平成29年度税制改正による平成30年度以降の源泉徴収事務等の留意点

1.配偶者控除及び配偶者特別控除の見直し(平成30年分以後(2018年1月から)
現行では、配偶者の合計所得金額が38万円以下(給与収入では103万円以下)の場合に配偶者控除38万円(老人控除対象配偶者48万円)、 並びに配偶者の合計所得金額が38万円超76万円未満の場合に配偶者特別控除が適用となっていましたが、 改正では、 配偶者控除は世帯主の年収に応じて縮小され、配偶者特別控除は配偶者の年収要件を103万円(合計所得金額では38万円)から150万円(合計所得金額では123万円)に引上げ、 かつ配隅者及び世帯主の年収に応じて控除額が以下の様に9段階で縮小となりました。

配偶者控除及び配偶者特別控除/
配偶者の合計所得金額
900万以下900万超950万以下950万超1,000万以下1,000万超控除区分
38万円以下38万円
「同一生計配偶者」
26万円
「同一生計配偶者」
13万円「同一生計配偶者」0円
「同一生計配偶者」
配偶者
控除(1)
「控除対象配偶者」
「源泉控除対象配偶者」
「控除対象配偶者」「控除対象配偶者」
38万円超 85万円以下38万円
「源泉控除対象配偶者」
26万円13万円0円配偶者
特別控除(2)
85万円超 90万円以下36万円 24万円12万円同上同上
90万円超 95万円以下31万円 21万円11万円同上同上
95万円超 100万円以下26万円 18万円9万円同上同上
100万円超 105万円以下21万円 14万円 7万円同上同上
105万円超 110万円以下16万円 11万円6万円同上同上
110万円超115万円以下11万円 8万円4万円同上同上
115万円超120万円以下6万円4万円2万円同上同上
120万円超123万円以下3万円2万円1万円同上同上
123万円超0円0円0円0円

(1)配偶者控除
合計所得金額が38万円以下である「同一生計配偶者」で、かつ、合計所得金額が1千万円以下(給与等の収入金額では1,220万円以下)である世帯主の配偶者となる「控除対象配偶者」のみが、配偶者控除の対象となります。
*「同一生計配偶者」とは、世帯主と生計を一にする配偶者(青色事業専従者等を除く)で、合計所得金額が38万円以下である人をいいます。
*「控除対象配偶者」とは、同一生計配偶者の内、合計所得金額が1千万円以下である世帯主の配偶者をいいます。又、控除対象配偶者の内、年齢が70歳以上の人は「老人控除対象配偶者」となり、控除額が上乗せされています。
*「配偶者」とは、戸籍法で定める婚姻届出をされている配偶者とされますので、内縁関係にある者は配偶者に該当しません。なお、外国人においては、その者の本国法に定める要件を満たすことによって婚姻の成立した配偶者であればよいことになります。配偶者の判定時期は、12月31日(あるいは死亡時又は出国時)の現況によります。年の途中で配偶者と死別し、再婚した場合には、どちらか一人を配偶者とすることができます。
*「合計所得金額」とは、純損失の繰越控除及び雑損失の繰越控除を適用しないで計算した総所得金額、退職所得金額、山林所得金額その他租税特別措置法の規定する申告分離課税の対象とされる所得の金額(例えば、上場株式等の配当所得等の金額)の合計額をいいます。
(2)配偶者特別控除
合計所得金額が38万円超123万円以下の世帯主と生計を一にする配偶者で、かつ、合計所得金額が1千万円以下である世帯主の配偶者に対して、配偶者特別控除の対象となります。
(3)障害者控除
対象者一般障害者特別障害者
同一生計配偶者27万円40万円
世帯主(納税者)27万円40万円
同居同一生計配偶者又は同居扶養親族75万円

2.平成30年1月以降の源泉徴収事務
給与等の源泉徴収税額の計算にあたり、扶養親族等の数や給与所得者の扶養控除等(異動)申告書等の申告書に対して、以下の通り変更があります。
(1)配偶者に係る扶養親族等の数のカウント及び給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の記載
控除額38万円の配偶者控除又は配偶者特別控除の適用を受けることができる世帯主は、合計所得金額が900万円以下の者に限られることになりました。その為に、源泉徴収における配偶者の「扶養親族等の数」のカウントにも変更があります。これまでは、合計所得金額が38万円以下の配偶者であれば、扶養親族等の数に1人としてカウント出来ましたが、平成30年1月より扶養親族等の数に1名としてカウント出来る配偶者は、生活を一にする配偶者の合計所得金額が85万円以下で、かつ、世帯主の合計所得金額が900万円以下である、「源泉対象配偶者」である場合に限定されました。
*「源泉対象配偶者」とは、世帯主と生活を一にする配偶者(青色事業専従者等を除く)の合計所得金額が85万円以下で、かつ、世帯主の合計所得金額が900万円以下である人をいいます。各合計所得金額は、当年間の見積額により判定することになります。
又、同一生計配偶者が障害者に該当する場合には、扶養親族等の数に1人を更に加算して計算することになります。
これにより、毎年最初に給与の支払日前に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に、該当する場合には、源泉対象配偶者の氏名、個人番号、生年月日、当年間の所得の見積額、及び同一生計配偶者が障害者並びに扶養親族の障害者等に該当の有無等を記載し提出することになりました。
(2)年末調整時の申告書
配偶者控除及び配偶者特別控除の適用について、配偶者の合計所得金額に上限額が設けられた為、年末調整に際して、これまで給与所得者の保険料控除申告書と兼用様式となっていた給与所得者の配偶者特別控除申告書が改正され、単独の「給与所得者の配偶者控除等申告書」を提出し正確な控除を確定することになります。つまり、見積額で源泉控除対象配偶者に該当する場合には、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出し、月々の源泉徴収を行い、年度中に変更等があった時には扶養控除等異動申告書を提出することになります。なお、年度中に源泉控除対象配偶者に該当しなくなった場合でも遡及是正を行う必要はありません。最終的には、年末調整時に「給与所得者の配偶者控除等申告書」で精算することになります。

2017年11月6日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

年末調整の概要

  1. 年末調整とは

毎年11月となりますと会社(給与支払者)の給与担当部署は、 「年末調整」の準備・対応という大変忙しい時期を迎え、 勤務者(従業員)はその年末調整の為に必要となる申告書や証明書類等を所定の期限までに会社に提出することが求められます。 会社は、 勤務者から回収した年末調整用の書類の内容を確認しその最終提出情報に基づいて、 暦年の最終給与支払時(通常、 12月給与)に納めるべき年間の所得税及び復興特別所得税(年税額)を算出し、 これまでの給与支給時に源泉徴収された累計税額とを比べその差額となる過不足額を精算(徴収又は還付)します。 その一連の精算手続が年末調整ということになります。 一般的には、 年末調整により還付されるケースが多いかと思います。

 

  1. 平成29年度(2017年度)の所得税に係わる改正

平成29年度の年末調整において、税制改正により影響を受ける主な項目は以下の通りです。

(1) 給与所得控除額の上限額引下げ

給与収入1,000万円超から給与所得控除額は220万円が上限となりました。

(2) マイナンバーの記載不要の特例制度

平成28年1月よりマイナンバー制度が導入されましたが、平成29年分以後の扶養控除等(異動)申告書等へのマイナンバーの記載不要の特例制度が創設されました。 その適用要件として、既にマイナンバーの情報が提供されており、 その情報を記載した帳簿を会社が備えているときには記載不要となりました。

マイナンバーの記載不要の特例制度が適用できない方には、以下の対応が必要となります。

「平成29分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出にあたり、 給与所得者本人、 控除対象配偶者、 控除対象扶養親族等の個人番号を記載することになります。 提出にあたり、 給与支払者が給与所得者から個人番号の提供を受ける場合は、 本人確認として、 提供の番号が正しいことの確認(番号確認)と、 番号提供者が真にその番号の持ち主であることの確認(身元確認)を行う必要があります。 なお、 控除対象配偶者、 控除対象扶養親族等の本人確認は、 給与所得者が行うことになっています。

平成28年1月以降の支払に係る給与所得の源泉徴収票には、 上記の個人番号を記載して税務署等の行政機関に提出することになりますので、 「扶養控除等(異動)申告書」に必要なマイナンバーが記載されていない場合には、 源泉徴収票作成までにマイナンバーの提供を受ける必要があります。 なお、 給与所得者への源泉徴収票には、 個人番号は記載されません。

(3) 平成301月以後の源泉徴収等に関する改正

平成29年度税制改正におきまして、平成30年1月(平成30年度)より配偶者控除及び配偶者特別控除に改正がありました。その為に、源泉徴収事務においてその対応に注意が必要となります。特に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」等の記載内容や扶養親族等の数の数え方に関する点です。年末調整時にも影響する内容となっています。これらの内容に関しましては、後日紹介いたします。

 

  1. 年末調整の対象者

年末調整の対象者は、 原則として会社に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している人は全員含まれます。 但し、 給与収入額が2千万円を超える人は年末調整を行ないませんので自身の確定申告を通じて年税額の精算をしなければなりません。 通常、 1カ所から給与支給を受けている人は、 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出し年末調整を受けることになります。

次の人は年末調整の対象者にはなりません。

(1) 年中の給与収入額が2千万円を超える人

(2) 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していない人(年末調整を行うことができませんが、 支払の際の源泉徴収においては乙欄の税額表が適用となります)

(3) 年中に退職(死亡退職した人、 非居住者として国外勤務者となった人、 等を除く)した人

(4) 国内に住所も1年以上の居所を有していない人(非居住者)

(5) 災害免除法の規定により源泉徴収について徴収猶予や還付を受けた人

(6) 日雇労働者等(丙欄の税額表適用者)

 

年末調整の為に提出が求められる申告書とその中に記載される控除項目は以下のとおりです。 当該控除項目以外に所得から控除可能な項目がある場合にはそれらの項目は確定申告で行うことになります。

申告書の名称 控除項目
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 配偶者控除、 扶養控除、 障害者控除、 寡婦(夫)控除、 勤労学生控除、 基礎控除
給与所得者の配偶者特別控除申告書 配偶者特別控除
給与所得者の保険料控除申告書 生命保険料控除(一般生命・介護医療・個人年金)、 地震保険料控除、 社会保険料控除、 小規模企業共済等掛金控除
給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書 (特定増改築等)住宅借入金等特別控除(2年目から年末調整の対象で初年度は確定申告が必要)

申告書記載上の主な注意点は以下のものがあります。

() 1231日時点の現況で記載

その年の12月31日現在の現況を見積もりで記載することになります。 見積記載の内容に修正が生じた場合(例えば、 扶養者数の増減、 等)には、 再年末調整(翌年の1月末までは可能)又は確定申告により適正な精算を行うことになります。

 

() 人的控除項目の判定基準に合計所得金額基準

控除項目の中(控除対象配偶者、 控除対象扶養控除、 配偶者特別控除等の人的控除項目)には、 その控除に該当するかの判定基準にその年度の合計所得金額がありますので留意してください。 多い誤りとしては、 配偶者の合計所得金額が控除対象金額を超えているケースです。

配偶者控除の場合の合計所得金額は、 38万円以下(給与収入額では103万円以下)でなければなりません。 「配偶者」とは、 婚姻の届出をしている配偶者をいい、 内縁関係の人は含まれません。

配偶者特別控除の場合の合計所得金額は、 38万円超~76万円以下でなければなりません。

公的年金等の雑所得だけの方で控除対象扶養者(合計所得金額が38万円以下)になる場合には、 公的年金等の収入金額が158万円以下(年齢65歳未満の人は108万円以下)という条件を満たす人です。

 

「所得金額」として、 税法の規定のなかに「合計所得金額」、 「総所得金額」、 「総所得金額等」の3種類が適用判定基準の中に出てきますが、 それぞれ多少の違いがあります。

(1) 所得金額基準は主にどの適用範囲に出てきているか

所得金額 主な適用範囲
合計所得金額 ●扶養控除対象者: 合計所得金額が38万円以下

●配偶者控除対象者: 合計所得金額が38万円以下

●配偶者特別控除対象者: 合計所得金額が38万円超76万円未満、 並びに申告者本人の控除対象者: 合計所得金額が1,000万円以下

●寡婦(寡夫)控除対象者: 合計所得金額が500万円以下

●勤労学生控除対象者: 合計所得金額が65万円以下

●住宅ローン控除対象者: 合計所得金額が3,000万円以下の年

●居住用財産の買換えの譲渡損失の損益通算・繰越控除の適用対象者: 合計所得金額が3,000万円以下の年

●特定居住用財産の譲渡損失の損益通算・繰越控除の適用対象者: 合計所得金額が3,000万円以下の年

●市県民税均等割の非課税判定基準・市県民税の扶養親族や各種控除の判定基準

●直系尊属から住宅取得等資金の受贈与者の非課税対象者: 合計所得金額が2,000万円以下

総所得金額
総所得金額等 ●医療費控除限度額: 総所得金額等の5%

●雑損控除限度額: 損失の金額 - 総所得金額等 X 10%

●寄付金控除限度額: 総所得金額等 X 40% - 2,000円

●寡婦となる要件: 扶養親族その他その人と生計を一にするその年分の総所得金額等が38万円以下の子がいる人

●寡夫となる要件: 生計を一にするその年分の総所得金額等が38万円以下の子がいる人

●市県民税所得割の非課税判定基準

(2) ①合計所得金額、 ②総所得金額、 ③総所得金額等の定義

左から右にみて所得の範囲等がそれぞれ異なっていることがお分りになるかと思います。

所得種類 各種繰越控除の適用(①から控除)
利子所得






通算
 





金額

* 純損失や雑損失の繰越控除

* 居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除

* 特定居住用財産の譲渡損失の繰越控除

* 上場株式等の譲渡損失の繰越控除

* 特定中小会社発行株式の譲渡損失の繰越控除

* 先物取引の差金等決済損失の繰越控除

 




金額

 





額等

配当所得
不動産所得
事業所得
給与所得
雑所得
一時所得 2分
の1
総合課税の譲渡所得 長期
短期
分離課税(土地・建物等)の譲渡所得(特別控除適用前) 長期
短期
分離課税の株式等の譲渡所得
分離課税の先物取引の雑所得
退職所得
山林所得

配偶者控除、 扶養者控除等の所得基準額は、 「総所得金額」より範囲が広い「合計所得金額」で判定することになり、 分離課税所得の発生年度には注意が必要となります。

 

() 年齢16歳未満の年少扶養親族

控除対象扶養控除に関して、 平成23年度から年齢16歳未満の年少扶養親族に対する扶養控除が所得税では廃止となっています(年齢16歳未満は所得税における扶養控除対象者ではありません)。 しかし、 住民税の方では控除対象となっていますので住民税に関する欄への記載を忘れないでください。 なお、 年齢16歳未満の年少扶養親族であっても、 障害者又は特別障害者に該当する場合には、 障害者控除を受けることはできます。

平成29年度の年末調整時における年齢16歳未満とは、 平成14年1月2日以後に生まれた人が年少者となります。

 

() 扶養親族

所得者と生計を一にする親族(6親等内の血族と3親等内の姻族)で、 合計所得金額が38万円以下の人を扶養親族(配偶者、青色事業専従者及び白色事業専従者を除く)といいます。 その中には、 以下のように区分されています。

① 控除対象扶養親族

扶養親族のうち、 年齢16歳以上の人をいいます(平成29年度の年末調整では、 平成14年1月1日以前に生まれた人)。

② 特定扶養親族

扶養親族のうち、 年齢19歳以上23歳未満の人をいいます(平成29年度の年末調整では、 平成7年1月2日から平成11年1月1日までの間に生まれた人)。

③ 老人扶養親族

控除対象扶養親族のうち、 年齢70歳以上の人をいいます(平成28年度の年末調整では、 昭和23年1月1日以前に生まれた人)。

④ 同居老親等

老人扶養親族のうち、 所得者又はその配偶者の直系尊属でいずれかとの同居を常況としている人をいいます。

(注): 国外居住親族に係る扶養控除等の適用時に所定の書類添付等の義務化

非居住者である親族(国外居住親族)に係る扶養控除、 配偶者控除、 障害者控除又は配偶者特別控除の適用を受ける場合には、 「親族関係書類」及び「送金関係書類」の提出又は提示を受ける必要があります。

具体的な手続きとして、 適用を受ける旨を「扶養控除等(異動)申告書」上の「非居住者である親族」欄に○印を付し、 関係書類の提出等を行います。

 

() 生命保険料控除の改組

平成24年(2012年)1月1日からの契約分(新契約)から一般生命保険に含まれていた「介護医療保険」が独立の控除対象となりました。 平成23年までの契約分(旧契約)については、 昨年までと同様に「一般生命保険」と「個人年金保険」の2つに分けられ最高控除額は、 各5万円です。 新契約は、 「一般生命保険」、 「介護医療保険」と「個人年金保険」の3つに分けられ最高控除額は、 各4万円となります。 なお、 旧契約と新契約が混在するケースも発生することもありますが、 各保険料控除の合計適用限度額が12万円とされています。 従いまして、 支払保険契約が、 旧契約か新契約かを保険会社からの証明書で確認しながら申請書に正しく記載する必要があります。

生命保険契約等により支払われた保険料や掛金は所得者本人が支払ったものに限られています。 又、 保険金、 共済金等の給付金の受取人の全てが所得者本人又は所得者の配偶者や親族となっていることが必要です。

翌年以後に払込期日が到来する保険料を一括して前納保険料がある場合には、 本年中に相当する部分のみが支払保険料の金額となります。

 

() 社会保険料控除

所得者本人と生計を一にする親族が負担することになっている社会保険料を所得者自身が支払った場合(時限措置により納付可能となった過去分の保険料の支払分も含む)には、 所得者本人の社会保険料として控除できます。

年金から特別徴収された介護保険料や後期高齢者医療保険料については、 支払者が年金受給者自身となることから、 その年金の受給者の社会保険料として控除となります。

翌年以後に払込期日が到来する保険料を一括して前納保険料がある場合には、 前納期間が1年以内の場合には、 その全額を本年の社会保険料として控除することができます。 なお、 国民年金保険料については、 2年分を前納できることになりましたので、 全額控除をするか、 又は期間按分して控除(この場合には、 按分の明細書が要作成)する方法のいずれかを選択することが可能です。

 

() 地震保険料控除

所得者本人と生計を一にする親族が所有して常時居住している家屋や生活に通常必要な家財に対して支払った保険料の内、 一定の金額を地震保険料控除として控除できます。

一つの契約等で、 地震等損害に対する損害保険契約と旧長期損害保険契約のいずれの契約区分にも該当する場合には、 選択によりいずれか一方の契約区分のみが地震保険料控除の控除額となります(有利な方を選択する)。

 

() (特定増改築等)住宅借入金等特別控除

現在、 各種の住宅借入金等特別控除がありますが、 控除を受けようとする初年度分については、 確定申告により控除の適用を受ける必要があります。 2年度以降分については、 年末調整の際に下記のものを給与支払者に提出します。

① 税務署長が発行した「年末調整のための(特定増改築等)住宅借入金等特別控除証明書」。 この証明書の上部に「給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書」がありますので、 控除金額等の記載を行い提出します。

② 金融機関等が発行した「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」

一般の住宅借入金等特別控除は、 居住者が一定の要件を満たす住宅の取得等して、 その人の居住の用に供した場合(その家屋の取得等の日から6ケ月以内に居住用に供したものに限られています)において、 その住宅の取得等のために一定の住宅借入金(償還期間10年以上等)を有するときには、 居住年以後10年間(平成13年7月1日から平成33年12月31日までの間で居住した場合には、 最長10年間。 それ以前のもは最長15年間)の各年のうち、 合計所得金額が3千万円以下である年について、 住宅借入金等の年末残高を基にした所定額を住宅借入金等特別控除としてその年の所得税額から控除できるというものです。

家屋に入居後、 本年12月31日まで継続して居住用に供していることが控除の適用要件ですので、 年度の途中で海外勤務となり出国している場合には、 この制度の適用はありません。

自己の居住用の家屋が2以上有する場合には、 主として居住用とする1の家屋に限られます。

連帯債務(共有)の場合には、 各年12月31日現在のその住宅借入金等の金額に控除を受ける人の負担割合(持分割合)を加味して控除額を計算します。 その割合は、 小数点以下第4位を切上げ、 90%以上である場合は100%とします。

住宅ローンの借換え: この制度の適用者が、 住宅借入金等の借換えをした場合に一定の要件を満たすときには適用が継続します。 住宅ローン金利が低くいものがあるとローンの借換えを行う場合があります。 一般の住宅ローンの場合の借換えでは、 新たな借入金が当初の借入金を消滅させるもので、 適用対象となっていた家屋の取得等のための資金に充てるものであれば住宅ローン控除の継続適用の対象となります。 その場合の新たな借入金の償還期間も10年以上であることが適用要件となっています。 ローン借換後の借入額が借換前の借入残高以下であれば、 年末借入残高が控除対象額となりますが、 逆に借換後の借入額が借換直前の借入残高を上回る場合、 次の按分計算して控除対象額を導く必要があります。

ローン借換後の借入額の年末残高 X (借換直前の借入残高 ÷ 借換直後の借入額) = 控除対象借入額の年末残高

 

() 給与と徴収税額の集計

年中に支払った給与・賞与が対象になりますが、 本年分の給与で未払いであっても、 本年中に支給日が到来して支払の確定したものについても年末調整の対象になります。

 

以上が年末調整の概要となります。

2017年10月31日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

相続税額計算の基礎

相続税の課税方式は、昭和33年より遺産課税方式をベースに遺産取得課税方式という折衷法(法定相続課税方式)となっています。この法定相続課税方式とは、具体的には、被相続人(亡くなられた方)の遺産総額を、法定相続人の人数と法定相続分によって仮定計算による相続税額を算出し、その相続税額を各相続人が実際に取得した遺産価額の割合で按分し、その後に対象となる税額控除を反映して納税額を算出するというものです。相続税額計算ステップは、以下の様になります。

1.各相続人の遺産額を確定・計算(課税価格計算)

2.各相続人の遺産額の合計(課税価格総額の計算)

3.基礎控除額の計算

3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の人数

4.課税遺産総額の計算

課税価格総額 - 基礎控除額 = 課税遺産総額

5.課税遺産総額に対する各法定相続人の法定相続分に応じた遺産分割額の計算

6.各法定相続人の法定相続分に応じた遺産分割額に対する相続税額の計算

7.各法定相続人分の税額の合計(相続税総額の計算)

8.相続税総額を各相続人の遺産額により按分計算

9.各相続人の納付税額の計算

各相続人の相続税額 + 2割加算 - 税額控除 = 納付税額

以下に、各計算ステップに対して概要を説明します。

1.各相続人の遺産額を確定・計算(課税価格計算)

取得財産の価格 –  債務・儀式費用 = 純資産の価格= 各人の課税価格
純資産の価格 + 相続開始前3年以内の贈与資産 + 相続税精算課税による贈与財産
本来の相続財産 + みなし相続財産 = 取得財産の価格

(1)相続開始前3年以内の贈与財産加算

原則、相続又は遺贈により財産を取得した者が相続開始前3年以内に被相続人から贈与により財産を取得した場合、その財産価額を相続税の課税価格に加算して相続税を計算しなければなりません。なお、3年以内であっても贈与税の配偶者控除(居住用財産)等は、相続財産の加算対象になりません。(2)相続時精算課税制度の適用による贈与財産加算相続時精算課税制度の適用を受けた年分以降の贈与は、贈与税の申告の有無に係わらず全て相続財産の加算対象です。なお、特別控除枠を超えた贈与があり、その贈与税の申告が行われていない場合には、期限後申告を提出し納税します。

2.各相続人の遺産額の合計(課税価格総額の計算)

各人の課税価格を合計します(相続人分の総計)。

3.基礎控除額の計算

3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の人数 = 基礎控除額

法定相続人に含められる養子の数は制限されています。最大2名(実子がいる場合には1名)まで養子として認められていますが、一定の場合(特別養子縁組により養子、配偶者の実子を養子、実子もしくは養子の死亡により代襲相続等)には、養子の人数制限はありません。

4.課税遺産総額の計算

課税価格総額 - 基礎控除額 = 課税遺産総額

5.課税遺産総額に対する各法定相続人の法定相続分に応じた遺産分割額の計算

この分割額は、実際に財産を取得したかに関わりなく、法定相続人が法定相続分で分割したものとして仮定したものです。

6.各法定相続人の法定相続分に応じた遺産分割額に対する相続税額の計算

各法定相続人に分割した課税遺産総額に対して、下記の税率を適用して税額を算出します。

相続税の速算表 (A×B-C = 税額)

(A)法定相続分の各人の取得金額 (B)税率  (C)控除額 

1000万円以下                          10%         0万円

1000万円超~3000万円以下     15%    50万円

3000万円超~5000万円以下       20%      200万円

5000万円超~1億円以下            30%      700万円

1億円超~2億円以下                 40%      1,700万円

2億円超~3億円以下                 45%      2,700万円

3億円超~6億円以下                 50%      4,200万円

6億円超~                               55%      7,200万円

課税遺産総額×各法定相続人の法定相続割合分×税率-控除額=各法定相続人分の税額

7.各法定相続人割合分の税額の合計(相続税総額の計算)

各法定相続人分の税額の総額を算出します。

8.相続税総額を各相続人の遺産額により按分計算

相続税の総額 × 各人の課税価格/各人の課税価格の合計額 = 各人の相続税額

9.各相続人の納付税額の計算

各相続人の相続税額 + 相続税額2割加算 - 税額控除 = 各人の納付税額

(1)相続税額2割加算される相続人

2割加算される相続人は、配偶者及び1親等の血族(父母又は子とその代襲相続人及び養子も含む。但し、被相続人の養子の孫は除外)以外となっています。従って、 被相続人の孫や兄弟姉妹は2割加算の対象者です。

2割加算の対象者 孫養子(代襲相続に該当の場合を除く)

兄弟姉妹(代襲相続人を含む)

法定相続人以外の受贈者等

2割加算の非対象者 配偶者

一親等の血族(養子が、相続により被相続人である養親の財産を取得

した場合においては、被相続人の一親等の法定血族となる)

代襲相続人である直系卑属(孫養子を含む)

(2)税額控除

各人の税額から次の該当する税額の控除があります。

① 贈与税額控除

相続開始前3年以内に被相続人から贈与を受けたものは、相続財産に加算されていますので、この部分の贈与税相当額は、控除の対象となります。

② 配偶者の税額軽減

配偶者は被相続人の財産形成に大いに寄与していること、及び将来の生活保障面を考慮して相続税の大幅な軽減を特例として認めています。

軽減額 = iとiiのうち少ない金額/課税価格の合計額 × 相続税の総額

ⅰ 課税価格の合計額×配偶者の法定相続分(1.6億円未満は1.6億円)

ⅱ 配偶者の課税価格

上記の算式を分かり易くすると、 配偶者が取得した遺産額のうち次のいずれか大きい方までは相続税がかからないことになっています。

(イ)総課税価格の金額に対する配偶者の法定相続割合相当額(総課税価格の金額の最低50%~最高100%)

(ロ)1億6千万円

総課税価格の金額が5億円でしたら、 相続人が配偶者と子であった場合には、その50%の2.5億円まで、 なお、 相続人が配偶者のみであった場合には、 その全額(100%)の5億円は配偶者には税額の軽減が図られることになります。

ただし、遺産分割が済んでいない場合には、この特例の適用はありません。なお、 相続税の申告期限から3年以内に遺産分割が完了すれば、 この税額軽減の特例が受けられます。 この配偶者に対する税額軽減措置は、 非課税ではなく二次相続までの課税の繰延の性格を有しています。 配偶者の固有財産を調査して、 二次相続を想定した遺産分割を行うことが肝要です。

法定相続人と法定相続分の組合せ

法定相続人 第1順位 (子) 第2順位(直系尊属) 第3順位(兄弟姉妹)
 ①  ⑤  ②  ⑥  ③  ⑦  ④
配偶者  1/2  ×  2/3  ×  3/4  × 100%
血族相続人:  -  -  -  -  -  -  -
子(又は孫等)  1/2 100%  ×  ×  ×  ×  ×
直系尊属(親等)  -  -  1/3 100%  ×  ×  ×
兄弟姉妹(又はその子)  -  -  -  -  1/4 100%  ×

×:相続人が死亡(又は不存在)している場合

 

③ 未成年者控除

相続人が20歳未満等に適用があります。

控除額 = (20歳-相続開始時の年齢)× 10万円

④ 障害者控除

相続人が年齢85歳未満等で障害者に適用があります。

控除額 = (85歳-相続開始時の年齢)× 10万円(特別障害者は20万円)

⑤ 相次相続控除

前の相続(1次)から10年以内に今回の相続(2次)が起こった場合、税額から一定額が控除されます。

⑥ 外国税額控除

国外にある財産にその所在する国で課税されていた場合、一定額が控除されます。

 

以上の計算結果で税額控除後で納付税額がマイナスになったときはゼロとし、さらに相続時精算課税に係る贈与財産の価額が存在していた場合には、その課税分の贈与税額を控除します。この控除後の金額が納税額となり、マイナスの場合には還付対象となります。

相続税の申告及び納付は、相続開始日(死亡日)から10ヶ月以内に行わなければなりません。なお、申告期限の延長が認められませんので、遺産分割協議が成立していない場合には、民法での法定相続分に従って仮定計算を行い、申告することになります。このような場合には、小規模宅地等の特例、配偶者の税額軽減の特例等の適用は認められません。この申告後に遺産分割が確定し、申告との差額が発生した場合には、修正申告(増税のケース)、又は更正の請求(還付のケース)を行うことになります。

2017年9月29日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

広大地の評価方法の見直し(平成30年1月1日以後の相続等から)

平成29年度税制改正で広大地の評価方法の見直しがありました。 現行の面積に比例的に減額する評価方式から、各土地の個性に応じて形状、面積に基づき評価する方式に見直すとともに、適用要件を見直すこととされました。呼称も、「広大地の評価」から「地積規模の大きな宅地の評価」に変更になっています。

現行の評価方法では、適用要件が相対的な曖昧さがあり適用にあたり納税者と税務署との間で意見相違があり訴訟等となるケースが少なくありませんでした。又、個別の土地の形状等とは関係なく面積に比例して減額するために、この評価額が実際の取引価額と大きく乖離し下回るケースが生じていました。そこで、改正の評価方法は、

① 適用要件の簡素化

② 個別の土地の形状・面積に基づき評価

ということとなり、新たに広大地となるケースが増える半面、これまでよりも評価減額が縮小される傾向にあります。

 

1.広大地評価の算式 

現行

(評価通達24-4)

路線価 X 面積 X 広大地補正率 = 評価額

広大地補正率 = 0.6 - 0.05 X 広大地面積 / 1,000㎡

(下限値0.35)

改正

(評価通達案20-2)

路線価 X 面積 X 補正率 X 規模格差補正率 = 評価額

補正率 = 形状(不整形・奥行)を考慮した補正率(評基通15~20)

規模格差補正率 = 面積を考慮した補正率

各補正率は全て外部専門業者の実態調査に基づき設定

 

2.平成30年1月1日以後の相続等からの広大地適用要件(改正)

広大地になる要件として、「地積規模の大きな宅地」と「一定の地区」の要件を満たすのであれば広大地の評価が適用されることになり、間口が広がることになります。

(1)「地積規模の大きな宅地」とは

地積が1,000㎡(三大都市圏では500㎡)以上の宅地で、次のいずれかに該当する宅地は除かれます。

① 市街化調整区域(宅地分譲に係る開発行為を行うことができる区域を除く)に所在する宅地

② 工業専用地域(都市計画法8①一)に所在する宅地

③ 容積率が400%(東京都23区においては300%)以上の地域に所在する宅地

市街地の農地・山林・原野も地積規模の大きな宅地の評価対象となります(これらの土地は宅地比準方式により評価します)。

「三大都市圏」とは、

ア 首都圏整備法に規定する既成市街地又は近郊整備地帯

イ 近畿圏整備法に規定する既成都市区域又は近郊整備区域

ウ 中部圏開発整備法に規定する都市整備区域

 

(2)「一定の地区」とは

財産評価基本通達14-2(地区)の定めにより、適用対象となる地区が普通商業・併用住宅地区及び普通住宅地区として定められた地区に所在する宅地であること。

 

(3)広大地の評価額

① 広大地が路線価地域にある場合

財産評価基本通達案(20-2)では、次の様に新設されています。

広大地の評価額 = 路線価 X 地積(面積) X 補正率 X 規模格差補正率(小数点以下第2位未満切捨て)

規模格差補正率 = (地積 X B + C)÷ 地積 X 0.8

 

(イ)三大都市圏に所在する宅地:

          地区区分

 

記号

地積㎡

普通商業・併用住宅地区、普通住宅地区
B C
500以上 1,000未満 0.95 25
1,000以上 3,000未満 0.90 75
3,000以上 5,000未満 0.85 225
5,000以上 0.80 475

 

(ロ)三大都市圏以外の地域に所在する宅地:

          地区区分

 

記号

地積㎡

普通商業・併用住宅地区、普通住宅地区
B C
1,000以上 3,000未満 0.90 100
3,000以上 5,000未満 0.85 250
5,000以上 0.80 500

 

広大地補正率と規模格差補正率との比較例示:

  1,000㎡、三大都市圏 5,000㎡、三大都市圏以外
現行広大地 改正広大地 現行広大地 改正広大地
広大地補正率・

規模格差補正率

0.55  

0.78

0.35  

0.72

 

② 広大地が倍率地域にある場合

本則の倍率方式(その土地の固定資産税評価額X倍率)により算出した価額と、近傍類似の宅地の評価額に倍率を乗じた金額を正面路線価として、そこから「規模格差補正率」を含めた土地の個別的要因の事情補正を行った後の価額とを比較して、いずれか低い方の価額となります。

 

3.平成29年12月31日以前の相続等までの広大地適用要件(現行)

その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地で都市計画法第4条第12項に規定する開発行為を行うとした場合に、 公共公益的施設用地の負担が必要と認められるものであるが、 大規模工業用地に該当するもの及び中高層の集合住宅等(いわゆるマンション)の敷地用地に適しているもの(その宅地について、 経済的に最も合理的であると認められる開発行為が中高層の集合住宅等を建築することを目的とするものであると認められるもの)を除く、 ものをいいます。

 

(1)著しく地積が広大であるかの判定

各自治体が定める開発許可を要する面積基準以上(開発許可を要するか否かは、各自治体の開発指導課に確認)のものが挙げられ、 原則として、 以下に掲げる面積以上の宅地。

① 市街化区域

(a) 三大都市圏           500㎡以上

(b) それ以外の地域       1,000㎡以上

② 非線引き都市計画地域 3,000㎡以上

③ 用途地域が定められている非線引き都市計画地域: 市街化区域に準じた面積

開発許可を要する面積基準に満たない場合であっても、ミニ開発分譲が多い地域に存する土地について、広大地に該当する場合があります。

 

(2)都市計画法による開発行為(公共公益的施設用地の必要性)

公共公益的施設用地とは、 都市計画法第14条に規定する道路、 公園等の公共施設の用に供される土地、 及び都市計画法施行令第27条に掲げる教育施設、 医療施設等の公益施設の用に供される土地をいい、 その負担の必要性は経済的に最も合理的に戸建住宅用地の開発を行なった場合の、 その開発区域内での道路等の開設の必要性により判断するとしています。 その際、 セットバックによる道路やゴミ集積所用地等は公共公益的施設用地には該当しないことになります。 評価通達における広大地は、 戸建分譲用地として開発され、 道路等のつぶれ地が生ずる土地を前提としていますので、 以下の状況の土地も広大地の適用はありません。

* 道路に面しており、 間口が広く奥行がそれ程ない土地

* 区画整理地、 大規模開発分譲地等にみられる土地(道路が二方、 三方、 四方にある土地)

* 開発指導等により道路敷きとして一部土地を提供しなければならない状況の土地

* 路地状敷地による開発(路地状開発・旗竿開発)を行うことが合理的と考えられる土地

特に最近では、 この広大地の適用にあたり路地状開発(**)か道路開設開発かの判断で課税庁との間で揉めるケース増えてきています。 「路地状開発を行うことが合理的と認められる」かどうかは次の事項を総合的に勘案して判断するものとされています。

(a) 路地状部分を有する画地を設けることによって、 評価対象地の存する地域における「標準的な宅地の地積」に分割できること

(b) その開発都市計画法、 建築基準法、 都道府県等の条例等の法令に反しないこと

(c) 容積率及び建ぺい率の計算上有利であること

(d) 評価対象地の存する地域において路地状開発による戸建住宅の分譲が一般的に行なわれていること

(**) 路地状開発とは、 路地状部分を有する宅地を組合せ戸建住宅分譲地として開発することです。 旗竿地・敷地延長・路地状敷地は同じ意味の言葉であり、 間口が狭く通路のように長い路地状敷地部分(都市計画地域では、 建物を建てる時に敷地が道路に2m以上接していなければなりませんので、 その間口は2m以上必要となりますが、 通常はその形状敷地は通路や駐車場等として使われています)の奥に建物のスペースとして有効宅地部分がある旗竿形状の土地のことを指します。

 

広大地に該当しない例

① 有効開発完了地: 既に開発を了しているマンション・ビル等の敷地用地

② 現に宅地として有効利用されている建築物等の敷地(大規模店舗、 ファミリーレストラン等)

③ 原則として、 容積率300%以上の地域に所在する土地

容積率等について、役所の都市計画課で確認、特に前面道路の幅員を調べる必要があります。 それは、前面道路の幅員によって基準容積率が変化(下がる)することがあるからです。

住居系: 幅員 X 4/10 (前面道路が幅員が4mならば、 160%となる)

商業系: 幅員 X 6/10

④ 公共公益的施設用地の負担が殆んど生じないと認められる土地

 

マンション敵地等の判定

マンション敵地等に該当するものは広大地にはなりません。 この趣旨は、 戸建住宅分譲地として開発した場合に、 道路等のつぶれ地が生じる土地に広大地評価の適用があることを前提としていることから、 マンション等の敷地のように細分化せずに一体として有効利用できる場合には、 地積過大による減価の補正を行う必要はないことからです。 マンション敵地であるかどうかは、 「その地域」の標準的使用の状況を参考にして判断することになりますが、 戸建住宅とマンション等が混在する地域では判断が困難なケースがあります。 その様なケースでは、 専門家の意見も必要になるかもしれません。 形式的基準として容積率300%以上の地域内にあり、 開発面積基準以上の宅地は原則としてマンション適地に該当するものとされています。

原則として、 地上3階以上のマンションが建っている敷地は即、 広大地に該当しないと思われていますが、 判定要素として、 中高層と集合住宅等の2要件以外に、 「最有効使用(経済的に最も合理的である使用)」であるというものも満たす必要があります。

 

(3)広大地の評価額:

① 広大地が路線価地域にある場合

路線価 X 広大地補正率 X 地積 = 広大地の評価額

広大地補正率 = 0.6 - 0.05 X 広大地の地積 / 1.000㎡

広大地補正率は0.35を下限(広大地の地積は5,000㎡以下)とし、 四捨五入等の端数処理は行ないません。

② 広大地が倍率地域にある場合

通常の評価計算方式ではなく、 広大地を個別に評価することになり路線価方式に準じて評価します。 先ずは、 評価しようとする広大地が標準的な間口距離及び奥行距離を有する宅地であるとした場合の価額(この価額は、 付近の標準的な画地規模を有する宅地の価額との均衡を考慮して算定する必要があります)を求め、 その価額を路線価方式における路線価とします。

 

以上から、 現行の広大地判定として少なくとも以下の4項目をクリアーする必要があるということになります。

広大地判定の項目 広大地の判定基準
大規模工事用地に該当するか NO
中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているか NO
その地域における標準的な住宅の地積に比して著しく地積が広大か YES
開発行為を行うとした場合、 道路や公園等の公共公益的施設用地の負担が必要と認められるか YES

 

改正(通達改正案)では、現行の広大地判定の4項目は、大規模工事用地を除き特に判定基準に影響しないことになりそうですが、今後の最終通達等には注視していく必要があります。

2017年8月20日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

保険契約の法人から個人への名義変更

法人では各種の保険に加入されているかと思いますが、その保険契約を個人に名義変更することがあります。 その場合の会社と個人のそれぞれには、課税上どのような処理になるでしょうか。 保険の種類の中で、「低解約返戻金タイプの生命保険」を例として、検討してみたいと思います。

「低解約返戻金タイプの生命保険」とは、中途での解約時には所定の解約返戻金がありますが、保険契約から初期の段階では低い解約返戻金ですが、年数の経過により増加(急に増加するタイプもあり)し、ある経過年数でピークとなり逓減していくという商品です。俗に「逓増定期保険」と言われる商品も同様です。

法人で保険料を支払いますが、通常、この種の保険では、保険料の半額が経費として損金経理され、残りの半額は保険積立金として資産経理となります。 例えば、解約時の保険返戻率に関して、2年目で2%、3年目で25%、4年目で125%、5年目で115%、以降逓減していく保険契約のケースで、3年目で保険契約者・保険受取人の名義を法人から個人に変更する場合、個人は法人に変更時の解約返戻金を支払うことになります。 そして、個人は4年目に保険料を支払うとその年に保険を解約し解約返戻金を受領した場合の課税は、以下の様に取り扱われます。

1.法人の3年目の事業年度

(1)保険積立金総額(3年間の保険料総額 X 50%) - 解約返戻金相当額(3年間の保険料総額 X 25%)= 解約損失金(経費)

(2)3年目の50%保険料 = 経費

注:2年間の50%保険料総額は経費処理済

2.個人の4年目の申告年度

(1){4年目の解約返戻金(4年間の保険料総額 X 125%) - (3年目の解約返戻金(3年間の保険料総額 X 25%)+ 4年目の保険料)}- 500,000 = 一時所得

(2)上記の一時所得 X 50% = 総合課税所得

上記の例の様な保険契約のケースでは、法人では純保険料負担の100%が経費処理でき、個人では、保険料負担額の倍以上の収入が得られたことになります。

保険会社によっては、個人に名義変更した後に数年間は、契約者貸付(解約返戻金の範囲内で保険料を貸付)を利用して個人の負担なく続けられる保険商品もあります。

 

上記例はかなり特殊な契約内容でありますが、少なくとも保険契約の名義変更を法人から個人に承継させる上で留意すべき事項は次のとおりです。

① 名義変更先が個人の場合は被保険者本人またはその親族(2親等以内)に限られます。

② 個人は法人に名義変更時の解約返戻金相当額を支払う必要があります。

③ 名義変更の事業年度で法人は保険積立金額と個人から受領した解約返戻金相当額との差額が、解約損益金額となります。

④ 個人が保険解約時の解約返戻金は一時所得に該当しますが、その時の計算上、解約返戻金から控除できる保険料は、個人が負担した保険料に限定されます。 一時所得の計算上控除できる「その収入を得るために支出した金額」は、個人が負担して支出したものに限ることが、現行の法令・通達で明確化され、又、最高裁判決でもその様に判示されています。 一時所得の場合には50万円控除があり、更にその50%が課税所得となる扱いになります。

収益力のある法人等においては、検討されてもよいかもしれません。

2017年7月21日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

電子納税しやすく 国税庁 証明書や専用機器不要

国税庁は2019年をめどにインターネット電子申告・納税をしやすくする。 新しい方式では、ICカードリーダーやマイナンバーカードなどの電子証明書が要らなくなる。

まず税務署で申告を始める届出書と免許証など本人確認ができる証明書を提出する。職員が対面で本人確認をしてなりすましなどを防ぐ。そこで受け取ったIDとパスワードを国税庁のサイトで入力するだけでe-Taxを通じて電子申告ができる。2018年分の申告分からが対象で、翌年度以降も同じIDとパスワードを使いネットで申告できる。

路線価とは、 主要な道路に面した土地1平方メートル当たりの標準価格で、 2017年1月1日から12月31日までの間に相続や贈与で土地を取得した場合、 今回公表された路線価を基に税額が算定される。 調査地点は国土交通省が3月に公表した公示地価(2万6千地点)よりも多い約33万地点。 公示地価の8割を目安に売買実例などを参考にして算出するため、 公示地価よりも遅く例年7月に公表される。 路線価の最高は、 お馴染みの東京都中央区銀座5丁目銀座中央通りの1平方メートル当たり40,320千円(前年26.0%上昇)でした。 過去最高だったバブル直後(1992年)の36,500千円を上回った。

2017年7月16日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

路線価2年連続上昇

国税庁は3日、 相続税や贈与税の算定基準となる2017年分の路線価(1月1日現在)を発表した。 全国約32万5千地点の標準宅地は前年比で0.4%のプラスとなり、 2年連続で上昇した(前年度では前年比で0.2%のプラス)。 都道府県別では、東京、 大阪、 愛知など13都道府県が上昇した。 前年の上昇は14都道府県だった。

2015年には相続税の制度が見直され、非課税となる基礎控除が下がり、「3,000万円 + 600万円 X 法定相続人の数」と40%減となった。 国税庁によると、2015年に亡くなった約129万人のうち、財産が相続税の課税対象となったのは、約10万3千人。 2014年比の約1.8倍に増えた。 課税割合は8%と2014年の4.4%を大きく上回った 。

2017年7月3日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

法定相続情報証明制度の開始

法定相続情報証明制度は、法務省において相続登記(土地や建物など不動産の名義変更)を促進するために平成29年5月29日から運用が開始されました。

1.制度創設の背景

土地や建物など不動産の所有者が亡くなられた場合、相続登記(所有権の移転登記)が必要となりますが、未了のまま放置されている不動産が増加し、所有者不明土地問題や空き家問題の一因となっています。 又、各種の相続手続きにあたり、故人の出生から死亡までの戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍など複数の種類あります。)や相続人全員の戸籍謄本、住民票などの原本が複数枚必要となり、煩雑な手続上の負担がし得られていました。また相続手続きにおいては、戸籍の原本が還付されない金融機関もあったり、複数の金融機関を同時に進める必要があったり、さらに税務署提出用は原本の還付がされませんので、必要に応じて同じ戸籍を複数部にわたって取得することも必要になりました。

そこで、法定相続情報証明制度は、法務局が戸籍関係書類の内容を確認して、証明文を付して交付するものです。

 

2.制度の概要

1)交付申出

制度の概要として相続人が登記所に対し、被相続人(亡くなられた不動産の所有者)の出生から死亡までの戸籍関係書類等や、法定相続情報一覧図(相関図:相続人関係説明図)を提出する事で、登記官が内容確認後に「認証文付きの法定相続情報一覧図」の写しを交付します。

2)法定相続情報一覧図の作成

相続人が提出する「法定相続情報一覧図」には、被相続人の氏名、最後の住所地、生年月日、死亡年月日、相続人の氏名、住所地、生年月日、被相続人との続柄などを記載する必要があります。

3)認証文付きの法定相続情報一覧図の写しの利用

法定相続情報一覧図の写しが相続登記の申請手続きや、被相続人名義の預金の払い戻し等、相続手続きに利用される事で、相続手続きを行う相続人や手続き先の法務局や銀行等金融機関の窓口の負担が軽減されます。法定相続情報一覧図の写しの発行手数料は無料で、必要な通数が交付されますので、法務局や銀行等金融機関の窓口に個別に戸籍等を提出する手間が省け、相続登記や銀行口座(預金・貯金)の凍結解除(名義変更・解約)などが以前に比べ容易になります。

法定相続情報証明制度は被相続人名義の不動産が無い場合でも利用する事が出来る為、遺産が銀行口座のみという場合でも法定相続情報一覧図の写しを交付してもらう事が可能です。

4)交付申出者の資格

申出をする事が出来るのは被相続人の相続人の他、法定代理人や民法上の親族、資格者代理人(弁護士、司法書士、土地家屋調査士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士、行政書士)などが法定相続情報一覧図の写しの交付の申出を行う事が出来ます。

申出が出来る登記所は、被相続人の本籍地、被相続人の最後の住所地、申出人の住所地、被相続人名義の不動産の所在地を管轄している登記所のいずれかで、郵送で行う事も可能です。

5)相続税申告の利用可能性

相続税法施行規則16条3項で戸籍謄本で被相続人の全ての相続人を明らかにするものを添付することが規定されていることから、この改正が行われない限り「認証文付きの法定相続情報一覧図の写し」は相続税の申告には使用できません。

 

2017年6月25日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

民法の一部改正

約120年ぶりの民法の抜本改正(今回の大部分は債権法の関する改正)が平成29年5月26日に成立しました。 施行期日は公布日から3年以内に政令で定める日とされており、平成32年頃の施行とみられています。 その中でポイントなる主な改正内容は、以下のとおりです。

改正項目 主な改正内容
消滅時効期間の統一

(短期消滅時効の廃止)

改正前 職業別に、 飲み屋さんのツケは1時効消滅、小売商のツケや学習塾の授業料、弁護士報酬債権は2、医師・助産師の診療報酬債権は3で時効消滅と、 短期消滅時効のものがありました。一般的な債権の消滅時効期間が、「権利行使できる時から10年間」と決められていました。
改正後 改正前の様に区別をすることの合理性が疑われてきたため、改正ではこれらの職業別の短期消滅時効が廃止され、これらの債権は他の債権と同様、消滅時効期間は、「権利行使できる時から10年」という従来の一般原則に加えて、「権利行使できると知った時から5年」の時効期間が追加され統一されることになりました。 つまり、時効の完成を主張する側が、権利者が権利行使できると知っていたことを主張・立証できれば、5年で時効完成するということです。
法定利率の引き下げと変動利率の導入 改正前 当事者で定めの無い場合に使用される利率(これを法定利率)であり、年5%となっていました(法律の範囲内であれば利率を当事者間で決めることができる、約定利率とは異なります)。
改正後 利率を現実の利回りに少しでも近づけようとするもので、法定利率を3%に引き下げ、市場金利との乖離を少なくするため、その後3年ごとに1%刻みで見直す変動制への移行となりました。
企業融資で求められる保証人の制限・保護の強化 改正前 企業への融資の場面でも個人が保証人になることには制限がなく自由でした。
改正後 事業資金の借入れについて個人が保証人になるということは、予期しない負担を強いられ過大な負担が生じる危険がありましたので、その保証人の制限・保護が図られる規定となりました。

① 個人根保証は、金額の枠(極度額)を定めないときは無効となります。 ② 事業のための債務についての個人(根)保証は、その締結の前1か月以内に作成された公正証書で保証人となろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ無効となります。

第三者を連帯保証人とする場合は、1か月前以内に公証人役場で、保証債務を履行する意思を表示して記録することが必要というものです。 ③ 事業のための債務についての個人(根)保証は、主たる債務者である団体の取締役等、支配社員等、事業に現に従事する主たる債務者の配偶者に限定されます。

保証人の範囲を制限するもので、これらにあたらない第三者は事業のための融資を受ける際の保証人とはなれない、とする規定です。

敷金は原則返還及び賃借物の現状回復義務 改正前 敷金についての規定がありませんでした。
改正後 過去の裁判例をもとに敷金についての規定が新たに追加となりました。 マンションやアパートを借りる際に払う敷金に関しまして、これまで不明瞭な点も多くトラブルにもなってきましたので、明確な追加規定ができました。

敷金の返還義務及び賃借物の現状回復義務が規定されました。

① 敷金を「賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」と定義し、「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」は、「賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭債務の額を控除した残額を返還しなければならない」

② 更に、「賃借人は、賃借物を受け取った後に生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に回復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない」

定型約款の新設 改正前 約款についての規定がありませんでしたので、当事者の意思を尊重するという観点から、約款に書いてあるからといって必ずしも当事者がそれに拘束されるわけではありませんでした。
改正後 定型約款を定義し、その「定型約款」について、不当条項や、変更の場合の規制が行われようになりました(定型的な取引など一定の場合には約款も契約の内容として効力をもつようになります)。 また、この特定約款の条項については、消費者は、消費者契約法10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効とする規定)のどちらかを選んで主張できるとされました。 どんな内容の約款でも有効というものではなく、相手の権利を制限したり義務を加重する規定の場合、社会通念上の信義に反して相手の利益を一方的に害するものには効力はなく無効とみなすものとなります。
瑕疵担保責任は契約責任説を採用 (購入商品に問題があった場合の責任) 改正前 購入した商品に欠陥があった場合、契約の解除か損害賠償請求についてしか規定がありませんでした。
改正後

 

欠陥商品に対し不都合ということで、更に明文で規定されることになりました。

契約の当事者間で契約の趣旨にあった品質を満たしていなければ、売主は契約上の責任を負い、買主は契約の解除、損害賠償請求に加え、修理や代金減額も請求できることになりました。

商品などに欠陥があることを「瑕疵(かし)」表現されていましたが、改正では瑕疵という言葉はなくなり「不適合(ふてきごう)」と表現されることになりました。

 

2017年6月25日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

中小企業等経営強化法に係る税制措置 (固定資産税特例と中小企業経営強化税制)

平成28年7月1日より施行された中小企業等経営強化法による「経営力向上計画」(人材育成、コスト管理等のマネジメントの向上や設備投資等により、事業者の生産性を向上させるための計画であり、認定された事業者は、税制や金融の支援等を受けることができます)の認定を受けた中小企業者等は、一定の要件を満たす場合、以下の税制措置を受けることができます。

平成29年度税制改正により、税制措置として拡充となりました「固定資産税の軽減措置特例」と改組・創設された「中小企業経営強化税制」の2つとなりました。 又、 中小企業に対する他の投資優遇制度(中小企業投資促進税制と特定中小企業者等の経営改善設備投資促進税制)も併せて以下に紹介します。

 

1.固定資産税の軽減措置特例

経営力向上計画に基づき認定された事業者は、平成31年3月31日までに生産性を高める一定の設備を新規取得した場合、その翌年度から3年間の当該固定資産税の課税標準が2分の1に軽減されます。

(1)対象設備

種類 最低取得価額 販売開始要件(*1) 用途・細目 経営力向上要件(*1)
機械装置 1台160万円以上 10年以内 限定なし 旧モデル比で経営力に資するものの指標が年平均1%以上向上
工具 1台30万円以上 5年以内 測定工具及び検査工具に限る
器具備品 1台30万円以上 6年以内 限定なし
建物附属設備 1台60万円以上 14年以内 限定なし

*1: 工業会等による証明書で、販売開始時期と生産性向上に係る要件を確認するために取得する必要があります。

(2)地域・業種の制限

生産性を向上させて賃上げに繋げる必要性の有無が制限に関連しています。 なお、この地域・業種限定の判定は、本社所在地ではなく、設備の設置場所に応じて判定されることになります。

① 最低賃金が全国平均以上の7都府県(埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、京都、大阪)の地域

上記記載の機械装置以外の設備を当該7都府県に設置する場合、対象業種によって適用が制限(機械装置は制限無し)されるものがありますので、確認は中小企業庁が公表しています7都府県ごとの業種リストで行う必要があります。

② 最低賃金が全国平均未満の地域

制限なく、全業種が特例の対象となります。

業種の判定は、日本標準産業分類の「中分類」で行われます。

(3)基本的な手続フロー

① 事業者は対象設備の取得を決めたら、設備メーカを通じて工業会発行の証明書を入手

② 上記証明書と投資計画申請書を主務大臣(担当省庁)に提出

③ 主務大臣(担当省庁)は、計画認定書と投資計画申請書(写し)を事業者に交付

④ 事業者は、固定資産税の納税書類と一緒に、投資計画申請書(写し)・計画認定書(写し)・工業会証明書(写し)を自治体に提出

原則、対象設備取得前に計画申請書を主務大臣に提出することになっています。なお、取得後に提出する場合には、取得日から60日以内に計画申請書等の必要書類が受理される必要があります。

 

2.中小企業経営強化税制

青色申告書を提出する中小企業者等で中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定を受けたものが、平成29年(2017年)4月1日から平成31年(2019年)3月31日までの間に、生産等設備を構成する機械装置、工具、器具備品、建物、建物附属設備、及びソフトウェアで特定経営力向上設備等に該当するもののうち、一定の規模以上のものの取得等をして、その特定経営力向上設備等を国内にあるその法人の指定事業の用に供した場合に、その普通償却限度額との合計で取得価額までの特別償却(即時償却)と、その取得価額の7%(特定中小企業者等では10%)の税額控除(但し、法人税額の20%が限度で、控除限度超過額は1年間繰越可能)との選択適用が認めるというものです。

 

制度の目的 生産性の高い先進的な設備や生産ライン等の改善のための設備投資に対する税制支援(即時償却又は税額控除)を行い、 中小企業者の民間投資を活性化させる。
適用法人 青色申告書を提出する中小企業者等で、経営力向上計画の認定を受けた事業者。

具体的には、資本金1億円以下の企業、もしくは従業員千人以下の事業者、組合等。

適用要件 「生産等設備」を構成する「特定経営力向上設備等」のうち、 一定規模以上のものを取得等し、 その設備を国内にあるその法人の指定事業の用に供した場合。
指定事業 一部の事業は対象外、例えば、金融業、電気業(太陽光発電設備に関し、全量売電の場合には、電気業の用に供する設備として指定事業外となります)、映画業を除く娯楽業、風俗営業等であるが、ほぼ全営業が指定事業の対象とされる。
生産等設備とは 法人の指定事業用に直接供される生産等設備の減価償却資産で構成されるもの。 従って、 本店、 寄宿舎等の建物附属設備、 福利厚生施設等は非該当となります。国内への投資であること。中古資産・貸付資産でないこと等。
特定経営力向上設備等とは 経営力向上設備等(①生産性向上設備と②収益力強化設備)のうち経営力向上に著しく資する一定のもので、その法人の認定を受けた経営力向上計画に記載されたもの。
①生産性向上設備(A類型):個別設備の性能の向上の度合いを確認
種類 最低取得価額 販売開始(*1) 用途・細目 経営力向上要件(*1)
機械装置 1台160万円以上 10年以内 限定なし 旧モデル比で経営力に資するものの指標が年平均1%以上向上

 

 

 

 

工具 1台30万円以上 5年以内 測定工具及び検査工具に限る
器具備品 1台30万円以上 6年以内 限定なし
建物附属設備 1台60万円以上 14年以内 限定なし
ソフトウエア 1台70万円以上 5年以内 稼働状況等を情報収集機能及び分析等するものに限る

 

*1: ソフトウエア及び旧モデルがないもの(*1の販売開始要件を満たすこと)以外は、 同メーカーの旧モデル比で経営力の向上に資するものの指標(生産効率、 エネルギー効率、精度等)が年平均1%以上向上するものであること。

確認者:工業会等による証明書で、販売開始時期と生産性向上に係る要件を確認するために取得する必要があります。

証明書を入手後、経営力向上計画の申請書に当該証明書を添付して事業分野別の主務大臣に申請して認定を受けることになります。

基本的なフロー:

イ 証明書「入手」

ロ 計画「申請」

ハ 計画「受理」

二 計画「認定」

ホ 設備「取得」

へ 設備「事業供用」

②収益力強化設備(B類型):設備投資計画の投資収益力を確認 ① 経済産業局の確認を受けた投資計画に記載された設備(機械装置160万円以上、 工具30万円以上、 器具備品30万円以上、建物附属設備60万円以上、及びソフトウエア70万円以上)。

② 投資利益率が年平均5%以上となることが見込まれる投資計画に係る設備であること。

確認者:確認申請は所轄の経済産業局に対して行いますが、設備投資計画案については、税理士又は公認会計士から事前確認書を得ておくことが必要となります。

経済産業局から確認書を入手後、経営力向上計画の申請書に当該確認書を添付して事業分野別の主務大臣に申請して認定を受けることになります。

基本的なフロー:

イ 投資計画「事前確認」

ロ 投資計画確認書「発行申請」

ハ 確認書「入手」

二 計画「申請」

ホ 計画「受理」

へ 計画「認定」

ト 設備「取得」

チ 設備「事業供用」

特別償却と税額控除との選択適用 その普通償却限7%(資本金3千万円以下の特定中小企業者等では10%)の税額控除(但し、法人税額の20%が限度 (20%限度は、中小企業経営強化税制、中小企業投資促進税制及び経営改善設備投資促進税制における税額控除額の合計で20%)で、控除限度超過額は1年間繰越可能)との選択適用が認めるというものです。

中小企業者等 即時償却、又は税額控除(取得価額の7%)
特定中小企業者等 即時償却、又は税額控除(取得価額の10%)
適用時期 同法の施行日(平成29年4月1日)から平成31年3月31日までの間の取得等。

なお、この中小企業経営強化税制に関するQ&A集が、中小企業庁より平成29年4月4日に公表されています。

 

3.経営力向上計画の概要

中小企業等経営強化法による「経営力向上計画」は、人材育成、コスト管理等のマネジメントの向上や設備投資等により、事業者の生産性を向上させるための計画であり、認定された事業者は、税制や金融の支援等を受けることができます。また、計画申請においては、経営革新等支援機関(士業等の専門家、商工会議所・商工会、地域金融機関等)のサポートを受けることが可能です。

(1)申請・認定の時期(弾力的な運用可)

原則、経営力向上計画の申請・認定は、設備の取得前に行うことが必要ですが、①取得後60日以内に計画が「受理」され、かつ、②設備の「取得」と計画の「認定」が同一事業年度内であれば、設備の取得後の計画申請・認定も容認されます。

具体的には、中小企業経営強化税制のA類型については、工業会等の証明書の入手の前から設備の取得等が可能となります。 一方で、B類型は、経済局に投資計画の確認書の「発行申請」を行った後に設備の取得等が可能となります。また、固定資産税の軽減と同様に「60日ルール」が課され、設備の取得日から60日以内に経営力向上計画が「受理」されることが必要となります。加えて、A類型、B類型ともに、設備の「取得」と同一事業年度内に計画が「認定」されることも必要となります。

(2)計画認定申請書

計画認定申請書は事業分野別の主務大臣に提出し認定を受けることになります。 記載内容は以下のようになります。

①企業の概要、②現状認識、③経営力向上の目標及び経営力向上による経営の向上の程度を示す指標、④経営力向上の内容など簡単な計画、等を策定することになります。

 

  1. 中小企業投資促進税制

上述以外に中小企業に対する投資優遇税制の中に、中小企業投資促進税制があり、平成29年度税制改正により、対象資産から器具備品が除外され、 適用期限が2年延長(平成31年3月31日まで延長)となりました。

特別償却の種類 対象法人、 対象設備の範囲等 限度額
特別償却等 税額控除
中小企業者等の機械等(平成10.6.1から31.3.31まで)

(①機械装置で、 1台又は1基で取得価額160万円以上、 ②ソフトウエアで70万円以上、 ③車両総重量3.5トン以上の貨物自動車、 ④内航船舶)

新品を指定事業に供する

中小企業者等(資本金3千万円以下)で大規模法人(資本金1億円超の法人で、 単独所有で50%以上、 又は複数所有で3分の2以上の所有関係。 なお、 所有割合判定では、 親会社の同族関係者の持株等は考慮しません)の所有法人を除き、 常時勤務従業員数が1千人以下等)が新品の一定の機械装置等を取得し事業に供した場合には、特別償却、 又は税額控除の選択可(特別償却の適用要件としては、 資本金1億円以下の中小企業者等) 基準取得価額の30%

(なお、 内航船舶の基準取得価額は、 実際の取得価額の75%相当額)

次の①と②のいずれか少額の金額

①基準取得価額(内航船舶では、取得価額の75%相当額)の7%

②当期法人税額の20% (20%限度は、中小企業経営強化税制、中小企業投資促進税制及び経営改善設備投資促進税制における税額控除額の合計で20%)

また、 ①>②のときには、 限度超過額を1年間の繰越控除可

 

  1. 特定中小企業者等の経営改善設備投資促進税制の期限延長

平成29年度税制改正により、特定中小企業者等の経営改善設備投資促進税制の適用期限が2年延長(平成31年3月31日まで延長)となります。 その概要は以下のとおり(商業・サービス業・農林水産業の中小企業等の設備投資促進税制とも呼称されています)。

青色申告法人で指定事業を営む中小企業等が経営改善に関する指導及び助言を受けて行う店舗改修等に伴い器具備品及び建物附属設備の取得等を行なった場合、その取得価額に対して特別償却か税額控除かを選択適用できる制度(所得税についても同様の取扱い)。

適用期間 平成29年4月1日~平成31年3月31日の間に店舗改修等を行なった場合
指定事業 卸売業、 小売業、 サービス業、 農林水産業(性風俗関連特殊営業及び風俗営業を除く)
適用要件 商工会議所、 認定経営革新等支援機関等による法人の経営改善に係る指導及び助言を受けて行う店舗改修等であること
対象設備 ① 器具備品: 1台又は1基の取得価額が30万円以上

② 建物附属設備: 1つの取得価額が60万円以上

特別償却額 対象設備の取得価額 X 30%
税額控除額 対象法人は、 資本金3,000万円以下の中小法人等に限定 (但し、 認定経営革新等支援機関等は対象から除外)

対象設備の取得価額 X 7%

(但し、 控除限度額は当期法人税額の20% (20%限度は、中小企業経営強化税制、中小企業投資促進税制及び経営改善設備投資促進税制における税額控除額の合計で20%)であり、 控除限度超過額は1年間の繰越可能)

 

2017年5月31日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant