年金の計算に使うのは、年金の1か月分です。「老齢厚生年金」÷12か月で1か月分を計算します。但し、加給年金が加算されている場合には、加給年金を省いた額を12か月で割ることになります。
②給料(総報酬月額相当額):
総報酬月額相当額とは、年収を12か月で割り1か月分になおしたものです。年収は月給とボーナスの合計なので、「月給」+「年間ボーナスを12か月で割った1か月分」が総報酬月額相当額となります。月給には、厚生年金保険料を決めるための基準となる「標準報酬月額」を使用します。ボーナスは、年金をもらう月以前1年分を12か月で割り1か月分を計算します
在職老齢年金制度の適用者が、繰下げを選択すると支給年金額に影響する場合があります。

7.年金の繰下げ受給のメリット・デメリット
(1)メリット
① 年金額が増額される
年金を繰下げる一番のメリットは、年金額が増額されることです。
② 増額された年金は一生続く
公的老齢年金は、一旦もらい始めたら生存している限りもらえる終身年金制度です。繰下げ受給した場合でも、受給開始した後は増額された年金額が一生続きます。
③ 出来るだけ長く働こうと思っている人
65歳以後も働き、生活に困らない程度に収入を得られる場合は、年金をすぐに受給しなくてもいいかもしれません。
④ 年金額が少ない人
専業主婦(主夫)期間に対する年金は老齢基礎年金だけになります。老齢基礎年金は満額を受取れる場合でも約78万円です。仮に5年間(70歳まで)繰下げると年金額は約111万円に増えます。
一方で、公的年金に対する所得税を計算するときには公的年金等控除があります。公的年金等控除は年金受取り開始年齢や受給者の所得によって異なりますが、65歳以後に受取る場合、最低でも110万円あります。加えて48万円の基礎控除があるため、年金以外に所得がなければ所得税がかからないことになります。
⑤ 長生きすると考えている人
繰下げした元が取れるまでに約12年かかりますが、長生きして長く年金受給し続けられると思える人は繰下げ受給してもいいでしょう。ただし、繰下げしている期間の生活資金の対策は事前にしておくことが必要です。

(2)デメリット
① 繰下げ損の可能性がある
長生きすればするほど多くの年金をもらえるというメリットがある一方で、死亡してしまうとその時点で支給停止となってしまいます。結果的に繰下げ損となってしまうリスクがあります。
② 加給年金がもらえなくなる
公的年金制度には国民年金と厚生年金がありますが、そのうち厚生年金には「加給年金」という制度があります。
加給年金とは、被保険者期間が20年以上ある人が、原則65歳になった時点で65歳未満の妻を養っている場合、妻が65歳になるまで厚生年金に加算して支払われるお金のこと。夫の生年月日によって金額は変動しますが、年間26万円~39万円程度です。
ところが繰下げ受給をすることで、この加給年金がもらえなくなる場合があります。何故ならば、加給年金は、本来、厚生年金とセットで支払われるものです。厚生年金を繰下げれば加給年金も同時に待機期間に入ります。仮に、夫が70歳まで繰下げるとして、70歳から年金受給が始まる時点で妻が65歳になっていれば加給年金の権利はなくなってしまいます。加給年金をもらえる期間は夫婦の年齢差によって変動しますから、繰下げして年金額が増えることと加給年金を失うこととの損得は人によって異なります。「年齢に応じた加給年金の合計額」と「繰下げによる増額分」を比較して繰下げの検討をすることが大切です。
③ 社会保険料や税金が増える
繰下げすることで年金額が増額することはこれまで説明してきたとおりですが、年金額が増えれば年金額から天引きされる税金および社会保険料などもつられて増える可能性があります。口座に振り込まれる年金は「所得税」「住民税」「(国民)健康保険料」「介護保険料」などが引かれた後の「手取り」金額です。繰下げせずに、本来の65歳から年金をもらい始める場合でも徴収されるのは同様です。
ただ、税金や社会保険料は、収入や扶養家族の有無、各種所得控除、居住地域などで変わるため、徴収率は人それぞれに異なります。繰下げ期間に応じた割合の年金収入が増えると見積っていても、手取りではそのとおりにならないことがあることは知っておくべきです。
通常の繰下げの「損益分岐期間」(増額された分で、繰下げている間にもらわなかった金額を取り戻すのに必要となる期間)は、11年11ヵ月となります。70歳受給開始なら82歳、75歳受給開始なら87歳で65歳開始を上回ることになります。しかしながら、繰下げによる税金や社会保険料の負担増による繰下げの「損益分岐期間」は伸び、70歳受給開始なら87歳まで生きれば65歳開始を、75歳受給開始なら91歳で65歳開始を超えると言われています。
④ 長生きできないと考えている人
繰下げしても元が取れないと考えるなら繰下げ受給しないほうがいいでしょう。
⑤ 老後資金の備えが少ない人
65歳でリタイアしてしまう、働いてもわずかな収入だけ、老後資金の備えが少なく早々に取崩したくないなど、繰下げて年金を受け取れない間の生活資金が足りなくなるという場合には繰下げ受給はおすすめできません。
⑥ 年金額が多く、老後資金の備えもある人
もともと充分な額の年金を受給できる人は敢えて繰下げしなくてもいいかもしれません。繰下げすることで税金や社会保険料が増えることや、元が取れなくなるリスクを考えながら検討すべきでしょう。
⑦ 加給年金を受取りたい人
配偶者が年下で、加給年金を受取りたい人には繰下げ受給は向いていません。老齢厚生年金を繰下げて加給年金だけを受け取ることはできません。それでも少しでも年金額を増やしたいと思う人は、老齢基礎年金部分だけを繰下げて、老齢厚生年金はそのまま65歳から受給することもできます。

8.繰下げと加給年金・振替加算との関係
繰下げをする際は加給年金や振替加算がつく場合は停止になる場合があるので注意が必要です。
(1)加給年金
加給年金とは、扶養者的な年金のようなものです。下記の2要件を満たす場合には加算されて受給できます。
① 厚生年金に20年以上加入している人で、65歳以上になったときに、自身が生計を維持している
② 65歳未満の配偶者、18歳未満の子または1級・2級の障害認定を受けている20歳未満の子がいる
この加給年金を受給するには、厚生年金の受給が必須となっています。受給権者が昭和18年4月2日以降に生まれた場合は、加給年金額は390,500円です。
なお、重要な注意点として、加給年金の受給には厚生年金の受給が必須ですので、年金を繰下げている場合には加給年金はもらえない(停止する)点があります。停止している間に配偶者が65歳以上になる場合や子どもが18歳以上になる場合もらえなくなります。
(2)振替加算
振替加算とは、加給年金の対象になっていた配偶者(例えば妻)が65歳になったときに、夫の年金に上乗せされていた加給年金が停止し、妻の年金に振替加算として上乗せされ、妻は一生涯受け取ることができます。振替加算の金額は配偶者の生年月日によって違いますが、昭和41年4月2日以降生まれの場合は対象外となります。この振替加算は妻の老齢基礎年金とセットになっているため、妻の国民年金を繰下げしている間は停止されます。
配偶者の生年月日で昭和35年4月2日~昭和41年4月1日の間の方の振替加算額は、月額1,254円となっています。

9.繰下げと遺族厚生年金との関係
厚生年金を加入していた被保険者(例えば夫)が亡くなった時に一定の条件で遺族に支給する年金を「遺族厚生年金」といいます。妻が受取る遺族厚生年金は、
①妻の老齢厚生年金
②夫の老齢厚生年金の4分3
③夫の老齢厚生年金の半分と妻の老齢厚生年金の半分の合計額
のうちで最大金額から妻の老齢厚生年金を控除した金額が遺族厚生年金となります。
その計算において、厚生年金の額の基準は元々の年金額で計算されますので、繰り上げの減る前の年金額・繰下げの増える前の年金額で計算されます。繰下げで年金をもらう予定で一度も年金を受け取らないまま亡くなった場合は65歳でもらえる年金額で計算され遺族に支払われます。

以上ですが、公的年金制度内容は難しいところですが、多少なりとも公的年金受給開始の繰下げの可否における検討情報になれば幸いです。

2022年3月31日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

2021年度(令和3年) 個人確定申告

個人並びに個人事業者の方の令和3年度確定申告の時期がきました。 以下に、 令和3年度分の確定申告の提出期限及び確定申告の対象となる人(任意ではなく申告しなければならない人)、 等に関しまして概要を纏めてみました。 なお、 確定申告の対象者は前年度と変更はありませんが、 税金の申告は、 本人自ら課税金額や税額を計算し、 その税額を申告納付する制度「申告納税制度」を採用していますので、 期限後申告・納付となりますと延滞税等がかかります。
なお、 新型コロナウイルス感染の影響を受けている場合には、確定申告書の提出期限等が、「簡易な方法」で1ヵ月延長し、4月15日までとすることが認められています。簡易な方法とは、申告書の余白に「新型コロナウイルスによる申告・納付期限延長申請」という所定の文言を記載することになります。
下記は、原則の確定申告の提出・納付期限となります。

(1) 申告書の提出方法には、 ①持参(所轄税務署等の所定の提出場所)、 ②郵送、 ③電子申告(e-Tax利用によりデータ送信、この利用には事前準備が必要となりますが、 所得税では一定の第三者作成の提出書類を省略可の恩典があります)、の方法があります。
(2) 納税方法には、 ①持参(所轄税務署)、 ②金融機関から納付書を付けて納付、 ③ダイレクト納付(e-Taxの利用で、 かつ、 事前にダイレクト納付利用届出書の所轄税務署に要提出)、 ④インターネットバンキング・クレジットカードによる電子納税、⑤口座振替(上記を参照) の方法があります。
(3) 平成25年度から25年間には、 復興特別所得税として各年分の所得税額に2.1%の税率を掛けて計算した税額が発生することに留意してください。
(4) 平成28年分以降の確定申告にあたり、 マイナンバー(個人番号)の記載が必要となります。 申告書を書面提出する際には、 申告者のご本人の本人確認書類(番号確認書類及び身元確認書類)の提示又は写しの添付が必要です。 具体的な本人確認書類とは、
① マイナンバーカード(個人番号カード)
② 通知カード又は個人番号付の住民票の場合には、 身元確認書類として顔写真付きの運転免許証、 等の点、 又は顔写真付きでない場合には、 2点の確認書類(保険証、 年金手帳、 等)

A. 所得税
1. 令和3年度確定申告の主な改正・留意事項
令和2年度には基礎控除等に改正事項がありましたが、令和3年度には特筆すべき事項はありません。なお、申告書様式にいくつかの改訂があります。
(1)申告書Aは廃止され、申告書Bに一本化されます。
(2)納税者の押印欄の廃止
(3)事業収入の区分欄の創設
帳簿記帳方法に関しまして、5区分から該当する数字(1から5)を記入
(4)不動産収入の区分欄の創設
国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例適用がある場合は、区分1欄に「1」を、区分2欄には上記(3)と同様な5区分から該当数字を記入
(5)雑収入「その他」欄の区分欄の新設
個人年金に係る収入がある場合は「1」、暗号資産取引に係る収入がある場合は「2」、双方の収入がある場合は「3」を区分欄に記載

2. 令和3年度確定申告が必要となる対象者の方
1. 給与所得者(サラリーマンの方)
① 給与の年間収入金額が2,000万円超となる方(年末調整対象外の方)
② 給与(年末調整済)を1箇所から受けていて、 給与所得及び退職所得を除く各種の所得金額の合計額が20万円超となる方 (給与収入額が2,000万円以下で、 給与・退職所得以外の所得が20万円以下の場合には申告の必要はありません)
③ 給与(源泉徴収済)を2箇所以上から受けていて、 年末調整されなかった給与の収入金額と、 給与所得及び退職所得を除く各種の所得金額との合計額が20万円超となる方。
但し、 給与所得の収入金額から、 一定の所得控除の金額(雑損控除、 医療費控除、 寄付金控除及び基礎控除の項目を除く)の差引金額が150万円以下で、 かつ、 給与所得及び退職所得を除く各種の所得金額の合計額が20万円以下となる方は、 申告不要となります。
2. 上記の給与所得者以外の方、 又は個人事業者で納付税額が発生する方
事業所得や不動産所得等がある方で、 各種の所得金額の合計から各種の所得控除後で計算した税額が、 配当控除よりも多くなる方
3. 源泉徴収の適用を受けない給与等の支払を受ける方
① 家事使用人等の方で給与から源泉所得税を徴収されていない方: 常時2人以下の家事使用人だけを雇用している使用人等には源泉徴収の義務が無いことから、 その使用人等から給与を受給されていた方
② 在日外国公館から給与等の支払を受けた方
③ 国外から給与、 退職金等の支払を受けた方
4. 同族会社の役員やその親族等で、 その会社から給与以外に利子、 家賃、 使用料等の支払を受けている方は、 その利子、 家賃、 使用料等は全て申告の対象  
5. 災害減免法の適用を受け給与に対して源泉徴収の猶予や源泉徴収税額の還付を受けていた方
6. 上記以外の方で納付税額がある方
各種の所得金額の合計から各種の所得控除後で計算した税額が、 配当控除よりも多くなる方
注1: 公的年金等に係る所得の確定申告不要制度
その年において公的年金等に係る雑所得を有する居住者で、 その年中の公的年金等の収入金額が400万円以下であり、 かつ、 その雑所得以外の所得金額が20万円以下である場合には、 所得税の確定申告書の提出は必要ありません(申告されれば還付となる場合もありますので、 その場合には申告される方が有利となる場合もあります)。 なお、国外源泉で国内源泉税の対象とならない国外年金収入等がある場合には、この確定申告不要制度の適用対象外となります。
この所得税の申告不要となる場合であっても、 住民税の申告が必要となることもありますので注意が必要です。

公的年金等の受給者で所得税の申告不要な者でも、住民税の申告が以下のような場合には必要となります(主に住民税の減額になるケース有り)。
① 年金や給与の源泉徴収票に記載されていない所得控除(扶養控除、障害者控除、ひとり親控除、寡婦控除、医療費、社会保険料、生命保険料、地震保険料, 寄附金等)のある方は、住民税の申告で住民税が減少する可能性があります。
② 上記①の控除を追加したい方で、公的年金等収入が105万円(65歳以上の方は155万円)を超えている場合(この場合とは、公的年金等以外の合計所得金額が1千万円以下のケース)、或いは、超えていない場合でも公的年金等以外の所得金額がある場合。
③ 日本年金機構等に扶養親族等申告書を提出しているが、その内容に変更がある場合等。

注2: 確定申告不要(任意)となる方で申告すれば税金が戻ってくる方(還付申告者)
確定申告の総件数は2,000万件以上になるようですが、 この内の約半数近くが還付申告のものとなっているようです。 収め過ぎた税金を戻すためには確定申告書の提出が必要となります。 以下の様な場合には、 還付されるかもしれませんので調べてみてはどうでしょうか。
1. サラリーマンで年末調整を受けた方で次の年末調整では取扱わない項目があった方
① 一定金額以上の医療費(医療費控除: 限度額200万円)
生計を一にする家族の支払医療費が、 以下の金額以上になっている場合が対象:
所得が200万円以上: 支払医療費 – 保険給付金等 – 10万円 = 医療費控除額
所得が200万円未満: 支払医療費 – 保険給付金等 – 所得金額 × 5% = 医療費控除額
② 災害(地震、 台風等)や盗難により住宅や家財に被害を受けた場合(雑損控除)
災害の場合には、 災害減免法により所得税の軽減・減免を受けられることもあります。
③ 特定の寄付をされた方(寄付金控除や政党等寄付金特別控除)
④ 初めて住宅ローン控除を受ける方(住宅借入金等特別控除)
⑤ 年末調整時に提出ができなかった、 或いは洩れている控除項目がある方
生命保険料控除、 地震保険料控除、 配偶者特別控除、 各種の扶養者控除等
⑥ 中途退職され再就職しなかった方
退職までの給与収入に対する源泉徴収税額が年税額として過大となっているケースが殆どです。 又、 退職金に対して20%源泉になっている場合も可能性がありますし、退職所得を除く各種の所得の合計額から所得控除を差し引くと赤字になっている方。
2. 上場株式等に係る配当所得(申告分離課税選択)と上場株式等に係る譲渡損失との損益通算
3. 予定納税されたが確定申告不要となった方
4. 所得が少ない状況で配当や原稿料収入等からの源泉徴収税額が、 本来の納付すべき税額よりも多額となっている方
5. 外国税額控除の適用がある方
6. 申告の要件となっている項目がある方
① その年の翌年以降に純損失又は雑損失の繰越控除を受けるため、 ② その年分の純損失の金額について純損失の繰戻しによる還付を受けるため、 ③ 居住用財産の買換又は特定居住用財産の譲渡損失及び繰越控除を受けるため、 等には確定申告の提出が必要となります。

B. 贈与税
ご存知かと思いますが、 下記に示す様に年間に受けた贈与額が110万円以下ならば非課税範囲のために贈与税の申告等は必要ありません。
1. 年間合計で110万円超の財産贈与(個人からの土地、 建物、 現金、 預貯金、 株式、 債権等の財産の贈与)を受けた方(暦年課税で下記の②の選択者を除く)
2. 相続時精算課税制度(60歳以上の父や母の直系卑属からの贈与者ごとに累積で特別控除額2,500万円)の選択者で財産贈与を受けた方(20歳以上の推定相続人の子、 並びに孫に限る)
3. 直近尊属から住宅取得等資金贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置
特定受贈者(贈与年の1月1日現在20歳以上で合計所得金額2,000万円以下の者)が、 その直系尊属(親、祖父母等)から受ける居住用家屋の新築・取得・増改築等用に住宅取得等資金の贈与については、非課税限度額が定められていますが、消費税率の8%から10%への引上日が平成31年10月1日に延期されたことに伴い、 非課税措置の適用期限を令和3年12月31日まで延長し、 非課税限度額は以下のようになります。
① 住宅用家屋の取得価額に消費税率10%の消費税等が含まれている場合 (消費税率10%で契約した者)

② 上記(1)以外の場合 (消費税率8%で契約した者や個人間売買で中古住宅売買契約した者)

4. 配偶者控除の特例(控除額2,000万円)を適用し、 配偶者から居住用不動産又はその取得資金の贈与を受けた方(婚姻期間が20年以上の配偶者からの贈与に限る)
5. 教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税制度、等
平成25年4月1日から令和5年3月31日までの期間に直系尊属が30歳未満の子や孫へ教育資金を拠出し、 金融機関(信託会社・信託銀行)、 銀行及び金融商品取引業者に信託等した場合、 受贈者(子・孫)1人当たり1,500万円(学校等以外への支払は500万円)までを非課税とする特例があります。 この制度適用のためには、 受贈者は教育資金非課税申告書を金融機関等を経由して税務署に提出する必要がありますが、 申込時に対応されていると思いますので特に問題となることはないでしょう。

C. 消費税
個人事業者で下記に該当する方は納税義務者(課税事業者)として申告する必要があります。
1. 基準期間となる前々年度(令和元年度)の課税売上高が1,000万円超の事業者の方
2. 特定期間となる前年(令和元年度)の1月1日から6ケ月間の課税売上高が1,000万円超で、 かつ、 同期間の給与等支払総額が1,000万円超の事業者の方
3. 免税事業者となる方が、 課税事業者となることを選択(消費税課税事業者選択届出書を事前に提出)している方(簡易課税選択者も含む)
納税義務者の判定上の留意事項:
(1) 基準期間の課税売上高は、 消費税込の金額となり、 事業用資産(住宅用として貸付けていた建物等)の譲渡の対価金額も含まれます。
(2) 被相続人(亡くなられた方)の事業を相続により承継した相続人には、 被相続人が提出していた各種の届出書の効力は及ばないので、 新たに提出する必要があります。
(3) 新規開業又は相続により事業を承継したときに、 消費税課税事業者選択届出書を提出した場合の適用開始時期は、 当該課税期間か翌課税期間かを選択できます。
(4) 消費税課税事業者選択届出書を提出されている場合には、 「消費税課税事業者選択不適用届出書」を提出しない限り、 その効力が消滅することはありません。

以上が、所得税、贈与税、消費税に関する確定申告の対象者の概要です。

2022年2月16日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

2022年度(令和4年度)税制改正大綱:法人税

2021年(令和3年)12月10日に自民、公明党の両党は2022年度(令和4年度)の与党税制改正大綱を発表しました。以下は、その法人税の改正大綱の概要となります(法人税以外の改正内容は、前月12月に掲載済)。
改正法案は、2022年(令和4年)3月末には可決・成立となる予定です。

法人課税の改正
1.賃上げ税制:人材確保等促進税制の見直し(主に大企業)
現行の新規雇用者給与等支給額から継続雇用者給与等支給額への一定割合以上の増加に変更され、最大30%の税額控除の適用となります。

注1:新規雇用者給与等支給額とは、国内新規雇用者のうち雇用保険の一般被保険者に対してその雇用した日から1年以内に支給する給与等の支給額
注2:継続雇用者給与等支給額とは、継続雇用者(当期及び前期の全期間の各月分の給与等の支給がある雇用者で一定のものに対して支給する給与等の支給額
注3:一定の大企業とは、資本金の額等が10億円以上で、かつ、常時使用する従業員数が1,000以上の企業

2.賃上げ税制:所得拡大促進税制の見直し(中小企業)
税額控除率が最大40%に引上げられ、適用期限が1年延長となります。

3.大企業の研究開発税制等における特定税額控除規定の不適用措置の見直し
一定の大企業において、継続雇用者給与等支給額に係る要件で、令和5年4月1日から開始する事業年度以降では前年度より増加率が1%以上(令和4年4月1日から令和5年3月31日までに開始する各事業年度では増加率0.5%以上)でなければ、研究開発税制等における特定税額控除規定は不適用となります。

4.オープンイノベーション促進税制の拡充
この促進税制は、事業会社から一定のスタートアップ企業に対する出資について、その投資額の25%相当額を特別勘定として経理処理することで同額の所得控除(損金算入)ができる制度です。なお、株式の取得日から 3年以内(現行5年以内)に出資した株式の売却等を行った場合には、対応する部分の金額を益金に算入することになります。
出資対象となる要件において、設立の日以後10年未満であることでしたが、売上高に占める研究開発費の額の割合が10%以上で、 かつ、赤字の会社は、設立の日以後15年未満となります。

5.交際費等の損金不算入制度の延長
交際費等の損金不算入制度の適用期限が2年延長され、又、中小法人に対する損金算入特例の適用期限も2年延長となります。

6.隠蔽仮装、無申告への簿外経費の課税強化
税務調査において、虚偽申告又は無申告の場合、帳簿書類等で取引が明らかなもの以外の簿外経費は必要経費算入とは認められません。
この改正適用は、令和5年1月1日以降開始の事業年度よりからとなります。

7.少額減価償却資産の一時損金算入特例の貸付用資産除外
取得価額10万円未満の償却資産のうち、貸付用としたものは支出時の一時損金算入が不可となります。ただし、レンタル事業者(貸付が主要事業者)は従来どおり一時損金算入は可能です。
8.一括償却資産の損金算入特例の貸付用資産除外
取得価額20万円未満の償却資産のうち、貸付用としたものは一括して3年間償却特例の適用が不可となります。ただし、レンタル事業者(貸付が主要事業者)は従来どおり償却は可能です。

9.中小企業者の少額減価償却資産損金算入特例の貸付用資産除外
青色申告法人である中小企業者等は10万円以上30万円未満の償却資産を取得した場合、年間合計300万円までは支出時に損金算入可能ですが、貸付の用に供するものは対象外となります。ただし、レンタル事業者(貸付が主要事業者)は従来どおり償却は可能です。

10.5G投資促進税制の見直し
5G投資促進税制とは、認定特定高度情報通信技術活用設備の取得又は製作若しくは建設(5G関連の設備投資)をして、これを国内にある事業の用に供した場合(貸付けの用に供した場合を除きます。)には、その事業の用に供した事業年度において、特別償却と税額控除(現行15%)のいずれかの税制優遇措置を受けることができる制度です。
今回の改正は、2024年度まで制度は3年延長される一方、2022年度からの3年間で控除率を徐々に下げていくことになります。

11.資本の払戻しに係るみなし配当金額の計算方法の見直し
資本の払い戻しにより金銭等を受領した場合、受領金銭等のうち払戻し直前の払戻等対応資本金額等を超える部分をみなし配当となっていますが、その払戻等対応資本金額等はその払い戻しにより減少した資本剰余金の額を限度(限度超過部分はみなし配当に含まれます)とすることになります。
払戻等対応資本金額等=直前の資本金等の額×(減少した資本剰余金の額÷簿価純資産価額)
又、種類株式を発行する法人の資本の払い戻しに係るみなし配当の額の計算について、種類資本金額を基礎として計算することになります。

12.グループ通算制度のグループ離脱時における投資簿価修正の見直し
改正としては、グループ離脱時における各法人の確定申告において一定の計算明細を添付し、かつ、書類を保存することで、子法人株式の簿価純資産価額(帳簿価額)に資産調整勘定等対応金額を加算するような調整計算が行われます。資産調整勘定等対応金額とはグループ通算開始時に時価取得をしたその子法人株式の取得価額のうち、仮にその時点で合併をしたものとした場合における資産調整勘定又は負債調整勘定相当額とされています。
又、グループ離脱時の時価評価資産の取扱いで、帳簿価額が1,000万円未満である資産については時価評価資産から除外されていますが、営業権については帳簿価額が1,000万円未満であっても除外されないことになります。

13.大法人(外形標準課税適用法人)に対する法人事業税所得割の税率の見直し
事業税及び特別法人事業税の所得割の税率に関して、3以上の都道府県に事務所等が設けられており、かつ、資本金1,000万円以上の法人には、軽減税率の適用外となっています。現行では、2以下の事務所等が設けられている大法人でも軽減税率(所得割年400万円以下、800万円以下)の適用がありましたが、改正では、大法人に対する法人事業税所得割について、軽減税率の適用が廃止されます。従って、大法人(外形標準課税適用法人)の事業税率は1.0%(標準税率)、特別法人事業税率260.0%となります。
この改正適用は、令和4年4月1日以後開始する事業年度からとなります。

14.完全子会社等からの配当に係る源泉所得税の廃止
次の完全子会社等からの配当については、所得税の源泉徴収を行わないことになります。適用時期は、令和5年10月1日以降の支払配当から適用されます。
(1)完全子法人株式等(持株比率100%保有の子会社)
(2)配当基準日に置いて直接保有する株式等の保有割合が3分の1超である子会社
但し、一般社団法人、一般財団法人等の一定の内国法人には適用除外です。

15.海外投資等損失準備金制度の適用期限の延長
適用期限が令和6年3月31日までの2年延長となります。

16.障害者雇用における特定機械装置の割増償却制度の廃止
適用期間の到来をもって廃止となります。

17.倉庫用建物等の割増償却制度の見直し
適用期限を2年延長し、割増償却率8%(現行10%)に引き下げられます。

18.電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存の宥恕措置(経過措置)
電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存制度については、令和4年1月より施行されることになっていましたが、保存義務者の準備不足状況から、令和4年1月から令和5年12月までの2年間の期間については、税務署長が保存できないことにつきやむを得ない事情があると認め、保存義務者が税務調査を受けた際に印刷した書面の提出が出来る状況にある場合には、保存要件を満たしていることになります。これは、保存要件への対応が困難な事業者の実情に配慮し、税務署長への手続きを要せずに出力書面等による保存を可能とするものです。
なお、税務調査の際には、保存できないことにつきやむを得ない事情があるとについて、この経過措置の適用を申出ることになるようです。

以上

2022年1月22日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

土地・建物の相続に関連する制度改正概要

2021年(令和3年)4月に民法・不動産登記法等の改正があり、主にこの改正は所有者不明土地問題の解決に資する為のものです。特に、これまでの相続に関連して発生してきた問題でもあり、その対策として改正された事項には、以下のものがあります。

2022年1月15日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

2022年度(令和4年度)税制改正大綱:所得税、贈与税・相続税、消費税

2021年(令和3年)12月10日に自民、公明党の両党は2022年度(令和4年度)の与党税制改正大綱を発表しました。以下は、その改正大綱の概要(所得税、贈与税・相続税、消費税)となります。
改正法案は、2022年(令和4年)3月末には可決・成立となる予定です。

個人所得税の改正
1.住宅ローン控除の見直し
住宅ローン控除の適用期限が令和3年12月31日から令和7年12月31日までの4年延長となりますが、控除率が現行1%から0.7%に引き下げられます。又、適用対象者の所得要件が、令和4年1月1日以降居住の用に供したものから合計所得金額が現行3,000万円から2,000万円に引き下げられます。
住宅ローン控除額等の要件は以下の様になります。
(1)認定住宅等の場合
A 新築の場合

区分 居住年借入限度額 控除率控除期間
認定住宅(注1)令和4年・令和5年5,000万円0.7%13年
令和6年・令和7年4,500万円
ZEH水準省エネ住宅
(注2)
令和4年・令和5年4,500万円
令和6年・令和7年3,500万円
省エネ基準適合住宅令和4年・令和5年4,000万円
令和6年・令和7年3,000万円

注1:認定住宅とは、認定長期優良住宅及び認定低炭素住宅をいう。
注2:ZEH水準省エネ住宅とは、ZEH(ゼッチ)とはネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略称です。省エネ性能を上げつつ、エネルギーを「創り出す」ことで消費エネルギー量の収支をプラスマイナスゼロにする住宅(省エネのための設備や太陽光発電システムなどを導入する必要有り)のことを指します。
B 中古と増築の場合
借入限度額は一律3,000万円で、控除率0.7%、控除期間は一律10年間となります。
(2) 認定住宅等以外(一般住宅)の場合
A 新築の場合

区分 居住年借入限度額控除率控除期間
一般住宅令和4年・令和5年
3,000万円0.7%13年
令和6年・令和7年2,000万円10年

B 中古と増築の場合
借入限度額は一律2,000万円で、控除率0.7%、控除期間は一律10年間となります。

項目 内容
所得要件

合計所得金額3,000万円から2,000万円に引き下げ
適用日令和4年1月1日以降居住の用に供したものから適用(令和7年12月31日まで)
床面積基準の緩和床面積50㎡以上を40㎡以上に引き下げられましたが、40㎡以上50㎡未満は、合計所得金額が1,000万円以下の年度のみ適用となります。
又、令和5年12月31日以前に建築確認を受けた新築も同様に緩和の適用対象になります。
既存住宅の要件変更令和4年1月1日以降居住の用に供したものから、新耐震基準に適合している場合には、中古住宅の築年数要件は廃止となります。
確定申告等手続の見直し令和5年1月1日以降居住の用に供したものから、金融機関に住宅ローン控除申請書を提出した場合には、確定申告時に新築工事の請負契約書の写し等、年末借入金残高証明の添付不要となります。事前に、金融機関に「住宅ローン控除申請書」を提出する必要があり、当該申請書は金融機関から所轄税務署長に提出する必要があります。
なお、年末調整の際に特別控除申告書への年末借入金残高証明の添付も不要となります。
この改正は、居住年が令和5年以後である者が、令和6年1月1日以後に行う確定申告及び年末調整について適用となります。

2.居住用財産の買換え等の譲渡損失の繰越控除等の適用期限延長
適用期限が、令和3年12月31日から令和5年12月31日までの2年延長となります。

3.特定居住用財産の譲渡損失の繰越控除等の適用期限延長
適用期限が、令和3年12月31日から令和5年12月31日までの2年延長となります。

4.既存住宅の耐震改修に伴う特別控除の適用期限延長他
適用期限が、令和3年12月31日から令和5年12月31日までの2年延長となります。なお、耐震改修工事における標準的な工事費用額の控除対象限度額及び控除率は次の様になります。

工事完了年控除対象限度額控除率
令和4年・令和5年250万円10%

5.完全子会社等からの配当に係る源泉所得税の廃止
次の完全子会社等からの配当については、所得税の源泉徴収を行わないことになります。適用時期は、令和5年10月1日以降の支払配当から適用されます。
(1)完全子法人株式等(100%保有の子会社)
(2)配当基準日に置いて直接保有する株式等の保有割合が3分の1超である子会社

6.配当の総合課税とされる大口株主の範囲拡充
現在、上場株式等の配当等については、大口株主が受け取る配当については、非上場株式からの配当と同様の取扱いとして、20.42%の源泉徴収がされたうえで総合課税により確定申告が必要とされています。
この大口株主の範囲として、直接にその会社の発行済株式の3%以上が保有する方が対象となっていましたが、その者が支配関係を持つ同族会社がその会社の株式を持っている場合に、3%の判定基準に含めることになります。この改正適用は、令和5年10月1日以後の支払配当からとなります。

7.納税地の変更・異動に関する届出書
納税地が変更・異動した場合には、変更前の税務署長に届出書を提出する必要がありましたが、令和5年1月1日以後については届出書の提出が不要となります(個人消費税についても同様)。

8.上場株式等の配当所得割に係る課税方式の改正
上場株式等の配当金は、所得税では総合課税や申告分離課税を選択しても、個人住民税においては申告不要制度を選択することが可能でしたが、特定配当等及び特定株式等譲渡所得金額に係る所得の課税方式(総合課税方式)を所得税と住民税とを一致させることとなりました。同時に、上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除額が所得税と住民税で一致になるような措置を行うことになります。
この改正適用は、令和6年度分以降の個人住民税からとなります。

9.財産債務調書制度等の見直し
現行では、所得2,000万円以下の者は、仮に高額の財産を保有していたとしても、調書の提出義務がありませんでしたが、今後は12月31日現在で10億円以上の財産保有者(居住者)も提出義務者となります。なお、提出期限は翌年の3月15日から6月30日になります。

 現行 改正
財産債務調書の提出義務者下記①及び②を満たす場合
①所得基準:所得2,000万円超
②財産基準:財産の価額の合計額が 3億円以上、又は国外転出特例対象財産の価額の合計額が1億円以上
同左、下記①及び②を満たす場合
①所得基準:所得2,000万円超
②財産基準:財産の価額の合計額が 3億円以上、又は国外転出特例対象財産の価額の合計額が1億円以上
又は、③財産基準:財産の価額の合計額が 10億円以上の場合
財産債務調書及び国外財産調書の提出期限翌年の 3 月15日翌年の 6 月30 日
財産債務調書等の家庭用動産の記載不要基準額取得価額100万円未満の家庭用財産(現金、書画骨 董、貴金属類を除く)は記載不要取得価額300万円未満の家庭用財産(現金、書画骨 董、貴金属類を除く)は記載不要

10.国民健康保険税の課税限度額の引上げ
(1)基礎課税額の課税限度額を現行63万円から65万円に引上げる。
(2)後期高齢者支援金等課税額の課税限度額を現行19万円から20万円に引上げる。

11.隠蔽仮装、無申告への簿外経費の課税強化
税務調査において収入金額が300万円超の事業者が虚偽申告又は無申告の場合、帳簿書類等で取引が明らかなもの以外の簿外経費は必要経費算入とは認められません。
この改正適用は、令和5年度の所得税よりからとなります。

以上

資産課税(贈与税・相続税)の改正
1.直系尊属からの住宅取得資金贈与の非課税制度の改定

2.土地(商業地等)に係る固定資産税・都市計画税の負担調整措置
令和4年度に限り、負担水準が60%未満である商業地等の令和 4年度の固定資産税・都市計画税の課税標準額は、令和 3年度の課税標準額に令和 4年度の固定資産税評価額の2.5%(改正前:5%)を加算した金額となります。

負担水準
(注1)
固定資産税・都市計画税の負担
60%以上令和4年度の固定資産税評価額の60%相当額
60%未満
20%以上
令和3年度の課税標準額プラス令和4年度の固定資産税評価額の2.5%(現行5%)
20%未満令和4年度の固定資産税評価額の20%相当額

注1:負担水準とは、前年度の課税標準額÷当年度の固定資産税評価額の数値

3.非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予特例制度の延長
特例承継計画の提出期限が現行は2023年3月末までとなっていますが、1年延長して2024年3月末までとなります。

 現行 改正
特例承継計画の提出期限2023年(令和5年)3⽉31⽇2024年(令和6年)3⽉31⽇
特例制度の適⽤期限2027年(令和9年)12⽉31⽇

4.居住用家屋の所有権保存登記に対する登録免許税の軽減措置等の延長
2022年(令和4年)3月31日までとされていた住宅等に対する登録免許税の軽減措置について、2024年3月31日までの2年適用期限が延長されます。

5.相続税に係る死亡届の情報等の通知義務の見直し
(1)市町村長は、死亡届出を受理したときに死亡者が所有していた土地又は家屋の固定資産課税台帳上の登録事項等を、当該受理日の翌月末日までに所轄税務署長に通知義務があります。
(2)法務大臣は、死亡等の届出書情報を受けたときにその死亡者の戸籍等の副本情報を、当該情報受理日の翌月末日までに国税庁長官に通知義務があります。
この改正適用は、戸籍法の一部改正の施行日以後からとなります。

6.その他
話題になっていました「相続税と贈与税の一体化」については、今回の改正では織り込まれていませんでしたが、引続き検討項目として、税制改正は早くても令和5年4月以降になるかと思われます。

以上

消費税の改正
1.適格請求書等保存方式(インボイス制度)に係る見直し
(1)免税事業者の課税期間の中途における適格請求書発行事業者への登録時期の緩和
免税事業者が、2023年(令和 5年)10 月1日から2029年(令和11年) 9 月30日までの日の属する課税期間中に適格請求書発行事業者の登録を受ける場合には、2023年(令和 5年)10 月1日の属する課税期間を除き、 課税期間の中途から登録を受けることはできませんでしたが、改正後は免税事業者であっても任意のタイミングで適格請求書発行事業者の登録を受けられるようになります。
課税期間の中途における登録の可否

現行改正
原則不可(課税事業者選択届出書を提出し翌課税期間から登録 (注1))令和5年10月1日から 令和11年9月30日 の属する課税期間 (下記除く)可能
経過措置 (令和5年10月1日 の属する課税期間)可能経過措置 (令和5年10月1日 の属する課税期間)可能

注1:課税事業者となる課税期間の初日の前日から起算して1月前の日までに登録申請書の提出が必要

(2)事業者免税点制度の不適用
上記(1)の適用を受けて免税事業者が適格請求書発行事業者になった事業者は、その登録日の属する課税期間の翌課税期間から、その登録日以後2年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間については、事業者免税点制度を適用できなくなります(2年間は課税事業者が強制される措置)。

2.適格請求書等保存方式(インボイス制度)における仕入税額控除の見直し
(1)仕入明細書等による仕入税額控除は、その課税仕入が.他の事業者が行う課税資産の譲渡等に該当する場合に限り、行うことができることになります。
(2)区分記載請求書の記載事項に係る電子データの提供を受けた場合、適格請求書発行事業者以外からの課税仕入の税額控除に関する経過措置の適用を受けることができることになります。
(3)適格請求書発行事業者以外からの課税仕入の税額控除に関する経過措置の適用の対象となる棚卸資産については、その棚卸資産の消費税額の全部を納税義務の免除を受けないこととなった場合、その消費税額を調整措置の対象となります。
これらの改正の適用時期は、令和5年10月1日以後に行う資産譲渡及び課税仕入に適用となります。

3.納税地の変更・異動に関する届出書(個人消費税)
納税地が変更・異動した場合には、従前の税務署長に届出書を提出する必要がありましたが、令和5年1月1日以後については届出書の提出が不要となります。

以上

2021年12月30日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

改正電子帳簿保存制度の概要

2022年(令和4年)1月1日より改正電子帳簿保存法(電帳法)の適用開始となる予定でしたが、2022年度税制改正大綱で2年間の適用猶予期間(2023年12月31日まで)が設定されています。この適用延期は保存義務者の準備不足状況から、所轄税務署長が電子データを保存要件に従って保存をすることが出来ないことについてやむを得ない事情があると認め、かつ、税務署からの質問検査権に基づき電子データの出力書面(整然とした形式及び明瞭な状態で出力可能でなければならない)の提示又は提出の求めに応じることができる場合には、当該猶予期間では既存の保存方法で良いということになります(税務署に申請等の手続きは不要)。

この電帳法による電子データ保存の3分類の内の「電子取引」に係るデータ保存制度では、電子で取引した際の電子データは所定の保存要件に基づいて保存しなければならないという保存義務が課されています。その大きな改正点は、電子取引に該当する場合には、これまでの電子データを紙に出力して保存することが認められなくなり、保存要件に従って電子データそのものを保存しなければならなくなっています。
以下、3分類別に電子データの保存要件の概要となります。

1.電子データ保存義務の対象となる電子取引及び取引情報
(1)電子取引
電子取引とは、通信手段を問わず「取引情報」の受け渡しを電子データ(電磁的記録)により行う取引をいいます。以下は電子取引にあたり、書類等の受け渡しが電子データで行うものが含まれます。
① EDI 取引
② インターネット等による取引(クラウドサービスの利用等も含む)
③ 電子メールによる取引情報の受け渡し取引(添付ファイルも含む)
④ インターネット上のサイトで受け渡し取引
注:EDIとは「Electronic Data Interchange」の略称で、日本語では「電子データ交換」を意味します。企業間の商取引で発生する契約書や受発注書、納品書、請求書等といった帳票のやり取りを、専用回線やインターネットを用いて電子的に交換ができるシステム(企業間でやり取りする仕組)のことです。
更に、具体例として、
* 電子メールにより受領した請求書や領収書等のデータ(PDFファイル等)
* インターネットのホームページからダウンロード・スクリンショットした請求書や領収書等のデータ
* 電子請求書や電子領収書の授受に係るクラウドサービスを利用
* クレジットカードの利用明細データ、交通系ICカードによる支払データ、 スマートフォンアプリによる決済データ等を活用したクラウドサービスを利用
* 特定の取引に係るEDIシステムを利用
* ペーパレス化されたFAX機能を持つ複合機を利用
* 請求書や領収書等のデータをDVD等の記録媒体を介して受領
等があります。
(2)取引情報
取引情報とは、取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項(取引先・取引日・取引金額等の事項)となります。従って、この様な取引情報が含まれていない電子データの保存義務はありません。

2.電子取引で受け渡しのデータにおける所得税・法人税法と消費税法の違い
(1)所得税(源泉所得税を除く)・法人税法
2022年1月1日以後は授受した電子データを書面等に出力(紙出力)して保存することはできません(記帳管理上、書面等を紙で出力保管することは全く問題ありません)。 全ての電子取引の情報は、電帳法に定められる要件を満たした上で、電子データを保存しなければなりません。 もし、同日以後に行う電子取引の取引情報を書面のみで保存していた場合、青色申告の承認の取消対象となる可能性もあるため注意が必要です(取消等は説明、資料、情報等を総合勘案されますが、書面で取引内容の確認ができ、かつ、申告内容が正しく、書面保存以外の特段の事由がないような場合には、青色申告の取消や費用の経費性が認められないことにはならないとのことです)。
(2)消費税法
電子データを書面等に出力しての保存が可能です。2023年10月から始まるインボイス制度導入後も、書面の保存でも仕入税額控除の適用が受けられます。

3.電子データの保存分類
電子データの保存には、書類・帳簿の内容別に「電子帳簿等保存」、「スキャナ保存」、「電子取引に係るデータ保存」の3種類に分かれています。その種類別に電子データ保存の要件が定められています。重要なことは、電子帳簿等保存とスキャナ保存については企業の任意選択(紙の保存又は電子データの保存の選択でよく、電子データで保存する場合には、所定の保存方法に遵守する必要があるということになります)ですが、電子取引に係るデータ保存内容(紙の出力保存のみでは不可)については、該当する電子データを授受する全ての企業に適用される点が挙げられます。
下記は、対象となる帳簿・書類の内容別に保存方法が3分類されている表です。

(1)電子帳簿等保存とは(自己が最初の記録段階から一貫してデータで作成している場合)

電子帳簿保存法(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿及び書類の保存方法等の特例に関する法律)の概要は次のとおりです。

国税関係帳簿及び書類のうち電子計算機(コンピュータ)を使用して作成している国税関係帳簿及び書類については、一定の要件の下で、電磁的記録等(電磁的記録又は電子計算機出力マイクロフィルム(COM))による保存等(国税関係帳簿の場合には備付け及び保存をいいます)が認められます。 なお、手書きで作成された国税関係帳簿については、原本の書面で保存することになります。

電帳法は、納税者の国税関係帳簿及び書類の保存に係る負担の軽減等を図るために、 その電磁的記録等による保存等を容認しようとするものですが、納税者における国税関係帳簿及び書類の保存という行為が申告納税制度の基礎をなすものであることに鑑み、適正公平な課税の確保に必要な一定の要件に従った形で、電磁的記録等の保存等を行うことが条件とされています。 また、所得税法及び法人税法では、取引に関して相手方から受け取った注文書、領収書等や相手方に交付したこれらの書類の写しの保存義務が定められていますが、同様の取引情報を電子取引により授受した場合には、この注文書、領収書等の原始記録の保存が行われない結果となりかねない状況にあったため、電帳法において、新たに電子取引により授受した取引情報として保存義務が設けられています(後述参照)。

市販の会計ソフトを使って経理処理や申告書の作成等を行っている場合には、国税関係帳簿及び書類の電磁的記録等による保存等は認められるかは、市販の会計ソフトを使用して、見読可能装置(ディスプレイ等)やシステムの開発関係書類(システムの概要書等)の備付け等の法令で定められた要件を満たしている場合には、紙による保存等に代えて、電磁的記録等による保存等を行うことが認められます。しかしながら、 この法令で定められた要件を満たせない場合には、会計ソフトを使用して作成した帳簿書類について電磁的記録等による保存等は認められないことから、紙出力して保存等を行うことになります。

なお、優良な電子帳簿の保存要件を満たすことで、過少申告課税の軽減措置(税務署長の事前届出による要承認)と所得税の青色申告特別控除(65万円)の適用を受けることが出来ます。

  • 検索機能の確保の3要件(検索要件の充足方法の原則)

条件① 日付、金額、取引先の 3つの項目で検索ができること。

条件② 日付、金額は範囲を指定して検索ができること。

条件③ 二つ以上の任意の記録項目を組み合わせて、 検索条件を設定できること。 AND検索でOK、OR検索までは求められない。

検索要件の充足方法の例外:

保存の電子データについて、税務職員による質問検査権に基づくダウンロードの求めに全てについて応じられる場合、その条件②及び条件③の要件は不要となります。

  • 制度の対象となる帳簿保存要件

訂正削除履歴が残らない帳簿であっても、次の全要件を満たせば電子データ保存が可能です。

① モニター・説明書等を備え付けていること。

② 税務職員による質問検査権に基づくダウンロードの求めに応じることが出来ること。

(2)スキャナ保存とは( 取引先から受領した領収書や請求書、自己で作成した控え等の書類をスキャナで読み取る場合)

スキャナ保存制度は、取引の相手先から受け取った請求書等及び自己が作成したこれらの写し等の国税関係書類(決算関係書類を除きます。)について、書面による保存に代えて、一定の要件の下で、スキャン文書による保存が認められる制度です。

「スキャナ」とは、書面(紙)の国税関係書類を電磁的記録に変換する入力装置をいい、 いわゆる「スキャナ」や「複合機」として販売されている機器が該当することになります。 また、例えば、スマートフォンやデジタルカメラ等についても、上記の入力装置に該当すれば、「スキャナ」に含まれることになります。

① スキャナ保存の対象書類

スキャナ保存の対象書類とは、国税に関する法律の規定により保存をしなければならないこととされている書類(国税関係書類)のうち、規則第2条第4項に規定する書類を除く全ての書類が対象となります。規則第2条第4項に規定する書類とは、具体的には棚卸表、貸借対照表及び損益計算書などの計算、整理又は決算関係書類であり、これ以外の国税関係書類がスキャナ保存の対象となります。 なお、売上伝票などの伝票類は、所得税法施行規則第63条第1項及び法人税法施行規則第 59条第1項等に規定する保存すべき書類には当たらないことから、法第2条第2号(定義)に 規定する国税関係書類に該当しないので、スキャナ保存の適用はありません。

② スキャナ保存の要件

主なスキャナ保存の要件は以下の通りです。

  • 入力期限

速やかに(7営業日以内)タイムスタンプを付す。なお、取引情報の授受から当該記録事項にタイムスタンプを付すまでの事務処理規程を定めている場合は、事務処理の経過後速やかに付す(2ヶ月+7営業日以内)。

  • タイムスタンプ付与

入力期間内に、(一財)日本データ通信協会が認定するタイムスタンプを入力単位ごとの電磁的記録の記録事項を付す。なお、入力期間内に、別途記録事項を入力したことを客観的に確認出来る場合には、このタイムスタンプの付与要件に代えることが出来ます。

  • 検索機能の確保の3要件(検索要件の充足方法の原則)

条件① 日付、金額、取引先の 3つの項目で検索ができること。

条件② 日付、金額は範囲を指定して検索ができること。

条件③ 二つ以上の任意の記録項目を組み合わせて、 検索条件を設定できること。 AND検索でOK、OR検索までは求められない。

検索要件の充足方法の例外:

保存の電子データについて、税務職員による質問検査権に基づくダウンロードの求めに全てについて応じられる場合、その条件②及び条件③の要件は不要となります。

(3)電子取引に係るデータ保存とは(見積書、契約書、請求書、領収書等の送付・受領を電子データで行った場合)

上記1に記述しました様に、電子取引制度は、所得税(源泉徴収に係る所得税を除きます) 及び法人税の保存義務者が取引情報(注文書、領収書等に通常記載される事項)を電磁的方式により授受する取引(電子取引)を行った場合には、その取引情報を一定の要件の下で電磁的記録により保存しなければならないという制度です。  所得税法及び法人税法では、取引に関して相手方から受け取った注文書、領収書等や相手方に交付したこれらの書類の写しの保存義務が定められていますが、同様の取引情報を電子取引により授受した場合には、この注文書、領収書等の原始記録の保存が行われない結果となりかねない状況にあったため、電帳法において、新たに電子取引により授受した場合には、その取引情報に係る電磁的記録を一定の方法により保存しなければならないこととされています。

  • 電子取引(電子メール)の受信時の保存方法

電子メールにより取引情報を授受する取引(添付ファイルによる場合を含みます。)を行った場合についても電子取引に該当するため、その取引情報に係る電子データ(電磁的記録)の保存が必要となります。具体的に、この電子データの保存とは、電子メール本文に取引情報が記載されている場合は当該電子メールを、電子メールの添付ファイルにより取引情報(領収書等)が授受された場合は当該添付ファイルを、それぞれ、ハードディスク、コンパクト ディスク、DVD、磁気テープ、クラウド(ストレージ)サービス等に記録・保存する状態にすることをいいます。

4.電子取引における改ざん防止措置として取引情報の真実性や可視性を確保するための保存要件(電子取引に係るデータの保存要件)

電子取引に係るデータは書面での保存が不可となるため、真実性や可視性を確保が重要になります。 電子データの必須的保存要件は以下の3要件になります。

(1)電子計算機処理システムの概要を記載した書類の備付け(自社開発のプログラムを使用する場合)

システムの概要を記載した書類を備え付ける(例:システム基本設計書、システム概要書など)。 画面や書面に速やかに出力できるようになっていれば、 オンラインのマニュアルやヘルプ機能で代えることも可。

(2)見読可能装置(ディスプレイ・プリンター)の備付け

保存しているデータを速やかに出力できるよう、PCとディスプレイを備え付ける(モニターのサイズや台数には要件なし)。

(3)検索機能の確保の3要件(検索要件の充足方法の原則)

条件① 日付、金額、取引先の 3つの項目で検索ができること。

条件② 日付、金額は範囲を指定して検索ができること。

条件③ 二つ以上の任意の記録項目を組み合わせて、 検索条件を設定できること。 AND検索でOK、OR検索までは求められない。

(3)―1 検索要件の充足方法の例外

例外1 保存の電子データについて、税務職員による質問検査権に基づくダウンロードの求めに全てについて応じられる場合、その条件②及び条件③の要件は不要となります。
例外2 電子帳簿保存に対応した専用システムを導入しておらず、一般的なパソコンやプリンターを使用している場合でも、以下のいずれかの方法でも検索要件を満たすことで保存要件を満たしたことになります。

① 取引情報のデータを規則的なファイル名により入力しておく方法。

ダウンロード可能な状態にして特定フォルダにファイル名で検索機能を活用する(税務職員の求めに応じて一括ダウンロードできるようにしておき、ファイル名に日付・金額・取引先を入れる)。
② エクセル等の表計算ソフトで索引簿を作成する方法。

範囲指定、および2以上の任意の記録項目を組み合わせて検索できる機能が備わっているエクセル等の表計算ソフトに、取引データに係る取引年月日、取引金額、取引先の情報を入力して一覧表を作成する。

例外3 以下の全てを満たす場合には、検索要件充足は不要(免除)となります。

① 税務調査の際、税務職員からダウンロードを求められたらデータ提出の求めに応じられる場合

② 個人事業主の場合は2年前、法人の場合は前々年度の売上が 1,000万円以下の場合

 

、選択的保存要件として、次の①から④のいずれかの保存上の措置が必要です。
① タイムスタンプが付された後の取引情報の授受。

② 速やかに(7営業日以内)タイムスタンプを付す。

取引情報の授受から当該記録事項にタイムスタンプを付すまでの事務処理規程を定めている場合は、事務処理の経過後(最長2ヶ月以内)、速やか(おおむね7営業日以内)に付す。(2ヶ月+7営業日以内)

③ データの訂正削除を行った場合、その記録が残るシステム又は訂正削除ができないシステムを利用する。

④ 正当な理由がない訂正削除の防止に関する事務処理規程を備え付ける。

一般的な事業者は、この④の対応となるかと思いますが、事務処理規程の例示は、国税庁から「電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程」として公表されていますので参考にすることができます。

最後に、国税庁HPに電子帳簿保存法Q&A(一問一答)により詳細説明がありますので必要に応じて参照してください。

2021年12月26日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

法定調書: 申告書提出期限1月末

1. 法定調書とは

12月の最終給与支給までに、 従業員の年末調整が行なわれ一区切りついたと思っても、 翌1月末までに提出、申告等の対応が必要となるものがあります。  その1つに法定調書作成がありますが、 これは、所得税法、相続税法等の法律の規定により、給与、報酬、家賃等の支払者(提出義務者)が、それらの1年間の支払いに関して、支払先の氏名、住所、支払金額等を記載し所轄税務署に提出が義務付けられている書類(全部で60種類ほど)です。この主目的は、税務署が適正な課税の確保を図ることを目的に支払事実を把握し、受給者が正しく所得を申告していることの確認手段になるものです。 提出すべき法定調書は、 特定項目の一定金額以上のものですが、 源泉徴収の対象になるものとは限っておりませんので留意してください。

なお、 2016年度分より行政機関への提出にあたり、 マイナンバー(個人番号、等)が必要となっています。

2. 提出する一般的な6種類の法定調書と支払内容

法定調書と支払内容支 払 内 容
給与所得の源泉徴収票と給与支払報告書(注2)俸給、給料、賞与等の支払
退職所得の源泉徴収票と特別徴収票(注2)退職手当(注1)、一時恩給等の支払
報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書① 原稿料、印税、講演料、工業所有権の使用料等の支払
② 弁護士、司法書士、税理士、弁理士、社会保険労務士、建築士等への報酬、料金の支払
③ 外交員、集金人、電力量計の検針人、モデル、プロ野球の選手、プロボクサー、騎手等への報酬、料金、契約金の支払、芸能人への出演料等の支払
④ バー、キャバレー等のホステス、コンパニオン等への報酬、料金の支払
⑤ 広告宣伝のための賞金、馬主への競馬の賞金の支払
不動産の使用料等の支払調書地代、家賃、権利金、礼金、更新料、承諾料、名義書換料等の支払
不動産等の譲受の対価の支払調書土地、建物等の譲受け(売買、交換、収用等)の代金の支払
不動産等の売買又は貸付のあっせん手数料の支払調書土地、建物等の売買や貸付の仲介手数料の支払

注1:死亡退職による退職手当等の場合には、相続税法による「退職手当等受給者別支払調書」を提出することになります。

注2:地方税法で提出が義務付けられています「給与支払報告書」及び「特別徴収票」は、

名称が異なりだけで、それぞれ「給与所得の源泉徴収票」及び「退職所得の源泉徴収票」と記載内容は同じものです。

3. 提出範囲

支払調書は、一定金額以上のもの等(支払金額の提出範囲)に該当するときに提出が必要となります。主な提出範囲は次のとおりです。

(1) 給与所得の源泉徴収票

年末調整受給者区分提出範囲(年間)
年末調整をしたもの法人役員(相談役、顧問など含む)150万円超
弁護士、公認会計士、 税理士等250万円超
上記以外の人(従業員)500万円超
年末調整をしなかったもの給与収入2,000万円超全部
「扶養控除等申告書」を提出した者のうち退職した者等250万円超(法人役員は50万円超)
「扶養控除等申告書」を提出しなかった者50万円超

(2)報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書
所得税法第204条第1項各号並びに所得税法第174条第10号及び租税特別措置法第41条の20の規定に基づく報酬 料金等の支払

区 分提出範囲
* 外交員、集金人、検針人、プロボクサー、ホステス等の報酬、料金
* 広告宣伝のための賞金
* 社会保険診療報酬支払基金からの診療報酬
年間50万円超
馬主に支払う競馬の賞金1回75万円超
プロ野球選手等の報酬及び契約金
弁護士、税理士等の報酬
作家、画家などの原稿料、画料
講演料、 その他の報酬、 料金等
年間5万円超

(3)その他の法定調書

法定調書提出範囲
退職所得の源泉徴収票法人役員が受給者であるもの
不動産の使用料等の支払調書
注:不動産、 不動産の上に存する権利、 総トン20トン以上の船舶、 航空機に対する対価を受領する法人と不動産業の個人の方が提出義務者となります。
年間15万円超
但し、不動産業である個人で、主として建物の賃貸借の代理や仲介を目的とする事業の方は提出義務はありません。
又、法人に対し賃借料のみを支払っている場合にはその支払調書の提出は不要ですが、支払が権利金、更新料等は提出が必要となります。
不動産管理会社を通じて、オーナーが個人の場合には、個人に支払う使用料等として提出となります。
不動産等の譲受の対価の支払調書年間100万円超
但し、不動産業である個人で、主として建物の賃貸借の代理や仲介を目的とする事業の方は提出義務はありません。
不動産等の仲介料の支払調書年間15万円超
但し、不動産業である個人で、主として建物の賃貸借の代理や仲介を目的とする事業の方は提出義務はありません。
公的年金等の源泉徴収票「扶養控除等申請書」を
提出した者:60万円超
提出しなかった者:30万円超
配当等の支払調書10万円超(中間配当がある場合は5万円超)
生命保険契約等の一時金の支払調書100万円超
損害保険契約等の満期返戻金等の支払調書100万円超
株式等の譲渡対価の支払調書同一人に対し100万円超
1回30万円超
国外送金等調書1回100万円超

4.提出先と提出期限
法定調書の提出期限は、原則として、その年の翌年の1月31日までとなっており、所轄税務署に提出することになります。税務署に提出する場合には、法定調書の合計表(給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表)と各法定調書(提出範囲のもの)を提出します。

支払金額に関係なく受給者(個人・法人)の全員にも、 翌年の1月31日まで帳票が送付され(法的には送付は強制されていませんが、通常は送付しています)、 個人では確定申告の作成資料等に使用、 又、 法人では受給金額・内容との照合等に使用することができます。

法定調書の提出方法に関して、基準年(前々年)の提出枚数が1,000枚以上(なお、令和3年1月1日以後の提出分から、100枚以上)であった法定調書の場合には、光ディスク等又はe-Taxによる提出が義務付けられています。

5.給与所得の源泉徴収票 (給与支払報告書)
サラリーマンの方にはお馴染みの給与所得の源泉徴収票は、 その年の給与所得に関する年末調整後(給与収入が2千万円超の方等は除く)の源泉徴収税額や税額計算情報が集約され記載されています帳票です。 税務署には、 一定金額以上の給与収入の「源泉徴収票」が提出され、 又、 同一内容ですが様式名が異なる給与支払報告書が個人の居住する市区町村に金額の制限なく全てが提出されます。
「給与支払報告書」(総括表を添える)提出先は、受給者(全員分)のその年の翌年の1月1日現在の住所地の市区町村となり、 提出期限は翌年の1月31日までとなっています(個人の居住する市区町村に金額の制限なく全てが提出されます)。
年度の途中で退職した者に対する給与支払報告書は、 支払額が30万円以下の場合には提出を省略することができます。 退職金の「特別徴収票」の提出先は、 受給者の退職日現在の住所地の市区町村となっており、 退職後1ケ月以内の提出となります。 市区町村では、 提出された資料から住民税の税額計算をおこない、 翌年6月から徴収を開始し1年間で納付が完了となります。

2021年12月5日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

令和3年度(2021年度)年末調整における主な改正・変更ポイント

年末調整に時期が近づいてきましたが、令和3年度に新たに影響する特別は税制改正事項がありませんが、前年度(令和2年度)には多くの改正事項がありましたので、再度、その主な内容を確認しておきたいと思います。
A. 令和2年度より主な改正事項
① 給与所得控除・公的年金等控除の減額から基礎控除の増額への振替
② 給与所得控除の見直し(減額)
③ 公的年金等控除の見直し(減額)
④ 基礎控除の見直し(増額)

1.給与所得控除の見直し
イ 給与所得控除額を一律10万円引下げ
ロ 給与所得控除額の上限が、給与等の収入金額850万円で195万円に引下げ

給与等の収入金額給与所得控除額
令和元年度令和2年度以降
162.5万円以下65万円55万円
162.5万円超 ~ 180万円以下収入金額X40%収入金額X 40%-10万円
180万円超 ~ 360万円以下収入金額X 30%+18万円収入金額X 30%+8万円
360万円超 ~ 660万円以下収入金額X 20%+54万円収入金額X 20%+44万円
660万円超 ~850万円以下収入金額X10%+120万円収入金額X10%+110万円
850万円超 ~ 1,000万円以下195万円(上限)
1,000万円超220万円(上限)

2.公的年金等控除の見直し
イ 公的年金等控除額を一律10万円引下げ
ロ 公的年金等の収入金額1千万円超における公的年金等控除額の上限が1,955千円
ハ 公的年金等の雑所得以外の合計所得金額に対する公的年金等控除額の引下げ

公的年金等の雑所得以外の合計所得金額 公的年金等控除額の引下金額
1千万円以下無し
1千万円超~2千万円以下一律、10万円引下げ
2千万円超一律、20万円引下げ

3.基礎控除額の見直し
イ 基礎控除額を一律10万円引上げ
ロ 合計所得金額が2,400万円超から逓減

合計所得金額(注)基礎控除額
令和元年度令和2年度以降
所得税住民税所得割所得税住民税所得割
2,400万円以下38万円33万円48万円43万円
2,400万円超~2,450万円以下32万円29万円
2,450万円超~2,500万円以下16万円15万円
2,500万円超

注:年末調整において、基礎控除の適用を受ける場合に見積額を基礎控除申告書で申告する。
地方税においては、前年の合計所得金額で判定する。

4.所得金額調整控除
以下のいずれかの要件に該当する場合(子育て世帯や介護世帯)には、負担増とならないように一定額を給与所得から控除します(控除額の緩和で夫婦双方での適用可)。
(1)給与等の収入金額が850万円超の居住者の中で、
① 特別障害者である者
② 年齢23歳未満の扶養親族を有する者
③ 特別障害者である同一生計配偶者又は扶養親族を有する者
給与所得から控除額(所得金額調整控除額) ={給与等の収入金額(上限1千万円)- 850万円}X 10%
給与等の収入金額が1千万円以上の場合には、所得金額調整控除額は15万円(最高)。
(2)給与所得控除後の給与等の金額及び公的年金等に係る雑所得の金額とがある居住者で、その合計額が10万円超の場合には、
給与所得から控除額(所得金額調整控除額)={給与所得控除後の給与等の金額(上限10万円)+ 公的年金等に係る雑所得の金額(上限10万円)}- 10万円
給与所得の金額 = 給与等の収入金額 − 給与所得控除額 − 所得金額調整控除額(最高10万円)
注:公的年金等に係る確定申告不要制度において、当所得金額調整控除を給与所得の金額から控除するものとする。

5.各種合計所得金額要件の見直し

項目 令和元年度令和2年度以降
同一生計配偶者及び扶養親族の合計所得金額要件38万円以下48万円以下
源泉控除対象配偶者の合計所得金額要件85万円以下95万円以下
配偶者特別控除の対象となる配偶者の合計所得金額要件38万円超~123万円以下48万円超~133万円以下とし、配偶者の合計所得金額の区分を、それぞれ10万円引下げる
勤労学生の合計所得金額要件65万円以下75万円以下

B. 所得控除額の確認
所得の合計額から控除できるもの(所得控除)には、次の15種類があります。
(1) 人的控除
① 基礎控除:全ての人が基本48万円の控除(所得制限あり)
  ② 扶養控除:扶養親族がいる場合には一定額の控除
  ③ 配偶者控除:控除対象配偶者がいる場合には一定額の控除
  ④ 配偶者特別控除:1,000万円以下の合計所得金額である人が生計を一にする配偶者がいる場合には一定額の控除(上記の③の控除と重複できない)
  ⑤ 勤労学生控除:本人が勤労学生である場合には27万円の控除
  ⑥ ひとり親控除:一定の要件を満たす場合には35万円の控除
  ⑦ 寡婦控除:一定の要件を満たす場合には27万円の控除
  ⑧ 障害者控除:本人、控除対象配偶者、扶養親族が障害者である場合には、それぞれに一定額の控除

(2) 物的控除
  ⑨ 寄付金控除:本人が特定の寄付金を支出した場合には一定額の控除
  ⑩ 生命保険料控除:生命保険料を支払った場合には、一般、 介護と個人年金とに区分して一定額の控除
  ⑪ 地震保険料控除:常時住んでいる家屋や家財等の地震保険料を支払った場合に   は一定額の控除
  ⑫ 小規模企業共済等掛金控除:当掛金を支払った場合には全額の控除
  ⑬ 社会保険料控除:1年間に支払った保険料は全額の控除
  ⑭ 医療費控除:本人や同一生計の親族の医療費を支払った場合には一定額の控除
  ⑮ 雑損控除:資産が災害、盗難などにより損害を受けた場合には、損失額が
    一定額を超えた分の控除
人的控除を一覧にすると以下のようになります。

人的控除項目対象者控除額本人の所得要件等
基礎控除 本人48万円合計所得金額24百万円以下。超える場合には、段階的に控除額減額(25百万円超でゼロ円)
扶養控除生計を一にし、 かつ、 年間所得が48万円以下である親族等(扶養親族)を有する者(事業専従者は除く)
年少扶養親族年齢が16歳未満
(所得税上は控除金額はありませんが、 住民税上では控除対象となりますので、 申告書上の住民税に関する事項の所に扶養者名等の記載をお忘れなく)
0万円
一般扶養親族年齢が16歳以上19歳未満又は23歳以上の70歳未満 38万円非居住者の場合には、原則、30歳以上70歳未満を除く
特定扶養親族年齢が19歳以上23歳未満63万円
老人扶養親族 年齢が70歳以上(非同居)48万円
(同居老親等加算) 直系尊属であり同居を常況 + 10万円
配偶者控除(注1)生計を一にし、 かつ、 年間所得が48万円以下である配偶者を有する者(事業専従者は除く)
(一般控除対象) 年齢が70歳未満 38万円
(老人控除対象)年齢が70歳以上48万円
配偶者特別控除
(注1)
生計を一にする年間所得が48万円を超え133万円未満である配偶者(事業専従者は除く) 最高38万円(年間所得に応じて)年間所得1,000万円以下
勤労学生控除 本人が学校教育法に規定する学校の学生、 生徒等27万円年間所得75万円以下かつ給与所得以外が10万円以下
寡婦控除
(ひとり親に該当しない方)
夫と離婚した者、 扶養親族(子以外:子を有する場合にはひとり親控除の適用)を有する者かつ住民票に夫(未婚)・妻(未婚)記載なし
又は、扶養親族無しで夫と死別した者又は生死不明である者かつ住民票に夫(未婚)・妻(未婚)記載なし
27万円年間所得500万円以下(給与収入678万円以下)
ひとり親控除①未婚(離婚後、死別後を含む、及び生死不明な配偶者がいる方も含む)のひとり親であり、②生計を一にする子の総所得金額等の金額が48万円以下であること
③未婚のひとり親が入籍しない事実婚の世帯であっても住民票に事実婚の旨「夫(未婚)・妻(未婚)」を登録記載されていないこと
35万円年間所得500万円以下(給与収入678万円以下)
障害者控除障害者である者
障害者である同一生計配偶者又は扶養親族者
27万円
(特別障害者)特別障害者である者
特別障害者である同一生計配偶者又は扶養親族者
40万円
(同居特別障害者)特別障害者である同一生計配偶者又は扶養親族と同居を常況としている者75万円

普通障害者・特別障害者の区分例:

障害の内容普通障害者特別障害者
精神に障害がある方で精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている方右の等級以外の方精神障害者保健福祉手帳の障害の等級が1級の方
身体上の障害がある方で身体障害者手帳の交付を受けている方障害の程度が3級から6級の方障害の程度が1級又は2級の方

注1:配偶者控除及び配偶者特別控除の見直し
配偶者の合計所得金額が48万円以下(給与収入では103万円以下)の場合に配偶者控除38万円(老人控除対象配偶者48万円)、 並びに配偶者控除は世帯主の年収に応じて縮小され、配偶者特別控除は配偶者の年収要件を103万円から150万円に引上げ、 かつ配隅者及び世帯主の年収に応じて控除額が以下の様に9段階で縮小となります。

配偶者控除等に関する源泉徴収及び確定申告における見直し
(1)給与等又は公的年金等の源泉徴収における源泉控除対象配偶者に係る控除適用は、夫婦いずれか一方しか適用できません。
(2)居住者の配偶者が、公的年金等の源泉徴収において源泉控除対象配偶者の適用を受け、かつ、公的年金等に係る確定申告不要制度を受ける場合には、その居住者は確定申告において配偶者特別控除の適用を受けることはできません。

C. 給与所得者の年末調整
1. 年末調整とは
会社等の給与支払者(源泉徴収義務者)は、給与等の支払時に所定の源泉所得税を徴収しています。この源泉所得税は事前の条件下での計算に基づくものであり、一種の仮計算による前払税金ですので、この仮計算を最終条件に基づいての再計算(年税額を確定する手続)が年末調整です。具体的には、給与支払者は暦年(1月~12月)の総給与額に対して12月の最終給与支払日に最終条件に基づいて再計算し、徴収していた総源泉所得税の過不足を調整(精算)します。
通常のサラリーマンは、事業者が行うこの年末調整で給与収入の納税手続きは完了(事務処理・対応の緩和)となり、個人が行う確定申告は不要となりますので、税制度の内容に触れることが少ないことから税知識の理解不足に繋がっている感があります。

2. 年末調整の対象者又は非対象者
年末調整の対象者は、 原則として会社に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している人は全員含まれます。 但し、 給与収入額が2千万円を超える人は年末調整を行ないませんので自身の所得税確定申告を通じて年税額の精算をしなければなりません。 通常、 1カ所から給与支給を受けている人は、 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出し年末調整を受けることになります。

次の人は年末調整の対象者にはなりません。
(1) 年中の給与収入額が2千万円を超える人
(2) 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していない人(年末調整を行うことができませんが、 支払の際の源泉徴収においては乙欄の税額表が適用となっています)
(3) 年中に退職(死亡退職した人、 非居住者として国外勤務者となった人、 等を除く)した人
(4) 国内に住所も1年以上の居所を有していない人(非居住者)
(5) 災害免除法の規定により源泉徴収について徴収猶予や還付を受けた人
(6) 日雇労働者等(丙欄の税額表適用者)

この様に一般のサラリーマンの方は、この年末調整を給与支払者から受けることで、その年の所得税は確定しますので、原則として確定申告は必要ありません。年末調整の対象外の方や、年末調整の一部処理洩等の方は、通常、その年の翌年の2月15日から3月15日の間に確定申告を行います。

3. 年末調整のスケジュール
一般的な年末調整のスケジュール(流れ)は、以下のようになります。

11月上旬必要書類の準備および従業員への事前案内
中旬従業員への年末調整用の提出書類の案内  注1
下旬年末調整用書類の回収
12月上旬回収書類のチェック
中旬年末調整計算
下旬給与支給(年末調整の還付又は追徴)
翌年1月10日期限徴収税額の納付
20日期限徴収税額の納付(特例適用の場合)
31日期限源泉徴収票の交付(従業員)法定調書合計表の
提出(税務署)注2
給与支払報告書の
提出(市区町村)注3

注1:扶養控除等/保険料控除申告書の書類や証明書の提出を依頼します。 この時に、次年度分の扶養控除等申告書の作成・提出も併せて依頼すると良いでしょう。
注2:合計表と共に法定調書提出の対象となる一定の役員等の源泉徴収票(1枚)も提出します。
注3:給与支払報告書とは、源泉徴収票と同じ書式であり、2枚と一定の事項を記載した総括表(表紙)も提出します。

上述の様に11月となりますと給与支払者(会社)は、 年末調整の準備・対応が始まり、 勤務者(従業員)は年末調整の為に必要となる申告書や証明書類等を所定の期限までに給与支払者に提出することが求められます。 給与支払者は、 勤務者から回収した年末調整用の書類の内容を確認しその最終情報に基づいて、 暦年における最終給与支払い時(通常、 12月給与)に納めるべき年間の所得税(年税額)を算出し、 これまでの支給時に源泉徴収された税額と比べその過不足額を精算(徴収又は還付)します。 一般的には、 年末調整により還付されるケースが多いかと思います。

4. 年末調整での取扱項目
給与所得者の年末調整で取扱える項目と取扱えない項目の主なものは、次の通りです。

取 扱 項 目   非取扱項目(要確定申告)
社会保険料控除(生計を一にする親族等の負担分)雑損控除
小規模企業共済等掛金控除医療費控除
生命保険料控除寄付金控除
地震保険料控除 住宅借入金等特別控除(初年度)
配偶者控除、 又は配偶者特別控除その他各種特別控除
所得金額調整控除
住宅借入金等特別控除(2年目以降)
障害者控除
ひとり親控除
寡婦控除
中途入社の方は、前職の給与収入(源泉徴収票)
扶養家族等の控除情報更新(注)

注:年始にはその年の給与所得者の扶養控除等(異動)申告書が提出(原則として、 本年最初の給与の支払を受ける日の前日までに提出)されているため、その内容は毎月の給与計算に反映され、源泉所得税が給与収入から天引されています。 提出後に控除関連事項に異動が生じた場合には、 その都度異動申告を行うことになっています。

年末調整の為に提出が求められる申告書とその中に記載される控除項目は以下のとおりです。 当該控除項目以外に所得から控除可能な項目がある場合にはそれらの項目は確定申告で行うことになります。

申告書の名称控除項目
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書扶養控除、 障害者控除、 ひとり親控除、寡婦控除、 勤労学生控除
給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書基礎控除、
配偶者控除・配偶者特別控除、
所得金額調整控除
給与所得者の保険料控除申告書生命保険料控除(一般生命・介護医療・個人年金)、 地震保険料控除、 社会保険料控除(申告分)、 小規模企業共済等掛金控除(申告分)
給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書(特定増改築等)住宅借入金等特別控除(2年目から年末調整の対象で初年度は確定申告が必要)

注: マイナンバーの記載不要の特例制度
平成28年1月よりマイナンバー制度が導入されています。原則、マイナバーを記載すべき書類の提出を受ける際には、その都度(毎回)必ず、マイナバーカード等で本人確認する必要があります。但し、平成29年分以後の扶養控除等(異動)申告書等へのマイナンバーの記載不要の特例制度が創設され、その適用要件として、過去にマイナンバーの情報が提供されており、 一度その番号確認を実施した上で作成した帳簿(特定個人情報ファイル)を会社が備えているときには記載不要となりました。 これは、確認書類の提示を受けることが困難な場合を前提とされていますが、変更が無いことが口頭等で確認されていれば参照できることでよいかと思います。なお、本人確認のうち身元確認については、過去に一度確認を行っている場合、本人を対面で確認することで明らかに本人であると認識されたる場合には、身元確認書類の提示は不要となります。
マイナンバーの記載不要の特例制度が適用できない方には、以下の対応が必要となります。
「平成3年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出にあたり、 給与所得者本人、 源泉控除対象配偶者、 控除対象扶養親族等の個人番号を記載することになります。 提出にあたり、 給与支払者が給与所得者から個人番号の提供を受ける場合は、 本人確認として、 提供の番号が正しいことの確認(番号確認)と、 番号提供者が真にその番号の持ち主であることの確認(身元確認)を行う必要があります。 なお、 控除対象配偶者、 控除対象扶養親族等の本人確認は、 給与所得者(従業員)が行うことになっています。
平成28年1月以降の支払に係る給与所得の源泉徴収票には、 上記の個人番号を記載して税務署等の行政機関に提出することが必要となりますので、 「扶養控除等(異動)申告書」に必要なマイナンバーが記載されていない場合には、 源泉徴収票作成までにマイナンバーの提供を受ける必要があります。 なお、 給与所得者への源泉徴収票には、 個人番号は記載されません。

申告書記載上の主な注意点は以下のものがあります。
(イ) 12月31日時点の現況で記載
その年の12月31日現在の現況を見積もりで記載することになります。 見積記載の内容に修正が生じた場合(例えば、 扶養者数の増減、 等)には、 再年末調整(翌年の1月末までは可能)又は確定申告により適正な精算を行うことになります。

(ロ) 人的控除項目の判定基準に合計所得金額基準
控除項目の中(控除対象配偶者、 控除対象扶養控除、 配偶者特別控除等の人的控除項目)には、 その控除に該当するかの判定基準にその年度の合計所得金額となりますので留意してください。 多い誤りとしては、 配偶者の合計所得金額が控除対象金額を超えているケースです。
配偶者控除の場合の合計所得金額は、 48万円以下(給与収入額では103万円以下)でなければなりません。
配偶者特別控除の場合の合計所得金額は、 48万円超~133万円以下でなければなりません。
公的年金等の雑所得だけの方で控除対象扶養者(合計所得金額が48万円以下)になる場合には、 公的年金等の雑所得以外の合計所得金額が1千万円以下では、公的年金等の収入金額が158万円以下(年齢65歳未満の人は108万円以下)という条件を満たす人です。

「所得金額」として、 税法の規定のなかに「合計所得金額」、 「総所得金額」、 「総所得金額等」の3種類が適用判定基準の中に出てきますが、 それぞれ多少の違いがあります。
①合計所得金額、 ②総所得金額、 ③総所得金額等の定義
総所得金額とは、総合課税項目の所得合計であり、合計所得金額とは、更に分離課税での繰越控除適用前の分離課税所得等を加えた所得合計であり、総所得金額等とは、更に分離課税での繰越控除を控除した所得金額となります。

所得種類  各種繰越控除の適用
利子所得所得金額の損益通算合計所得金額* 純損失や雑損失の繰越控除
* 居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除
* 特定居住用財産の譲渡損失の繰越控除
* 上場株式等の譲渡損失の繰越控除
* 特定中小会社発行株式の譲渡損失の繰越控除
* 先物取引の差金等決済損失の繰越控除
総所得金額総所得金額等
配当所得
不動産所得
事業所得
給与所得
雑所得
一時所得2分の1
総合課税の譲渡所得長期
短期
分離課税(土地・建物等)の譲渡所得(特別控除適用前)長期
分離課税の株式等の譲渡所得短期
分離課税の先物取引の雑所得
退職所得
山林所得

(ハ) 年齢16歳未満の年少扶養親族
控除対象扶養控除に関して、 平成23年度から年齢16歳未満の年少扶養親族に対する扶養控除が所得税では廃止となっています(年齢16歳未満は所得税における扶養控除対象者ではありません)。 しかし、 住民税の方では控除対象となっていますので住民税に関する欄への記載を忘れないでください。 なお、 年齢16歳未満の年少扶養親族であっても、 障害者又は特別障害者に該当する場合には、 障害者控除を受けることはできます。
令和3年度の年末調整時における年齢16歳未満とは、 平成18年1月2日以後に生まれた人が年少者となります。

(ニ) 扶養親族
所得者と生計を一にする親族(6親等内の血族と3親等内の姻族)で、 合計所得金額が48万円以下の人を扶養親族(配偶者、青色事業専従者及び白色事業専従者を除く)といいます。 その中には、 以下のように区分されています。
① 控除対象扶養親族
扶養親族のうち、 年齢16歳以上の人をいいます(令和3年度の年末調整では、 平成18年1月1日以前に生まれた人)。
② 特定扶養親族
扶養親族のうち、 年齢19歳以上23歳未満の人をいいます(令和3年度の年末調整では、 平成11年1月2日から平成15年1月1日までの間に生まれた人)。
③ 老人扶養親族
控除対象扶養親族のうち、 年齢70歳以上の人をいいます(令和3年度の年末調整では、 昭和27年1月1日以前に生まれた人)。
④ 同居老親等
老人扶養親族のうち、 所得者又はその配偶者のいずれかとの同居を常況としている必要がありますが、 同居特別障害者は、 所得者、 その配偶者又は所得者と生計を一にするその他の親族のいずれかとの同居を常況としていることが適用の要件となっています。

(ホ) 生命保険料控除の改組
平成24年(2012年)1月1日からの契約分(新契約)から一般生命保険に含まれていた「介護医療保険」が独立の控除対象となりました。 平成23年までの契約分(旧契約)については、 昨年までと同様に「一般生命保険」と「個人年金保険」の2つに分けられ最高控除額は、 各5万円です。 新契約は、 「一般生命保険」、 「介護医療保険」と「個人年金保険」の3つに分けられ最高控除額は、 各4万円となります。 なお、 旧契約と新契約が混在するケースも発生することもありますが、 各保険料控除の合計適用限度額が12万円とされています。 従いまして、 支払保険契約が、 旧契約か新契約かを保険会社からの証明書で確認しながら申請書に正しく記載する必要があります。
生命保険契約等により支払われた保険料や掛金は所得者本人が支払ったものに限られています。 又、 保険金、 共済金等の給付金の受取人の全てが所得者本人又は所得者の配偶者や親族となっていることが必要です。
翌年以後に払込期日が到来する保険料を一括して前納保険料がある場合には、 本年中に相当する部分のみが支払保険料の金額となります。

(ヘ) 社会保険料控除
所得者本人と生計を一にする親族が負担することになっている社会保険料を所得者自身が支払った場合(時限措置により納付可能となった過去分の保険料の支払分も含む)には、 所得者本人の社会保険料として控除できます。
年金から特別徴収された介護保険料や後期高齢者医療保険料については、 支払者が年金受給者自身となることから、 その年金の受給者の社会保険料として控除となります。
翌年以後に払込期日が到来する保険料を一括して前納保険料がある場合には、 前納期間が1年以内の場合には、 その全額を本年の社会保険料として控除することができます。 なお、 国民年金保険料については、 2年分を前納できることになりましたので、 全額控除をするか、 又は期間按分して控除(この場合には、 按分の明細書が要作成)する方法のいずれかを選択することが可能です。

(ト) 地震保険料控除
所得者本人と生計を一にする親族が所有して常時居住している家屋や生活に通常必要な家財に対して支払った保険料の内、 一定の金額を地震保険料控除として控除できます。
一つの契約等で、 地震等損害に対する損害保険契約と旧長期損害保険契約のいずれの契約区分にも該当する場合には、 選択によりいずれか一方の契約区分のみが地震保険料控除の控除額となります(有利な方を選択する)。

(チ) (特定増改築等)住宅借入金等特別控除
現在、 各種の住宅借入金等特別控除がありますが、 控除を受けようとする初年度分については、 確定申告により控除の適用を受ける必要があります。 2年度以降分については、 年末調整の際に下記のものを給与支払者に提出します。
① 税務署長が発行した「年末調整のための(特定増改築等)住宅借入金等特別控除証明書」。 この証明書の上部に「給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書」がありますので、 控除金額等の記載を行い提出します。
② 金融機関等が発行した「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」
一般の住宅借入金等特別控除は、 居住者が一定の要件を満たす住宅の取得等して、 その人の居住の用に供した場合(その家屋の取得等の日から6ケ月以内に居住用に供したものに限られています)において、 その住宅の取得等のために一定の住宅借入金(償還期間10年以上等)を有するときには、 居住年以後10年間(平成13年7月1日から平成30年12月31日までの間で居住した場合には、 最長10年間。 それ以前のものは最長15年間)の各年のうち、 合計所得金額が3千万円以下である年について、 住宅借入金等の年末残高を基にした所定額を住宅借入金等特別控除としてその年の所得税額から控除できるというものです。
家屋に入居後、 本年12月31日まで継続して居住用に供していることが控除の適用要件ですので、 年度の途中で海外勤務となり出国している場合には、 この制度の適用はありません。
自己の居住用の家屋が2以上有する場合には、 主として居住用とする1の家屋に限られます。
連帯債務(共有)の場合には、 各年12月31日現在のその住宅借入金等の金額に控除を受ける人の負担割合(持分割合)を加味して控除額を計算します。 その割合は、 小数点以下第4位を切上げ、 90%以上である場合は100%とします。

住宅ローンの借換え: この制度の適用者が、 住宅借入金等の借換えをした場合に一定の要件を満たすときには適用が継続します。 住宅ローン金利が低くいものがあるとローンの借換えを行う場合があります。 一般の住宅ローンの場合の借換えでは、 新たな借入金が当初の借入金を消滅させるもので、 適用対象となっていた家屋の取得等のための資金に充てるものであれば住宅ローン控除の継続適用の対象となります。 その場合の新たな借入金の償還期間も10年以上であることが適用要件となっています。 ローン借換後の借入額が借換前の借入残高以下であれば、 年末借入残高が控除対象額となりますが、 逆に借換後の借入額が借換直前の借入残高を上回る場合、 次の按分計算して控除対象額を導く必要があります。
ローン借換後の借入額の年末残高 X (借換直前の借入残高 ÷ 借換直後の借入額) = 控除対象借入額の年末残高

(リ) 給与と徴収税額の集計
年中に支払った給与・賞与が対象になりますが、 本年分の給与で未払いであっても、 本年中に支給時期がきており支払金額が確定したものについても年末調整の対象になります。

(ヌ) 年末調整のやり直し(再調整)
年末調整後に関係事項に異動があった場合には、 年末調整のやり直し(再調整)をすることになります(①以外は翌年1月末までに所定の申告書の提出を受け翌年1月末までなら可能)。 例えば、
① 給与の追加払いがあった場合
年末までに本年分の給与の追加払いがあった場合には、 年末調整のやり直しをしなければなりません。
翌年になって給与改訂により本年分まで遡って支給することになっても、 それは改訂時の年度の所得となりますので年末調整のやり直し対象にはなりません。
② 控除対象配偶者、 控除対象扶養者等の数に異動(増減) があった場合
異動事項の申告を受けた場合には、 年末調整のやり直しを行ないます。
③ 保険料の追加払いがあった場合
保険料控除額に影響する保険料の追加払いがあり異動事項の申告を受けた場合には、 年末調整のやり直しを行ないます。
④ 配偶者等の控除対象者の合計所得金額の見積額と確定額に差異があり控除額が変動することになった場合
異動事項の申告を受けた場合には、 年末調整のやり直しを行ないます。
⑤ 住宅借入金等特別控除申告書の提出があった場合
申告書の提出を受けた場合には、 年末調整のやり直しを行ないます。
なお、 上記の様に年末調整後に関係事項に異動があった場合で年末調整のやり直しがされなかった項目の中で、 所得税額が過少になっている場合には、 確定申告で適正に精算する必要があります。

5. 令和3年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
令和3年分の扶養控除、 障害者控除、 ひとり親控除、寡婦控除、 勤労学生控除の各控除の為に申告書を作成しますが、同時に令和4年度の扶養親族等を確認・確定します。
その控除に該当するかの判定は、その年度の合計所得金額(見積金額)と年度末等における現況によることになります。
A 源泉控除対象配偶者
 「源泉控除対象配偶者」とは、居住者(合計所得金額が900万円以下である者に限る)の配偶者でその居住者と生計を一にするもの(青色事業専従者等を除く)のうち、合計所得金額が95万円以下である者をいう。
B 控除対象扶養親族(平成18.1.1以前生まれの16歳以上)
 ①一般扶養親族(年齢16歳以上19歳未満)
 ②特定扶養親族(年齢19歳以上23歳未満)
 ③老人扶養親族(年齢70歳以上(非同居))
 ④同居老人扶養親族(年齢70歳以上(同居))
C 障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生
イ 障害者
 一般障害者(所得者、同一生計配偶者、扶養親族)
 特別障害者(所得者、同一生計配偶者、扶養親族)
 同居特別障害者(同居:同一生計配偶者、扶養親族)
ロ 寡婦
①-1夫と離婚した者で扶養親族(子以外:子を有する場合にはひとり親控除の適用)を有する者、かつ住民票に夫(未婚)・妻(未婚)記載(いわゆる事実婚)なし
①-2又は、扶養親族無しで夫と死別した者又は生死不明である者、かつ住民票に夫(未婚)・妻(未婚)記載なし
②合計所得金額500万円以下であること
ハ ひとり親
①未婚(離婚後、死別後を含む、及び生死不明な配偶者がいる方も含む)のひとり親
②生計を一にする子の総所得金額等の金額が48万円以下であること
③未婚のひとり親が入籍しない事実婚の世帯であっても住民票に事実婚の旨「夫(未婚)・妻(未婚)」を登録記載されていないこと
④合計所得金額500万円以下であること
二 勤労学生(所得者本人)
D 他の所得者が控除を受ける扶養親族等
〇 住民税に関する事項:16歳未満の年少扶養親族(平成18.1.2以後生まれ)

6. 令和3年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書
基礎控除、配偶者控除・配偶者特別控除、所得金額調整控除の各控除の為に申告書を作成します。
(1)給与所得者の基礎控除申告書
所得者の給与所得及び他の所得の合計金額に応じて基礎控除額が決まります。

合計所得金額基礎控除額
所得税住民税所得割
2,400万円以下48万円43万円
2,400万円超~2,450万円以下32万円29万円
2,450万円超~2,500万円以下16万円15万円
2,500万円超

2)給与所得者の配偶者控除等申告書
所得者の所得金額と生計0を一にする配偶者の所得金額との組み合わせをより、配偶者控除額又は配偶者特別控除額が決まります。
配偶者の合計所得金額が48万円以下(給与収入では103万円以下)の場合に配偶者控除38万円(老人控除対象配偶者48万円)を上限に、 配偶者控除は世帯主の年収に応じて縮小され、配偶者特別控除は配偶者の年収要件を103万円から150万円に引上げ、 かつ配隅者及び世帯主の年収に応じて控除額が9段階で縮小となっています。

(3)所得金額調整控除申告書
所得者の年間給与収入金額が850万円超の場合で、以下のいずれかの要件を満たす場合には、控除額15万円(最高)の適用があります。
① 所得者本人が特別障害者である者
② 年齢23歳未満の扶養親族を有する者
③ 特別障害者である同一生計配偶者を有する者
④ 特別障碍者である扶養親族を有する者
給与所得から控除額 =(給与等の収入金額(上限1千万円)- 850万円)X
 10%
給与等の収入金額が1千万円以上の場合には、所得金額調整控除額は15万円(最高)。

なお、給与所得控除後の給与等の金額及び公的年金等に係る雑所得の金額がある所得者で、その合計額が10万円超の場合には、最高10万円の所得金額調整控除額があり、給与所得から控除することがありますが、年末調整では適用を受けることが出来ません。その場合、年末調整の際に「給与所得者の基礎控除申告書」等で合計所得金額を計算する時には、当該年金所得金額を考慮する必要があります。
給与所得から控除額(所得金額調整控除額)={給与所得控除後の給与等の金額(上限
10万円)+ 公的年金等に係る雑所得の金額(上限10万円)}- 10万円
給与所得の金額 = 給与等の収入金額 − 給与所得控除額 − 所得金額調整控除額(最高10万円)

7. 令和3年分 給与所得者の保険料控除申告書
生命保険料控除(一般生命・介護医療・個人年金)、 地震保険料控除(申告分)、 社会保険料控除、 小規模企業共済等掛金控除(申告分) の各控除の為に申告書を作成します(証明書類の添付)。
(1)生命保険料控除(一般生命・介護医療・個人年金)
① 所得者本人が支払ったもので、保険金等の受取人が所得者又はその配偶者や親族(個人年金保険の場合には親族を除く)であることが必要
② 新旧の保険区分に注意
(2)地震保険料控除
① 所得者本人が年内に支払ったもので、所得者又は生計を一にする親族が所有する常時居住する家屋や、生活に通常必要な家財を目的とする保険であることが必要
② 同一契約内に地震保険と旧長期損害保険がある場合には、いずれか有利の保険料を選択
(3) 社会保険料控除
① 所得者又は生計を一にする親族分で所得者が支払ったもの
② 配偶者が年金から特別徴収(天引き)された保険料(介護保険料等)については、その年金受給者が支払ったことになることに注意(所得者からの控除とはならない)
(4)小規模企業共済等掛金控除
① 確定拠出年金法に基づく企業型年金加入者掛金、個人型年金加入者掛金(iDeCo等)も含む
② 前納減額金は、支払い掛金から控除

8.  給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書
ローン控除の初年度は確定申告により控除適用を受ける必要があります。2年目以降は年末調整で控除を適用することができますので、年末調整時に、
① 添付書類として、税務署長が発行したその年度分の「年末調整のための(特定増改築等)住宅借入金等特別控除証明書」
② 添付書類として、金融機関等が発行した「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」

9. 税務関係書類における押印の不要
源泉所得税関係書類について、押印が不要となりました。

10. 年末調整手続の電子化
令和2年度の年末調整から、生命保険料控除、地震保険料控除及び住宅借入金等特別控除(ローン控除)の3件に係る控除証明書等については、従業員から電子データで会社に提出できることになっています。具体的には、
① 従業員が保険会社、金融機関、税務署等から電子データで受領する。
② 従業員が当電子データを専用の年末調整ソフトを使用してインポートし年末調整申告用の電子データを作成する。
③ 従業員が年末調整申告用の電子データと控除証明書等データを会社に提供(送信)する。
④ 会社が、送信されたデータを給与システムにインポートして年末調整計算を行う。
注:現時点では、全ての保険会社、金融機関等がこの電子化に対応しているわけではありませんので、事前確認が必要としています。

電子化の事前準備:
① 給与システム等の対応準備
② 事前に税務署に会社が「源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申請書」を提出し、その承認が令和3年度より不要となりました。
③ 従業員に周知徹底

以上が年末調整等の概要となります。

2021年11月15日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

みなし解散と商業登記遵守

法務省から「みなし解散」の通知を受けたことはありませんか。既に数年前から完全なる休眠会社であり、その様な解散通知されても問題は無い場合もあるかもしれませんが、継続して事業・営業活動を行っているにも拘わらず「みなし解散」されてしまった場合には、その後の継続処理、特に税務申告処理は面倒となりますので、その様にならない為の事前の留意点、或いは解散という最悪の事態となった場合の元に戻す事後の処理を説明します。
1.役員の任期と登記のルール
会社法の規定により,株式会社の取締役の任期は,原則として2年,株式の譲渡制限規程のある閉鎖会社においては最長でも10年とされており,取締役の交替や重任の場合にはその旨の登記が必要とされており,株式会社については,取締役の任期毎に,取締役の変更登記がされることになります。又,一般社団法人及び一般財団法人に関する法律の規定により,理事の任期は2年とされ,同様に少なくとも2年に一度,理事の変更の登記がされることになります。又、取締役又は理事の変更に限らず,株式会社,一般社団法人又は一般財団法人は,その登記事項に変更があった場合には,所定の期間内にその変更の登記が必要とされています。
注:有限会社等には、役員の任期満了に伴う重任登記というものはありません。

2. みなし解散となる状況
しかしながら、最後の登記をしてから12年を経過している株式会社,又は最後の登記をしてから5年を経過している一般社団法人又は一般財団法人が,まだ事業を廃止していない場合には,その届出をする必要があります。この様な時期を迎えている場合には、法務省より事前に通知連絡がありますので、その所定の期間内に必要な登記(役員変更等)の申請又は「まだ事業を廃止していない」旨の届出を行うことでみなし解散を回避できますが、それを怠れば,解散したものとみなされ,法務省の職権で解散の登記がされてしまいます。これが、みなし解散です。更に、法人の代表者個人が過料(罰金)を支払うことになってしまいます。
3.みなし解散という整理作業の必要性(法務省より)
長期間登記がされていない株式会社,一般社団法人又は一般財団法人は,既に事業を廃止し,実体がない状態となっている可能性が高く,このような休眠状態の株式会社,一般社団法人又は一般財団法人の登記をそのままにしておくと,商業登記制度に対する国民の信頼が損なわれることになります。
そこで,株式会社については,最後の登記をしてから12年を経過しているもの,一般社団法人又は一般財団法人については,最後の登記をしてから5年を経過しているものについて,法務大臣の公告を行い(法務省から確認申請の通知有り),2か月以内に「まだ事業を廃止していない」旨の届出や役員変更等の登記の申請がない限り,みなし解散の登記をすることとしています。
4.みなし解散された場合の事後対応
みなし解散登記が行われてしまった場合には、法的な解散であり、これを撤回することは出来ませんが、みなし解散の登記後3年以内に限り法人継続のチャンスがあります。
(1)解散したものとみなされた株式会社は,株主総会の特別決議によって,株式会社を継続することができます。
(2)解散したものとみなされた一般社団法人又は一般財団法人は,社員総会の特別決議又は評議員会の特別決議によって,法人を継続することができます。
特別決議で継続したときは,2週間以内に継続の登記の申請をする必要があります。
5.みなし解散後の法人継続までの税務申告
みなし解散され法人継続の登記を行った場合、税務申告においては、先ずは解散に伴う手続きが必要となりますので、最短でも1年間に3回の決算・申告(①直近の開始事業開始日から解散日までの期間、②解散日の翌日から特別決議による事業継続日までの期間、そして③事業継続日の翌日から定款上の事業年度終了の日までの期間)を行う必要があります。

以上から、役員任期関連で登記時期を見過ごしますと、みなし解散となり予期せぬ事後対応が必要となってしまいますので、登記スケジュールには留意すべきです。特に、法務省からの登記確認の申請通知が来ましたら遅滞なく対応することが必要です。

2021年10月30日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

インボイス制度における適格請求書発行事業者の登録制度開始

令和5年(2023年)10月からインボイス制度「適格請求書等保存方式」導入にあたり、「適格請求書」を交付できる事業者「適格請求書発行事業者」の登録が10月1よりスタートします。以下に、事業者が適正に消費税申告を行う為に対応・留意しなければならい概要(主に、国税庁HPより)を記載してみます。

1.インボイス制度の導入
令和5年10月1日から、消費税に関して複数税率(10%、軽減税率の8%、等)に対応した仕入税額控除の方式として、諸外国と同様な「適格請求書等保存方式」(インボイス方式)が導入されます。同日から、仕入税額控除の適用要件として、原則、事前登録した「適格請求書発行事業者」から交付を受けた「適格請求書(インボイス)」の保存が必要となります。特に、今後、適格請求書発行事業者でない免税事業者等との取引に対して留意すべきことがあります。
消費税額の計算方法:
 納付消費税額 = 課税売上に係る消費税額 - 課税仕入れ等に係る消費税額 
         (売上税額:仮受消費税額)  (仕入税額:仮払消費税額)
                           仕入税額控除
2.請求書等及び帳簿の記載事項
軽減税率適用に併せて請求書等及び帳簿の作成・記載事項等は、以下の様になっています。 令和5年10月に、インボイス制度として「適格請求書等保存方式」を導入されまので、請求書等の記載事項に留意すべきです。

請求書等保存方式
(令和元年9月30日以前)
区分記載請求書等保存方式
(令和元年10月1日~)
適格請求書等保存方式
(インボイス制度)
(令和5年10月1日~)
①請求書発行者の氏名又は名称
②取引年月日
③取引の内容
④対価の額
⑤請求書受領者の氏名又は名称
①~⑤同左の記載①~⑤同左の記載
⑥軽減税率対象課税品目である旨(帳簿にも要記載)
⑦税率の異なるごとに合計した対価の額
(注)記載が不備の場合に、請求書の交付を受けた事業者による追記も可
同左の記載
⑦税率の異なるごとに合計した対価の額及び適用税率
⑧登録番号
⑨消費税額等
*売手に区分記載請求書の交付・保存義務は課されません。
*買手に区分記載請求書の保存を仕入税額控除の要件になりますが、追加記載事項(⑥と⑦)は買手が事実に基づき追記することが認められます。
偽りの請求書の交付行為に対しての罰則はありません。
*「適格請求書発行事業者」から交付を受けた「適格請求書」又は「適格簡易請求書」の保存が仕入税額控除の要件となります、「適格請求書等保存方式」(インボイス制度)が導入されます。
*適格請求書発行事業者には、「適格請求書」又は「適格簡易請求書」の交付・保存を義務付け、偽りの請求書の交付行為に対して罰則があります。
*「適格請求書発行事業者」とは、免税事業者以外の課税事業者であり、所轄税務署長に申請書を提出し、交付事業者として登録を受けた事業者です(登録番号を受領)。登録申請は、令和3年10月1日から登録制度が開始されます。 登録後、その氏名又は名称及び登録番号等はインターネット上で公開となります。なお、令和5年10月1日から登録を受ける為には、原則、令和5年3月31日までに登録申請書を提出する必要があります。
*「適格請求書」とは、上記事項を記載した請求書、納品書、その他これらに類する書類をいいます。
*1つの適格請求書に記載されている個々の商品ごとに消費税額を計算することはできません。複数商品の税率区分ごとの合計金額に対して消費税額を計算し表記します。税額の円未満の端数処理は、任意となります。

3.適格請求書(インボイス)
(1)適格請求書の記載事項
「適格請求書」とは、次の全ての事項が記載された書類(請求書、納品書、領収書、レシート、契約書、等)をいいますが、1つの書類に記載される必要はなく複数の書類でカバーさせていればよいことになっています。
① 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
登録番号と紐付けられて管理されている取引先コード等で相手方と共有されていれば、取引先コードの記載で要件が満たされます。
② 課税資産の譲渡等を行った年月日
③ 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(課税資産の譲渡等が軽減対象資産の 譲渡等である場合には、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等である旨)
④ 課税資産の譲渡等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額及び適用税率
⑤ 税率ごとに区分した消費税額等(消費税額及び地方消費税額に相当する金額の合計額をいいます)
⑥ 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称
なお、返品や値引き等の売上の返還等を行う場合には、「適格返還請求書」を交付し、又、交付した請求書に誤りがあった場合には、「修正した適格請求書」を交付します。
又、適格請求書、適格簡易請求書等の交付に代えて、これらに係る電磁的記録(電子データ)を提供することもできますが、その保存方法が決められています。

(2)適格請求書の保存期間
課税期間の末日の翌日から2月を経過した日から7年間保存する必要があります。

(3)適格請求書に記載する消費税額の端数処理
消費税額に1円未満の端数が生じる場合、1つの適格請求書につき、税率ごとに1回の端数処理を行う必要があります(切上げ、切捨て、四捨五入などの端数処理は任意)。従って、1つの適格請求書に記載されている個々の商品ごとに消費税額計算し、その合計額を記載等することは認められません。

(4)適格請求書に税抜価額と税込価額が混在する場合
スーパー等の小売業等では1つの適格請求書において、税抜価額表記の商品と税込価額表記の商品が混在するような場合、いずれかに統一して「課税資産の譲渡等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した額」を記載するとともに、これに基づいて「税率ごとに区分した消費税額」を算出して記載する必要があります。

4.適格請求書交付義務の免除項目(免除課税資産)
適格請求書発行事業者は免税事業者を除く他の課税事業者から求められたときには適格請求書を交付しなければなりませんが、次の課税資産の譲渡等は、事業の性質上、適格請求書を交付することが困難な為、交付義務が免除されています(帳簿の保存のみで仕入税額控除が認められます)。
① 3万円未満の公共交通機関(船舶、バス又は鉄道)による旅客の運送 :金額は1回の取引価額で判定。例えば、1人運賃13,000円で4人分の52,000円の運賃を支払う場合には、52,000円での判定となりますので免除対象となりません。
② 出荷者等が卸売市場において行う生鮮食料品等の販売(出荷者から委託を受けた受託者 が卸売の業務として行うものに限ります。)
③ 生産者が農業協同組合、漁業協同組合又は森林組合等に委託して行う農林水産物の販売 (無条件委託方式かつ共同計算方式により生産者を特定せずに行うものに限ります。)
④ 3万円未満の自動販売機及び自動サービス機により行われる商品の販売等(代金の受領と資産の譲渡等が自動で行われる機械装置があり、それにより完結するもの。例えば、コインロッカーやコインランドリー等は含まれますが、機械装置から資産譲渡等を伴わないセルフレジ、ネットバンキング等は含まれません)
⑤ 郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出されたものに限 ります。)
⑥ その他請求書等の交付が困難な課税資産の譲渡等のうち一定のもの
なお、免税取引、非課税取引及び不課税取引のみを行った場合には、適格請求書の交付義務は課されません。

5.適格簡易請求書の交付可能な事業者
適格請求書発行事業者が不特定かつ多数の者に課税資産の譲渡等を行う一定の事業を行う場合には、適格請求書に代えて「適格簡易請求書」を交付することができます。 適格簡易請求書は、適格請求書と異なる点は、書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称が省略でき、又、税率ごとに区分した消費税額等か適用税率のどちらかを記載するところです。
適格簡易請求書の交付可能な事業者例として、
①小売業、②飲食店業、③写真業、④旅行業、⑤タクシー業、⑥駐車場業(不特定かつ多数の者に対するものに限ります)、⑦その他これらの事業に準ずる事業で不特定かつ多数の者に資産の譲渡等を行う事業
となっています。
不特定かつ多数の者に対する事業とは、相手方の氏名等を認識せず取引条件等を予め提示して相手方を問わず広く行うことが常態である事業等をいいます。
なお、適格簡易請求書についても、交付に代えて電磁的記録(電子データ)を提供することができます。

6.適格請求書発行事業者の登録制度
「適格請求書発行事業者」とは、免税事業者以外の課税事業者であり、所轄税務署長に申請書(適格請求書発行事業者の登録申請書)を提出し、交付事業者として登録を受けた事業者です(登録番号を受領)。登録申請は、令和3年10月1日から登録制度が開始されます。 登録後、その氏名又は名称及び登録番号等は通知及びインターネット上で公開(国税庁HP上の適格請求書発行事業者公表サイト)となります。なお、インボイス制度の導入日の令和5年10月1日から登録を受ける為には、原則、令和5年3月31日までに登録申請書を提出する必要があります(なお、特定期間の課税売上高又は給与等支払額の合計額が1千万円を超えて課税事業者となる場合は、提出期限は令和5年6月30日までに延長)。
登録申請は、e-Taxの利用(申請後の登録通知は2週間程度後)、又は郵送等の場合(申請後の登録通知は1ヵ月程度後)には各国税局のインボイス登録センターとなります。
登録の効力は、適格請求書発行事業者登録簿に登録された日(登録日)から生じます。登録日以降の取引については、買手方(課税事業者に限る)の求めに応じ、適格請求書を交付する義務があります。
なお、課税期間の中途での登録申請も可能です。

登録番号の構成:
① 法人の課税事業者は、T+法人番号
② 法人以外の個人事業者等の課税事業者は、T+13桁の数字
免税事業者の登録に関しては下記7Ⅱを参照。

7.免税事業者等からの仕入税額控除
(1)仕入税額控除の経過措置
インボイス制度が導入されます令和5年10月以降、仕入税額控除を受けるには、「帳簿」及び税務署に申請して登録を受けた課税事業者である「適格請求書発行事業者(登録事業者)が交付した適格請求書」の保存が必要となります。従いまして、
免税事業者、適格請求書発行事業者登録されていない課税事業者、並びに事業者で無い消費者からの課税仕入れに対して、仕入税額控除の適用を受けることが出来なくなります。但し、下記の様に特例で令和5年10月から令和11年9月までの6年間は、仕入税額相当の一定割合を税額控除できる経過措置が設けられています。

区分記載請求書等保存方式免税事業者からの仕入についても、仕入税額控除できます。
適格請求書等保存方式
(インボイス制度)
原則、免税事業者、適格請求書発行事業者登録されていない課税事業者等からの仕入は、仕入税額控除ができませんが、次の期間内での特例が認められています。
令和5年10月~
令和8年9月までの3年間
仕入税額相当額の80%控除
令和8年10月~
令和11年9月までの3年間
仕入税額相当額の50%控除
令和11年10月~仕入税額控除の対象とすることができません。

この経過措置の適用を受ける為には、次の事項が記載された帳簿及び請求書等の保存が必要となります。
(A)帳簿
「80%控除対象」など、経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨の記載が追加で必要です。具体的な記載事項は次のとおりです。

① 課税仕入れの相手方の氏名又は名称
② 課税仕入れを行った年月日
③ 課税仕入れに係る資産又は役務の内容及ぶ経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨
④ 課税仕入れに係る対価の額
(B)請求書等
① 書類の作成者の氏名又は名称
② 課税資産の譲渡等を行った年月日
③ 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(軽減対象資産の場合には、その資産の内容及び軽減対象資産である旨)
④ 税率ごとに合計した課税資産の譲渡等の税込価額
⑤ 書類の交付を受ける当該事業者の氏名又は名称

(2)免税事業者の登録申請手続
免税事業者からの請求に対して、令和11年10月より相手課税事業者は完全に仕入税額控除の対象とすることが出来なくなります。免税事業者が適格請求書発行事業者として登録を受けるためには、「消費税課税事業者選択届出書」を提出し、課税事業者となる必要があります。(令和11年10月以前に)適格請求書を交付できる課税事業者となる登録手続は、以下の様になっています(経過措置もあり)。

① 登録申請が令和5年10月1日を属する課税期間の経過措置及び留意点
令和5年10月1日を属する課税期間中に適格請求書等発行事業者登録した場合には、「消費税課税事業者選択届出書」を提出する必要はありません。留意点として、その登録日(令和5年10月1日)に課税事業者となりますので、基準期間の課税売上高にかかわらず、登録日から期末日までの期間に対する消費税の申告が必要となります。なお、経過措置の適用を受けない課税期間に登録を受ける場合には、原則どおり、課税選択届出書を提出し課税事業者となる必要があります。

② 登録申請が令和5年10月1日を属する課税期間の翌課税期間以降の場合
免税事業者が、「消費税課税事業者選択届出書」を提出し、課税事業者を選択し課税期間の初日から登録を受けようとする場合は、その課税期間の初日の前日から起算して1月前までに登録申請書の提出が必要となります。

以下は、免税事業者の登録申請の要約表となります。

登録申請時期
右記の前事業年度以前令和5年10月1日の属する事業年度(課税期間)左記の翌事業年度以降
経過措置適用の期間原則適用
消費税課税事業者選択届出書提出不要提出し、同時に課税事業者となる課税期間の初日の前日から1ヵ月前までに登録申請書の提出が必要
(登録日が4月1日ならば、申請の提出期限は2月28日)
適格請求書発行事業者の登録申請書申請し登録を受けた日から課税事業者となる(登録日以前は免税事業者期間)。
免税免税課税事業者及び適格請求書発行事業者

なお、適格請求書発行事業者の登録後に、基準期間の課税売上高が1千万円以下になっても、登録の効力が失われない限り課税事業者として継続します。

免税事業者である個人事業者の場合にも、令和5年10月1日から適格請求書発行事業者の登録を受ける為には、経過措置により登録申請書を令和5年3月31日までに提出する必要があります(課税選択届出書の提出は不要)。同年10月1日から12月31日の期間は課税事業者として令和5年分の消費税の申告が必要となります。なお、登録日の前日である9月30日に免税事業者であった期間中に課税仕入れの棚卸資産を有しているときは、その仕入税額控除の適用を受けることができます。なお、経過措置の適用を受け、同時に簡易課税制度の選択適用を受ける場合には、同年10月1日に属する課税期間中に消費税簡易課税制度選択届出書を同年12月31日までに提出(令和5年分から適用する旨を記載)すればよいことになります(法人も同様な扱いになります)。

(3)免税事業者の今後の検討課題
上述しましたが、免税事業者からの課税仕入れに対して、適格請求書の交付を受けることが出来ませんので仕入税額控除の適用を受けることが出来なくなります。その為に、売上先が課税事業者(適格請求書発行事業者)の場合には、免税事業者との取引を減らしていくことが予想されます。特に、小規模な免税事業者が課税事業者になれば、収める消費税の分だけ支出が増え事業経営に影響を受けるというデメリットがありますので、次の経営環境状況を検討し課税事業を選択するかを判断されても良いかと思います。

(1)課税事業者を選択することが望まれる経営環境(売上高に重大な影響を受ける可能性がある)(2)免税事業者を継続する経営環境(課税事業者と取引できなくともあまり問題が無い)
*課税事業者との取引が多い*免税事業者同士との取引が主である
*新規顧客(課税事業者)を開拓していく経営方針がある*不特定多数を顧客とする業種(小売業、飲食業等の消費者を顧客)である
*競合状況にあり他の課税事業者と比べて価格面で明らかに不利と予想される*商品・サービスに独自性があり競合が少ない

(4)インボイス制度下で免税事業者は消費税を付加請求可能か否か
インボイス制度が導入後(令和5年10月1日以降)も、免税事業者及び適格請求書発行事業者登録されていない課税事業者は、適格請求書を交付することができませんが、消費税法に基づく10%の消費税を付加表記した請求書は発行できます。
消費税法57条の5「適格請求書類似書類等の交付の禁止」という規定があり、その内容は、適格請求書発行事業者以外の者は、適格請求書発行事業者が作成した適格請求書又は適格簡易請求書であると誤認される恐れがある表示をした書類を他の者に対して交付し、又は提供してはならない、というものです(違反者には罰則規定あり)。この「誤認」の範囲は明確ではありませんが、明らかなものとして、適格請求書発行事業者でないのに登録番号を請求書等に記載することです。この適正な登録番号の課税事業者であるかは、国税庁で登録者を公開していますので、仕入税額控除を適用する事業者には、登録確認の負担や責任は課されていることになります。
現行の法制度上では免税事業者は消費税を請求書に記載出来ないという規定はどこにもありません。免税事業者からの取引では、あくまでも免税事業者は適格請求書を交付できなく、かつ納税義務者ではないということ、及び取引先が仕入税額控除を行うことができなくなることだけです。

8.新設法人等の登録時期の特例
免税事業者である新設法人(個人事業者、新設合併、新設分割の新規開業等も含む)の場合には、事業開始(設立)時から適格請求書発行事業者の登録を受ける為には、設立後、その課税期間の末日までに課税選択届出書と登録申請書(初日から登録を受けようとする旨の記載)を併せて提出する必要があります。
なお、課税事業者である新設法人の場合には、事業開始の課税期間の末日までに登録申請書(初日から登録を受けようとする旨の記載)を提出する必要があります。

9.適格請求書発行事業者の登録取消
登録取消を受ける場合には、課税期間の末日から31日前に「適格請求書発行事業者の登録の取り消しを求める旨の届出書」を提出することで、翌課税期間の初日から登録の効力が失われます。従って、末日から30日前の届出の場合には、翌々課税期間に登録取消となります。なお、免税となる要件を満たす事業者は、「消費税課税事業者選択不適用届出書」を提出しない限り、課税の免除とはなりません。
消費税法上、事業を廃止した場合に「事業廃止届出書」を提出により適格請求書発行事業者の登録の効力が失われます。

10.適格請求書発行事業者からの事業承継(相続)
① 令和5年10月1日以前に死亡した場合
被相続人の登録効力が生じていませんので、相続により事業承継した相続人が、令和5年10月1日から適格請求書発行事業者の登録を受けようとする場合には、原則として、令和5年3月31日までに登録申請書を提出する必要があります。この場合、同日までに提出できなかった困難な事情がある場合に、その旨を記載して令和5年9月30日までに提出することが認められます。
個人事業者が死亡した場合には、「個人事業者の死亡届出書」の提出も行う。
② 令和5年10月1日以後に死亡した場合
相続人は、「適格請求書発行事業者の死亡届出書」を提出する必要があります。その登録の失効は、提出日の翌日又は死亡日の翌日から4カ月後のいずれか早い日となります。
相続により事業承継した相続人が適格請求書発行事業者の登録を受けようとする場合には、登録申請書を提出する必要があります。この場合、相続の翌日から、相続人の登録日の前日又は被相続人の死亡日から4カ月後のいずれか早い日までの期間については、相続人の適格請求書発行事業者と見做す措置が設けられています(被相続人の登録番号を相続人の登録番号と見做す)。

11.修正する適格請求書の交付
売手である適格請求書発行事業者は、交付した適格請求書、適格簡易請求書又は適格返還請求書の記録事項に誤りがあったときには、相手である課税事業者に対して、修正した適格請求書、適格簡易請求書又は適格返還請求書を交付しなければなりません。これらの交付方法例として、
① 誤りがあった事項を修正し、改めて記載事項の全てを記載したものを交付(差替え)
② 当初交付したものとの関連性を明らかにし、修正した事項を明示したものを交付
原則、誤りを買手が自ら追記や修正を行ったものでは仕入税額控除の適用要件を満たしませんが、買手の課税事業者が作成した一定事項の記載のある仕入明細書等の書類で、売手の確認を受けたものについては、仕入税額控除の適用の為に必要な請求書等に該当となります。

12.口座振替・口座振込による家賃等の支払の留意事項
通常、契約書に基づき代金決済が行われ、取引の都度、請求書や領収書が交付されない取引であっても、仕入税額控除の適用を受ける為には、原則として、適格請求書の保存が必要となります。
適格請求書は、一定期間の取引をまとめて交付することも可能(一定期間の賃借料についての適格請求書の交付を受けて保存する)となります。
適格請求書として必要な記載事項は、1つの書類だけで全てが記載されている必要はなく、複数の書類で記載事項を満たせばOK。例えば、契約書に適格請求書として必要な記載事項の一部が記載されており、他に実際に行った取引の客観的な書類で全ての記載事項を満たし保存することで、仕入税額控除の適用要件を満たします。
口座振替の場合、適格請求書の記載事項の一部(例えば、課税資産の譲渡等の年月日以外の事項)が記載された契約書とともに、通帳(課税資産の譲渡等の年月日の事実を示すもの)を併せて保存することで、仕入税額控除の適用要件を満たします。
口座振込による家賃の支払う場合、適格請求書の記載事項の一部が記載された契約書とともに、銀行が発行した振込金受取書を保存することにより、請求書等の保存があるものとして、仕入税額控除の適用要件を満たします(複数の書類を合わせて1つの適格請求書とすることが可能)。
注:令和5年9月30日以前からの契約について、契約書に登録番号等の適格請求書として必要な事項の一部の記載が不足している場合には、別途、登録番号等の記載が不足していた事項の通知を受け、契約書とともに保存することで仕入税額控除の適用要件を満たします。

なお、クレジットカード決済の場合にも、仕入税額控除の為には、記載要件を満たす適格請求書が必要となります。

13.適格請求書(及び適格簡易請求書)の電磁的記録(電子データ)の保存方法
適格請求書発行事業者は、適格請求書の交付に代えて電磁的記録を相手に提供できますが、その場合、提供した電磁的記録を電子帳簿保存法に準拠して、
(1) 電磁的記録のまま、又は
(2) 紙に印刷して、
提供した日の課税期間末の翌日から2月後から7年間保存しなければなりません。
上記の(1)の電磁的記録のまま保存する場合には、以下の措置を講ずる必要があります。
① 次のイからニのいずれかの措置を行うこと
イ 適格請求書の電磁的記録を提供する前にタイムスタンプを付してから電磁的記録を提供すること
ロ 次のいずれかの方法により、提供後であるがタイムスタンプを付すとともに、電磁的記録の保存者又はその直接監督者の情報を確認できるようにしておくこと
* 適格請求書の電磁的記録を提供後に、速やかにタイムスタンプを付すこと
* 適格請求書の電磁的記録を提供からタイムスタンプを付すまでの各事務処理に関する規定を定め、その処理の通常の期間経過後、速やかにタイムスタンプを付すこと
ハ 適格請求書の係る電磁的記録の記録事項について、次のいずれかの要件を満たす電子計算機システムを使用して適格請求書の電磁的記録の提供及びその電磁的記録を保存すること
* 訂正又は削除を行った場合、その事実及び内容を確認することができること
* 訂正又は削除することができないこと
ニ 適格請求書の係る電磁的記録の記録事項について正当な理由のない訂正又は削除の防止に関する事務処理規程を定めて運用を行い、当該電磁的記録の保存に併せて当該規程の備付けを行うこと
② 適格請求書の係る電磁的記録の保存等に併せて、システム概要書の備付けを行うこと
③ 適格請求書の係る電磁的記録の保存等をする場所に、その電磁的記録の電子計算機処理の用に供することができる電子計算機、プログラム、ディスプレイ及びプリンタ並びにこれらの操作説明書を備え付け、その電磁的記録をディスプレイの画面及び書面に、整然とした形式及び明瞭な状態で、速やかに出力できるようにしておくこと
④ 適格請求書の電磁的記録について、次の要件を満たす検索機能を確保しておくこと
注:国税に関する法律の規定による電磁的記録の提示又は提出に応じることができるようにしているときは、次のⅱ及びⅲの要件は不要となり、その判定期間の基準期間の売上高が1千万円以下の事業者が、同様に国税の電磁的記録の提示又は提出に応じることができるようにしているときは検索機能の全てが不要となります。
ⅰ 取引年月日その他の日付、取引金額及び取引先を検索条件として設定できること
ⅱ 日付又は金額の記録項目については、その範囲を指定して条件を設定できること

上記(2)の適格請求書の電磁的記録を紙で保存しようとするときには、整然とした形式及び明瞭な状態で出力した書面を保存する必要があります。

14.仕入税額控除の要件
インボイス制度の下では、一定事項が記載された帳簿及び請求書等の保存が仕入税額控除の適用要件となります。保存すべき請求書等には、次の様なものが含まれます。
(1)適格請求書
(2)適格簡易請求書
(3)適格請求書又は適格簡易請求書の記載事項に係る電磁的記録(電子データ)
(4)適格請求書の記載事項を買手が記載した仕入明細書、仕入計算書その他これに類する書類の場合、課税仕入れの相手方(売手)の確認を受けたものに限られます(電子データを含む)
(5)次の取引について、媒介又は取次に係る業務を行う者が作成する一定の書類(電子データを含む)
イ 出荷者等が卸売市場において行う生鮮食料品等の販売(出荷者から委託を受けた受託者 が卸売の業務として行うものに限ります。)
ロ  生産者が農業協同組合、漁業協同組合又は森林組合等に委託して行う農林水産物の販売 (無条件委託方式かつ共同計算方式により生産者を特定せずに行うものに限ります。)
(6)次の取引について、請求書等の交付を受けることが困難であるなどの理由により、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で認められます。
① 適格請求書の交付義務が免除される、3万円未満の公共交通機関(船舶、バス又は鉄道)による旅客の運送
② 適格簡易請求書の記載事項(取引年月日を除く)が記載されている入場券等が使用時に回収される取引(①に該当分を除く)
③ 適格請求書発行事業者でない古物営業者(古物商、中古車販売業等)からの古物購入(棚卸資産に限定)
④ 適格請求書発行事業者でない質屋営業車からの質物取得(棚卸資産に限定)
⑤ 適格請求書発行事業者でない宅地建物取引業者からの建物購入(棚卸資産に限定)
⑥ 適格請求書発行事業者でない再生資源及び再生部品の購入(購入者の棚卸資産に限定)
⑦ 適格請求書の交付義務が免除される、3万円未満の自動販売機及び自動サービス機により行われる商品の購入等
⑧ 適格請求書の交付義務が免除される、郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出されたものに限定)
⑨ 従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当)

15.納付税額の計算方法

区分記載請求書等保存方式現行通り、適用税率ごとに取引総額に110分の10、或いは108分の8を乗じて計算する「割戻し計算」を維持する。
適格請求書等保存方式
(インボイス制度)
適用税率ごとに取引総額に110分の10、或いは108分の8を乗じて計算する「割戻し計算」と、「適格請求書」に記載のある消費税額の「積上げ計算」のいずれかを選択できます。
但し、売上税額を「積上げ計算」する場合には、仕入税額も「積上げ計算」としなければなりません。

16.事業者別対応・検討事項
以上から、事業者としてインボイス制度の導入に伴い、対応・検討すべき事項があります。
(1)原則課税事業者
① 適格請求書発行事業者の登録申請
② 適格請求書等の様式変更
③ 仕入税額控除の適用要件の理解と税区・税率等の記帳確認
④ 免税事業者等の登録申請事業者以外の事業者との取引(業者選択の検討)

(2)簡易課税制度の選択課税事業者
① 適格請求書発行事業者の登録申請
② 適格請求書等の様式変更
③ 基準期間の課税売上高が50百万円超になる可能性が低い場合には、仕入税額控除の原則処理を気にしなくても良いかと思われます。
④ 免税事業者等の登録申請事業者以外の事業者との取引(業者選択の検討)
⑤ 課税売上高から納付消費税額を計算することから、売手側からの適格請求書等の保存は仕入税額控除においては必要となりません。

(3)免税事業者(上記7Ⅲを参照)
① 競争の激しい環境下にある場合に、仕入税額控除の対象外として登録申請事業者から取引を削減・停止となるリスク存在の有無確認
② 上記①のリスクがあり営業に重大な影響が考えられる場合には、課税事業者を選択し、かつ登録申請することを検討する。
③ 上記②で登録申請することを選択した場合に、簡易課税制度の選択が有利か否かを同時に検討する。
④ 課税事業者として、同様に上記(1)又は(2)の対応

17.委託販売:媒介者交付特例
委託販売の場合、購入者に対して課税資産の譲渡等を行っているのは、委託者ということから、本来、委託者が購入者に対して適格請求書を交付しなければなりません。この様な場合、受託者が委託者を代理して、委託者の氏名又は名称及び登録番号を記載した、委託者の適格請求書を、相手方に交付することも認められます(代理交付)。 また、次の①及び②の要件を満たすことにより、媒介又は取次ぎを行う者である受託者が、 委託者の課税資産の譲渡等について、自己の氏名又は名称及び登録番号を記載した適格請求書 又は適格請求書に係る電磁的記録を、委託者に代わって、購入者に交付し、又は提供することができます(媒介者交付特例)。
① 委託者及び受託者が適格請求書発行事業者であること
② 委託者が受託者に、自己が適格請求書発行事業者の登録を受けている旨を取引前までに通知していること(通知の方法としては、個々の取引の都度、事前に登録番号を書面等により 通知する方法のほか、例えば、基本契約等により委託者の登録番号を記載する方法など)。 なお、媒介者交付特例を適用する場合における受託者の対応及び委託者の対応は、次のとおりです。
受託者の対応:
① 交付した適格請求書の写し又は提供した電磁的記録を保存する。
② 交付した適格請求書の写し又は提供した電磁的記録を速やかに委託者に交付又は提供する。
委託者の対応:
① 自己が適格請求書発行事業者でなくなった場合、その旨を速やかに受託者に通知する。
② 委託者の課税資産の譲渡等について、受託者が委託者に代わって適格請求書を交付していることから、委託者においても、受託者から交付された適格請求書の写しを保存する。

以上

2021年9月26日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant