インボイス制度における適格請求書発行事業者の登録制度開始

令和5年(2023年)10月からインボイス制度「適格請求書等保存方式」導入にあたり、「適格請求書」を交付できる事業者「適格請求書発行事業者」の登録が10月1よりスタートします。以下に、事業者が適正に消費税申告を行う為に対応・留意しなければならい概要(主に、国税庁HPより)を記載してみます。

1.インボイス制度の導入
令和5年10月1日から、消費税に関して複数税率(10%、軽減税率の8%、等)に対応した仕入税額控除の方式として、諸外国と同様な「適格請求書等保存方式」(インボイス方式)が導入されます。同日から、仕入税額控除の適用要件として、原則、事前登録した「適格請求書発行事業者」から交付を受けた「適格請求書(インボイス)」の保存が必要となります。特に、今後、適格請求書発行事業者でない免税事業者等との取引に対して留意すべきことがあります。
消費税額の計算方法:
 納付消費税額 = 課税売上に係る消費税額 - 課税仕入れ等に係る消費税額 
         (売上税額:仮受消費税額)  (仕入税額:仮払消費税額)
                           仕入税額控除
2.請求書等及び帳簿の記載事項
軽減税率適用に併せて請求書等及び帳簿の作成・記載事項等は、以下の様になっています。 令和5年10月に、インボイス制度として「適格請求書等保存方式」を導入されまので、請求書等の記載事項に留意すべきです。

請求書等保存方式
(令和元年9月30日以前)
区分記載請求書等保存方式
(令和元年10月1日~)
適格請求書等保存方式
(インボイス制度)
(令和5年10月1日~)
①請求書発行者の氏名又は名称
②取引年月日
③取引の内容
④対価の額
⑤請求書受領者の氏名又は名称
①~⑤同左の記載①~⑤同左の記載
⑥軽減税率対象課税品目である旨(帳簿にも要記載)
⑦税率の異なるごとに合計した対価の額
(注)記載が不備の場合に、請求書の交付を受けた事業者による追記も可
同左の記載
⑦税率の異なるごとに合計した対価の額及び適用税率
⑧登録番号
⑨消費税額等
*売手に区分記載請求書の交付・保存義務は課されません。
*買手に区分記載請求書の保存を仕入税額控除の要件になりますが、追加記載事項(⑥と⑦)は買手が事実に基づき追記することが認められます。
偽りの請求書の交付行為に対しての罰則はありません。
*「適格請求書発行事業者」から交付を受けた「適格請求書」又は「適格簡易請求書」の保存が仕入税額控除の要件となります、「適格請求書等保存方式」(インボイス制度)が導入されます。
*適格請求書発行事業者には、「適格請求書」又は「適格簡易請求書」の交付・保存を義務付け、偽りの請求書の交付行為に対して罰則があります。
*「適格請求書発行事業者」とは、免税事業者以外の課税事業者であり、所轄税務署長に申請書を提出し、交付事業者として登録を受けた事業者です(登録番号を受領)。登録申請は、令和3年10月1日から登録制度が開始されます。 登録後、その氏名又は名称及び登録番号等はインターネット上で公開となります。なお、令和5年10月1日から登録を受ける為には、原則、令和5年3月31日までに登録申請書を提出する必要があります。
*「適格請求書」とは、上記事項を記載した請求書、納品書、その他これらに類する書類をいいます。
*1つの適格請求書に記載されている個々の商品ごとに消費税額を計算することはできません。複数商品の税率区分ごとの合計金額に対して消費税額を計算し表記します。税額の円未満の端数処理は、任意となります。

3.適格請求書(インボイス)
(1)適格請求書の記載事項
「適格請求書」とは、次の全ての事項が記載された書類(請求書、納品書、領収書、レシート、契約書、等)をいいますが、1つの書類に記載される必要はなく複数の書類でカバーさせていればよいことになっています。
① 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
登録番号と紐付けられて管理されている取引先コード等で相手方と共有されていれば、取引先コードの記載で要件が満たされます。
② 課税資産の譲渡等を行った年月日
③ 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(課税資産の譲渡等が軽減対象資産の 譲渡等である場合には、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等である旨)
④ 課税資産の譲渡等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額及び適用税率
⑤ 税率ごとに区分した消費税額等(消費税額及び地方消費税額に相当する金額の合計額をいいます)
⑥ 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称
なお、返品や値引き等の売上の返還等を行う場合には、「適格返還請求書」を交付し、又、交付した請求書に誤りがあった場合には、「修正した適格請求書」を交付します。
又、適格請求書、適格簡易請求書等の交付に代えて、これらに係る電磁的記録(電子データ)を提供することもできますが、その保存方法が決められています。

(2)適格請求書の保存期間
課税期間の末日の翌日から2月を経過した日から7年間保存する必要があります。

(3)適格請求書に記載する消費税額の端数処理
消費税額に1円未満の端数が生じる場合、1つの適格請求書につき、税率ごとに1回の端数処理を行う必要があります(切上げ、切捨て、四捨五入などの端数処理は任意)。従って、1つの適格請求書に記載されている個々の商品ごとに消費税額計算し、その合計額を記載等することは認められません。

(4)適格請求書に税抜価額と税込価額が混在する場合
スーパー等の小売業等では1つの適格請求書において、税抜価額表記の商品と税込価額表記の商品が混在するような場合、いずれかに統一して「課税資産の譲渡等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した額」を記載するとともに、これに基づいて「税率ごとに区分した消費税額」を算出して記載する必要があります。

4.適格請求書交付義務の免除項目(免除課税資産)
適格請求書発行事業者は免税事業者を除く他の課税事業者から求められたときには適格請求書を交付しなければなりませんが、次の課税資産の譲渡等は、事業の性質上、適格請求書を交付することが困難な為、交付義務が免除されています(帳簿の保存のみで仕入税額控除が認められます)。
① 3万円未満の公共交通機関(船舶、バス又は鉄道)による旅客の運送 :金額は1回の取引価額で判定。例えば、1人運賃13,000円で4人分の52,000円の運賃を支払う場合には、52,000円での判定となりますので免除対象となりません。
② 出荷者等が卸売市場において行う生鮮食料品等の販売(出荷者から委託を受けた受託者 が卸売の業務として行うものに限ります。)
③ 生産者が農業協同組合、漁業協同組合又は森林組合等に委託して行う農林水産物の販売 (無条件委託方式かつ共同計算方式により生産者を特定せずに行うものに限ります。)
④ 3万円未満の自動販売機及び自動サービス機により行われる商品の販売等(代金の受領と資産の譲渡等が自動で行われる機械装置があり、それにより完結するもの。例えば、コインロッカーやコインランドリー等は含まれますが、機械装置から資産譲渡等を伴わないセルフレジ、ネットバンキング等は含まれません)
⑤ 郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出されたものに限 ります。)
⑥ その他請求書等の交付が困難な課税資産の譲渡等のうち一定のもの
なお、免税取引、非課税取引及び不課税取引のみを行った場合には、適格請求書の交付義務は課されません。

5.適格簡易請求書の交付可能な事業者
適格請求書発行事業者が不特定かつ多数の者に課税資産の譲渡等を行う一定の事業を行う場合には、適格請求書に代えて「適格簡易請求書」を交付することができます。 適格簡易請求書は、適格請求書と異なる点は、書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称が省略でき、又、税率ごとに区分した消費税額等か適用税率のどちらかを記載するところです。
適格簡易請求書の交付可能な事業者例として、
①小売業、②飲食店業、③写真業、④旅行業、⑤タクシー業、⑥駐車場業(不特定かつ多数の者に対するものに限ります)、⑦その他これらの事業に準ずる事業で不特定かつ多数の者に資産の譲渡等を行う事業
となっています。
不特定かつ多数の者に対する事業とは、相手方の氏名等を認識せず取引条件等を予め提示して相手方を問わず広く行うことが常態である事業等をいいます。
なお、適格簡易請求書についても、交付に代えて電磁的記録(電子データ)を提供することができます。

6.適格請求書発行事業者の登録制度
「適格請求書発行事業者」とは、免税事業者以外の課税事業者であり、所轄税務署長に申請書(適格請求書発行事業者の登録申請書)を提出し、交付事業者として登録を受けた事業者です(登録番号を受領)。登録申請は、令和3年10月1日から登録制度が開始されます。 登録後、その氏名又は名称及び登録番号等は通知及びインターネット上で公開(国税庁HP上の適格請求書発行事業者公表サイト)となります。なお、インボイス制度の導入日の令和5年10月1日から登録を受ける為には、原則、令和5年3月31日までに登録申請書を提出する必要があります(なお、特定期間の課税売上高又は給与等支払額の合計額が1千万円を超えて課税事業者となる場合は、提出期限は令和5年6月30日までに延長)。
登録申請は、e-Taxの利用(申請後の登録通知は2週間程度後)、又は郵送等の場合(申請後の登録通知は1ヵ月程度後)には各国税局のインボイス登録センターとなります。
登録の効力は、適格請求書発行事業者登録簿に登録された日(登録日)から生じます。登録日以降の取引については、買手方(課税事業者に限る)の求めに応じ、適格請求書を交付する義務があります。
なお、課税期間の中途での登録申請も可能です。

登録番号の構成:
① 法人の課税事業者は、T+法人番号
② 法人以外の個人事業者等の課税事業者は、T+13桁の数字
免税事業者の登録に関しては下記7Ⅱを参照。

7.免税事業者等からの仕入税額控除
(1)仕入税額控除の経過措置
インボイス制度が導入されます令和5年10月以降、仕入税額控除を受けるには、「帳簿」及び税務署に申請して登録を受けた課税事業者である「適格請求書発行事業者(登録事業者)が交付した適格請求書」の保存が必要となります。従いまして、
免税事業者、適格請求書発行事業者登録されていない課税事業者、並びに事業者で無い消費者からの課税仕入れに対して、仕入税額控除の適用を受けることが出来なくなります。但し、下記の様に特例で令和5年10月から令和11年9月までの6年間は、仕入税額相当の一定割合を税額控除できる経過措置が設けられています。

区分記載請求書等保存方式免税事業者からの仕入についても、仕入税額控除できます。
適格請求書等保存方式
(インボイス制度)
原則、免税事業者、適格請求書発行事業者登録されていない課税事業者等からの仕入は、仕入税額控除ができませんが、次の期間内での特例が認められています。
令和5年10月~
令和8年9月までの3年間
仕入税額相当額の80%控除
令和8年10月~
令和11年9月までの3年間
仕入税額相当額の50%控除
令和11年10月~仕入税額控除の対象とすることができません。

この経過措置の適用を受ける為には、次の事項が記載された帳簿及び請求書等の保存が必要となります。
(A)帳簿
「80%控除対象」など、経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨の記載が追加で必要です。具体的な記載事項は次のとおりです。

① 課税仕入れの相手方の氏名又は名称
② 課税仕入れを行った年月日
③ 課税仕入れに係る資産又は役務の内容及ぶ経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨
④ 課税仕入れに係る対価の額
(B)請求書等
① 書類の作成者の氏名又は名称
② 課税資産の譲渡等を行った年月日
③ 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(軽減対象資産の場合には、その資産の内容及び軽減対象資産である旨)
④ 税率ごとに合計した課税資産の譲渡等の税込価額
⑤ 書類の交付を受ける当該事業者の氏名又は名称

(2)免税事業者の登録申請手続
免税事業者からの請求に対して、令和11年10月より相手課税事業者は完全に仕入税額控除の対象とすることが出来なくなります。免税事業者が適格請求書発行事業者として登録を受けるためには、「消費税課税事業者選択届出書」を提出し、課税事業者となる必要があります。(令和11年10月以前に)適格請求書を交付できる課税事業者となる登録手続は、以下の様になっています(経過措置もあり)。

① 登録申請が令和5年10月1日を属する課税期間の経過措置及び留意点
令和5年10月1日を属する課税期間中に適格請求書等発行事業者登録した場合には、「消費税課税事業者選択届出書」を提出する必要はありません。留意点として、その登録日(令和5年10月1日)に課税事業者となりますので、基準期間の課税売上高にかかわらず、登録日から期末日までの期間に対する消費税の申告が必要となります。なお、経過措置の適用を受けない課税期間に登録を受ける場合には、原則どおり、課税選択届出書を提出し課税事業者となる必要があります。

② 登録申請が令和5年10月1日を属する課税期間の翌課税期間以降の場合
免税事業者が、「消費税課税事業者選択届出書」を提出し、課税事業者を選択し課税期間の初日から登録を受けようとする場合は、その課税期間の初日の前日から起算して1月前までに登録申請書の提出が必要となります。

以下は、免税事業者の登録申請の要約表となります。

登録申請時期
右記の前事業年度以前令和5年10月1日の属する事業年度(課税期間)左記の翌事業年度以降
経過措置適用の期間原則適用
消費税課税事業者選択届出書提出不要提出し、同時に課税事業者となる課税期間の初日の前日から1ヵ月前までに登録申請書の提出が必要
(登録日が4月1日ならば、申請の提出期限は2月28日)
適格請求書発行事業者の登録申請書申請し登録を受けた日から課税事業者となる(登録日以前は免税事業者期間)。
免税免税課税事業者及び適格請求書発行事業者

なお、適格請求書発行事業者の登録後に、基準期間の課税売上高が1千万円以下になっても、登録の効力が失われない限り課税事業者として継続します。

免税事業者である個人事業者の場合にも、令和5年10月1日から適格請求書発行事業者の登録を受ける為には、経過措置により登録申請書を令和5年3月31日までに提出する必要があります(課税選択届出書の提出は不要)。同年10月1日から12月31日の期間は課税事業者として令和5年分の消費税の申告が必要となります。なお、登録日の前日である9月30日に免税事業者であった期間中に課税仕入れの棚卸資産を有しているときは、その仕入税額控除の適用を受けることができます。なお、経過措置の適用を受け、同時に簡易課税制度の選択適用を受ける場合には、同年10月1日に属する課税期間中に消費税簡易課税制度選択届出書を同年12月31日までに提出(令和5年分から適用する旨を記載)すればよいことになります(法人も同様な扱いになります)。

(3)免税事業者の今後の検討課題
上述しましたが、免税事業者からの課税仕入れに対して、適格請求書の交付を受けることが出来ませんので仕入税額控除の適用を受けることが出来なくなります。その為に、売上先が課税事業者(適格請求書発行事業者)の場合には、免税事業者との取引を減らしていくことが予想されます。特に、小規模な免税事業者が課税事業者になれば、収める消費税の分だけ支出が増え事業経営に影響を受けるというデメリットがありますので、次の経営環境状況を検討し課税事業を選択するかを判断されても良いかと思います。

(1)課税事業者を選択することが望まれる経営環境(売上高に重大な影響を受ける可能性がある)(2)免税事業者を継続する経営環境(課税事業者と取引できなくともあまり問題が無い)
*課税事業者との取引が多い*免税事業者同士との取引が主である
*新規顧客(課税事業者)を開拓していく経営方針がある*不特定多数を顧客とする業種(小売業、飲食業等の消費者を顧客)である
*競合状況にあり他の課税事業者と比べて価格面で明らかに不利と予想される*商品・サービスに独自性があり競合が少ない

(4)インボイス制度下で免税事業者は消費税を付加請求可能か否か
インボイス制度が導入後(令和5年10月1日以降)も、免税事業者及び適格請求書発行事業者登録されていない課税事業者は、適格請求書を交付することができませんが、消費税法に基づく10%の消費税を付加表記した請求書は発行できます。
消費税法57条の5「適格請求書類似書類等の交付の禁止」という規定があり、その内容は、適格請求書発行事業者以外の者は、適格請求書発行事業者が作成した適格請求書又は適格簡易請求書であると誤認される恐れがある表示をした書類を他の者に対して交付し、又は提供してはならない、というものです(違反者には罰則規定あり)。この「誤認」の範囲は明確ではありませんが、明らかなものとして、適格請求書発行事業者でないのに登録番号を請求書等に記載することです。この適正な登録番号の課税事業者であるかは、国税庁で登録者を公開していますので、仕入税額控除を適用する事業者には、登録確認の負担や責任は課されていることになります。
現行の法制度上では免税事業者は消費税を請求書に記載出来ないという規定はどこにもありません。免税事業者からの取引では、あくまでも免税事業者は適格請求書を交付できなく、かつ納税義務者ではないということ、及び取引先が仕入税額控除を行うことができなくなることだけです。

8.新設法人等の登録時期の特例
免税事業者である新設法人(個人事業者、新設合併、新設分割の新規開業等も含む)の場合には、事業開始(設立)時から適格請求書発行事業者の登録を受ける為には、設立後、その課税期間の末日までに課税選択届出書と登録申請書(初日から登録を受けようとする旨の記載)を併せて提出する必要があります。
なお、課税事業者である新設法人の場合には、事業開始の課税期間の末日までに登録申請書(初日から登録を受けようとする旨の記載)を提出する必要があります。

9.適格請求書発行事業者の登録取消
登録取消を受ける場合には、課税期間の末日から31日前に「適格請求書発行事業者の登録の取り消しを求める旨の届出書」を提出することで、翌課税期間の初日から登録の効力が失われます。従って、末日から30日前の届出の場合には、翌々課税期間に登録取消となります。なお、免税となる要件を満たす事業者は、「消費税課税事業者選択不適用届出書」を提出しない限り、課税の免除とはなりません。
消費税法上、事業を廃止した場合に「事業廃止届出書」を提出により適格請求書発行事業者の登録の効力が失われます。

10.適格請求書発行事業者からの事業承継(相続)
① 令和5年10月1日以前に死亡した場合
被相続人の登録効力が生じていませんので、相続により事業承継した相続人が、令和5年10月1日から適格請求書発行事業者の登録を受けようとする場合には、原則として、令和5年3月31日までに登録申請書を提出する必要があります。この場合、同日までに提出できなかった困難な事情がある場合に、その旨を記載して令和5年9月30日までに提出することが認められます。
個人事業者が死亡した場合には、「個人事業者の死亡届出書」の提出も行う。
② 令和5年10月1日以後に死亡した場合
相続人は、「適格請求書発行事業者の死亡届出書」を提出する必要があります。その登録の失効は、提出日の翌日又は死亡日の翌日から4カ月後のいずれか早い日となります。
相続により事業承継した相続人が適格請求書発行事業者の登録を受けようとする場合には、登録申請書を提出する必要があります。この場合、相続の翌日から、相続人の登録日の前日又は被相続人の死亡日から4カ月後のいずれか早い日までの期間については、相続人の適格請求書発行事業者と見做す措置が設けられています(被相続人の登録番号を相続人の登録番号と見做す)。

11.修正する適格請求書の交付
売手である適格請求書発行事業者は、交付した適格請求書、適格簡易請求書又は適格返還請求書の記録事項に誤りがあったときには、相手である課税事業者に対して、修正した適格請求書、適格簡易請求書又は適格返還請求書を交付しなければなりません。これらの交付方法例として、
① 誤りがあった事項を修正し、改めて記載事項の全てを記載したものを交付(差替え)
② 当初交付したものとの関連性を明らかにし、修正した事項を明示したものを交付
原則、誤りを買手が自ら追記や修正を行ったものでは仕入税額控除の適用要件を満たしませんが、買手の課税事業者が作成した一定事項の記載のある仕入明細書等の書類で、売手の確認を受けたものについては、仕入税額控除の適用の為に必要な請求書等に該当となります。

12.口座振替・口座振込による家賃等の支払の留意事項
通常、契約書に基づき代金決済が行われ、取引の都度、請求書や領収書が交付されない取引であっても、仕入税額控除の適用を受ける為には、原則として、適格請求書の保存が必要となります。
適格請求書は、一定期間の取引をまとめて交付することも可能(一定期間の賃借料についての適格請求書の交付を受けて保存する)となります。
適格請求書として必要な記載事項は、1つの書類だけで全てが記載されている必要はなく、複数の書類で記載事項を満たせばOK。例えば、契約書に適格請求書として必要な記載事項の一部が記載されており、他に実際に行った取引の客観的な書類で全ての記載事項を満たし保存することで、仕入税額控除の適用要件を満たします。
口座振替の場合、適格請求書の記載事項の一部(例えば、課税資産の譲渡等の年月日以外の事項)が記載された契約書とともに、通帳(課税資産の譲渡等の年月日の事実を示すもの)を併せて保存することで、仕入税額控除の適用要件を満たします。
口座振込による家賃の支払う場合、適格請求書の記載事項の一部が記載された契約書とともに、銀行が発行した振込金受取書を保存することにより、請求書等の保存があるものとして、仕入税額控除の適用要件を満たします(複数の書類を合わせて1つの適格請求書とすることが可能)。
注:令和5年9月30日以前からの契約について、契約書に登録番号等の適格請求書として必要な事項の一部の記載が不足している場合には、別途、登録番号等の記載が不足していた事項の通知を受け、契約書とともに保存することで仕入税額控除の適用要件を満たします。

なお、クレジットカード決済の場合にも、仕入税額控除の為には、記載要件を満たす適格請求書が必要となります。

13.適格請求書(及び適格簡易請求書)の電磁的記録(電子データ)の保存方法
適格請求書発行事業者は、適格請求書の交付に代えて電磁的記録を相手に提供できますが、その場合、提供した電磁的記録を電子帳簿保存法に準拠して、
(1) 電磁的記録のまま、又は
(2) 紙に印刷して、
提供した日の課税期間末の翌日から2月後から7年間保存しなければなりません。
上記の(1)の電磁的記録のまま保存する場合には、以下の措置を講ずる必要があります。
① 次のイからニのいずれかの措置を行うこと
イ 適格請求書の電磁的記録を提供する前にタイムスタンプを付してから電磁的記録を提供すること
ロ 次のいずれかの方法により、提供後であるがタイムスタンプを付すとともに、電磁的記録の保存者又はその直接監督者の情報を確認できるようにしておくこと
* 適格請求書の電磁的記録を提供後に、速やかにタイムスタンプを付すこと
* 適格請求書の電磁的記録を提供からタイムスタンプを付すまでの各事務処理に関する規定を定め、その処理の通常の期間経過後、速やかにタイムスタンプを付すこと
ハ 適格請求書の係る電磁的記録の記録事項について、次のいずれかの要件を満たす電子計算機システムを使用して適格請求書の電磁的記録の提供及びその電磁的記録を保存すること
* 訂正又は削除を行った場合、その事実及び内容を確認することができること
* 訂正又は削除することができないこと
ニ 適格請求書の係る電磁的記録の記録事項について正当な理由のない訂正又は削除の防止に関する事務処理規程を定めて運用を行い、当該電磁的記録の保存に併せて当該規程の備付けを行うこと
② 適格請求書の係る電磁的記録の保存等に併せて、システム概要書の備付けを行うこと
③ 適格請求書の係る電磁的記録の保存等をする場所に、その電磁的記録の電子計算機処理の用に供することができる電子計算機、プログラム、ディスプレイ及びプリンタ並びにこれらの操作説明書を備え付け、その電磁的記録をディスプレイの画面及び書面に、整然とした形式及び明瞭な状態で、速やかに出力できるようにしておくこと
④ 適格請求書の電磁的記録について、次の要件を満たす検索機能を確保しておくこと
注:国税に関する法律の規定による電磁的記録の提示又は提出に応じることができるようにしているときは、次のⅱ及びⅲの要件は不要となり、その判定期間の基準期間の売上高が1千万円以下の事業者が、同様に国税の電磁的記録の提示又は提出に応じることができるようにしているときは検索機能の全てが不要となります。
ⅰ 取引年月日その他の日付、取引金額及び取引先を検索条件として設定できること
ⅱ 日付又は金額の記録項目については、その範囲を指定して条件を設定できること

上記(2)の適格請求書の電磁的記録を紙で保存しようとするときには、整然とした形式及び明瞭な状態で出力した書面を保存する必要があります。

14.仕入税額控除の要件
インボイス制度の下では、一定事項が記載された帳簿及び請求書等の保存が仕入税額控除の適用要件となります。保存すべき請求書等には、次の様なものが含まれます。
(1)適格請求書
(2)適格簡易請求書
(3)適格請求書又は適格簡易請求書の記載事項に係る電磁的記録(電子データ)
(4)適格請求書の記載事項を買手が記載した仕入明細書、仕入計算書その他これに類する書類の場合、課税仕入れの相手方(売手)の確認を受けたものに限られます(電子データを含む)
(5)次の取引について、媒介又は取次に係る業務を行う者が作成する一定の書類(電子データを含む)
イ 出荷者等が卸売市場において行う生鮮食料品等の販売(出荷者から委託を受けた受託者 が卸売の業務として行うものに限ります。)
ロ  生産者が農業協同組合、漁業協同組合又は森林組合等に委託して行う農林水産物の販売 (無条件委託方式かつ共同計算方式により生産者を特定せずに行うものに限ります。)
(6)次の取引について、請求書等の交付を受けることが困難であるなどの理由により、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で認められます。
① 適格請求書の交付義務が免除される、3万円未満の公共交通機関(船舶、バス又は鉄道)による旅客の運送
② 適格簡易請求書の記載事項(取引年月日を除く)が記載されている入場券等が使用時に回収される取引(①に該当分を除く)
③ 適格請求書発行事業者でない古物営業者(古物商、中古車販売業等)からの古物購入(棚卸資産に限定)
④ 適格請求書発行事業者でない質屋営業車からの質物取得(棚卸資産に限定)
⑤ 適格請求書発行事業者でない宅地建物取引業者からの建物購入(棚卸資産に限定)
⑥ 適格請求書発行事業者でない再生資源及び再生部品の購入(購入者の棚卸資産に限定)
⑦ 適格請求書の交付義務が免除される、3万円未満の自動販売機及び自動サービス機により行われる商品の購入等
⑧ 適格請求書の交付義務が免除される、郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出されたものに限定)
⑨ 従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当)

15.納付税額の計算方法

区分記載請求書等保存方式現行通り、適用税率ごとに取引総額に110分の10、或いは108分の8を乗じて計算する「割戻し計算」を維持する。
適格請求書等保存方式
(インボイス制度)
適用税率ごとに取引総額に110分の10、或いは108分の8を乗じて計算する「割戻し計算」と、「適格請求書」に記載のある消費税額の「積上げ計算」のいずれかを選択できます。
但し、売上税額を「積上げ計算」する場合には、仕入税額も「積上げ計算」としなければなりません。

16.事業者別対応・検討事項
以上から、事業者としてインボイス制度の導入に伴い、対応・検討すべき事項があります。
(1)原則課税事業者
① 適格請求書発行事業者の登録申請
② 適格請求書等の様式変更
③ 仕入税額控除の適用要件の理解と税区・税率等の記帳確認
④ 免税事業者等の登録申請事業者以外の事業者との取引(業者選択の検討)

(2)簡易課税制度の選択課税事業者
① 適格請求書発行事業者の登録申請
② 適格請求書等の様式変更
③ 基準期間の課税売上高が50百万円超になる可能性が低い場合には、仕入税額控除の原則処理を気にしなくても良いかと思われます。
④ 免税事業者等の登録申請事業者以外の事業者との取引(業者選択の検討)
⑤ 課税売上高から納付消費税額を計算することから、売手側からの適格請求書等の保存は仕入税額控除においては必要となりません。

(3)免税事業者(上記7Ⅲを参照)
① 競争の激しい環境下にある場合に、仕入税額控除の対象外として登録申請事業者から取引を削減・停止となるリスク存在の有無確認
② 上記①のリスクがあり営業に重大な影響が考えられる場合には、課税事業者を選択し、かつ登録申請することを検討する。
③ 上記②で登録申請することを選択した場合に、簡易課税制度の選択が有利か否かを同時に検討する。
④ 課税事業者として、同様に上記(1)又は(2)の対応

17.委託販売:媒介者交付特例
委託販売の場合、購入者に対して課税資産の譲渡等を行っているのは、委託者ということから、本来、委託者が購入者に対して適格請求書を交付しなければなりません。この様な場合、受託者が委託者を代理して、委託者の氏名又は名称及び登録番号を記載した、委託者の適格請求書を、相手方に交付することも認められます(代理交付)。 また、次の①及び②の要件を満たすことにより、媒介又は取次ぎを行う者である受託者が、 委託者の課税資産の譲渡等について、自己の氏名又は名称及び登録番号を記載した適格請求書 又は適格請求書に係る電磁的記録を、委託者に代わって、購入者に交付し、又は提供することができます(媒介者交付特例)。
① 委託者及び受託者が適格請求書発行事業者であること
② 委託者が受託者に、自己が適格請求書発行事業者の登録を受けている旨を取引前までに通知していること(通知の方法としては、個々の取引の都度、事前に登録番号を書面等により 通知する方法のほか、例えば、基本契約等により委託者の登録番号を記載する方法など)。 なお、媒介者交付特例を適用する場合における受託者の対応及び委託者の対応は、次のとおりです。
受託者の対応:
① 交付した適格請求書の写し又は提供した電磁的記録を保存する。
② 交付した適格請求書の写し又は提供した電磁的記録を速やかに委託者に交付又は提供する。
委託者の対応:
① 自己が適格請求書発行事業者でなくなった場合、その旨を速やかに受託者に通知する。
② 委託者の課税資産の譲渡等について、受託者が委託者に代わって適格請求書を交付していることから、委託者においても、受託者から交付された適格請求書の写しを保存する。

以上

2021年9月26日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant