年末調整の概要と平成28年度の給与源泉徴収事務

  1. 年末調整とは

毎年11月となりますと会社(給与支払者)の給与担当部署は、 「年末調整」の準備・対応という大変忙しい時期を迎え、 勤務者(従業員)はその年末調整の為に必要となる申告書や証明書類等を所定の期限までに会社に提出することが求められます。 会社は、 勤務者から回収した年末調整用の書類の内容を確認しその最終提出情報に基づいて、 暦年の最終給与支払時(通常、 12月給与)に納めるべき年間の所得税及び復興特別所得税(年税額)を算出し、 これまでの給与支給時に源泉徴収された累計税額とを比べその差額となる過不足額を精算(徴収又は還付)します。 その一連の精算手続が年末調整ということになります。 一般的には、 年末調整により還付されるケースが多いかと思います。

 

  1. 平成28年度(2016年度)の所得税に係わる改正

平成28年度の年末調整において、税制改正により影響を受ける主な項目は以下の通りです。

(1) 通勤手当の非課税限度額の引上げに伴う精算

平成28年1月1日以降に支払われる通勤手当の非課税限度額が、 月額10万円から15万円に引上げられましたので、 通勤金額が10万円超でこの改正前の月額10万円で源泉徴収計算されていた方が精算の対象者となります。 具体的な手続きは次の様になります。

① 源泉徴収簿の「年末調整」欄の余白に、 「非課税となる通勤手当」を表示して、 追加で非課税となる部分の金額を記入します。

② 「年末調整」欄の「給与・手当等①」欄に、 本来の総支給金額から上記①の追加で非課税となる通勤手当部分の金額を控除した後の金額を記入します。

③ その後は、 通常の計算を行うことになります。

なお、 追加で非課税となる当該通勤手当部分の計算根拠が、 他の方法で記録、 保全されていればその方法も認められます。

* 中途退職者に既に給与所得の源泉徴収票を交付されている場合には、 「支払金額」欄を訂正し、 「摘要」欄に「再交付」と表示した源泉徴収票を再交付する必要があります。

* 年末調整の際に精算する機会の無い人は、 確定申告で精算することになります。

(2) 国外居住親族に係る扶養控除等の適用時に所定の書類添付等の義務化

平成28年1月1日以後に、 非居住者である親族(国外居住親族)に係る扶養控除、 配偶者控除、 障害者控除又は配偶者特別控除の適用を受ける場合には、 「親族関係書類」及び「送金関係書類」の提出又は提示を受ける必要があります。

具体的な手続きとして、 適用を受ける旨を「扶養控除等(異動)申告書」上の「非居住者である親族」欄に○印を付し、 関係書類の提出等を行います。

(3) マイナンバー制度の導入

平成28年1月よりマイナンバー制度の導入にあたり、 個人であれば個人番号を記載して申請・申告等が必要となる書類が順次出てきます。 その最初となるものが、 「平成28年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出にあたり、 給与所得者本人、 控除対象配偶者、 控除対象扶養親族等の個人番号を記載することになります。

提出にあたり、 給与支払者が給与所得者から個人番号の提供を受ける場合は、 本人確認として、 提供の番号が正しいことの確認(番号確認)と、 番号提供者が真にその番号の持ち主であることの確認(身元確認)を行う必要があります。 なお、 控除対象配偶者、 控除対象扶養親族等の本人確認は、 給与所得者が行うことになっています。

以上から、 平成28年1月以降の支払に係る給与所得の源泉徴収票には、 上記の個人番号を記載して税務署等の行政機関に提出することになりますので、 「扶養控除等(異動)申告書」に必要なマイナンバーが記載されていない場合には、 源泉徴収票作成までにマイナンバーの提供を受ける必要があります。 なお、 給与所得者への源泉徴収票には、 個人番号は記載されません。

平成29年分以後の扶養控除等(異動)申告書等へのマイナンバーの記載不要の特例制度が創設されました。 既にマイナンバーの情報が提供されており、 その情報を記載した帳簿を備えているときには記載不要となりました。

(4) 給与所得控除額の上限額引下げ

給与収入1,200万円超から給与所得控除額は230万円が上限となりました。

 

  1. 年末調整の対象者

年末調整の対象者は、 原則として会社に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している人は全員含まれます。 但し、 給与収入額が2千万円を超える人は年末調整を行ないませんので自身の確定申告を通じて年税額の精算をしなければなりません。 通常、 1カ所から給与支給を受けている人は、 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出し年末調整を受けることになります。

次の人は年末調整の対象者にはなりません。

(1) 年中の給与収入額が2千万円を超える人

(2) 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していない人(年末調整を行うことができませんが、 支払の際の源泉徴収においては乙欄の税額表が適用となります)

(3) 年中に退職(死亡退職した人、 非居住者として国外勤務者となった人、 等を除く)した人

(4) 国内に住所も1年以上の居所を有していない人(非居住者)

(5) 災害免除法の規定により源泉徴収について徴収猶予や還付を受けた人

(6) 日雇労働者等(丙欄の税額表適用者)

 

年末調整の為に提出が求められる申告書とその中に記載される控除項目は以下のとおりです。 当該控除項目以外に所得から控除可能な項目がある場合にはそれらの項目は確定申告で行うことになります。

申告書の名称 控除項目
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 配偶者控除、 扶養控除、 障害者控除、 寡婦(夫)控除、 勤労学生控除、 基礎控除
給与所得者の配偶者特別控除申告書 配偶者特別控除
給与所得者の保険料控除申告書 生命保険料控除(一般生命・介護医療・個人年金)、 地震保険料控除、 社会保険料控除、 小規模企業共済等掛金控除
給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書 (特定増改築等)住宅借入金等特別控除(2年目から年末調整の対象で初年度は確定申告が必要)

申告書記載上の主な注意点は以下のものがあります。

() 1231日時点の現況で記載

その年の12月31日現在の現況を見積もりで記載することになります。 見積記載の内容に修正が生じた場合(例えば、 扶養者数の増減、 等)には、 再年末調整(翌年の1月末までは可能)又は確定申告により適正な精算を行うことになります。

 

() 人的控除項目の判定基準に合計所得金額基準

控除項目の中(控除対象配偶者、 控除対象扶養控除、 配偶者特別控除等の人的控除項目)には、 その控除に該当するかの判定基準にその年度の合計所得金額がありますので留意してください。 多い誤りとしては、 配偶者の合計所得金額が控除対象金額を超えているケースです。

配偶者控除の場合の合計所得金額は、 38万円以下(給与収入額では103万円以下)でなければなりません。 「配偶者」とは、 婚姻の届出をしている配偶者をいい、 内縁関係の人は含まれません。

配偶者特別控除の場合の合計所得金額は、 38万円超~76万円以下でなければなりません。

公的年金等の雑所得だけの方で控除対象扶養者(合計所得金額が38万円以下)になる場合には、 公的年金等の収入金額が158万円以下(年齢65歳未満の人は108万円以下)という条件を満たす人です。

 

「所得金額」として、 税法の規定のなかに「合計所得金額」、 「総所得金額」、 「総所得金額等」の3種類が適用判定基準の中に出てきますが、 それぞれ多少の違いがあります。

(1) 所得金額基準は主にどの適用範囲に出てきているか

所得金額 主な適用範囲
合計所得金額 l  扶養控除対象者: 合計所得金額が38万円以下

l  配偶者控除対象者: 合計所得金額が38万円以下

l  配偶者特別控除対象者: 合計所得金額が38万円超76万円未満、 並びに申告者本人の控除対象者: 合計所得金額が1,000万円以下

l  寡婦(寡夫)控除対象者: 合計所得金額が500万円以下

l  勤労学生控除対象者: 合計所得金額が65万円以下

l  住宅ローン控除対象者: 合計所得金額が3,000万円以下の年

l  居住用財産の買換えの譲渡損失の損益通算・繰越控除の適用対象者: 合計所得金額が3,000万円以下の年

l  特定居住用財産の譲渡損失の損益通算・繰越控除の適用対象者: 合計所得金額が3,000万円以下の年

l  市県民税均等割の非課税判定基準・市県民税の扶養親族や各種控除の判定基準

l  直系尊属から住宅取得等資金の受贈与者の非課税対象者: 合計所得金額が2,000万円以下

総所得金額  
総所得金額等 l  医療費控除限度額: 総所得金額等の5%

l  雑損控除限度額: 損失の金額 - 総所得金額等 X 10%

l  寄付金控除限度額: 総所得金額等 X 40% - 2,000円

l  寡婦となる要件: 扶養親族その他その人と生計を一にするその年分の総所得金額等が38万円以下の子がいる人

l  寡夫となる要件: 生計を一にするその年分の総所得金額等が38万円以下の子がいる人

l  市県民税所得割の非課税判定基準

(2) ①合計所得金額、 ②総所得金額、 ③総所得金額等の定義

左から右にみて所得の範囲等がそれぞれ異なっていることがお分りになるかと思います。

所得種類     各種繰越控除の適用(①から控除)
利子所得 所得金額の損益通算    

合計所得金額

* 純損失や雑損失の繰越控除

* 居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除

* 特定居住用財産の譲渡損失の繰越控除

* 上場株式等の譲渡損失の繰越控除

* 特定中小会社発行株式の譲渡損失の繰越控除

* 先物取引の差金等決済損失の繰越控除

 

総所得金額

 

総所得金額等

配当所得  
不動産所得  
事業所得  
給与所得  
雑所得  
一時所得 2分の1
総合課税の譲渡所得 長期
短期  
分離課税(土地・建物等)の譲渡所得(特別控除適用前) 長期      
短期
分離課税の株式等の譲渡所得      
分離課税の先物取引の雑所得      
退職所得      
山林所得      

配偶者控除、 扶養者控除等の所得基準額は、 「総所得金額」より範囲が広い「合計所得金額」で判定することになり、 分離課税所得の発生年度には注意が必要となります。

 

() 年齢16歳未満の年少扶養親族

控除対象扶養控除に関して、 平成23年度から年齢16歳未満の年少扶養親族に対する扶養控除が所得税では廃止となっています(年齢16歳未満は所得税における扶養控除対象者ではありません)。 しかし、 住民税の方では控除対象となっていますので住民税に関する欄への記載を忘れないでください。 なお、 年齢16歳未満の年少扶養親族であっても、 障害者又は特別障害者に該当する場合には、 障害者控除を受けることはできます。

平成28年度の年末調整時における年齢16歳未満とは、 平成13年1月2日以後に生まれた人が年少者となります。

 

() 扶養親族

所得者と生計を一にする親族(6親等内の血族と3親等内の姻族)で、 合計所得金額が38万円以下の人を扶養親族(配偶者、青色事業専従者及び白色事業専従者を除く)といいます。 その中には、 以下のように区分されています。

① 控除対象扶養親族

扶養親族のうち、 年齢16歳以上の人をいいます(平成28年度の年末調整では、 平成13年1月1日以前に生まれた人)。

② 特定扶養親族

扶養親族のうち、 年齢19歳以上23歳未満の人をいいます(平成28年度の年末調整では、 平成6年1月2日から平成10年1月1日までの間に生まれた人)。

③ 老人扶養親族

控除対象扶養親族のうち、 年齢70歳以上の人をいいます(平成28年度の年末調整では、 昭和22年1月1日以前に生まれた人)。

④ 同居老親等

老人扶養親族のうち、 所得者又はその配偶者の直系尊属でいずれかとの同居を常況としている人をいいます。

 

() 生命保険料控除の改組

平成24年(2012年)1月1日からの契約分(新契約)から一般生命保険に含まれていた「介護医療保険」が独立の控除対象となりました。 平成23年までの契約分(旧契約)については、 昨年までと同様に「一般生命保険」と「個人年金保険」の2つに分けられ最高控除額は、 各5万円です。 新契約は、 「一般生命保険」、 「介護医療保険」と「個人年金保険」の3つに分けられ最高控除額は、 各4万円となります。 なお、 旧契約と新契約が混在するケースも発生することもありますが、 各保険料控除の合計適用限度額が12万円とされています。 従いまして、 支払保険契約が、 旧契約か新契約かを保険会社からの証明書で確認しながら申請書に正しく記載する必要があります。

生命保険契約等により支払われた保険料や掛金は所得者本人が支払ったものに限られています。 又、 保険金、 共済金等の給付金の受取人の全てが所得者本人又は所得者の配偶者や親族となっていることが必要です。

翌年以後に払込期日が到来する保険料を一括して前納保険料がある場合には、 本年中に相当する部分のみが支払保険料の金額となります。

 

() 社会保険料控除

所得者本人と生計を一にする親族が負担することになっている社会保険料を所得者自身が支払った場合(時限措置により納付可能となった過去分の保険料の支払分も含む)には、 所得者本人の社会保険料として控除できます。

年金から特別徴収された介護保険料や後期高齢者医療保険料については、 支払者が年金受給者自身となることから、 その年金の受給者の社会保険料として控除となります。

翌年以後に払込期日が到来する保険料を一括して前納保険料がある場合には、 前納期間が1年以内の場合には、 その全額を本年の社会保険料として控除することができます。 なお、 国民年金保険料については、 2年分を前納できることになりましたので、 全額控除をするか、 又は期間按分して控除(この場合には、 按分の明細書が要作成)する方法のいずれかを選択することが可能です。

 

() 地震保険料控除

所得者本人と生計を一にする親族が所有して常時居住している家屋や生活に通常必要な家財に対して支払った保険料の内、 一定の金額を地震保険料控除として控除できます。

一つの契約等で、 地震等損害に対する損害保険契約と旧長期損害保険契約のいずれの契約区分にも該当する場合には、 選択によりいずれか一方の契約区分のみが地震保険料控除の控除額となります(有利な方を選択する)。

 

() (特定増改築等)住宅借入金等特別控除

現在、 各種の住宅借入金等特別控除がありますが、 控除を受けようとする初年度分については、 確定申告により控除の適用を受ける必要があります。 2年度以降分については、 年末調整の際に下記のものを給与支払者に提出します。

① 税務署長が発行した「年末調整のための(特定増改築等)住宅借入金等特別控除証明書」。 この証明書の上部に「給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書」がありますので、 控除金額等の記載を行い提出します。

② 金融機関等が発行した「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」

一般の住宅借入金等特別控除は、 居住者が一定の要件を満たす住宅の取得等して、 その人の居住の用に供した場合(その家屋の取得等の日から6ケ月以内に居住用に供したものに限られています)において、 その住宅の取得等のために一定の住宅借入金(償還期間10年以上等)を有するときには、 居住年以後10年間(平成13年7月1日から平成29年12月31日までの間で居住した場合には、 最長10年間。 それ以前のもは最長15年間)の各年のうち、 合計所得金額が3千万円以下である年について、 住宅借入金等の年末残高を基にした所定額を住宅借入金等特別控除としてその年の所得税額から控除できるというものです。

家屋に入居後、 本年12月31日まで継続して居住用に供していることが控除の適用要件ですので、 年度の途中で海外勤務となり出国している場合には、 この制度の適用はありません。

自己の居住用の家屋が2以上有する場合には、 主として居住用とする1の家屋に限られます。

連帯債務(共有)の場合には、 各年12月31日現在のその住宅借入金等の金額に控除を受ける人の負担割合(持分割合)を加味して控除額を計算します。 その割合は、 小数点以下第4位を切上げ、 90%以上である場合は100%とします。

住宅ローンの借換え: この制度の適用者が、 住宅借入金等の借換えをした場合に一定の要件を満たすときには適用が継続します。 住宅ローン金利が低くいものがあるとローンの借換えを行う場合があります。 一般の住宅ローンの場合の借換えでは、 新たな借入金が当初の借入金を消滅させるもので、 適用対象となっていた家屋の取得等のための資金に充てるものであれば住宅ローン控除の継続適用の対象となります。 その場合の新たな借入金の償還期間も10年以上であることが適用要件となっています。 ローン借換後の借入額が借換前の借入残高以下であれば、 年末借入残高が控除対象額となりますが、 逆に借換後の借入額が借換直前の借入残高を上回る場合、 次の按分計算して控除対象額を導く必要があります。

ローン借換後の借入額の年末残高 X (借換直前の借入残高 ÷ 借換直後の借入額) = 控除対象借入額の年末残高

 

() 給与と徴収税額の集計

年中に支払った給与・賞与が対象になりますが、 本年分の給与で未払いであっても、 本年中に支給日が到来して支払の確定したものについても年末調整の対象になります。

 

以上が年末調整の概要となります。

 

2016年11月20日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

商業登記規則の改正 登記申請に係る「株主リスト」の添付 2016年10月1日以降

商業登記規則の改正により、 2016年10月1日以降の株式会社・投資法人・特定目的法人の一定の登記申請に際して、 「株主リスト」又は「社員リスト」の添付が必要となりました。

 

1.株主リストの添付が必要となる場合

(1)登記すべき事項につき株主全員の同意(種類株主全員の同意)を要する場合

(2)登記すべき事項につき株主総会の決議(種類株主総会の決議)を要する場合(注1)

注1:登記事項につき,株主総会決議を省略する場合にも,株主リストの添付が必要です。

 

2.株主リストの内容

(1)登記すべき事項につき株主全員の同意(種類株主全員の同意)を要する場合

株主全員(又は種類株主全員)について、下記4事項を記載した「株主リスト」が必要となり、代表者が証明します。

① 株主の氏名又は名称

② 住所

③ 株式数(種類株式発行会社は,種類株式の種類及び数)

④ 議決権数

(2)登記すべき事項につき株主総会の決議(種類株主総会の決議)を要する場合

役員の変更登記等が該当します。

(イ)記載株主の範囲

① 議決権数上位10名の株主

② 議決権割合が2/3に達するまでの株主

2/3に達するまでの株主は,議決権割合の多い方から加算していく必要があります。 同順位の株主が複数の場合には、2/3に達したといしても、同順位の株主を全員記載します。 ③ ①又は②のいずれか少ない方の株主を株主リストに記載する。

(ロ)上記の株主(又は種類株主)について、下記5事項を記載した「株主リスト」が必要となり、代表者が証明します。

① 株主の氏名又は名称

② 住所

③ 株式数(種類株式発行会社は,種類株式の種類及び数)

④ 議決権数

⑤ 議決権数割合

2016年10月26日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

税金の消滅時効

商取引の債権・債務を始め、 各種の事柄に「時効」という法的な規定が存在しています。 当然、 税金に関しても「時効」の規定があり、 その時効後に税務署に納付した税金は、 税務署は受領せずに返金となります。 以下に、 税金の消滅時効について言及してみたいと思います。

1.更正・修正・決定

税金は納税者(会社や個人)の自らが税法規定に法り計算し、その結果を所定の申告書に記載し法定申告期限・納付期限までに提出・納付するという、「申告納税制度」を採用しています。 申告・納付後に税法規定の取誤り等で税額計算に誤りがあったことに気が付くことがあります。 その様な場合とは、納税者側で気づく場合と、課税庁側(税務署等)で税務調査等から気づく場合とがあります。

対応者 区分 課税処分・手続
納税者側(法人・個人) 税金の過大申告

(還付請求)

更正の請求
税金の過少申告 修正申告
課税庁側(税務署等) 税務申告有り(更生:正しい税額に改める) 税金の過大申告 減額更正
税金の過少申告 増額更正
税務申告無し(一方的に税額確定) 決定
偽りその他不正行為有り(脱税行為) 更正・決定

「更正の請求」とは、税額等の計算が国税に関する法律の規定(税法)に従っていなかったり、 又は計算に誤りがあったことにより、 当初に納めた税金額が過大であることを理由として自ら正しくすることを請求する制度です。 逆に、 当初に納めた税金額が過少の場合には、 「修正申告」をおこなうことになります。

課税庁は、 所定の期限までに申告のない場合や、 税務申告の内容につき、 法律に従っていなかったり事実を正しく反映していないことなどが明らかになった場合に、補充的に確定をすることになります。この課税庁のなす確定は、 課税処分と総称されますが、 無申告の場合には「決定」、 税務申告内容がが適正でない場合のものは「更正」と呼ばれるところから、 更正・決定といわれます。更正・決定は納税者に対しての補充的なものです。

 

2.法定申告期限・法定納税期限

税金の種類 納税義務者 法定申告期限・法定納税期限
法人税 法人 事業年度終了日の翌日から2カ月以内
消費税 法人 事業年度終了日の翌日から2カ月以内
個人事業者 申告年度の翌年3月末まで
所得税 源泉所得税 給与等の支払者 原則 支払月の翌月10日まで
特例 支払1月~6月:7月10日まで

支払7月~12月:翌年1月20日まで

申告所得税 個人 申告年度の翌年3月15日まで
相続税 相続人 相続を知った日から10カ月以内
贈与税 受贈者 申告年度の翌年3月15日まで

 

3.消滅時効、 時効更新、 時効完成猶予、 除斥期間の定義

具体的な税法上の時効の期限(年数)に関連して、 次の定義を理解しておくことが望まれます。

(1) 消滅時効

権利者が、 一定期間内に何もせずに放置しておくと、 その権利が消滅してしまうことを「消滅時効」といいます。

(2) 時効更新(時効中断)

時効の進行中に一定の事由が発生することで、 これまでの経過期間がクリアーされ、 その事由が止んでから新たな時効が再スタートになること(振出しに戻る)を、 「時効中断」といいましたが、「時効更新」と用語変更となります。

(3) 時効完成猶予(時効停止)

時効の進行中に一定の事由が発生するが、 一時的に経過期間がストップされるだけで、 その事由が止んでから再び時効が進行となることを、 「時効停止」といいましたが、「時効完成猶予」と用語変更となります。

(4) 除斥期間

消滅時効と共通の法的性質を持ち、 権利者が、 一定期間内に何もせずに放置しておくと、 その権利が消滅するという点では同じですが、 時効更新がないところが大きく異なっています。

上記の国税の更正・決定の時効においても、 「時効更新」となることはありませんので、 この様な場合を「除斥期間」と言われます。

 

以上の定義事項は、 税法上の時効の時にも出てきますが、 「時効更新」及び「時効完成猶予」の用語は、 民法改正案における変更のものであり未だ成立・公布・施行には至っておりません。

 

4.税法上に時効 

(1) 国税の更生・決定等の時効(除斥期間)

税金の種類 区分 課税処分 法定申告期限の翌日から起算した時効期間(除斥期間)
法人税(注)・消費税・所得税・相続税 申告有り 減額更正:更正の請求 5年
増額更生:修正申告 5年
申告無し 決定 5年
偽りその他不正行為有り(脱税行為) 更正・決定 7年
贈与税 申告有り 減額更正:更正の請求 6年
増額更正:修正申告 6年
申告無し 決定 6年
偽りその他不正行為有り(脱税行為) 更正・決定 7年

注1: 法人税の移転価格税制に係る更正の請求期間は、 法定申告期限から6年

法人税の純損失等の金額に係る更正の請求期間は、 法定申告期限から9年

更正の請求に際しては、 納税者は更正請求の理由の基礎となる「事実を証明する書面」の添付が必要となります。

なお、 原則として、 地方税の時効期間も法人税と同様です。

以上から、 申告・更正・修正・決定等における事項は、 納税者側も課税庁側も5年、 例外として贈与は6年、 脱税行為は7年ということになります。

 

(2) 国税債権(未納税額)の徴収権の消滅期間

時効 摘要 消滅時効の期間
消滅時効 原則、 法定納税期限から5年後

時効に関して、 その援用(時効の利益を受けようとする意思表示)を必要としなく、 又、 時効満了の前後を問わず、 時効の利益を放棄することが出来ないことから、 時効満了後の納税は過誤納として還付されます。 なお、 その効力は起算日まで遡りますので、 以降の利子税、 延滞税も同様に消滅します。

時効更新 国税債権の消滅時効の更新事由として、

① 更正・決定

② 各種加算税の賦課決定

③ 納税の告知

④ 督促

⑤ 交付要求

 

民法の定める消滅時効の準用される更新事由として、

①裁判上の請求

②仮差押え、仮処分

③承認

④催告

⑤その他

左記の処分の効力が生じた時に時効は「時効更新」し、 これらの処分に係る税額の納期限、 その他所定の期間が経過した時に新たな時効が再スタートとなります。

*更正・決定の場合、 その通知書が発行された日の翌日から起算して1カ月後が納付期限となり、 その日から新たに時効が再スタートすることになります。 時効更新の効果は、 更新事由となる部分に係る税額ということから、 増額更正の増差税額の部分に限られます。

*納税の告知の場合、 告知にて指定された納付期限までの期間につき、 その翌日から新たに時効が再スタートします。

*督促の場合、 処分効力が生じる督促状又は督促のための納付催告書を発した日から起算して10日間までの期間につき、 その翌日から新たに時効が再スタートします。

*期限後申告、 法定納期限後の修正申告も更新事由(承認)となると解され、 申告日が納付期限となることから、 その日から新たに時効が進行することになります。 なお、 納税額の一部納付行為があった場合には、 全額について承認があったものとみなされます。

*請求は、 何らかの形で裁判所が関与する手続きが要求されますので、 単に書面で請求しても更新の効力は生じません。

*催告は、 6カ月以内に裁判上の請求等の法的なん対応がなされない限り更新事由にはなりません。 例えば、 督促状をその都度送付しているだけでは、 更新事由に該当しません。

時効完成猶予 脱税に係る税額 脱税に係る税額についての時効は、 法定納付期限から2年間は進行(一時的に経過期間がストップ)しないことから、 原則の5年と合わせて、 実質的に7年が時効期間となります。

法定納付期限の翌日から2年以内の間に、 税務申告書の提出があった場合にはその翌日から、 又、 更正・決定があった場合はその通知書の発付日の翌日から時効が進行することになります。 なお、 これらが法定納付期限までに行われた場合には、 法定納付期限の翌日から時効が進行します。

 

5.租税罰則・刑事罰則規定

(1)無申告(申告書不提出)における租税罰則

税目 状況 罰則
 

所得税、贈与税、相続税、法人税、消費税、等

脱税(所得秘匿のための積極的な工作という偽りその他の不正行為があり、申告書を提出せずにその結果、税を免れていた場合) 10年以下の懲役もしくは1,000万円(情状により脱税額)以下の罰金、又はこれらの併料
故意に税を免れる意思をもって申告書を提出せず、税を免れた場合 5年以下の懲役もしくは500万円(情状により脱税額)以下の罰金、又はこれらの併料
故意に税を免れる意思がなく申告書を提出せず、申告義務があった場合(秩序犯) 1年以下の懲役、又は50万円以下の罰金
過失による場合 処罰対象外

 

(2)税法違反における刑事罰則

違反行為 刑事罰則 行政制裁
①虚偽申告
・無申告等による税の免脱
不正行為を伴う過少申告・無申告・還付金受領 脱税犯(直接税の場合):

10年以下の懲役もしくは1,000万円(情状により脱税額)以下の罰金、又はこれらの併料

重加算税

(過少・無申告)

過少申告 程度により脱税犯として処罰されるケースあり 過少申告加算税
無申告 故意に税を免れる意思をもって申告書を提出せず、税を免れた場合:

5年以下の懲役もしくは500万円(情状により脱税額)以下の罰金、又はこれらの併料(直接税及び消費税)

無申告加算税
源泉徴収不納付 源泉所得税不納付罪:

10年以下の懲役もしくは200万円(情状により脱税額)以下の罰金、又はこれらの併料

不納付加算税
②秩序犯 無申告 申告書不提出罪:

(故意に税を免れる意思がなく申告書を提出せず、申告義務があった場合)

1年以下の懲役、又は50万円以下の罰金

無申告加算税
調書の不提出等 法定調書等の虚偽記載・不提出罪:

1年以下の懲役、又は50万円以下の罰金

 
③滞納   延滞税

 

 

2016年10月7日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

農地所有適格法人

1.農業法人
農業経営が個人から法人へと移ってきていますが、 これも時代の流れかと思います。 日本の農業経営は、 個人での多くは小規模で、 かつ、 高齢化による後継者問題もあり農業従事者が減少してきています。 逆に、 農業法人という法人組織で農業に参入される件数が増えてきています。 更に、 法人参入を後押しするように、 2015年(平成27年)に農地法が改正され、 2016年4月1日より農業法人の呼称が農業生産法人から「農地所有適格法人」と改称されました。 これは、 農地所有できる法人の要件を緩和化・明確化する為に、 農地法上の法人呼称を変更しています。

2.農業経営に参入できる法人要件
法人が農業経営に参入できる基本的要件(⓵~⓷)は次のとおりです。

①農地の全てを効率的に利用 機械や労働力等を適切に利用するための営農計画を持っていること
②一定の面積を経営 農地取得後の農地面積の合計が、原則50a(北海道は2ha)以上であることが必要(但し、農地面積は、地域実情に応じて市町村の農業委員会が引き下げることが可能)
③周辺の農地利用に支障が無い 水利調整に参加しない、無農薬栽培の取組が行われている地域で農薬を使用するなどの行為をしないこと
農地を所有及び賃借できる法人 上記の基本的要件を満たす「農地所有適格法人」に該当する場合(下記の3.参照)
農地を賃借できる法人 上記の基本的要件を満たす「特定一般法人」に該当する場合(下記の4.参照)

3.農地所有適格法人
この農地所有適格法人の概要は次のとおりです。

法人形態 株式会社(非公開会社<株式の譲渡制限の定めがある会社>に限る)、 持分会社(合名会社、 合資会社又は合同会社)又は農事組合法人(農業協同組合法に準法)
事業要件 売上高の過半数が農業収入(農産物の加工・販売等の関連事業も含む)
構成員(株主、社員、組合員)・議決権要件 農業関係者 * 常時従事者

* 農地の権利を提供した個人

* 農地中間管理機構又は農地利用集積円滑化団体を通じて法人に農地を貸付ている個人

* 基幹的な農作業を委託している個人

* 地方公共団体、 農地中間管理機構、 農業協同組合、農業協同組合連合会

上記農業関係者の議決権が、 総議決権の1/2超

農業関係者以外の構成員 保有できる議決権が、 総議決権の1/2未満
役員要件(取締役、業務執行社員、理事) * 役員の過半数が農業(農産物の加工・販売等の関連事業も含む)の常時従事者(原則年間150日以上)

* 役員又は重要な使用人(農場長等)のうち、 1人以上が農作業に従事(原則年間60日以上)

4.特定一般法人
この特定一般法人の概要(農地を賃借できる適用要件)は次のとおりです。

① 賃借契約に解除条件が付されていること

解除条件の内容:農地を適切に利用しない場合に契約を解除すること

② 地域における適切な役割分担のもとに農業を行うこと

役割分担の内容:集落での話し合いへの参加、農道や水路の維持活動への参画など

③ 業務執行役員又は重要な使用人が1人以上で農業に常時従事すること

農業の内容:農作業に限らず、マーケティング等経営や企画に関するものであっても可

5.法人化のメリットとデメリット
(1)法人化のメリット
制度上のメリットとしては、融資制度や税制上の優遇措置、社会保障制度、農地の取得支援などがあげられ、経営上のメリットとしては経営管理能力や対外的信用力の向上、農業従事者の確保・育成・福利厚生の充実などがあげられます。
(2)法人化のデメリット
法人化に伴う義務としては、納税義務(法人課税が個人課税より有利となるには、一定以上の所得規模が必要)や事業主負担の発生、記帳義務、会計事務に関する経費負担、設立時に資本金や設立登記費用等の経費が必要なことがあげられます。

今後の農業経営を考えた場合、実情から個人経営よりも法人組織下で規模を拡大して運営された方がスケールメリットが取れるものと判断します。

2016年9月13日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

消費税の課税事業者(納税義務者)・免税事業者(納税免除者)の判定

1.課税事業者(納税義務者)とは.

国内取引の納税義務者は「事業者」に限定され、同種の営業行為を反復、継続、独立しておこなう個人事業者や法人(公共・公益法人、人格のない社団等を含む)であり、国内において行った課税資産の譲渡等に伴う取引(国内取引)があった場合です。しかしながら、全ての事業者が必ず消費税の納税者(課税事業者)となるのではなく、中小企業者等の事務負担の軽減や税務執行面に配慮して一定の条件下では、事業者は免税事業者(納税免除者)になることがあります(事業者免税点制度と呼ばれています)。 尚、輸入取引については、事業者だけではなく、個人が輸入する場合にも納税義務者(保税地域から課税貨物を引取る者に課税)となります。

 

(1) 課税事業者・免税事業者判定

消費税の課税事業者と免税事業者の判定が法令の改正が続き複雑になっていますが、次の様になっています。

① 新設法人の場合には資本金で判定(1千万円以上か未満か

(イ)1千万円以上――初年度から課税事業者

(ロ)1千万円未満――免税事業者

但し、1千万円未満でもその新設法人が50%超を直接・間接に所有(各事業年度開始の日時点で判定)され、 かつ、 その親会社の中で基準期間(前々事業年度)の課税売上が5億円超になっている場合には、 課税事業者となります。

② 「基準期間」の課税売上高で判定(前々事業年度の課税売上高1千万円超か以下か)

(イ)1千万円超――課税事業者

(ロ)1千万円以下――免税事業者

法人の場合、基準期間が1年未満(以上も含む)の場合には課税売上高は年換算して判定。

個人事業者の場合、 基準期間が1年未満の場合でも絶対金額で判定(年換算しない)。

③ 「特定期間」の課税売上高及び支払給与額で判定(前事業年度の上半期の6ヶ月間の課税売上高及び支払給与額の双方が1千万円超か又はいずれかが以下か)

(イ)1千万円超――課税事業者

(ロ)1千万円以下――免税事業者

 

(2)免税事業者の課税事業者になることの選択

⓵ 消費税課税事業者選択届出書

上述の様に、課税事業者か否かの判定基準として、「資本金」基準(法人の場合のみ)、「基準期間」基準、及び「特定期間」基準から免税事業者として判定された場合であっても、事業者が選択して課税事業者となることができます。この選択は、消費税の還付を受ける可能性がある場合、例えば高額の固定資産等の購入が予定されるときには、検討されることが望まれます。 手続きとして、「消費税課税事業者選択届出書」を所轄税務署に提出しますが、」提出があった日の属する課税期間の翌課税期間以後(設立初年度は除く)の各課税期間に有効となります。

② 消費税課税事業者選択不適用届出書

この消費税課税事業者選択届出書を提出した場合、その後、課税事業者を辞めようとするときは、「消費税課税事業者選択不適用届出書」を所轄税務署に提出しなければなりませんが、この選択不適用届出は、課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以降に提出可能となります。提出があった日の属する課税期間の翌課税期間から有効になりますので、少なくとも2課税期間は課税事業者として継続することになります(法人の場合、2年間経過後ということから初年度が1年未満事業年度の場合には、3課税期間は課税事業者になります)。この不適用届出書を提出していない限り、再度、基準期間における課税売上高が1千万円以下になる課税期間においても課税事業者として取り扱われます。 又、 新設法人で資本金が1千万円以上の場合には、 2課税期間は強制適用期間として課税事業者になりますが、 3年目において設立初年度(1年目)での課税売上高が1千万円未満(年換算後)であった場合には、 自動的に免税事業者となってしまいます。 3年目以降も課税事業者として継続されたい場合には、 2年目末までに「消費税課税事業者選択届出書」を所轄税務署に提出することが必要になります。

③ 消費税課税事業者選択届出後の制約(調整対象固定資産に係わる控除対象仕入税額の調整)

控除対象仕入税額の控除期間の適正化のために、課税事業者として強制される期間内 ((イ) 新設法人で資本金1千万円以上の設立当初の基準期間が無い事業年度、 (ロ) 事業者免税点制度を受けないで課税事業者を選択した強制適用期間)に1個又は1組で100万円以上の固定資産「調整対象固定資産」を購入し、 第3年目末現在も当該調整対象固定資産を保有されている場合、一定の控除税額の調整が必要となるケースがあります。

(a)課税売上割合が著しく変動した場合

3年間の通算課税売上割合に対して、資産仕入時課税期間の売上割合との変動率が50%以上で、かつ両者の差額が5%以上のケース。

(b)転用があった場合

その資産用途が、課税と非課税業務用間での転用のケース

(注)課税事業者を選択した者、又は資本金1,000万円以上の設立後2年以内の新設法人で調整対象固定資産を取得した場合には、取得時に簡易課税制度の適用を除き、その取得期間から原則として3年間は事業者免税点制度の適用はなく、又、簡易課税制度へ変更することもできません。

2016年9月13日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

信託:遺言代用信託と遺言信託の違い

死亡により死亡者(被相続人)の財産は、通常その相続人に引き継がれますが、相続でのトラブルが少なくありません。 相続人間で解決できない場合には、家庭裁判所への相談(調停・裁定)となります。 現在では、その相談は年間10万件以上ということで死亡者の約10人に1人という割合になっています。 なお、相談となるケースでの相続財産は決して高額ではなく、相続財産が1千万未満で全体の約30%、5千万未満となると全体の約70%という割合を占めています。 この様に相続が「争続」にならないように事前に対策する傾向が高まってきています。 その対策の一つに信託の活用がありますが、最近では信託銀行等が提供しており活用が増えてきています「遺言代用信託」と「遺言信託」について考えてみたいと思います。

 

  1. 信託とは

信託法の改正により、 現在では信託を一定の枠組みに中で自由設計が認められるようになりました。 信託では、 契約(信託契約による信託行為)に基づき自分(委託者)の財産(信託財産)を他人(受託者)に託し、 特定者(受益者)への一定の目的(信託目的)の為に信託期間中、 それを運営管理・処分をしてもらうことです。 登場人物は委託者、 受託者、 受益者の3名ですが、 委託者と受益者とが同一人となることもありますし、 信託設定時には受益者が存在していない場合もあります。

 

  1. 信託法における信託類型

信託における課税関係では、 受益者となる者の時期等によって異なりますが、 その種類としては次の4つがあります。

(1) 遺言代用信託

委託者が生前には受益者(自益信託)となり、 死亡時に受益者となるべき者を予め指定している信託。 例えば、 契約により信託銀行が委託者から生前に金銭を預かり、 死亡時に契約した内容(葬儀費用等)で受取人に払出すという仕組にしているものです。

(2) 受益者指定・変更権のある信託

受益者を指定し、 又は変更する権利を有する者の定めのある信託

(3) 後継遺贈型による受益者の連続信託(受益者連続型信託)

受益者の死亡によりその受益者が消滅し、 他の者が新たな受益権を取得する定めのある信託

(4) 受益者の定めのない信託

信託設定時点では受益者の定めがなく、 公益目的等の為に設定しますが、 将来の受益者の為に信託管理人を設置しておく信託

 

  1. 遺言信託

「遺言信託」という商品名で信託銀行等が提供しているものがありますが、 信託法における遺言代用信託とは異なるもので、 そのサービス内容は3つに大別されます。

(1) 遺言の作成や公証役場での手続き支援

(2) 遺言書の保管(定期的に内容変更有無の確認)

(3) 相続時に遺言書の執行人(遺産の調査、 相続税の申告作業支援等)

 

  1. 遺言代用信託と遺言信託の相違点
遺言代用信託 遺言信託
対象資産 現預金のみ 制限無し
金額 主に、 100万~3,000万円 原則制限無し
費用負担 無料(信託銀行等が預かった資金の運用益の一部を受領有り) 約100万~150万円から(資産額による)
利用目的 葬儀代負担資金
毎月一定額の資金支払
依頼者の意向に沿った財産の分配

 

生前の利用として遺言信託以外に遺言代用信託も急増しています。 相続発生時に、 遺産分割の手続が完了するまでは、 原則として預金を引き出すことができませんので、 遺言代用信託はそれを回避することが可能であり、 又、 遺言のように被相続人の意向を遺産分配に反映することも可能となります。

2016年8月21日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

消費税率10%引上げ時期の延期に伴う税制上の措置

自民、公明両党は、8月2日に「消費税率引上げ時期の変更に伴う税制上の措置」を決定し公表しました。 これを踏まえて、政府は9月招集の臨時国会に関連法案を提出して早期成立を図る予定です。 以下は、その措置の主な内容(改正案)です。

項目 平成28年度税制改正(現行) 改正案
消費税率引き上げの施行日 平成29年4月1日 平成31年10月1日
請負工事等に係る適用税率の経過措置の指定日 平成28年10月1日 平成31年4月1日
軽減税率制度の導入時期 平成29年4月1日 平成31年10月1日
適格請求書等保存方式の導入前の税額計算の特例
① 売上税額の計算特例
(イ)基準期間の課税売上高が5千万円以下に中小事業者 平成29年4月1日から平成33年3月31日までの4年間 平成31年10月1日から平成35年9月30日までの4年間
(ロ)基準期間の課税売上高が5千万円超の大規模事業者 平成29年4月1日から1年間 経過措置の適用外
② 仕入税額の計算特例
(イ)卸小売業者の特例 平成29年4月1日から1年間(全卸小売業者を対象) 平成31年10月1日から1年間(卸小売業の中小事業者のみを対象)
(ロ)簡易課税制度等の事後選択特例 平成29年4月1日から1年間(中小事業者及び大規模事業者) 平成31年10月1日から1年間(中小事業者のみを対象)
適格請求書等保存方式(インボイス制度)の導入時期 平成33年4月1日 平成35年10月1日
適格請求書発行業者の登録申請開始日 平成31年4月1日 平成33年10月1日
免税事業者からの仕入控除特例
① 100%控除 平成33年3月31日まで 平成35年9月30日まで
② 80%控除 平成33年4月1日~平成36年3月31日まで 平成35年10月1日~平成38年9月30日まで
③ 50%控除 平成36年4月1日~平成39年3月31日まで 平成38年10月1日~平成41年9月30日まで
④ 0%控除 平成39年4月1日以降 平成41年10月1日以降
住宅取得等に係る税額控除の適用期限 平成31年6月30まで 平成33年12月31まで
① 住宅借入金等を有する場合
② 特定の増改築等に係る住宅借入金等を有する場合(特例)
③ 既存住宅の耐震改修をした場合
④ 既存住宅に係る特定の改修工事をした場合
⑤ 認定住宅の新築等をした場合
⑥ 東日本大震災の被災者等に係る住宅借入金等を有する場合(特例)

資産課税におきまして、期間の変更があります。

  1. 直近尊属から住宅取得等資金贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置

特定受贈者(贈与年の1月1日現在20歳以上で合計所得金額2,000万円以下の者)が、 その直系尊属(親、祖父母等)から受ける居住用家屋の新築・取得・増改築等用に住宅取得等資金の贈与については、非課税限度額が定められています。

住宅用家屋の取得価額に消費税率10%の消費税等が含まれている場合 (消費税率10%で契約した者)

住宅用家屋の取得等に係る契約の締結期間 良質な住宅用家屋(耐震等住宅) 左記以外の住宅用家屋(その他の一般住宅)
現行 改正案 3,000万円 2,500万円
平成28年10月~平成29年9月 平成31年4月~平成32年3月
平成29年10月~平成30年9月 平成32年4月~平成33年3月 1,500万円 1,000万円
平成30年10月~平成31年6月 平成33年4月~平成33年12月 1,200万円 700万円
なお、 東日本大震災の
被災者が受贈者の場
合には、 以下のようになります。
平成28年10月~平成29年9月
平成29年10月~平成31年6月
平成31年4月~平成32年3月

平成32年4月~平成33年12月

3,000万円

1,500万円

2,5000万円

1,000万円

上記(1)以外の場合 (消費税率8%で契約した者や個人間売買で中古住宅売買契約した者)

住宅用家屋の取得等に係る契約の締結期間 良質な住宅用家屋(耐震等住宅) 左記以外の住宅用家屋(その他の一般住宅)
現行 改正案 1,200万円 700万円
平成28年1月~平成29年9月 平成28年1月~平成32年3月
平成29年10月~平成30年9月 平成32年4月~平成33年3月 1,000万円 500万円
平成30年10月~平成31年6月 平成33年4月~平成33年12月 800万円 300万円
なお、 東日本大震災の
被災者が受贈者の場
合には、 以下のようになります。
現在~平成31年6月
現在~平成33年12月 1,500万円 1,000万円

 

  1. 住宅取得等資金の贈与に係る相続時精算課税選択の特例(措法70の3)

住宅取得等資金の贈与を受ける場合に限り、 相続時精算課税制度を選択される時には、 贈与者の年齢制限の適用要件が外れるという特例規定があります(相続時精算課税選択の特例)。 なお、 対象住宅の床面積が50㎡以上であればよく上限条件は付されていません。

特別控除 2,500万円
年齢要件 贈与者 親(年齢制限無し)
受贈者 20歳以上の子及び孫)
適用期間 現行 改正案
平成15年1月1日から
平成31年6月30日まで
平成15年1月1日から
平成33年12月31日まで

 

 

2016年8月21日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

中古減価償却資産を非業務用から業務用に転用した場合の減価償却費

事業を行っている時に、個人所有の建物、備品、車等のように使用や期間の経過により減価する資産(減価償却資産)を事業用(業務用)に転用することがあります。 この転用時には、それらの減価償却資産を金額評価して業務用資産として記帳することが必要となりますが、金額評価方法はどうなるでしょうか。

1.個人所有から法人事業への転用

原則、転用時の時価相当額で売却(譲渡)することになります。 法人では、中古減価償却資産の購入として取り扱われます。 個人の方では、 売却状況によっては譲渡所得の対象になる場合があります。

2.個人所有から個人事業への転用

資産計上の対象資産評価は、減価償却後の金額で考えなければなりません。

(1)転用時の未償却残高の計算

① 耐用年数の算定

非業務用資産の耐用年数は、その資産と同種の減価償却資産に係る法定耐用年数に1.5を乗じて計算した年数となります。

耐用年数 X 1.5 = 非業務用資産の耐用年数(1年未満の切捨て)

(注) 公表されています法定耐用年数表は、 事業用(業務用)を前提にしていますので、 非業務用は、 その1.5倍として取り扱われます。

② 減価償却累計額の算定

(イ)非業務用資産の経過年数の算定

非業務用資産の購入時から業務用転用時までの経過年数を求める。

業務用転用時の年月(1月未満は1月) - 購入時の年月(1月未満は1月)

= 経過年数(6月以上の端数は1年とし、6月未満は切捨て)

(ロ)減価償却方法と減価償却額の算定

非業務用資産の減価償却計算は、以下の算式で必ず旧定額法によります。

取得価額 X 90% X 非業務用資産の耐用年数に対応する旧定額法の償却率 X 経過年数 = 減価償却累計額

なお、 平成19年3月31日以前に取得した非業務用資産を業務の用に供した場合には、 償却可能限度額 (取得価額の95%相当額) に達した年分の翌年分以後、 その未償却残高 (取得価額の5%) に対して備忘価額1円を残し5年間で均等償却します)。

(取得価額  X  5%償却残存可能価額 - 1円) ÷ 5年 = 償却限度額

③ 未償却残高相当額の算定

取得価額 - 非業務時の減価償却累計額 = 未償却残高相当額(業務転用時の取得価額)

(2)転用後の減価償却費の算定

① 中古資産の改訂耐用年数の算定

中古資産となりますので、その資産の法定耐用年数によらずに、購入した中古資産の取得の時以後の使用可能期間の年数を耐用年数とすることができます。 この場合、今後の使用可能期間の年数を合理的に見積もることが困難なときは、簡便法による年数によることもできます。

(イ)法定耐用年数の一部を経過した資産

(法定耐用年数 - 経過年数) + 経過年数 X 20/100 = 改訂耐用年数

(ロ)法定耐用年数の全部を経過した資産

法定耐用年数 X 20/100 = 改訂耐用年数

(注)  経過年数は、購入から業務用転用時までの期間を年換算して改訂耐用年数までを計算します。 改訂耐用年数は、1年未満の端数は切捨てた年数とし、2年未満の場合は2年とします。

② 減価償却方法

業務用期間における減価償却資産の償却方法は、その資産の当初の購入年月日(非業務用から業務用に転用した日でないことに留意)により、以下の様に異なります。

当初の購入年月日 建物 建物以外の一般的な有形減価償却資産
平成10年3月31日以前 旧定額法 又は 旧定率法 旧定額法又は旧定率法
平成10年4月1日から 平成19年3月31日まで 旧定額法 旧定額法又は旧定率法
平成19年4月1日以後 定額法 定額法又は定率法

③ 初年度の減価償却額の算定

未償却残高相当額(業務転用時の取得価額)X 改訂耐用年数に対応する減価償却方法による償却率 X(事業月数 ÷ 12)= 減価償却額

2016年7月19日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

公的年金(国民年金と厚生年金)はいくらもらえるか

年金(私的・公的)は老後の生活資金としての役割がありますが、その生活資金の満額をカバーできるものではなく、一部に過ぎず不足分は貯蓄から充当するしかないと言われています。 以下に、年金について言及してみたいと思います。

1.日本の年金制度

年金制度には、①全国民共通の「国民年金」、 ②会社員・公務員の「厚生年金」・「共済年金」、 ③会社独自の年金基金制度(確定拠出年金制度、 確定給付年金制度、 等)となる「企業年金」等があります。 その中で公的年金と言われるのが、①と②の年金(国民年金と厚生年金)となっています。

2.国民年金

20歳以上の国民全員が60歳まで加入しなければならない公的な年金(基礎年金)です。 強制加入被保険者以外の方でも、 以下のいずれかに該当すれば被保険者(任意加入被保険者)となることができます。

① 年金給付額を増やしたい60歳~65歳までの方

② 年金の受給資格期間を満たしていない60歳~70歳までの方

③ 国外居住の20歳以上65歳未満の日本人

国民年金(老齢基礎年金)の受給開始は、65歳からとなっています。

3.厚生年金 (社会保険制度)

会社等に雇用中で70歳未満の方が加入するものですので、 70歳になりますと厚生年金の加入資格が無くなり脱退手続きをします。

厚生年金(老齢厚生年金)の受給開始年齢は、現在60歳から段階的に引上げられており最終的には国民年金の支給開始と同様に65歳からとなります。 なお、在職中で社会保険制度に加入しながら老齢厚生年金を受給されている場合、 その年金額の全部又は一部が1カ月間の年金受給額と給与収入の合計額に応じてカット(支給停止)されます。

4.公的年金の受給額

詳細な年金受給額の算定式は省略しますが、給与額(所得額)及び加入期間に応じて受給額が算定されます。

さて、現在の年金受給額の最高額(満額)は、年間いくらになるのでしょうか。 例えば、 加入期間が40年間の場合(40年間の間、 各年において標準報酬月額620,000円、 賞与1,500,000円が年2回)には、

老齢基礎年金: 780,100円

老齢厚生年金:2,288,800円

合計       3,068,900円

注: 賞与に対して、 年金保険料の対象になったのは、 平成15年4月以降の支給分からです。

 

以上のように年間の年金受給額が、 3百万を超える方は殆どいないかと思います。 一般的には、 40年近く加入期間があっても2百万円前後かと思います。

2016年7月19日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

合同会社形態設立の年々増加傾向

法人の形態には各種のものがありますが、2006年5月1日の会社法施行から条件等が緩和され、 例えば資本金が1円でも株式会社を設立することができるようになりました。 又、設立手続・規制が株式会社よりも緩和されています、特に合同会社の設立が年々増加傾向にあることが顕著です。 下記の表は、株式会社と持分会社を纏めたものですが、これ以外に一般社団法人や一般財団法人というものもあります。

(1) 会社の種類と機関

会社の種類(分類) 物的会社

(株式を保有する株主がオーナー)

持分会社

(持分を保有する社員がオーナー)

株式会社 合同会社 合名会社 合資会社
公開性 株式譲渡会社

(公開会社)

株式譲渡制限会社

(非公開会社)

閉鎖会社
最低出資者数 1名(株主) 1名(社員) 2名(無限・有限

責任社員)

出資者の責任 有限責任 有限責任 無限責任 有限・無限責任
最高意思決定機関 株主総会 社員総会
代表者 代表取締役 代表社員
業務執行する役員 取締役 業務執行役員
取締役人数 3名以上 1名以上 規定なし
監査役人数 1名以上 任意 規定なし
役員任期 取締役2年

監査役4年

取締役2年

監査役4年

(最長10年まで延

長可)

規定なし
取締役会設置 必要 任意 規定なし
決算広告 必要 不要
定款認証(公証役場) 必要(手数料5万円、 印紙代4万円) 不要(印紙代4万円)
登記申請(法務局) 必要(登録免許税 最低15万円) 必要(登録免許税 最低6万円)

(2)計算書類

① 作成する計算書類

会社組織 貸借対照表 損益計算書 株主資本等変動計算書 注記表 附属明細書
株式会社 必要 必要 必要 必要 必要
合同会社 必要 必要 社員資本等変動計算書 必要 義務無し
合名・合資会社 必要 義務無し 義務無し 義務無し 義務無し

計算書類の承認は、株式会社では株主総会となりますが、持分会社にはその様な機関の設置が義務付けられていませんので、原則として、社員の過半数承認をもって決定することになります(株主総会の議事録の代わりとして、社員の同意書等の作成)。

② 純資産の部の表記

株式会社 持分会社
株主資本 社員資本
資本金 資本金
資本剰余金

資本準備金

その他の資本剰余金

資本剰余金

 

利益剰余金

利益準備金

その他の利益剰余金

利益剰余金

 

注:出資時の出資金額の2分の1以上を資本金にする規制は無し

注:

① 決算公告の義務が無く、仮に資本金が5億円以上でも大会社として会計監査人の監査も不要

② 業務執行社員には法人がなることは可能で、その場合には特定の人を選任する必要があります。 その法人に役員給与を支給することができ、所得税の源泉徴収義務はありませんが、消費税の課税仕入の対象と考えられています。

2016年6月16日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant