法定調書: 申告書提出期限1月末

1. 法定調書とは

12月の最終給与支給までに、 従業員の年末調整が行なわれ一区切りついたと思っても、 翌1月末までに提出、申告等の対応が必要となるものがあります。  その1つに法定調書作成がありますが、 これは、所得税法、相続税法等の法律の規定により、給与、報酬、家賃等の支払者(提出義務者)が、それらの1年間の支払いに関して、支払先の氏名、住所、支払金額等を記載し所轄税務署に提出が義務付けられている書類(全部で60種類ほど)です。この主目的は、税務署が適正な課税の確保を図ることを目的に支払事実を把握し、受給者が正しく所得を申告していることの確認手段になるものです。 提出すべき法定調書は、 特定項目の一定金額以上のものですが、 源泉徴収の対象になるものとは限っておりませんので留意してください。

なお、 2016年度分より行政機関への提出にあたり、 マイナンバー(個人番号、等)が必要となっています。

2. 提出する一般的な6種類の法定調書と支払内容

法定調書と支払内容支 払 内 容
給与所得の源泉徴収票と給与支払報告書(注2)俸給、給料、賞与等の支払
退職所得の源泉徴収票と特別徴収票(注2)退職手当(注1)、一時恩給等の支払
報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書① 原稿料、印税、講演料、工業所有権の使用料等の支払
② 弁護士、司法書士、税理士、弁理士、社会保険労務士、建築士等への報酬、料金の支払
③ 外交員、集金人、電力量計の検針人、モデル、プロ野球の選手、プロボクサー、騎手等への報酬、料金、契約金の支払、芸能人への出演料等の支払
④ バー、キャバレー等のホステス、コンパニオン等への報酬、料金の支払
⑤ 広告宣伝のための賞金、馬主への競馬の賞金の支払
不動産の使用料等の支払調書地代、家賃、権利金、礼金、更新料、承諾料、名義書換料等の支払
不動産等の譲受の対価の支払調書土地、建物等の譲受け(売買、交換、収用等)の代金の支払
不動産等の売買又は貸付のあっせん手数料の支払調書土地、建物等の売買や貸付の仲介手数料の支払

注1:死亡退職による退職手当等の場合には、相続税法による「退職手当等受給者別支払調書」を提出することになります。

注2:地方税法で提出が義務付けられています「給与支払報告書」及び「特別徴収票」は、

名称が異なりだけで、それぞれ「給与所得の源泉徴収票」及び「退職所得の源泉徴収票」と記載内容は同じものです。

3. 提出範囲

支払調書は、一定金額以上のもの等(支払金額の提出範囲)に該当するときに提出が必要となります。主な提出範囲は次のとおりです。

(1) 給与所得の源泉徴収票

年末調整受給者区分提出範囲(年間)
年末調整をしたもの法人役員(相談役、顧問など含む)150万円超
弁護士、公認会計士、 税理士等250万円超
上記以外の人(従業員)500万円超
年末調整をしなかったもの給与収入2,000万円超全部
「扶養控除等申告書」を提出した者のうち退職した者等250万円超(法人役員は50万円超)
「扶養控除等申告書」を提出しなかった者50万円超

(2)報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書
所得税法第204条第1項各号並びに所得税法第174条第10号及び租税特別措置法第41条の20の規定に基づく報酬 料金等の支払

区 分提出範囲
* 外交員、集金人、検針人、プロボクサー、ホステス等の報酬、料金
* 広告宣伝のための賞金
* 社会保険診療報酬支払基金からの診療報酬
年間50万円超
馬主に支払う競馬の賞金1回75万円超
プロ野球選手等の報酬及び契約金
弁護士、税理士等の報酬
作家、画家などの原稿料、画料
講演料、 その他の報酬、 料金等
年間5万円超

(3)その他の法定調書

法定調書提出範囲
退職所得の源泉徴収票法人役員が受給者であるもの
不動産の使用料等の支払調書
注:不動産、 不動産の上に存する権利、 総トン20トン以上の船舶、 航空機に対する対価を受領する法人と不動産業の個人の方が提出義務者となります。
年間15万円超
但し、不動産業である個人で、主として建物の賃貸借の代理や仲介を目的とする事業の方は提出義務はありません。
又、法人に対し賃借料のみを支払っている場合にはその支払調書の提出は不要ですが、支払が権利金、更新料等は提出が必要となります。
不動産管理会社を通じて、オーナーが個人の場合には、個人に支払う使用料等として提出となります。
不動産等の譲受の対価の支払調書年間100万円超
但し、不動産業である個人で、主として建物の賃貸借の代理や仲介を目的とする事業の方は提出義務はありません。
不動産等の仲介料の支払調書年間15万円超
但し、不動産業である個人で、主として建物の賃貸借の代理や仲介を目的とする事業の方は提出義務はありません。
公的年金等の源泉徴収票「扶養控除等申請書」を
提出した者:60万円超
提出しなかった者:30万円超
配当等の支払調書10万円超(中間配当がある場合は5万円超)
生命保険契約等の一時金の支払調書100万円超
損害保険契約等の満期返戻金等の支払調書100万円超
株式等の譲渡対価の支払調書同一人に対し100万円超
1回30万円超
国外送金等調書1回100万円超

4.提出先と提出期限
法定調書の提出期限は、原則として、その年の翌年の1月31日までとなっており、所轄税務署に提出することになります。税務署に提出する場合には、法定調書の合計表(給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表)と各法定調書(提出範囲のもの)を提出します。

支払金額に関係なく受給者(個人・法人)の全員にも、 翌年の1月31日まで帳票が送付され(法的には送付は強制されていませんが、通常は送付しています)、 個人では確定申告の作成資料等に使用、 又、 法人では受給金額・内容との照合等に使用することができます。

法定調書の提出方法に関して、基準年(前々年)の提出枚数が1,000枚以上(なお、令和3年1月1日以後の提出分から、100枚以上)であった法定調書の場合には、光ディスク等又はe-Taxによる提出が義務付けられています。

5.給与所得の源泉徴収票 (給与支払報告書)
サラリーマンの方にはお馴染みの給与所得の源泉徴収票は、 その年の給与所得に関する年末調整後(給与収入が2千万円超の方等は除く)の源泉徴収税額や税額計算情報が集約され記載されています帳票です。 税務署には、 一定金額以上の給与収入の「源泉徴収票」が提出され、 又、 同一内容ですが様式名が異なる給与支払報告書が個人の居住する市区町村に金額の制限なく全てが提出されます。
「給与支払報告書」(総括表を添える)提出先は、受給者(全員分)のその年の翌年の1月1日現在の住所地の市区町村となり、 提出期限は翌年の1月31日までとなっています(個人の居住する市区町村に金額の制限なく全てが提出されます)。
年度の途中で退職した者に対する給与支払報告書は、 支払額が30万円以下の場合には提出を省略することができます。 退職金の「特別徴収票」の提出先は、 受給者の退職日現在の住所地の市区町村となっており、 退職後1ケ月以内の提出となります。 市区町村では、 提出された資料から住民税の税額計算をおこない、 翌年6月から徴収を開始し1年間で納付が完了となります。

2021年12月5日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

令和3年度(2021年度)年末調整における主な改正・変更ポイント

年末調整に時期が近づいてきましたが、令和3年度に新たに影響する特別は税制改正事項がありませんが、前年度(令和2年度)には多くの改正事項がありましたので、再度、その主な内容を確認しておきたいと思います。
A. 令和2年度より主な改正事項
① 給与所得控除・公的年金等控除の減額から基礎控除の増額への振替
② 給与所得控除の見直し(減額)
③ 公的年金等控除の見直し(減額)
④ 基礎控除の見直し(増額)

1.給与所得控除の見直し
イ 給与所得控除額を一律10万円引下げ
ロ 給与所得控除額の上限が、給与等の収入金額850万円で195万円に引下げ

給与等の収入金額給与所得控除額
令和元年度令和2年度以降
162.5万円以下65万円55万円
162.5万円超 ~ 180万円以下収入金額X40%収入金額X 40%-10万円
180万円超 ~ 360万円以下収入金額X 30%+18万円収入金額X 30%+8万円
360万円超 ~ 660万円以下収入金額X 20%+54万円収入金額X 20%+44万円
660万円超 ~850万円以下収入金額X10%+120万円収入金額X10%+110万円
850万円超 ~ 1,000万円以下195万円(上限)
1,000万円超220万円(上限)

2.公的年金等控除の見直し
イ 公的年金等控除額を一律10万円引下げ
ロ 公的年金等の収入金額1千万円超における公的年金等控除額の上限が1,955千円
ハ 公的年金等の雑所得以外の合計所得金額に対する公的年金等控除額の引下げ

公的年金等の雑所得以外の合計所得金額 公的年金等控除額の引下金額
1千万円以下無し
1千万円超~2千万円以下一律、10万円引下げ
2千万円超一律、20万円引下げ

3.基礎控除額の見直し
イ 基礎控除額を一律10万円引上げ
ロ 合計所得金額が2,400万円超から逓減

合計所得金額(注)基礎控除額
令和元年度令和2年度以降
所得税住民税所得割所得税住民税所得割
2,400万円以下38万円33万円48万円43万円
2,400万円超~2,450万円以下32万円29万円
2,450万円超~2,500万円以下16万円15万円
2,500万円超

注:年末調整において、基礎控除の適用を受ける場合に見積額を基礎控除申告書で申告する。
地方税においては、前年の合計所得金額で判定する。

4.所得金額調整控除
以下のいずれかの要件に該当する場合(子育て世帯や介護世帯)には、負担増とならないように一定額を給与所得から控除します(控除額の緩和で夫婦双方での適用可)。
(1)給与等の収入金額が850万円超の居住者の中で、
① 特別障害者である者
② 年齢23歳未満の扶養親族を有する者
③ 特別障害者である同一生計配偶者又は扶養親族を有する者
給与所得から控除額(所得金額調整控除額) ={給与等の収入金額(上限1千万円)- 850万円}X 10%
給与等の収入金額が1千万円以上の場合には、所得金額調整控除額は15万円(最高)。
(2)給与所得控除後の給与等の金額及び公的年金等に係る雑所得の金額とがある居住者で、その合計額が10万円超の場合には、
給与所得から控除額(所得金額調整控除額)={給与所得控除後の給与等の金額(上限10万円)+ 公的年金等に係る雑所得の金額(上限10万円)}- 10万円
給与所得の金額 = 給与等の収入金額 − 給与所得控除額 − 所得金額調整控除額(最高10万円)
注:公的年金等に係る確定申告不要制度において、当所得金額調整控除を給与所得の金額から控除するものとする。

5.各種合計所得金額要件の見直し

項目 令和元年度令和2年度以降
同一生計配偶者及び扶養親族の合計所得金額要件38万円以下48万円以下
源泉控除対象配偶者の合計所得金額要件85万円以下95万円以下
配偶者特別控除の対象となる配偶者の合計所得金額要件38万円超~123万円以下48万円超~133万円以下とし、配偶者の合計所得金額の区分を、それぞれ10万円引下げる
勤労学生の合計所得金額要件65万円以下75万円以下

B. 所得控除額の確認
所得の合計額から控除できるもの(所得控除)には、次の15種類があります。
(1) 人的控除
① 基礎控除:全ての人が基本48万円の控除(所得制限あり)
  ② 扶養控除:扶養親族がいる場合には一定額の控除
  ③ 配偶者控除:控除対象配偶者がいる場合には一定額の控除
  ④ 配偶者特別控除:1,000万円以下の合計所得金額である人が生計を一にする配偶者がいる場合には一定額の控除(上記の③の控除と重複できない)
  ⑤ 勤労学生控除:本人が勤労学生である場合には27万円の控除
  ⑥ ひとり親控除:一定の要件を満たす場合には35万円の控除
  ⑦ 寡婦控除:一定の要件を満たす場合には27万円の控除
  ⑧ 障害者控除:本人、控除対象配偶者、扶養親族が障害者である場合には、それぞれに一定額の控除

(2) 物的控除
  ⑨ 寄付金控除:本人が特定の寄付金を支出した場合には一定額の控除
  ⑩ 生命保険料控除:生命保険料を支払った場合には、一般、 介護と個人年金とに区分して一定額の控除
  ⑪ 地震保険料控除:常時住んでいる家屋や家財等の地震保険料を支払った場合に   は一定額の控除
  ⑫ 小規模企業共済等掛金控除:当掛金を支払った場合には全額の控除
  ⑬ 社会保険料控除:1年間に支払った保険料は全額の控除
  ⑭ 医療費控除:本人や同一生計の親族の医療費を支払った場合には一定額の控除
  ⑮ 雑損控除:資産が災害、盗難などにより損害を受けた場合には、損失額が
    一定額を超えた分の控除
人的控除を一覧にすると以下のようになります。

人的控除項目対象者控除額本人の所得要件等
基礎控除 本人48万円合計所得金額24百万円以下。超える場合には、段階的に控除額減額(25百万円超でゼロ円)
扶養控除生計を一にし、 かつ、 年間所得が48万円以下である親族等(扶養親族)を有する者(事業専従者は除く)
年少扶養親族年齢が16歳未満
(所得税上は控除金額はありませんが、 住民税上では控除対象となりますので、 申告書上の住民税に関する事項の所に扶養者名等の記載をお忘れなく)
0万円
一般扶養親族年齢が16歳以上19歳未満又は23歳以上の70歳未満 38万円非居住者の場合には、原則、30歳以上70歳未満を除く
特定扶養親族年齢が19歳以上23歳未満63万円
老人扶養親族 年齢が70歳以上(非同居)48万円
(同居老親等加算) 直系尊属であり同居を常況 + 10万円
配偶者控除(注1)生計を一にし、 かつ、 年間所得が48万円以下である配偶者を有する者(事業専従者は除く)
(一般控除対象) 年齢が70歳未満 38万円
(老人控除対象)年齢が70歳以上48万円
配偶者特別控除
(注1)
生計を一にする年間所得が48万円を超え133万円未満である配偶者(事業専従者は除く) 最高38万円(年間所得に応じて)年間所得1,000万円以下
勤労学生控除 本人が学校教育法に規定する学校の学生、 生徒等27万円年間所得75万円以下かつ給与所得以外が10万円以下
寡婦控除
(ひとり親に該当しない方)
夫と離婚した者、 扶養親族(子以外:子を有する場合にはひとり親控除の適用)を有する者かつ住民票に夫(未婚)・妻(未婚)記載なし
又は、扶養親族無しで夫と死別した者又は生死不明である者かつ住民票に夫(未婚)・妻(未婚)記載なし
27万円年間所得500万円以下(給与収入678万円以下)
ひとり親控除①未婚(離婚後、死別後を含む、及び生死不明な配偶者がいる方も含む)のひとり親であり、②生計を一にする子の総所得金額等の金額が48万円以下であること
③未婚のひとり親が入籍しない事実婚の世帯であっても住民票に事実婚の旨「夫(未婚)・妻(未婚)」を登録記載されていないこと
35万円年間所得500万円以下(給与収入678万円以下)
障害者控除障害者である者
障害者である同一生計配偶者又は扶養親族者
27万円
(特別障害者)特別障害者である者
特別障害者である同一生計配偶者又は扶養親族者
40万円
(同居特別障害者)特別障害者である同一生計配偶者又は扶養親族と同居を常況としている者75万円

普通障害者・特別障害者の区分例:

障害の内容普通障害者特別障害者
精神に障害がある方で精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている方右の等級以外の方精神障害者保健福祉手帳の障害の等級が1級の方
身体上の障害がある方で身体障害者手帳の交付を受けている方障害の程度が3級から6級の方障害の程度が1級又は2級の方

注1:配偶者控除及び配偶者特別控除の見直し
配偶者の合計所得金額が48万円以下(給与収入では103万円以下)の場合に配偶者控除38万円(老人控除対象配偶者48万円)、 並びに配偶者控除は世帯主の年収に応じて縮小され、配偶者特別控除は配偶者の年収要件を103万円から150万円に引上げ、 かつ配隅者及び世帯主の年収に応じて控除額が以下の様に9段階で縮小となります。

配偶者控除等に関する源泉徴収及び確定申告における見直し
(1)給与等又は公的年金等の源泉徴収における源泉控除対象配偶者に係る控除適用は、夫婦いずれか一方しか適用できません。
(2)居住者の配偶者が、公的年金等の源泉徴収において源泉控除対象配偶者の適用を受け、かつ、公的年金等に係る確定申告不要制度を受ける場合には、その居住者は確定申告において配偶者特別控除の適用を受けることはできません。

C. 給与所得者の年末調整
1. 年末調整とは
会社等の給与支払者(源泉徴収義務者)は、給与等の支払時に所定の源泉所得税を徴収しています。この源泉所得税は事前の条件下での計算に基づくものであり、一種の仮計算による前払税金ですので、この仮計算を最終条件に基づいての再計算(年税額を確定する手続)が年末調整です。具体的には、給与支払者は暦年(1月~12月)の総給与額に対して12月の最終給与支払日に最終条件に基づいて再計算し、徴収していた総源泉所得税の過不足を調整(精算)します。
通常のサラリーマンは、事業者が行うこの年末調整で給与収入の納税手続きは完了(事務処理・対応の緩和)となり、個人が行う確定申告は不要となりますので、税制度の内容に触れることが少ないことから税知識の理解不足に繋がっている感があります。

2. 年末調整の対象者又は非対象者
年末調整の対象者は、 原則として会社に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している人は全員含まれます。 但し、 給与収入額が2千万円を超える人は年末調整を行ないませんので自身の所得税確定申告を通じて年税額の精算をしなければなりません。 通常、 1カ所から給与支給を受けている人は、 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出し年末調整を受けることになります。

次の人は年末調整の対象者にはなりません。
(1) 年中の給与収入額が2千万円を超える人
(2) 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していない人(年末調整を行うことができませんが、 支払の際の源泉徴収においては乙欄の税額表が適用となっています)
(3) 年中に退職(死亡退職した人、 非居住者として国外勤務者となった人、 等を除く)した人
(4) 国内に住所も1年以上の居所を有していない人(非居住者)
(5) 災害免除法の規定により源泉徴収について徴収猶予や還付を受けた人
(6) 日雇労働者等(丙欄の税額表適用者)

この様に一般のサラリーマンの方は、この年末調整を給与支払者から受けることで、その年の所得税は確定しますので、原則として確定申告は必要ありません。年末調整の対象外の方や、年末調整の一部処理洩等の方は、通常、その年の翌年の2月15日から3月15日の間に確定申告を行います。

3. 年末調整のスケジュール
一般的な年末調整のスケジュール(流れ)は、以下のようになります。

11月上旬必要書類の準備および従業員への事前案内
中旬従業員への年末調整用の提出書類の案内  注1
下旬年末調整用書類の回収
12月上旬回収書類のチェック
中旬年末調整計算
下旬給与支給(年末調整の還付又は追徴)
翌年1月10日期限徴収税額の納付
20日期限徴収税額の納付(特例適用の場合)
31日期限源泉徴収票の交付(従業員)法定調書合計表の
提出(税務署)注2
給与支払報告書の
提出(市区町村)注3

注1:扶養控除等/保険料控除申告書の書類や証明書の提出を依頼します。 この時に、次年度分の扶養控除等申告書の作成・提出も併せて依頼すると良いでしょう。
注2:合計表と共に法定調書提出の対象となる一定の役員等の源泉徴収票(1枚)も提出します。
注3:給与支払報告書とは、源泉徴収票と同じ書式であり、2枚と一定の事項を記載した総括表(表紙)も提出します。

上述の様に11月となりますと給与支払者(会社)は、 年末調整の準備・対応が始まり、 勤務者(従業員)は年末調整の為に必要となる申告書や証明書類等を所定の期限までに給与支払者に提出することが求められます。 給与支払者は、 勤務者から回収した年末調整用の書類の内容を確認しその最終情報に基づいて、 暦年における最終給与支払い時(通常、 12月給与)に納めるべき年間の所得税(年税額)を算出し、 これまでの支給時に源泉徴収された税額と比べその過不足額を精算(徴収又は還付)します。 一般的には、 年末調整により還付されるケースが多いかと思います。

4. 年末調整での取扱項目
給与所得者の年末調整で取扱える項目と取扱えない項目の主なものは、次の通りです。

取 扱 項 目   非取扱項目(要確定申告)
社会保険料控除(生計を一にする親族等の負担分)雑損控除
小規模企業共済等掛金控除医療費控除
生命保険料控除寄付金控除
地震保険料控除 住宅借入金等特別控除(初年度)
配偶者控除、 又は配偶者特別控除その他各種特別控除
所得金額調整控除
住宅借入金等特別控除(2年目以降)
障害者控除
ひとり親控除
寡婦控除
中途入社の方は、前職の給与収入(源泉徴収票)
扶養家族等の控除情報更新(注)

注:年始にはその年の給与所得者の扶養控除等(異動)申告書が提出(原則として、 本年最初の給与の支払を受ける日の前日までに提出)されているため、その内容は毎月の給与計算に反映され、源泉所得税が給与収入から天引されています。 提出後に控除関連事項に異動が生じた場合には、 その都度異動申告を行うことになっています。

年末調整の為に提出が求められる申告書とその中に記載される控除項目は以下のとおりです。 当該控除項目以外に所得から控除可能な項目がある場合にはそれらの項目は確定申告で行うことになります。

申告書の名称控除項目
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書扶養控除、 障害者控除、 ひとり親控除、寡婦控除、 勤労学生控除
給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書基礎控除、
配偶者控除・配偶者特別控除、
所得金額調整控除
給与所得者の保険料控除申告書生命保険料控除(一般生命・介護医療・個人年金)、 地震保険料控除、 社会保険料控除(申告分)、 小規模企業共済等掛金控除(申告分)
給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書(特定増改築等)住宅借入金等特別控除(2年目から年末調整の対象で初年度は確定申告が必要)

注: マイナンバーの記載不要の特例制度
平成28年1月よりマイナンバー制度が導入されています。原則、マイナバーを記載すべき書類の提出を受ける際には、その都度(毎回)必ず、マイナバーカード等で本人確認する必要があります。但し、平成29年分以後の扶養控除等(異動)申告書等へのマイナンバーの記載不要の特例制度が創設され、その適用要件として、過去にマイナンバーの情報が提供されており、 一度その番号確認を実施した上で作成した帳簿(特定個人情報ファイル)を会社が備えているときには記載不要となりました。 これは、確認書類の提示を受けることが困難な場合を前提とされていますが、変更が無いことが口頭等で確認されていれば参照できることでよいかと思います。なお、本人確認のうち身元確認については、過去に一度確認を行っている場合、本人を対面で確認することで明らかに本人であると認識されたる場合には、身元確認書類の提示は不要となります。
マイナンバーの記載不要の特例制度が適用できない方には、以下の対応が必要となります。
「平成3年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出にあたり、 給与所得者本人、 源泉控除対象配偶者、 控除対象扶養親族等の個人番号を記載することになります。 提出にあたり、 給与支払者が給与所得者から個人番号の提供を受ける場合は、 本人確認として、 提供の番号が正しいことの確認(番号確認)と、 番号提供者が真にその番号の持ち主であることの確認(身元確認)を行う必要があります。 なお、 控除対象配偶者、 控除対象扶養親族等の本人確認は、 給与所得者(従業員)が行うことになっています。
平成28年1月以降の支払に係る給与所得の源泉徴収票には、 上記の個人番号を記載して税務署等の行政機関に提出することが必要となりますので、 「扶養控除等(異動)申告書」に必要なマイナンバーが記載されていない場合には、 源泉徴収票作成までにマイナンバーの提供を受ける必要があります。 なお、 給与所得者への源泉徴収票には、 個人番号は記載されません。

申告書記載上の主な注意点は以下のものがあります。
(イ) 12月31日時点の現況で記載
その年の12月31日現在の現況を見積もりで記載することになります。 見積記載の内容に修正が生じた場合(例えば、 扶養者数の増減、 等)には、 再年末調整(翌年の1月末までは可能)又は確定申告により適正な精算を行うことになります。

(ロ) 人的控除項目の判定基準に合計所得金額基準
控除項目の中(控除対象配偶者、 控除対象扶養控除、 配偶者特別控除等の人的控除項目)には、 その控除に該当するかの判定基準にその年度の合計所得金額となりますので留意してください。 多い誤りとしては、 配偶者の合計所得金額が控除対象金額を超えているケースです。
配偶者控除の場合の合計所得金額は、 48万円以下(給与収入額では103万円以下)でなければなりません。
配偶者特別控除の場合の合計所得金額は、 48万円超~133万円以下でなければなりません。
公的年金等の雑所得だけの方で控除対象扶養者(合計所得金額が48万円以下)になる場合には、 公的年金等の雑所得以外の合計所得金額が1千万円以下では、公的年金等の収入金額が158万円以下(年齢65歳未満の人は108万円以下)という条件を満たす人です。

「所得金額」として、 税法の規定のなかに「合計所得金額」、 「総所得金額」、 「総所得金額等」の3種類が適用判定基準の中に出てきますが、 それぞれ多少の違いがあります。
①合計所得金額、 ②総所得金額、 ③総所得金額等の定義
総所得金額とは、総合課税項目の所得合計であり、合計所得金額とは、更に分離課税での繰越控除適用前の分離課税所得等を加えた所得合計であり、総所得金額等とは、更に分離課税での繰越控除を控除した所得金額となります。

所得種類  各種繰越控除の適用
利子所得所得金額の損益通算合計所得金額* 純損失や雑損失の繰越控除
* 居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除
* 特定居住用財産の譲渡損失の繰越控除
* 上場株式等の譲渡損失の繰越控除
* 特定中小会社発行株式の譲渡損失の繰越控除
* 先物取引の差金等決済損失の繰越控除
総所得金額総所得金額等
配当所得
不動産所得
事業所得
給与所得
雑所得
一時所得2分の1
総合課税の譲渡所得長期
短期
分離課税(土地・建物等)の譲渡所得(特別控除適用前)長期
分離課税の株式等の譲渡所得短期
分離課税の先物取引の雑所得
退職所得
山林所得

(ハ) 年齢16歳未満の年少扶養親族
控除対象扶養控除に関して、 平成23年度から年齢16歳未満の年少扶養親族に対する扶養控除が所得税では廃止となっています(年齢16歳未満は所得税における扶養控除対象者ではありません)。 しかし、 住民税の方では控除対象となっていますので住民税に関する欄への記載を忘れないでください。 なお、 年齢16歳未満の年少扶養親族であっても、 障害者又は特別障害者に該当する場合には、 障害者控除を受けることはできます。
令和3年度の年末調整時における年齢16歳未満とは、 平成18年1月2日以後に生まれた人が年少者となります。

(ニ) 扶養親族
所得者と生計を一にする親族(6親等内の血族と3親等内の姻族)で、 合計所得金額が48万円以下の人を扶養親族(配偶者、青色事業専従者及び白色事業専従者を除く)といいます。 その中には、 以下のように区分されています。
① 控除対象扶養親族
扶養親族のうち、 年齢16歳以上の人をいいます(令和3年度の年末調整では、 平成18年1月1日以前に生まれた人)。
② 特定扶養親族
扶養親族のうち、 年齢19歳以上23歳未満の人をいいます(令和3年度の年末調整では、 平成11年1月2日から平成15年1月1日までの間に生まれた人)。
③ 老人扶養親族
控除対象扶養親族のうち、 年齢70歳以上の人をいいます(令和3年度の年末調整では、 昭和27年1月1日以前に生まれた人)。
④ 同居老親等
老人扶養親族のうち、 所得者又はその配偶者のいずれかとの同居を常況としている必要がありますが、 同居特別障害者は、 所得者、 その配偶者又は所得者と生計を一にするその他の親族のいずれかとの同居を常況としていることが適用の要件となっています。

(ホ) 生命保険料控除の改組
平成24年(2012年)1月1日からの契約分(新契約)から一般生命保険に含まれていた「介護医療保険」が独立の控除対象となりました。 平成23年までの契約分(旧契約)については、 昨年までと同様に「一般生命保険」と「個人年金保険」の2つに分けられ最高控除額は、 各5万円です。 新契約は、 「一般生命保険」、 「介護医療保険」と「個人年金保険」の3つに分けられ最高控除額は、 各4万円となります。 なお、 旧契約と新契約が混在するケースも発生することもありますが、 各保険料控除の合計適用限度額が12万円とされています。 従いまして、 支払保険契約が、 旧契約か新契約かを保険会社からの証明書で確認しながら申請書に正しく記載する必要があります。
生命保険契約等により支払われた保険料や掛金は所得者本人が支払ったものに限られています。 又、 保険金、 共済金等の給付金の受取人の全てが所得者本人又は所得者の配偶者や親族となっていることが必要です。
翌年以後に払込期日が到来する保険料を一括して前納保険料がある場合には、 本年中に相当する部分のみが支払保険料の金額となります。

(ヘ) 社会保険料控除
所得者本人と生計を一にする親族が負担することになっている社会保険料を所得者自身が支払った場合(時限措置により納付可能となった過去分の保険料の支払分も含む)には、 所得者本人の社会保険料として控除できます。
年金から特別徴収された介護保険料や後期高齢者医療保険料については、 支払者が年金受給者自身となることから、 その年金の受給者の社会保険料として控除となります。
翌年以後に払込期日が到来する保険料を一括して前納保険料がある場合には、 前納期間が1年以内の場合には、 その全額を本年の社会保険料として控除することができます。 なお、 国民年金保険料については、 2年分を前納できることになりましたので、 全額控除をするか、 又は期間按分して控除(この場合には、 按分の明細書が要作成)する方法のいずれかを選択することが可能です。

(ト) 地震保険料控除
所得者本人と生計を一にする親族が所有して常時居住している家屋や生活に通常必要な家財に対して支払った保険料の内、 一定の金額を地震保険料控除として控除できます。
一つの契約等で、 地震等損害に対する損害保険契約と旧長期損害保険契約のいずれの契約区分にも該当する場合には、 選択によりいずれか一方の契約区分のみが地震保険料控除の控除額となります(有利な方を選択する)。

(チ) (特定増改築等)住宅借入金等特別控除
現在、 各種の住宅借入金等特別控除がありますが、 控除を受けようとする初年度分については、 確定申告により控除の適用を受ける必要があります。 2年度以降分については、 年末調整の際に下記のものを給与支払者に提出します。
① 税務署長が発行した「年末調整のための(特定増改築等)住宅借入金等特別控除証明書」。 この証明書の上部に「給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書」がありますので、 控除金額等の記載を行い提出します。
② 金融機関等が発行した「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」
一般の住宅借入金等特別控除は、 居住者が一定の要件を満たす住宅の取得等して、 その人の居住の用に供した場合(その家屋の取得等の日から6ケ月以内に居住用に供したものに限られています)において、 その住宅の取得等のために一定の住宅借入金(償還期間10年以上等)を有するときには、 居住年以後10年間(平成13年7月1日から平成30年12月31日までの間で居住した場合には、 最長10年間。 それ以前のものは最長15年間)の各年のうち、 合計所得金額が3千万円以下である年について、 住宅借入金等の年末残高を基にした所定額を住宅借入金等特別控除としてその年の所得税額から控除できるというものです。
家屋に入居後、 本年12月31日まで継続して居住用に供していることが控除の適用要件ですので、 年度の途中で海外勤務となり出国している場合には、 この制度の適用はありません。
自己の居住用の家屋が2以上有する場合には、 主として居住用とする1の家屋に限られます。
連帯債務(共有)の場合には、 各年12月31日現在のその住宅借入金等の金額に控除を受ける人の負担割合(持分割合)を加味して控除額を計算します。 その割合は、 小数点以下第4位を切上げ、 90%以上である場合は100%とします。

住宅ローンの借換え: この制度の適用者が、 住宅借入金等の借換えをした場合に一定の要件を満たすときには適用が継続します。 住宅ローン金利が低くいものがあるとローンの借換えを行う場合があります。 一般の住宅ローンの場合の借換えでは、 新たな借入金が当初の借入金を消滅させるもので、 適用対象となっていた家屋の取得等のための資金に充てるものであれば住宅ローン控除の継続適用の対象となります。 その場合の新たな借入金の償還期間も10年以上であることが適用要件となっています。 ローン借換後の借入額が借換前の借入残高以下であれば、 年末借入残高が控除対象額となりますが、 逆に借換後の借入額が借換直前の借入残高を上回る場合、 次の按分計算して控除対象額を導く必要があります。
ローン借換後の借入額の年末残高 X (借換直前の借入残高 ÷ 借換直後の借入額) = 控除対象借入額の年末残高

(リ) 給与と徴収税額の集計
年中に支払った給与・賞与が対象になりますが、 本年分の給与で未払いであっても、 本年中に支給時期がきており支払金額が確定したものについても年末調整の対象になります。

(ヌ) 年末調整のやり直し(再調整)
年末調整後に関係事項に異動があった場合には、 年末調整のやり直し(再調整)をすることになります(①以外は翌年1月末までに所定の申告書の提出を受け翌年1月末までなら可能)。 例えば、
① 給与の追加払いがあった場合
年末までに本年分の給与の追加払いがあった場合には、 年末調整のやり直しをしなければなりません。
翌年になって給与改訂により本年分まで遡って支給することになっても、 それは改訂時の年度の所得となりますので年末調整のやり直し対象にはなりません。
② 控除対象配偶者、 控除対象扶養者等の数に異動(増減) があった場合
異動事項の申告を受けた場合には、 年末調整のやり直しを行ないます。
③ 保険料の追加払いがあった場合
保険料控除額に影響する保険料の追加払いがあり異動事項の申告を受けた場合には、 年末調整のやり直しを行ないます。
④ 配偶者等の控除対象者の合計所得金額の見積額と確定額に差異があり控除額が変動することになった場合
異動事項の申告を受けた場合には、 年末調整のやり直しを行ないます。
⑤ 住宅借入金等特別控除申告書の提出があった場合
申告書の提出を受けた場合には、 年末調整のやり直しを行ないます。
なお、 上記の様に年末調整後に関係事項に異動があった場合で年末調整のやり直しがされなかった項目の中で、 所得税額が過少になっている場合には、 確定申告で適正に精算する必要があります。

5. 令和3年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
令和3年分の扶養控除、 障害者控除、 ひとり親控除、寡婦控除、 勤労学生控除の各控除の為に申告書を作成しますが、同時に令和4年度の扶養親族等を確認・確定します。
その控除に該当するかの判定は、その年度の合計所得金額(見積金額)と年度末等における現況によることになります。
A 源泉控除対象配偶者
 「源泉控除対象配偶者」とは、居住者(合計所得金額が900万円以下である者に限る)の配偶者でその居住者と生計を一にするもの(青色事業専従者等を除く)のうち、合計所得金額が95万円以下である者をいう。
B 控除対象扶養親族(平成18.1.1以前生まれの16歳以上)
 ①一般扶養親族(年齢16歳以上19歳未満)
 ②特定扶養親族(年齢19歳以上23歳未満)
 ③老人扶養親族(年齢70歳以上(非同居))
 ④同居老人扶養親族(年齢70歳以上(同居))
C 障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生
イ 障害者
 一般障害者(所得者、同一生計配偶者、扶養親族)
 特別障害者(所得者、同一生計配偶者、扶養親族)
 同居特別障害者(同居:同一生計配偶者、扶養親族)
ロ 寡婦
①-1夫と離婚した者で扶養親族(子以外:子を有する場合にはひとり親控除の適用)を有する者、かつ住民票に夫(未婚)・妻(未婚)記載(いわゆる事実婚)なし
①-2又は、扶養親族無しで夫と死別した者又は生死不明である者、かつ住民票に夫(未婚)・妻(未婚)記載なし
②合計所得金額500万円以下であること
ハ ひとり親
①未婚(離婚後、死別後を含む、及び生死不明な配偶者がいる方も含む)のひとり親
②生計を一にする子の総所得金額等の金額が48万円以下であること
③未婚のひとり親が入籍しない事実婚の世帯であっても住民票に事実婚の旨「夫(未婚)・妻(未婚)」を登録記載されていないこと
④合計所得金額500万円以下であること
二 勤労学生(所得者本人)
D 他の所得者が控除を受ける扶養親族等
〇 住民税に関する事項:16歳未満の年少扶養親族(平成18.1.2以後生まれ)

6. 令和3年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書
基礎控除、配偶者控除・配偶者特別控除、所得金額調整控除の各控除の為に申告書を作成します。
(1)給与所得者の基礎控除申告書
所得者の給与所得及び他の所得の合計金額に応じて基礎控除額が決まります。

合計所得金額基礎控除額
所得税住民税所得割
2,400万円以下48万円43万円
2,400万円超~2,450万円以下32万円29万円
2,450万円超~2,500万円以下16万円15万円
2,500万円超

2)給与所得者の配偶者控除等申告書
所得者の所得金額と生計0を一にする配偶者の所得金額との組み合わせをより、配偶者控除額又は配偶者特別控除額が決まります。
配偶者の合計所得金額が48万円以下(給与収入では103万円以下)の場合に配偶者控除38万円(老人控除対象配偶者48万円)を上限に、 配偶者控除は世帯主の年収に応じて縮小され、配偶者特別控除は配偶者の年収要件を103万円から150万円に引上げ、 かつ配隅者及び世帯主の年収に応じて控除額が9段階で縮小となっています。

(3)所得金額調整控除申告書
所得者の年間給与収入金額が850万円超の場合で、以下のいずれかの要件を満たす場合には、控除額15万円(最高)の適用があります。
① 所得者本人が特別障害者である者
② 年齢23歳未満の扶養親族を有する者
③ 特別障害者である同一生計配偶者を有する者
④ 特別障碍者である扶養親族を有する者
給与所得から控除額 =(給与等の収入金額(上限1千万円)- 850万円)X
 10%
給与等の収入金額が1千万円以上の場合には、所得金額調整控除額は15万円(最高)。

なお、給与所得控除後の給与等の金額及び公的年金等に係る雑所得の金額がある所得者で、その合計額が10万円超の場合には、最高10万円の所得金額調整控除額があり、給与所得から控除することがありますが、年末調整では適用を受けることが出来ません。その場合、年末調整の際に「給与所得者の基礎控除申告書」等で合計所得金額を計算する時には、当該年金所得金額を考慮する必要があります。
給与所得から控除額(所得金額調整控除額)={給与所得控除後の給与等の金額(上限
10万円)+ 公的年金等に係る雑所得の金額(上限10万円)}- 10万円
給与所得の金額 = 給与等の収入金額 − 給与所得控除額 − 所得金額調整控除額(最高10万円)

7. 令和3年分 給与所得者の保険料控除申告書
生命保険料控除(一般生命・介護医療・個人年金)、 地震保険料控除(申告分)、 社会保険料控除、 小規模企業共済等掛金控除(申告分) の各控除の為に申告書を作成します(証明書類の添付)。
(1)生命保険料控除(一般生命・介護医療・個人年金)
① 所得者本人が支払ったもので、保険金等の受取人が所得者又はその配偶者や親族(個人年金保険の場合には親族を除く)であることが必要
② 新旧の保険区分に注意
(2)地震保険料控除
① 所得者本人が年内に支払ったもので、所得者又は生計を一にする親族が所有する常時居住する家屋や、生活に通常必要な家財を目的とする保険であることが必要
② 同一契約内に地震保険と旧長期損害保険がある場合には、いずれか有利の保険料を選択
(3) 社会保険料控除
① 所得者又は生計を一にする親族分で所得者が支払ったもの
② 配偶者が年金から特別徴収(天引き)された保険料(介護保険料等)については、その年金受給者が支払ったことになることに注意(所得者からの控除とはならない)
(4)小規模企業共済等掛金控除
① 確定拠出年金法に基づく企業型年金加入者掛金、個人型年金加入者掛金(iDeCo等)も含む
② 前納減額金は、支払い掛金から控除

8.  給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書
ローン控除の初年度は確定申告により控除適用を受ける必要があります。2年目以降は年末調整で控除を適用することができますので、年末調整時に、
① 添付書類として、税務署長が発行したその年度分の「年末調整のための(特定増改築等)住宅借入金等特別控除証明書」
② 添付書類として、金融機関等が発行した「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」

9. 税務関係書類における押印の不要
源泉所得税関係書類について、押印が不要となりました。

10. 年末調整手続の電子化
令和2年度の年末調整から、生命保険料控除、地震保険料控除及び住宅借入金等特別控除(ローン控除)の3件に係る控除証明書等については、従業員から電子データで会社に提出できることになっています。具体的には、
① 従業員が保険会社、金融機関、税務署等から電子データで受領する。
② 従業員が当電子データを専用の年末調整ソフトを使用してインポートし年末調整申告用の電子データを作成する。
③ 従業員が年末調整申告用の電子データと控除証明書等データを会社に提供(送信)する。
④ 会社が、送信されたデータを給与システムにインポートして年末調整計算を行う。
注:現時点では、全ての保険会社、金融機関等がこの電子化に対応しているわけではありませんので、事前確認が必要としています。

電子化の事前準備:
① 給与システム等の対応準備
② 事前に税務署に会社が「源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申請書」を提出し、その承認が令和3年度より不要となりました。
③ 従業員に周知徹底

以上が年末調整等の概要となります。

2021年11月15日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

みなし解散と商業登記遵守

法務省から「みなし解散」の通知を受けたことはありませんか。既に数年前から完全なる休眠会社であり、その様な解散通知されても問題は無い場合もあるかもしれませんが、継続して事業・営業活動を行っているにも拘わらず「みなし解散」されてしまった場合には、その後の継続処理、特に税務申告処理は面倒となりますので、その様にならない為の事前の留意点、或いは解散という最悪の事態となった場合の元に戻す事後の処理を説明します。
1.役員の任期と登記のルール
会社法の規定により,株式会社の取締役の任期は,原則として2年,株式の譲渡制限規程のある閉鎖会社においては最長でも10年とされており,取締役の交替や重任の場合にはその旨の登記が必要とされており,株式会社については,取締役の任期毎に,取締役の変更登記がされることになります。又,一般社団法人及び一般財団法人に関する法律の規定により,理事の任期は2年とされ,同様に少なくとも2年に一度,理事の変更の登記がされることになります。又、取締役又は理事の変更に限らず,株式会社,一般社団法人又は一般財団法人は,その登記事項に変更があった場合には,所定の期間内にその変更の登記が必要とされています。
注:有限会社等には、役員の任期満了に伴う重任登記というものはありません。

2. みなし解散となる状況
しかしながら、最後の登記をしてから12年を経過している株式会社,又は最後の登記をしてから5年を経過している一般社団法人又は一般財団法人が,まだ事業を廃止していない場合には,その届出をする必要があります。この様な時期を迎えている場合には、法務省より事前に通知連絡がありますので、その所定の期間内に必要な登記(役員変更等)の申請又は「まだ事業を廃止していない」旨の届出を行うことでみなし解散を回避できますが、それを怠れば,解散したものとみなされ,法務省の職権で解散の登記がされてしまいます。これが、みなし解散です。更に、法人の代表者個人が過料(罰金)を支払うことになってしまいます。
3.みなし解散という整理作業の必要性(法務省より)
長期間登記がされていない株式会社,一般社団法人又は一般財団法人は,既に事業を廃止し,実体がない状態となっている可能性が高く,このような休眠状態の株式会社,一般社団法人又は一般財団法人の登記をそのままにしておくと,商業登記制度に対する国民の信頼が損なわれることになります。
そこで,株式会社については,最後の登記をしてから12年を経過しているもの,一般社団法人又は一般財団法人については,最後の登記をしてから5年を経過しているものについて,法務大臣の公告を行い(法務省から確認申請の通知有り),2か月以内に「まだ事業を廃止していない」旨の届出や役員変更等の登記の申請がない限り,みなし解散の登記をすることとしています。
4.みなし解散された場合の事後対応
みなし解散登記が行われてしまった場合には、法的な解散であり、これを撤回することは出来ませんが、みなし解散の登記後3年以内に限り法人継続のチャンスがあります。
(1)解散したものとみなされた株式会社は,株主総会の特別決議によって,株式会社を継続することができます。
(2)解散したものとみなされた一般社団法人又は一般財団法人は,社員総会の特別決議又は評議員会の特別決議によって,法人を継続することができます。
特別決議で継続したときは,2週間以内に継続の登記の申請をする必要があります。
5.みなし解散後の法人継続までの税務申告
みなし解散され法人継続の登記を行った場合、税務申告においては、先ずは解散に伴う手続きが必要となりますので、最短でも1年間に3回の決算・申告(①直近の開始事業開始日から解散日までの期間、②解散日の翌日から特別決議による事業継続日までの期間、そして③事業継続日の翌日から定款上の事業年度終了の日までの期間)を行う必要があります。

以上から、役員任期関連で登記時期を見過ごしますと、みなし解散となり予期せぬ事後対応が必要となってしまいますので、登記スケジュールには留意すべきです。特に、法務省からの登記確認の申請通知が来ましたら遅滞なく対応することが必要です。

2021年10月30日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

インボイス制度における適格請求書発行事業者の登録制度開始

令和5年(2023年)10月からインボイス制度「適格請求書等保存方式」導入にあたり、「適格請求書」を交付できる事業者「適格請求書発行事業者」の登録が10月1よりスタートします。以下に、事業者が適正に消費税申告を行う為に対応・留意しなければならい概要(主に、国税庁HPより)を記載してみます。

1.インボイス制度の導入
令和5年10月1日から、消費税に関して複数税率(10%、軽減税率の8%、等)に対応した仕入税額控除の方式として、諸外国と同様な「適格請求書等保存方式」(インボイス方式)が導入されます。同日から、仕入税額控除の適用要件として、原則、事前登録した「適格請求書発行事業者」から交付を受けた「適格請求書(インボイス)」の保存が必要となります。特に、今後、適格請求書発行事業者でない免税事業者等との取引に対して留意すべきことがあります。
消費税額の計算方法:
 納付消費税額 = 課税売上に係る消費税額 - 課税仕入れ等に係る消費税額 
         (売上税額:仮受消費税額)  (仕入税額:仮払消費税額)
                           仕入税額控除
2.請求書等及び帳簿の記載事項
軽減税率適用に併せて請求書等及び帳簿の作成・記載事項等は、以下の様になっています。 令和5年10月に、インボイス制度として「適格請求書等保存方式」を導入されまので、請求書等の記載事項に留意すべきです。

請求書等保存方式
(令和元年9月30日以前)
区分記載請求書等保存方式
(令和元年10月1日~)
適格請求書等保存方式
(インボイス制度)
(令和5年10月1日~)
①請求書発行者の氏名又は名称
②取引年月日
③取引の内容
④対価の額
⑤請求書受領者の氏名又は名称
①~⑤同左の記載①~⑤同左の記載
⑥軽減税率対象課税品目である旨(帳簿にも要記載)
⑦税率の異なるごとに合計した対価の額
(注)記載が不備の場合に、請求書の交付を受けた事業者による追記も可
同左の記載
⑦税率の異なるごとに合計した対価の額及び適用税率
⑧登録番号
⑨消費税額等
*売手に区分記載請求書の交付・保存義務は課されません。
*買手に区分記載請求書の保存を仕入税額控除の要件になりますが、追加記載事項(⑥と⑦)は買手が事実に基づき追記することが認められます。
偽りの請求書の交付行為に対しての罰則はありません。
*「適格請求書発行事業者」から交付を受けた「適格請求書」又は「適格簡易請求書」の保存が仕入税額控除の要件となります、「適格請求書等保存方式」(インボイス制度)が導入されます。
*適格請求書発行事業者には、「適格請求書」又は「適格簡易請求書」の交付・保存を義務付け、偽りの請求書の交付行為に対して罰則があります。
*「適格請求書発行事業者」とは、免税事業者以外の課税事業者であり、所轄税務署長に申請書を提出し、交付事業者として登録を受けた事業者です(登録番号を受領)。登録申請は、令和3年10月1日から登録制度が開始されます。 登録後、その氏名又は名称及び登録番号等はインターネット上で公開となります。なお、令和5年10月1日から登録を受ける為には、原則、令和5年3月31日までに登録申請書を提出する必要があります。
*「適格請求書」とは、上記事項を記載した請求書、納品書、その他これらに類する書類をいいます。
*1つの適格請求書に記載されている個々の商品ごとに消費税額を計算することはできません。複数商品の税率区分ごとの合計金額に対して消費税額を計算し表記します。税額の円未満の端数処理は、任意となります。

3.適格請求書(インボイス)
(1)適格請求書の記載事項
「適格請求書」とは、次の全ての事項が記載された書類(請求書、納品書、領収書、レシート、契約書、等)をいいますが、1つの書類に記載される必要はなく複数の書類でカバーさせていればよいことになっています。
① 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
登録番号と紐付けられて管理されている取引先コード等で相手方と共有されていれば、取引先コードの記載で要件が満たされます。
② 課税資産の譲渡等を行った年月日
③ 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(課税資産の譲渡等が軽減対象資産の 譲渡等である場合には、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等である旨)
④ 課税資産の譲渡等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額及び適用税率
⑤ 税率ごとに区分した消費税額等(消費税額及び地方消費税額に相当する金額の合計額をいいます)
⑥ 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称
なお、返品や値引き等の売上の返還等を行う場合には、「適格返還請求書」を交付し、又、交付した請求書に誤りがあった場合には、「修正した適格請求書」を交付します。
又、適格請求書、適格簡易請求書等の交付に代えて、これらに係る電磁的記録(電子データ)を提供することもできますが、その保存方法が決められています。

(2)適格請求書の保存期間
課税期間の末日の翌日から2月を経過した日から7年間保存する必要があります。

(3)適格請求書に記載する消費税額の端数処理
消費税額に1円未満の端数が生じる場合、1つの適格請求書につき、税率ごとに1回の端数処理を行う必要があります(切上げ、切捨て、四捨五入などの端数処理は任意)。従って、1つの適格請求書に記載されている個々の商品ごとに消費税額計算し、その合計額を記載等することは認められません。

(4)適格請求書に税抜価額と税込価額が混在する場合
スーパー等の小売業等では1つの適格請求書において、税抜価額表記の商品と税込価額表記の商品が混在するような場合、いずれかに統一して「課税資産の譲渡等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した額」を記載するとともに、これに基づいて「税率ごとに区分した消費税額」を算出して記載する必要があります。

4.適格請求書交付義務の免除項目(免除課税資産)
適格請求書発行事業者は免税事業者を除く他の課税事業者から求められたときには適格請求書を交付しなければなりませんが、次の課税資産の譲渡等は、事業の性質上、適格請求書を交付することが困難な為、交付義務が免除されています(帳簿の保存のみで仕入税額控除が認められます)。
① 3万円未満の公共交通機関(船舶、バス又は鉄道)による旅客の運送 :金額は1回の取引価額で判定。例えば、1人運賃13,000円で4人分の52,000円の運賃を支払う場合には、52,000円での判定となりますので免除対象となりません。
② 出荷者等が卸売市場において行う生鮮食料品等の販売(出荷者から委託を受けた受託者 が卸売の業務として行うものに限ります。)
③ 生産者が農業協同組合、漁業協同組合又は森林組合等に委託して行う農林水産物の販売 (無条件委託方式かつ共同計算方式により生産者を特定せずに行うものに限ります。)
④ 3万円未満の自動販売機及び自動サービス機により行われる商品の販売等(代金の受領と資産の譲渡等が自動で行われる機械装置があり、それにより完結するもの。例えば、コインロッカーやコインランドリー等は含まれますが、機械装置から資産譲渡等を伴わないセルフレジ、ネットバンキング等は含まれません)
⑤ 郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出されたものに限 ります。)
⑥ その他請求書等の交付が困難な課税資産の譲渡等のうち一定のもの
なお、免税取引、非課税取引及び不課税取引のみを行った場合には、適格請求書の交付義務は課されません。

5.適格簡易請求書の交付可能な事業者
適格請求書発行事業者が不特定かつ多数の者に課税資産の譲渡等を行う一定の事業を行う場合には、適格請求書に代えて「適格簡易請求書」を交付することができます。 適格簡易請求書は、適格請求書と異なる点は、書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称が省略でき、又、税率ごとに区分した消費税額等か適用税率のどちらかを記載するところです。
適格簡易請求書の交付可能な事業者例として、
①小売業、②飲食店業、③写真業、④旅行業、⑤タクシー業、⑥駐車場業(不特定かつ多数の者に対するものに限ります)、⑦その他これらの事業に準ずる事業で不特定かつ多数の者に資産の譲渡等を行う事業
となっています。
不特定かつ多数の者に対する事業とは、相手方の氏名等を認識せず取引条件等を予め提示して相手方を問わず広く行うことが常態である事業等をいいます。
なお、適格簡易請求書についても、交付に代えて電磁的記録(電子データ)を提供することができます。

6.適格請求書発行事業者の登録制度
「適格請求書発行事業者」とは、免税事業者以外の課税事業者であり、所轄税務署長に申請書(適格請求書発行事業者の登録申請書)を提出し、交付事業者として登録を受けた事業者です(登録番号を受領)。登録申請は、令和3年10月1日から登録制度が開始されます。 登録後、その氏名又は名称及び登録番号等は通知及びインターネット上で公開(国税庁HP上の適格請求書発行事業者公表サイト)となります。なお、インボイス制度の導入日の令和5年10月1日から登録を受ける為には、原則、令和5年3月31日までに登録申請書を提出する必要があります(なお、特定期間の課税売上高又は給与等支払額の合計額が1千万円を超えて課税事業者となる場合は、提出期限は令和5年6月30日までに延長)。
登録申請は、e-Taxの利用(申請後の登録通知は2週間程度後)、又は郵送等の場合(申請後の登録通知は1ヵ月程度後)には各国税局のインボイス登録センターとなります。
登録の効力は、適格請求書発行事業者登録簿に登録された日(登録日)から生じます。登録日以降の取引については、買手方(課税事業者に限る)の求めに応じ、適格請求書を交付する義務があります。
なお、課税期間の中途での登録申請も可能です。

登録番号の構成:
① 法人の課税事業者は、T+法人番号
② 法人以外の個人事業者等の課税事業者は、T+13桁の数字
免税事業者の登録に関しては下記7Ⅱを参照。

7.免税事業者等からの仕入税額控除
(1)仕入税額控除の経過措置
インボイス制度が導入されます令和5年10月以降、仕入税額控除を受けるには、「帳簿」及び税務署に申請して登録を受けた課税事業者である「適格請求書発行事業者(登録事業者)が交付した適格請求書」の保存が必要となります。従いまして、
免税事業者、適格請求書発行事業者登録されていない課税事業者、並びに事業者で無い消費者からの課税仕入れに対して、仕入税額控除の適用を受けることが出来なくなります。但し、下記の様に特例で令和5年10月から令和11年9月までの6年間は、仕入税額相当の一定割合を税額控除できる経過措置が設けられています。

区分記載請求書等保存方式免税事業者からの仕入についても、仕入税額控除できます。
適格請求書等保存方式
(インボイス制度)
原則、免税事業者、適格請求書発行事業者登録されていない課税事業者等からの仕入は、仕入税額控除ができませんが、次の期間内での特例が認められています。
令和5年10月~
令和8年9月までの3年間
仕入税額相当額の80%控除
令和8年10月~
令和11年9月までの3年間
仕入税額相当額の50%控除
令和11年10月~仕入税額控除の対象とすることができません。

この経過措置の適用を受ける為には、次の事項が記載された帳簿及び請求書等の保存が必要となります。
(A)帳簿
「80%控除対象」など、経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨の記載が追加で必要です。具体的な記載事項は次のとおりです。

① 課税仕入れの相手方の氏名又は名称
② 課税仕入れを行った年月日
③ 課税仕入れに係る資産又は役務の内容及ぶ経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨
④ 課税仕入れに係る対価の額
(B)請求書等
① 書類の作成者の氏名又は名称
② 課税資産の譲渡等を行った年月日
③ 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(軽減対象資産の場合には、その資産の内容及び軽減対象資産である旨)
④ 税率ごとに合計した課税資産の譲渡等の税込価額
⑤ 書類の交付を受ける当該事業者の氏名又は名称

(2)免税事業者の登録申請手続
免税事業者からの請求に対して、令和11年10月より相手課税事業者は完全に仕入税額控除の対象とすることが出来なくなります。免税事業者が適格請求書発行事業者として登録を受けるためには、「消費税課税事業者選択届出書」を提出し、課税事業者となる必要があります。(令和11年10月以前に)適格請求書を交付できる課税事業者となる登録手続は、以下の様になっています(経過措置もあり)。

① 登録申請が令和5年10月1日を属する課税期間の経過措置及び留意点
令和5年10月1日を属する課税期間中に適格請求書等発行事業者登録した場合には、「消費税課税事業者選択届出書」を提出する必要はありません。留意点として、その登録日(令和5年10月1日)に課税事業者となりますので、基準期間の課税売上高にかかわらず、登録日から期末日までの期間に対する消費税の申告が必要となります。なお、経過措置の適用を受けない課税期間に登録を受ける場合には、原則どおり、課税選択届出書を提出し課税事業者となる必要があります。

② 登録申請が令和5年10月1日を属する課税期間の翌課税期間以降の場合
免税事業者が、「消費税課税事業者選択届出書」を提出し、課税事業者を選択し課税期間の初日から登録を受けようとする場合は、その課税期間の初日の前日から起算して1月前までに登録申請書の提出が必要となります。

以下は、免税事業者の登録申請の要約表となります。

登録申請時期
右記の前事業年度以前令和5年10月1日の属する事業年度(課税期間)左記の翌事業年度以降
経過措置適用の期間原則適用
消費税課税事業者選択届出書提出不要提出し、同時に課税事業者となる課税期間の初日の前日から1ヵ月前までに登録申請書の提出が必要
(登録日が4月1日ならば、申請の提出期限は2月28日)
適格請求書発行事業者の登録申請書申請し登録を受けた日から課税事業者となる(登録日以前は免税事業者期間)。
免税免税課税事業者及び適格請求書発行事業者

なお、適格請求書発行事業者の登録後に、基準期間の課税売上高が1千万円以下になっても、登録の効力が失われない限り課税事業者として継続します。

免税事業者である個人事業者の場合にも、令和5年10月1日から適格請求書発行事業者の登録を受ける為には、経過措置により登録申請書を令和5年3月31日までに提出する必要があります(課税選択届出書の提出は不要)。同年10月1日から12月31日の期間は課税事業者として令和5年分の消費税の申告が必要となります。なお、登録日の前日である9月30日に免税事業者であった期間中に課税仕入れの棚卸資産を有しているときは、その仕入税額控除の適用を受けることができます。なお、経過措置の適用を受け、同時に簡易課税制度の選択適用を受ける場合には、同年10月1日に属する課税期間中に消費税簡易課税制度選択届出書を同年12月31日までに提出(令和5年分から適用する旨を記載)すればよいことになります(法人も同様な扱いになります)。

(3)免税事業者の今後の検討課題
上述しましたが、免税事業者からの課税仕入れに対して、適格請求書の交付を受けることが出来ませんので仕入税額控除の適用を受けることが出来なくなります。その為に、売上先が課税事業者(適格請求書発行事業者)の場合には、免税事業者との取引を減らしていくことが予想されます。特に、小規模な免税事業者が課税事業者になれば、収める消費税の分だけ支出が増え事業経営に影響を受けるというデメリットがありますので、次の経営環境状況を検討し課税事業を選択するかを判断されても良いかと思います。

(1)課税事業者を選択することが望まれる経営環境(売上高に重大な影響を受ける可能性がある)(2)免税事業者を継続する経営環境(課税事業者と取引できなくともあまり問題が無い)
*課税事業者との取引が多い*免税事業者同士との取引が主である
*新規顧客(課税事業者)を開拓していく経営方針がある*不特定多数を顧客とする業種(小売業、飲食業等の消費者を顧客)である
*競合状況にあり他の課税事業者と比べて価格面で明らかに不利と予想される*商品・サービスに独自性があり競合が少ない

(4)インボイス制度下で免税事業者は消費税を付加請求可能か否か
インボイス制度が導入後(令和5年10月1日以降)も、免税事業者及び適格請求書発行事業者登録されていない課税事業者は、適格請求書を交付することができませんが、消費税法に基づく10%の消費税を付加表記した請求書は発行できます。
消費税法57条の5「適格請求書類似書類等の交付の禁止」という規定があり、その内容は、適格請求書発行事業者以外の者は、適格請求書発行事業者が作成した適格請求書又は適格簡易請求書であると誤認される恐れがある表示をした書類を他の者に対して交付し、又は提供してはならない、というものです(違反者には罰則規定あり)。この「誤認」の範囲は明確ではありませんが、明らかなものとして、適格請求書発行事業者でないのに登録番号を請求書等に記載することです。この適正な登録番号の課税事業者であるかは、国税庁で登録者を公開していますので、仕入税額控除を適用する事業者には、登録確認の負担や責任は課されていることになります。
現行の法制度上では免税事業者は消費税を請求書に記載出来ないという規定はどこにもありません。免税事業者からの取引では、あくまでも免税事業者は適格請求書を交付できなく、かつ納税義務者ではないということ、及び取引先が仕入税額控除を行うことができなくなることだけです。

8.新設法人等の登録時期の特例
免税事業者である新設法人(個人事業者、新設合併、新設分割の新規開業等も含む)の場合には、事業開始(設立)時から適格請求書発行事業者の登録を受ける為には、設立後、その課税期間の末日までに課税選択届出書と登録申請書(初日から登録を受けようとする旨の記載)を併せて提出する必要があります。
なお、課税事業者である新設法人の場合には、事業開始の課税期間の末日までに登録申請書(初日から登録を受けようとする旨の記載)を提出する必要があります。

9.適格請求書発行事業者の登録取消
登録取消を受ける場合には、課税期間の末日から31日前に「適格請求書発行事業者の登録の取り消しを求める旨の届出書」を提出することで、翌課税期間の初日から登録の効力が失われます。従って、末日から30日前の届出の場合には、翌々課税期間に登録取消となります。なお、免税となる要件を満たす事業者は、「消費税課税事業者選択不適用届出書」を提出しない限り、課税の免除とはなりません。
消費税法上、事業を廃止した場合に「事業廃止届出書」を提出により適格請求書発行事業者の登録の効力が失われます。

10.適格請求書発行事業者からの事業承継(相続)
① 令和5年10月1日以前に死亡した場合
被相続人の登録効力が生じていませんので、相続により事業承継した相続人が、令和5年10月1日から適格請求書発行事業者の登録を受けようとする場合には、原則として、令和5年3月31日までに登録申請書を提出する必要があります。この場合、同日までに提出できなかった困難な事情がある場合に、その旨を記載して令和5年9月30日までに提出することが認められます。
個人事業者が死亡した場合には、「個人事業者の死亡届出書」の提出も行う。
② 令和5年10月1日以後に死亡した場合
相続人は、「適格請求書発行事業者の死亡届出書」を提出する必要があります。その登録の失効は、提出日の翌日又は死亡日の翌日から4カ月後のいずれか早い日となります。
相続により事業承継した相続人が適格請求書発行事業者の登録を受けようとする場合には、登録申請書を提出する必要があります。この場合、相続の翌日から、相続人の登録日の前日又は被相続人の死亡日から4カ月後のいずれか早い日までの期間については、相続人の適格請求書発行事業者と見做す措置が設けられています(被相続人の登録番号を相続人の登録番号と見做す)。

11.修正する適格請求書の交付
売手である適格請求書発行事業者は、交付した適格請求書、適格簡易請求書又は適格返還請求書の記録事項に誤りがあったときには、相手である課税事業者に対して、修正した適格請求書、適格簡易請求書又は適格返還請求書を交付しなければなりません。これらの交付方法例として、
① 誤りがあった事項を修正し、改めて記載事項の全てを記載したものを交付(差替え)
② 当初交付したものとの関連性を明らかにし、修正した事項を明示したものを交付
原則、誤りを買手が自ら追記や修正を行ったものでは仕入税額控除の適用要件を満たしませんが、買手の課税事業者が作成した一定事項の記載のある仕入明細書等の書類で、売手の確認を受けたものについては、仕入税額控除の適用の為に必要な請求書等に該当となります。

12.口座振替・口座振込による家賃等の支払の留意事項
通常、契約書に基づき代金決済が行われ、取引の都度、請求書や領収書が交付されない取引であっても、仕入税額控除の適用を受ける為には、原則として、適格請求書の保存が必要となります。
適格請求書は、一定期間の取引をまとめて交付することも可能(一定期間の賃借料についての適格請求書の交付を受けて保存する)となります。
適格請求書として必要な記載事項は、1つの書類だけで全てが記載されている必要はなく、複数の書類で記載事項を満たせばOK。例えば、契約書に適格請求書として必要な記載事項の一部が記載されており、他に実際に行った取引の客観的な書類で全ての記載事項を満たし保存することで、仕入税額控除の適用要件を満たします。
口座振替の場合、適格請求書の記載事項の一部(例えば、課税資産の譲渡等の年月日以外の事項)が記載された契約書とともに、通帳(課税資産の譲渡等の年月日の事実を示すもの)を併せて保存することで、仕入税額控除の適用要件を満たします。
口座振込による家賃の支払う場合、適格請求書の記載事項の一部が記載された契約書とともに、銀行が発行した振込金受取書を保存することにより、請求書等の保存があるものとして、仕入税額控除の適用要件を満たします(複数の書類を合わせて1つの適格請求書とすることが可能)。
注:令和5年9月30日以前からの契約について、契約書に登録番号等の適格請求書として必要な事項の一部の記載が不足している場合には、別途、登録番号等の記載が不足していた事項の通知を受け、契約書とともに保存することで仕入税額控除の適用要件を満たします。

なお、クレジットカード決済の場合にも、仕入税額控除の為には、記載要件を満たす適格請求書が必要となります。

13.適格請求書(及び適格簡易請求書)の電磁的記録(電子データ)の保存方法
適格請求書発行事業者は、適格請求書の交付に代えて電磁的記録を相手に提供できますが、その場合、提供した電磁的記録を電子帳簿保存法に準拠して、
(1) 電磁的記録のまま、又は
(2) 紙に印刷して、
提供した日の課税期間末の翌日から2月後から7年間保存しなければなりません。
上記の(1)の電磁的記録のまま保存する場合には、以下の措置を講ずる必要があります。
① 次のイからニのいずれかの措置を行うこと
イ 適格請求書の電磁的記録を提供する前にタイムスタンプを付してから電磁的記録を提供すること
ロ 次のいずれかの方法により、提供後であるがタイムスタンプを付すとともに、電磁的記録の保存者又はその直接監督者の情報を確認できるようにしておくこと
* 適格請求書の電磁的記録を提供後に、速やかにタイムスタンプを付すこと
* 適格請求書の電磁的記録を提供からタイムスタンプを付すまでの各事務処理に関する規定を定め、その処理の通常の期間経過後、速やかにタイムスタンプを付すこと
ハ 適格請求書の係る電磁的記録の記録事項について、次のいずれかの要件を満たす電子計算機システムを使用して適格請求書の電磁的記録の提供及びその電磁的記録を保存すること
* 訂正又は削除を行った場合、その事実及び内容を確認することができること
* 訂正又は削除することができないこと
ニ 適格請求書の係る電磁的記録の記録事項について正当な理由のない訂正又は削除の防止に関する事務処理規程を定めて運用を行い、当該電磁的記録の保存に併せて当該規程の備付けを行うこと
② 適格請求書の係る電磁的記録の保存等に併せて、システム概要書の備付けを行うこと
③ 適格請求書の係る電磁的記録の保存等をする場所に、その電磁的記録の電子計算機処理の用に供することができる電子計算機、プログラム、ディスプレイ及びプリンタ並びにこれらの操作説明書を備え付け、その電磁的記録をディスプレイの画面及び書面に、整然とした形式及び明瞭な状態で、速やかに出力できるようにしておくこと
④ 適格請求書の電磁的記録について、次の要件を満たす検索機能を確保しておくこと
注:国税に関する法律の規定による電磁的記録の提示又は提出に応じることができるようにしているときは、次のⅱ及びⅲの要件は不要となり、その判定期間の基準期間の売上高が1千万円以下の事業者が、同様に国税の電磁的記録の提示又は提出に応じることができるようにしているときは検索機能の全てが不要となります。
ⅰ 取引年月日その他の日付、取引金額及び取引先を検索条件として設定できること
ⅱ 日付又は金額の記録項目については、その範囲を指定して条件を設定できること

上記(2)の適格請求書の電磁的記録を紙で保存しようとするときには、整然とした形式及び明瞭な状態で出力した書面を保存する必要があります。

14.仕入税額控除の要件
インボイス制度の下では、一定事項が記載された帳簿及び請求書等の保存が仕入税額控除の適用要件となります。保存すべき請求書等には、次の様なものが含まれます。
(1)適格請求書
(2)適格簡易請求書
(3)適格請求書又は適格簡易請求書の記載事項に係る電磁的記録(電子データ)
(4)適格請求書の記載事項を買手が記載した仕入明細書、仕入計算書その他これに類する書類の場合、課税仕入れの相手方(売手)の確認を受けたものに限られます(電子データを含む)
(5)次の取引について、媒介又は取次に係る業務を行う者が作成する一定の書類(電子データを含む)
イ 出荷者等が卸売市場において行う生鮮食料品等の販売(出荷者から委託を受けた受託者 が卸売の業務として行うものに限ります。)
ロ  生産者が農業協同組合、漁業協同組合又は森林組合等に委託して行う農林水産物の販売 (無条件委託方式かつ共同計算方式により生産者を特定せずに行うものに限ります。)
(6)次の取引について、請求書等の交付を受けることが困難であるなどの理由により、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で認められます。
① 適格請求書の交付義務が免除される、3万円未満の公共交通機関(船舶、バス又は鉄道)による旅客の運送
② 適格簡易請求書の記載事項(取引年月日を除く)が記載されている入場券等が使用時に回収される取引(①に該当分を除く)
③ 適格請求書発行事業者でない古物営業者(古物商、中古車販売業等)からの古物購入(棚卸資産に限定)
④ 適格請求書発行事業者でない質屋営業車からの質物取得(棚卸資産に限定)
⑤ 適格請求書発行事業者でない宅地建物取引業者からの建物購入(棚卸資産に限定)
⑥ 適格請求書発行事業者でない再生資源及び再生部品の購入(購入者の棚卸資産に限定)
⑦ 適格請求書の交付義務が免除される、3万円未満の自動販売機及び自動サービス機により行われる商品の購入等
⑧ 適格請求書の交付義務が免除される、郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出されたものに限定)
⑨ 従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当)

15.納付税額の計算方法

区分記載請求書等保存方式現行通り、適用税率ごとに取引総額に110分の10、或いは108分の8を乗じて計算する「割戻し計算」を維持する。
適格請求書等保存方式
(インボイス制度)
適用税率ごとに取引総額に110分の10、或いは108分の8を乗じて計算する「割戻し計算」と、「適格請求書」に記載のある消費税額の「積上げ計算」のいずれかを選択できます。
但し、売上税額を「積上げ計算」する場合には、仕入税額も「積上げ計算」としなければなりません。

16.事業者別対応・検討事項
以上から、事業者としてインボイス制度の導入に伴い、対応・検討すべき事項があります。
(1)原則課税事業者
① 適格請求書発行事業者の登録申請
② 適格請求書等の様式変更
③ 仕入税額控除の適用要件の理解と税区・税率等の記帳確認
④ 免税事業者等の登録申請事業者以外の事業者との取引(業者選択の検討)

(2)簡易課税制度の選択課税事業者
① 適格請求書発行事業者の登録申請
② 適格請求書等の様式変更
③ 基準期間の課税売上高が50百万円超になる可能性が低い場合には、仕入税額控除の原則処理を気にしなくても良いかと思われます。
④ 免税事業者等の登録申請事業者以外の事業者との取引(業者選択の検討)
⑤ 課税売上高から納付消費税額を計算することから、売手側からの適格請求書等の保存は仕入税額控除においては必要となりません。

(3)免税事業者(上記7Ⅲを参照)
① 競争の激しい環境下にある場合に、仕入税額控除の対象外として登録申請事業者から取引を削減・停止となるリスク存在の有無確認
② 上記①のリスクがあり営業に重大な影響が考えられる場合には、課税事業者を選択し、かつ登録申請することを検討する。
③ 上記②で登録申請することを選択した場合に、簡易課税制度の選択が有利か否かを同時に検討する。
④ 課税事業者として、同様に上記(1)又は(2)の対応

17.委託販売:媒介者交付特例
委託販売の場合、購入者に対して課税資産の譲渡等を行っているのは、委託者ということから、本来、委託者が購入者に対して適格請求書を交付しなければなりません。この様な場合、受託者が委託者を代理して、委託者の氏名又は名称及び登録番号を記載した、委託者の適格請求書を、相手方に交付することも認められます(代理交付)。 また、次の①及び②の要件を満たすことにより、媒介又は取次ぎを行う者である受託者が、 委託者の課税資産の譲渡等について、自己の氏名又は名称及び登録番号を記載した適格請求書 又は適格請求書に係る電磁的記録を、委託者に代わって、購入者に交付し、又は提供することができます(媒介者交付特例)。
① 委託者及び受託者が適格請求書発行事業者であること
② 委託者が受託者に、自己が適格請求書発行事業者の登録を受けている旨を取引前までに通知していること(通知の方法としては、個々の取引の都度、事前に登録番号を書面等により 通知する方法のほか、例えば、基本契約等により委託者の登録番号を記載する方法など)。 なお、媒介者交付特例を適用する場合における受託者の対応及び委託者の対応は、次のとおりです。
受託者の対応:
① 交付した適格請求書の写し又は提供した電磁的記録を保存する。
② 交付した適格請求書の写し又は提供した電磁的記録を速やかに委託者に交付又は提供する。
委託者の対応:
① 自己が適格請求書発行事業者でなくなった場合、その旨を速やかに受託者に通知する。
② 委託者の課税資産の譲渡等について、受託者が委託者に代わって適格請求書を交付していることから、委託者においても、受託者から交付された適格請求書の写しを保存する。

以上

2021年9月26日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

認知症と所有不動産処分

新聞に「認知症 自宅の処分難題」といを記事がありましたので、認知症を患うと所有不動産の処分・取引に影響する問題とは何か、そして、その対策・解決方法は何かを取り上げてみたいと思います。
例えば、自宅所有の方が認知症になり、介護施設等に入所することに迫られた場合に、入所金、介護費用、医療費等の負担が重くなり資金の捻出のためにそのご自宅を売却する必要がでた時に、ご家族の判断のみで例外無く売却手続きを進めることが可能でしょうか。答えはNOです。
通常、不動産を売却する時に、司法書士が所有権移転登記の手続きをおこないますが、司法書士には、正当な契約であったか確認する義務があるため、登記手続きをおこなう前の売買取引契約時に、本人確認および意思確認をおこなって契約に有効性があるか判断します。その際、認知症により不動産の所有者である本人の意思確認が十分にできないと判断された場合、売買契約が成立しませんので司法書士は登記手続きをおこなうことはできません。
この様な状況になっている場合、意思確認が十分にできない様な認知症になった親の不動産を売却したいという状況では、「成年後見制度」による成年後見人をつけることが必須になります。

1.成年後見制度
成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害などが原因で判断能力が不十分な人に対して、後見人が法律的に保護・支援をおこなう制度です。この制度の成年後見人は、本人に代わって財産管理や介護施設入所への契約などを行うことが出来ますが、本人の能力によって、後見(判断能力が全くない)・保佐(判断能力が著しく不十分)・補助(判断能力が不十分)の3つの分類があり、親族、弁護士、司法書士、社会福祉士、法人、市区町村長などが成年後見人になることができます。
成年後見制度の申立てが行いるのは、本人、配偶者、4親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、検察官、市区村長などとなっています。
なお、成年後見制度には「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類があります。「任意後見制度」とは、本人に判断能力があるうちに公正証書を作成して後見になってくれる方と任意後見契約を結び、事前に自ら任意後見受任者を選んでおく制度のことです。一方、「法定後見制度」とは、本人の判断能力が不十分になった場合、家族等が家庭裁判所に申立てをし、審判により法定任後見人が選定され本人の代わりに支援を行う制度です。以下は、法定後見制度に関連しています。

2.家庭裁判所に「成年後見人」選任の申立
成年後見人の申立ては家庭裁判所に対して行い、申立書に記載された成年後見人候補者が適任であるかどうかが審理されます。場合によっては候補者以外の弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門職、法律または福祉に関する法人などが選任されることもあります。
成年後見人は後見が終了するまで行った職務の内容を定期的にまたは随時、家庭裁判所に報告する義務があります。家庭裁判所に申立てる際、成年後見人候補者として記載した子や親族などが後見人に選ばれる場合もあり、又、家庭裁判所が必要と判断した場合は「後見監督人」を選任して、後見人に対する監督事務を行わせることがあります。
成年後見人の任期は不動産を売却したら終わりではなく、認知症本人の病状が回復するか、亡くなるまで続きます。

3.成年後見人を立てる前に診断書が必要
成年後見人をつけて認知症になってしまった親の不動産を売却することにしたい場合、先ずは病院で認知症であると医師に診断してもらう必要があります。医師の診断書がなければ、家庭裁判所に成年後見人の申立てを認めてもらうことはできません。

4.成年後見人との利益相反が起きる場合
成年後見制度は活用できるが、だれを成年後見人に選任するかによって、相続の際に問題になることもあります。例え「不動産の売却」が当初の目的であったとしても、成年後見人として選任された人は、本人が亡くなった際、相続人に財産を引渡すところまでが仕事となります。
例えば、長男が認知症の母親の成年後見人となっている際に、父親の相続が発生したというケースでは、長男は母親の「成年後見人」であり、かつ母親と共同で亡父の「相続人」であることになります。このような「利益相反」が起きるときは、2つの身分(相続人と成年後見人)のどちらかを捨てなければなりませんが、その場合の解決方法は下記①~③のいずれかとなります。
① 相続放棄し、成年後見人に専念する
② 後見監督人等がいる場合、遺産分割は後見監督人が成年被後見人を代理して行う
③ 家庭裁判所に「特別代理人」の選任を申し立て、特別代理人を選任する
血縁者が成年後見人となった場合、既述のように相続の際に利益相反が起きやすいです。そのため成年後見人の選出の際に、家庭裁判所が本人を取り巻く状況を踏まえて、候補者以外の弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門職、法律または福祉に関する法人などが選任されるケースがあります。

5.成年後見では家庭裁判所の許可がないと所有者が認知症の家は売れない
成年後見人や保佐人、また補助人になったからといって、認知症になった親の不動産を自由に売却できるわけではありません。認知症になった親の不動産を売却するためには、成年後見人を選任する手続きをおこなった後、改めて家庭裁判所に「居住用不動産処分許可」の申立てをし、許可を得る必要があります。
家庭裁判所が不動産売却に対して許可を出すかどうかは、以下の要素から判断されます。

売却の必要性本人の財産状況として売却が必要であるか。
本人の生活や看護の状態、意思確認入所や入院の状況と帰宅の見込み、本人の意向確認。帰宅の見込みがある場合、帰宅先をどのように確保するか。
売却代金の保管売却代金の入金や保管をどのようにおこなうか。
親族の処分に対する意向本人の推定相続人などの親族が売却に対して反対していないか。

6.後見人選定から不動産売却までの流れ
以上から、成年後見人の選任から不動産売却までの流れは下記となります。ケースバイケースではありますが、成年後見人の選任にかかる期間は1~2カ月程です。売却したい不動産が自宅の場合は、同じく家庭裁判所の許可が必要になるため、別途申立ての許可に時間がかかります。

1本人の所在地を管轄する家庭裁判所に「成年後見制度開始」の審判を申立てる
家庭裁判所から依頼された医師が本人の意思能力を評価し、診断書を作成
2後見人の選定、審判の確定
3後見人の選定、審判の確定
4不動産会社と売買契約に向けて買主を探す
5本人に代わり、成年後見人が買主と売買契約を結ぶ
6家庭裁判所の許可
(売却した資金の使い道などの明確な記載が必要)
7家庭裁判所からの許可後、売買代金の精算、所有権移転の登記が行われる

7.認知症を発症前の対策
上述が、判断能力が不十分となった場合のケースでしたが、財産を処分するには判断能力が必要になりますので、判断能力のあるうちの対応には下記のことが考えられます。
① 信託の利用
財産の管理を第三者に委託する方法もあります。
② 任意後見契約の締結
上述しました成年後見制度の一つであります、自分の判断能力が衰えたときに備えて、本人が「任意後見受任者」を選び、公正証書を作成して任意後見契約を締結して備える。

8.信託の利用
信託とは、「自分の大切な財産を、信頼する人に託し、大切な人あるいは自分のために管理・運用してもらう制度」のことです。財産の管理・運用を、「誰のために」「どういう目的で」ということを自分が決めて、信頼できる人に託すこと(信託すること)が、信託の大きな特徴です。
財産を信託された人(受託者)は、信託した人(委託者)の決めた目的の実現に向けて信託された財産を管理・運用します。「信託」は、以下の3者の関係からなる制度です。
* 委託者(自分)……財産を預ける(信託する)人
* 受託者(信託銀行、親族等)……財産を預かって(信託されて)管理・運用する人
* 受益者(恩恵を受ける人)……財産から生じる利益を得る人
信託の基本的な仕組みは、
① 自分の大切な財産を、信頼できる人に信託し
② 受託者は信託された財産を管理・運用し、そこから生まれた利益を
③ 委託者が指定した人(受益者)に渡します。
というのが最も基本的な信託のしくみになります。
委託者は、自分が持つ財産を契約などにより受託者に託します。信託すると、委託者の財産の所有権は受託者に移転し、受託者が信託された財産の所有者となります(不動産の場合には受託者として登記します)。この点が、他の制度にはない信託の最も大きな特徴です。
信託された財産は、受託者のもとで受益者のための財産として管理・運用することになります。委託者および受益者への大きな責任を負う信託銀行等の受託者(商事信託の場合)には、信託法や信託業法などの法律に基づいて様々な厳しい義務が課せられているため、信託した財産は安全に管理されます。
信託をすると、受益者は信託財産から生じる利益を受取る権利を持つことになります。これを「信託受益権」といいます。
(1)信託財産と信託目的
委託者から信託銀行等の受託者に信託された財産を「信託財産」といいます。信託できる財産の種類には、現金や土地・建物など金銭的価値のあるものであれば信託することができますが、農地、預貯金や一部の証券会社除き上場株式などの有価証券は実質的に不可となります。
また、信託した財産を、誰のために、どのような目的で、どのように管理・運用するかということは、委託者が決めます。これを「信託目的」といいます。脱法的なもの等ではない限り、「信託目的」も委託者が自由に決めることができます。

(2)商事信託と民事信託との違い
信託という大きな枠組みの中では、信託銀行や信託会社が行う「商事信託」とそれ以外の「民事信託」の二つに分けることができます。
① 商事信託
商事信託とは、財産を託される受託者を信託銀行や信託会社がビジネスとして他人の財産を管理運用等する仕組みです。他人から託された財産について報酬をもらって運用して、運用益をその人に戻すという従来からある信託です。
② 民事信託(家族信託)
一方で、民事信託とは、信託銀行等が担っていた受託者の立場を家族などの一般人が代わって行う制度です。信託銀行などのようにビジネスとして他人の財産を預かる場合については信託業法上の免許が必要で非常に要件は厳しいのですが、民事信託のようにビジネスとして行わない信託について免許は不要です。ただし、信託銀行などのように不特定多数の人から財産を預かって、信託報酬を得るようなことはできません。あくまで特定の人の財産を原則として報酬をもらわずに管理運用などをすることを「民事信託」といいます。なお、「家族信託」というものがありますが、これは民事信託のなかでも、特に受託者を家族が担う場合を家族信託と呼ぶようになっていますが、公的な呼称ではありません。
民事信託は、信託契約などによって内容を決めるので自分の生存中から死亡後まで、財産の管理活用承継について柔軟な設定ができます。また、自分が信頼した人に財産を託すことができるので、成年後見制度のようにまったく知らない人に財産を管理されたり、家庭裁判所の監督下に置かれたりするようなことはありません。家族を受託者にすることもできるので、司法書士などの専門職が成年後見人になった場合に比べ、長い目でみれば費用も安く抑えることができる場合があります。
成年後見制度では、財産の管理・活用・承継を一つの契約ですることができるので、認知症対策から遺言の機能までを一つの契約内で持たせることも可能です。さらに、通常の遺言では、自分の死後に発生した相続(二次相続以降)について財産を承継する者を指定することはできませんが、信託では二次相続以降についても財産を承継する者を指定することができます。
この様に、信託は、従来の成年後見制度や遺言では果たせなかったことについて、補完することができる新しい仕組みといいます。
 
以上が、不動産売却等に伴う認知症になる前後の対応策を言及しました。「前」は、任意後見制度又は信託があり、信託は特に不動産や非上場株式に有効に機能する方法かと思います。「後」は、法定後見制度の活用となります。
いずれの対応策もメリット・デメリットがありますので、状況に合わせて活用方法を決めることになるかと思います。

2021年8月20日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

名義変更に伴う低解約返戻保険等の評価の見直し

国税庁は、経営者等向け保険の中に加入初期に解約返戻金を抑え、その低い返戻金時に経営者等に名義変更し課税額を抑え、経営者等は返戻金が増加後に解約し節税効果を得るという保険商品がありました。これを、新たな課税方法では、解約返戻金が保険料の資産計上額の一定割合を下回る場合に資産計上額で課税額を算出するという見直しを行った。その改正基本通達36-37の概要は、以下の通り。

保険契約等の種類経営者等に名義変更時の評価方法
令和3.6.30までの変更令和3.7.1以後の変更
下記②及び③以外の保険契約支給時解約返戻金額

注1
低解約返戻金型保険:
支給時解約返戻金額<支給時資産計上額×70%
支給時解約返戻金額支給時資産計上額

注1
復旧することができる払済保険等支給時資産計上額プラス法人税基本通達9-3-7の2による損金算入額

注1:法人税基本通達9-3-5の2の適用を受けるものに限定。従って、適用対象は、令和元年(2019年)7月8日以後に締結した保険契約からとなります。同日以前の保険契約には原則、適用対象外。

法人税基本通達9-3-5の2とは(2019年7月8日以後の契約分から適用):
国税庁は、生命保険各社が節税対策になると販売していた解約返戻率が高い定期保険等について、課税ルールの見直しの基本通達を発表しています。その概要は以下の通りです。過熱した節税保険ブームに歯止めをかけるということから、見直しの基本方針には変更が無いかと思われます。
対象の保険とは:
法人が契約者で役員又は使用人(これらの親族も含む)を被保険者とする保険期間が3年以上の定期保険又は第三分野保険で最高解約返戻率が50%超の加入保険が対象となります。
従いまして、対象外となる全損タイプの定期保険等は、次のものになります。
(1)保険期間が3年未満の定期保険等
(2)最高解約返戻率が50%以下の定期保険等
(3)最高解約返戻率が70%以下、かつ、年換算保険料相当額(保険料総額÷保険期間)が30万円以下の定期保険等
(4)保険期間を通じて解約返戻金のない定期保険又は第三分野(ごく少額の払戻金のある契約を含み、保険料の払込期間が保険期間より短い保険)で、かつ、当年度の支払保険料が30万円以下の定期保険

参考:保険分類
①第一分野保険:生命保険(終身保険、定期保険等)
②第二分野保険:損害保険(火災保険、自動車保険等)
③第三分野保険:上記①及び②に属さない疾病・傷害保険(医療保険、介護保険、傷害保険等)

2021年7月7日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

住宅ローン控除の特例特別控除

2021年(令和3年)度税制改正で、年消費税率10%で住宅の特別特例取得に該当し、以下の諸条件を満たす場合には、2022年末(令和4年末)までの入居(1年延長)により住宅ローン控除期間の3年間延長特例(控除期間13年間)が認められようになりました。
改正は、2022年(令和4年)1月1日以後の確定申告提出からの適用となっています。
(1)特別特例取得の要件(①と②)
適用要件には、以下の様に住宅取得区分と契約締結日並びに居住開始日が定められていますので各項目に留意する必要があります。

① 住宅取得の区分② 契約締結の期限居住開始の期間
イ 新築注文住宅2020年(令和2年)10月1日~2021年(令和3年)9月30日の期間2021年(令和3年)1月1日~2022年(令和4年)12月31日の期間
ロ 分譲住宅・マンション・既存中古住宅・増改築等2020年(令和2年)12月1日~2021年(令和3年)11月30日の期間

(2)住宅の床面積と合計所得金額の要件

 特別特例の場合原則の場合
住宅の床面積40㎡以上50㎡以上
合計所得金額1,000万円以下3,000万円以下

参考:住宅ローン特別控除(注1)

居住年一般住宅認定長期優良住宅
借入金等の年末残高の限度額控除率最高借入金等の年末残高の限度額控除率最高
H26年1月~3月2千万円1.0%20万円3千万円1.0%30万円
H26年4月~令和3年12月
(注2)
4千万円1.0%40万円5千万円1.0%50万円

注1:認定住宅とは、 認定長期優良住宅及び認定低炭素住宅をいい、 それ以外を一般住宅といいます。
注2:消費税等の税率が8%又は10%になった場合での金額であり、 それ以外の場合(経過措置の適用で旧税率が適用になっている場合や個人間の売買契約による場合も含む)には平成26年1月~3月と同じになります。
なお、 住宅を取得・居住した年に勤務先から転任の命令等やむを得ない事由により転居した場合における再居住の特例として、 居住年に一時転居しその年の12月31日までの間に再び居住した場合には、 継続居住とみなされ当該税額控除の適用対象となります。
上記の住宅ローン特別控除に対して、2020年(令和2年)度税制改正で、特例特別控除が創設されており消費税率10%が適用される住宅取得等(新築、中古、増改築等)をして、令和元年10月1日から令和2年12月31日までの間に居住に供された場合に、住宅ローン控除として従来の10年目の適用期間を3年延長され、適用年の11年目から13年目までの各年の控除額については、以下の①又は②のいずれか少ない金額とされます(適用年の1年目から10年目までは現行と同様)。この居住要件が、上述の通り2021年(令和3年)度税制改正により、令和2年12月31日までが令和3年12月31日へと1年延長となりました。
(1) 一般住宅
①  住宅借入金等の年末残高(4千万円を限度)× 1%
② (住宅取得等の対価金額 - 対価金額に含まれる消費税額等){4千万円を限度}× 2% ÷ 3 
(2) 認定長期優良住宅
①  住宅借入金等の年末残高(5千万円を限度)× 1%
② (住宅取得等の対価金額 - 対価金額に含まれる消費税額等){5千万円を限度}× 2% ÷ 3 
*:居住と非居住に供する部分がある場合には、居住に占める床面積割合が控除対象となります。
*:住宅取得等に関し、補助金等の交付金や直系尊属からの住宅取得等資金の贈与を受けた場合には、その交付金や贈与額を取得金額から控除する必要はありません。
*:2以上の住宅取得等の場合には、調整計算が必要となります。

2021年6月25日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

勤続5年以下の従業員の退職所得課税の見直し

2021年度の税制改正におきまして、役員以外の従業員が勤続年数5年以下で退職し「短期退職手当等」(特定役員退職手当等の該当以外)を受給する場合で、その退職所得控除後の金額が300万円超の場合には、退職所得計算上の2分の1軽減適用は行われなくなります。この改正は、2022年(令和4年)分以後の所得税から適用です。

退職収入から退職所得控除後の残額従業員の勤続年数
改正(2022年退職より)現行
5年以下5年超
300万円超2分の1適用無し2分の1適用2分の1適用
300万円以下2分の1適用

参考:退職所得計算
(1)一般退職のケース
(退職収入金額-退職所得控除額)×1/2 =退職所得

勤続年数 退職所得控除額
2年以下80万円
3年~20年以下40万円 X 勤続年数(*)
21年以上70万円 X 勤続年数 - 600万円、 又は
70万円 X (勤続年数 - 20年) + 800万円

(*) 勤続年数の1年未満は切上げ。 障害者になって退職された場合には、 控除額に100万円加算。

(2)勤続5年以下の役員退職のケース(特定役員退職手当等)
役員として勤続年数5年以下における退職所得控除額を控除した金額に対する2分の1軽減措置は既に2012年税制改正で廃止となっています。
なお、特定役員退職手当等と一般退職手当等がある場合には、 下記の(イ)と(ロ)の退職所得を合算して計算することになります。
(イ) 特定役員退職所得
 特定役員退職手当等 - 特定役員退職所得控除額 = 特定役員退職所得
特定役員退職所得控除額は、 次の金額の合計額とします。
(a) 40万円 X (特定役員等勤続年数 – 重複勤続年数)
(b) 20万円 X 重複勤続年数
(ロ) 一般退職所得
(一般退職手当等 - 一般退職所得控除額) X 1/2 = 一般退職所得
一般退職所得控除額とは、 退職所得控除額から特定役員退職所得控除額を控除した残額となります。

2021年5月26日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

所得拡大促進税制の概要

令和3年度の税制改正法が3年26日に可決・成立していますが、その中で最近の税制改正で見直しが頻繁に行われています「所得拡大促進税制」に関しましてご紹介しておきたいと思います。資本金1憶円以下の中小企業には、適用要件内容から「所得拡大促進税制」と言い、資本金1憶円超の大企業には、改正前で賃上げ・投資促進税制から「人材確保等促進税制」と言われています。令和3年4月1日以降の開始事業年度から、今回の税制改正が適用となりますので、以下に「所得拡大促進税制」に関しまして改正前後の比較を記載します。
中小企業の適用要件判定において、改正前の継続雇用者給与等支給額(抽出不要となります)から雇用者給与等支給額のみへと見直し、適用期限が2年間延長となり改正内容は、2021年(令和3年)4月1日から2023年(令和5年)3月31日までの開始事業年度に適用となります。

 改正前改正後
適用要件①当期の雇用者給与等支給額>前期の雇用者給与等支給額
②当期の継続雇用者給与等支給額≧前期の継続雇用者給与等支給額
X101.5%
判定には、雇用調整助成金等は控除します。
当期の雇用者給与等支給額≧前期の雇用者給与等支給額X101.5%
(注1)
注1:判定には、雇用調整助成金及びこれに類する額は控除しません。

税額控除(当期の雇用者給与等支給額-前期の雇用者給与等支給額)X税額控除率15%




下記の①及び②の適用要件を満たす場合には、
(当期の雇用者給与等支給額-前期の雇用者給与等支給額)X税額控除率25%

①(当期の継続雇用者給与等支給額≧前期の継続雇用者給与等支給額X102.5%
②以下のいずれかを満たす場合
(イ)当期の教育訓練費≧前期の教育訓練費X110%
(ロ)中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定を受け、その計画が実行されていることの証明されている

税額控除額の上限は、当期の法人税額の20%
(当期の雇用者給与等支給額-前期の雇用者給与等支給額)X税額控除率15%(注2)
注2:税額控除において増加支給額は、雇用調整助成金及びこれに類する額を控除した金額を上限とします。
下記の①及び②の適用要件を満たす場合には、
(当期の雇用者給与等支給額-前期の雇用者給与等支給額)X税額控除率25%

①(当期の雇用者給与等支給額≧前期の雇用者給与等支給額X102.5%(注1)
②以下のいずれかを満たす場合
(イ)当期の教育訓練費≧前期の教育訓練費X110%
(ロ)中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定を受け、その計画が実行されていることの証明されている

税額控除額の上限は、当期の法人税額の20%

なお、「人材確保等促進税制」との併用は不可です。

「所得拡大促進税制」とは、青色申告法人が、所定の間に開始する各事業年度において国内雇用者に対する給与等支給額に関して、 その法人の雇用者給与等支給増加額に対して、税額控除を認めるというものですので、特に以下の定義を正確に理解する必要があります。
国内雇用者の範囲国内雇用者とは、 役員、役員の特殊関係者及び使用人兼務役員を除く使用人で国内事業所に勤務し賃金台帳に記載されている雇用者(従って、 雇用保険の一般被保険者でない雇用者も含む)
役員の特殊関係者役員の特殊関係者とは、次に掲げる者をいいます。
① 役員の親族 (配偶者、6親等以内の血族、及び3親等以内の姻族)
② 役員と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者
③ 上記以外の者で役員から生計の支援を受けているもの
④ 上記の者と生計を一にするこれらの者の親族
継続雇用者の範囲

継続雇用者の範囲 継続雇用者とは、適用年度(当期)およびその前年度の両方において給与等の支給(24ヵ月間継続)を受けた国内雇用者であり、継続雇用者に係る金額は、雇用保険法における一般被保険者に該当する者に対して支給したものに限ります(年齢は65歳未満の国内雇用者)が、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」9条1項2号に規定する継続雇用制度の対象である者に対して支給したものを除く、ということになっています。
具体的に継続雇用者とは、
①前期及び当期の全ての月分の給与等の支給を受けた国内雇用者であること
②前期及び当期の全ての期間において雇用保険の一般被保険者であること(加入手続きの有無は関係ありません。又、一般被保険者とは、年齢65歳未満の雇用者です)
③前期及び当期の全ての又は一部の期間において高年齢再雇用者制度の対象となっていないこと
従って、一定の週20時間以上のパート・アルバイトで雇用保険法の適用要件を満たす一般被保険者は含まれます。
つまり、 第1に、雇用保険法における一般被保険者に該当する者に対して支給したものに限られますので、
(イ) 正社員、及び
(ロ)パート・アルバイトのうち週所定労働時間が20時間以上で継続して31日以上の雇用が見込まれ一般被保険者になっている者
ということになりますが、 但し、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」9条1項2号に規定する継続雇用制度の対象である者に対して支給したものを除くとされていますので、定年が65歳未満の会社で、65歳未満で定年退職した者を対象とする継続雇用制度を採用している会社の場合、定年以降の継続雇用制度の対象者に支給した金額は控除しなければなりません(この対象者の定年後の給与額は、 通常引下げられることとなり会社にとって不利とならない配慮により含めない処置となっています)。
給与等の範囲給料、 賃金、 賞与等で賃金台帳に記載された支給額(非課税とされる通勤手当等の額も含む)のみを対象としますが、 合理的な方法により継続して給与等の支給額を計算している場合には、 これも認められます。 退職金等は対象外です。
雇用者給与等支給額・比較雇用者給与等支給額雇用者給与等支給額とは、適用年度(当期)の損金算入される国内雇用者に対する給与等支給額。 なお、 控除すべきものとして、 国等から支給を受けた助成金や出向先法人から受けた出向者分の給与負担金受給額、 等は控除します。
なお、 出向先法人では、 その賃金台帳に出向者を記載している時には、 その給与負担金は含まれます。
比較雇用者給与等支給額とは、比較用年度(前期)の損金算入される国内雇用者に対する給与等支給額。 前期の事業月数が12ヵ月未満の時には、年換算に調整計算を行います。

2021年4月30日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

保険契約の変更(支払保険料の停止):払済保険と失効との違い

保険料の支払いが厳しくなった時には、解約や保険料の減額等が考えられますが、解約返戻金のある保険契約において、保険料の支払いを完全に停止し既払保険料に係る解約返戻金を利用して保険期間を継続(保障保険金は減額)させるという「払済保険」という方法があります。この払済保険に変更した時に税務上の処理は、一旦解約し新規契約したものと見做した処理が要求されます。つまり、その変更時における解約返戻金相当額とその保険契約により資産に計上している保険積立金との差額をその変更した日の属する事業年度の益金の額(又は損金の額)に算入しなければならない点に留意する必要があります。そこで、保険契約を「失効」させることで、この様な解約返戻金の洗替処理を避けることができます。生命保険が失効すると保障を受けられなくなるだけで解約返戻率は維持され保険料の支払いはありません。但し、失効期間(例えば、2年、3年等)には保険会社により異なりますが制限(一定期間の措置)があります。この失効の措置活用も状況に応じて検討することが考えらえます。

2021年3月23日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant