償却資産の申告(固定資産税): 申告書提出期限1月末

1. 固定資産税とは
固定資産税とは、1月1日現在で国内に土地、家屋又は償却資産(事業用資産)の固定資産を所有している者に対し、当該固定資産の評価額を基に算定された税額を資産の所在する市区町村(東京23区内は特例で区でなく都が課税)が課する地方税をいいます。
課税対象のうち、土地と家屋については登記簿等で市区町村では実在を確認できることになりますが、償却資産は毎年1月1日に所有しているものを自己申告を通じて、固定資産(償却資産)課税台帳に登録され課税されることになります。

2. 固定資産税(土地・家屋)
土地と家屋については、登記事項のため市区町村は、その登記簿等に基づいて固定資産税を計算し、1月1日現在の所有者に納税通知書と同時に課税明細書が5月末前後に送られてきますので、当所有者は申告等の手続の必要はありません。
税率はいずれも1.4%であり、土地は課税標準額に、家屋は課税台帳に登録されている価格に掛けて税額が算定されます。なお、市区町村内に所有する固定資産の課税標準額が、土地30万円、家屋20万円未満の場合には、固定資産税は課税されません。
納期は年4回(6月、9月、12月、2月:市区町村によっては1ヶ月早まるところもあります)です。土地とは、田、畑、宅地、鉱泉地、池沼、山林、牧場、原野等です。家屋とは、住宅、店舗、工場、倉庫等です。

3. 固定資産税(償却資産)
償却資産とは、土地と家屋以外の事業用に供している減価償却対象資産のものをいいます。1月1日現在で償却資産を事業用に使用している所有者(法人や個人事業者)は、所定の申告書を作成し、1月31日までに償却資産の所在する市区町村ごとに提出しなければなりません。課税対象が償却資産に対する税金ということで償却資産税とも言われています。

(1)償却資産の対象(課税資産)
法人や個人で事業を行っている方で事業のために使用している減価償却の対象資産のうち、その取得価額が一定金額以上のものについては、償却資産となります。具体的には、以下のようなものが償却資産となっています。

① 構築物
舗装路面、庭園、門・塀・緑化施設等の外構工事、看板(広告塔等)、ゴルフ練習場設備等、並びに建物付属設備(受変電設備、予備電源設備、その他建築設備、内装・内部造作等)
② 機械及び装置
各種製造設備等の機器及び装置、クレーン等建設機械、機械式駐車設備等
③ 船舶
ボート、釣船、漁船、遊覧船等
④ 航空機
飛行機、ヘリコプター、グライダー等
⑤ 車両及び運搬具
大型特殊自動車、構内運搬車,貨車、客車等
⑥ 工具、器具及び備品
パソコン、陳列ケース、看板(ネオンサイン)、医療機器、測定工具、金型、理容及び美容機器、ルームエアコン、自動販売機等

以下の資産も償却資産として申告の対象になります。
・ 建設仮勘定で処理されている資産、簿外資産及び償却済資産であっても、1月1日現在で事業用に供することができる場合
・ 遊休又は未稼働の資産であっても、1月1日現在で事業用に供することが出来る状態にある場合
・ 耐用年数が1年未満又は取得価額が10万円未満の資産であっても、有形固定資産として計上し、減価償却している場合
・ 青色申告の中小企業法人・個人事業者については、取得価額が30万円未満の資産を一時に損金算入する処理(少額資産償却特例)がなされていても、この特例は国税(法人税・所得税)に関する制度であり、この地方税の固定資産税には適用されません。従って、この資産は固定資産税の申告対象となります。
その他、 所有権が留保されている資産(賃貸資産、 等)

(2)償却資産の非課税資産
償却資産の対象とならないものは、次のとおりです
(1) 土地や建物(いずれも登記対象資産であることから、 所有者を把握できますので敢えて償却資産として申告の対象にしていません)
(2) 自動車税・軽自動車税の課税対象(2重課税の排除)
(3) 無形固定資産(特許権、 営業権、 ソフトウェア等)
(4) 繰延資産
(5) 生物(観賞用、 興行用その他これらに準ずる生物は除く)
(6) 金額的に少額資産と言われる下記の資産:
① 取得価額が10万円未満の資産で一時に損金算入、 又は必要経費として処理されたもの
② 取得価額が10万円以上20万円未満の資産で、 税務上、 3年間で一括償却しているもの
注1: 租税特別措置法の規定により、 一定の中小企業に対する特例を適用して、 取得価額が30万円未満の資産で一時に損金算入、 又は必要経費として処理されたものでも、償却資産の申告対象になっています。
注2: 上記以外の資産で企業や個人で事業を行なっている方が事業のために用いることができる資産、 即ち、 構築物、 機械及び装置、 船舶、 航空機、車両及び運搬具、 工具・器具及び備品で有形減価償却資産が対象となります。 次のものも償却資産の対象となります。
(1) 建設仮勘定で計上されている資産、 簿外資産及び償却済資産であっても事業用に供することができるもの
(2) 遊休又は未稼働のものであっても事業用に供することができるもの
(3) 改良費(資本的支出)
(4) 家屋に施した建築設備・造作等のうち、 償却資産として取り扱うもの
建築設備における家屋(建物・建物附属設備)と償却資産とを区分して評価することになります。 家屋と設備の所有者が同一の場合に、 償却資産として取り扱うものは次の要件を満たすものです。
① 構造的に家屋と一体的でないもの (野外給水塔、 独立煙突等)
② 家屋から独立した機械及び装置として性格の強いもの (受・変電設備)
③ 特定の生産又は業務に使用されるもの (動力用配線設備等)
④ 単に移動を防止する程度に家屋に取り付けられたもの (ルームエアコン等)
⑤ 顧客の求めに応ずるサ-ビス設備

(3)固定資産税額等の算出方法(資産が所在する所轄の市区町村ごとに行ない、 申告書を作成します)
(1) 評価価額の算出方法
① 取得初年度
評価価額 = 取得価額 X 耐用年数に応ずる減価率 X 1/2(50%)
② 取得後2年目以降
評価価額 = 前年度の評価価額 X 耐用年数に応ずる減価率
(2) 固定資産税額の算出方法
① 課税標準額の集計(1,000円未満切捨て)
各資産の評価価額を集計(合算)した額が課税標準額(決定価格となります)です。
課税標準額が150万円未満の場合には、 固定資産税は課税されません。
② 税額の計算
固定資産税額(100円未満切捨て) = 課税標準額(1,000円未満切捨て) X 税率(1.4%)

(4)償却資産の申告
所定の償却資産申告書、 種類別明細書、 等の書類を資産の所在する市区町村ごとに作成し、 1月末までに提出(申告)することになります。 申告方式には、 以下の2方法がありますが、通常は一般方式を採用しています。
その方式とは、 前年中(申告対象年度)に増加又は減少した資産内容を申告するのみで、 評価額、 税額等は所管事務所で行う方式です。
注1: 前年中に増加又は減少した資産が無い場合でも申告は必要です。 その場合には、 申告書上の備考に「増減なし」等を付記します。
注2: 事業を行なっていますが、 対象償却資産を所有されていない場合でも申告は必要です。 その場合には、 申告書上の備考に「該当資産なし」を付記します。

以上

2018年12月24日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

年末調整の概要

1. 年末調整とは
毎年11月となりますと会社(給与支払者)の給与担当部署は、 「年末調整」の準備・対応という大変忙しい時期を迎え、 勤務者(従業員)はその年末調整の為に必要となる申告書や証明書類等を所定の期限までに会社に提出することが求められます。 会社は、 勤務者から回収した年末調整用の書類の内容を確認しその最終提出情報に基づいて、 暦年の最終給与支払時(通常、 12月給与)に納めるべき年間の所得税及び復興特別所得税(年調年税額)を算出し、 これまでの給与支給時に源泉徴収された累計年税額とを比べその差額となる過不足額を精算(徴収又は還付)します。 その一連の精算手続が年末調整ということになります。 一般的には、 年末調整により還付されるケースが多いかと思います。

2. 平成30年度(2018年度)の所得税に係わる改正
平成30年度の年末調整において、税制改正により影響を受ける主な項目は以下の通りです。
(1) 配偶者控除及び配偶者特別控除の控除額の改正
前年度までは、配偶者の合計所得金額が38万円以下(給与収入では103万円以下)の場合に配偶者控除38万円(老人控除対象配偶者48万円)、 並びに配偶者の合計所得金額が38万円超76万円未満の場合に配偶者特別控除が適用となっていましたが、 平成30年度では、 配偶者控除は世帯主(給与所得者本人)の年収に応じて縮小(本人の合計所得金額が900万円超から1,000万以下まで3段階で縮小。従って、1,000万円超・給与収入額では1,220万円超になりますと配偶者控除の適用を受けることができません)され、配偶者特別控除は配偶者の年収要件を103万円から150万円に引上げ、 かつ配隅者の年収(103万円201.6万円未満)及び世帯主の年収(1,120万円超から1,220万円以下)に応じて控除額が9段階で縮小となります。
(2) 給与所得者の配偶者控除等申告書の改正
前年度までは、「給与所得者の保険料控除申告書 兼 給与所得者の配偶者特別控除申告書」(兼用様式)から、平成30年度では、「給与所得者の保険料控除申告書」と「給与所得者の配偶者控除等申告書」の2種類の様式となりました。
配偶者控除又は配偶者特別控除の適用を受けるには、「平成30年分 給与所得者の配偶者控除等申告書」を提出する必要があります。
(3)源泉徴収簿の様式変更
① 「配偶者特別控除額」が「配偶者(特別)控除額」に変更
② 「配偶者控除、扶養控除額、基礎控除額及び障害者等の控除額の合計額」が「扶養控除額、基礎控除額及び障害者等の控除額の合計額」に変更
(4)給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の様式変更
前年度までは、「控除対象配偶者」を記載することになっていましたが、平成30年度では、「源泉控除対象配偶者」を記載することになりました。
(5) 保険料控除申告書に添付する証明書範囲の改正
保険料控除申告書に添付すべき生命保険料控除及び地震保険料控除に関する証明書に、電磁的記録印刷書面が加えられました。

3. 年末調整の対象者
年末調整の対象者は、 原則として会社に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している人は全員含まれます。 但し、 給与収入額が2千万円を超える人は年末調整を行ないませんので自身の確定申告を通じて年税額の精算をしなければなりません。 通常、 1カ所から給与支給を受けている人は、 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出し年末調整を受けることになります。
次の人は年末調整の対象者にはなりません。
(1) 年中の給与収入額が2千万円を超える人
(2) 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していない人(年末調整を行うことができませんが、 支払の際の源泉徴収においては乙欄の税額表が適用となります)
(3) 年中に退職(死亡退職した人、 非居住者として国外勤務者となった人、 等を除く)した人
(4) 国内に住所も1年以上の居所を有していない人(非居住者)
(5) 災害免除法の規定により源泉徴収について徴収猶予や還付を受けた人
(6) 日雇労働者等(丙欄の税額表適用者)

年末調整の為に提出が求められる申告書とその中に記載される控除項目は以下のとおりです。 当該控除項目以外に所得から控除可能な項目がある場合にはそれらの項目は確定申告で行うことになります。

申告書の名称控除項目
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書扶養控除、 障害者控除、 寡婦(夫)控除、 勤労学生控除、 基礎控除
給与所得者の配偶者控除等申告書配偶者控除、配偶者特別控除
給与所得者の保険料控除申告書生命保険料控除(一般生命・介護医療・個人年金)、 地震保険料控除、 社会保険料控除、 小規模企業共済等掛金控除
給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書(特定増改築等)住宅借入金等特別控除(2年目から年末調整の対象で初年度は確定申告が必要)

注: マイナンバーの記載不要の特例制度
平成28年1月よりマイナンバー制度が導入されています。原則、マイナバーを記載すべき書類の提出を受ける際には、その都度(毎回)必ず、マイナバーカード等で本人確認する必要があります。但し、平成29年分以後の扶養控除等(異動)申告書等へのマイナンバーの記載不要の特例制度が創設され、その適用要件として、過去にマイナンバーの情報が提供されており、 一度その番号確認を実施した上で作成した帳簿(特定個人情報ファイル)を会社が備えているときには記載不要となりました。 これは、確認書類の提示を受けることが困難な場合を前提とされていますが、変更が無いことが口頭等で確認されていれば参照できることでよいかと思います。なお、本人確認のうち身元確認については、過去に一度確認を行っている場合、本人を対面で確認することで明らかに本人であると認識されたる場合には、身元確認書類の提示は不要となります。
マイナンバーの記載不要の特例制度が適用できない方には、以下の対応が必要となります。
「平成30分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出にあたり、 給与所得者本人、 源泉控除対象配偶者、 控除対象扶養親族等の個人番号を記載することになります。 提出にあたり、 給与支払者が給与所得者から個人番号の提供を受ける場合は、 本人確認として、 提供の番号が正しいことの確認(番号確認)と、 番号提供者が真にその番号の持ち主であることの確認(身元確認)を行う必要があります。 なお、 控除対象配偶者、 控除対象扶養親族等の本人確認は、 給与所得者が行うことになっています。
平成28年1月以降の支払に係る給与所得の源泉徴収票には、 上記の個人番号を記載して税務署等の行政機関に提出することが必要となりますので、 「扶養控除等(異動)申告書」に必要なマイナンバーが記載されていない場合には、 源泉徴収票作成までにマイナンバーの提供を受ける必要があります。 なお、 給与所得者への源泉徴収票には、 個人番号は記載されません。

申告書記載上の主な注意点は以下のものがあります。
(イ) 12月31日時点の現況で記載
その年の12月31日現在の現況を見積もりで記載することになります。 見積記載の内容に修正が生じた場合(例えば、 扶養者数の増減、 等)には、 再年末調整(翌年の1月末までは可能)又は確定申告により適正な精算を行うことになります。

(ロ) 人的控除項目の判定基準に合計所得金額基準
控除項目の中(控除対象配偶者、 控除対象扶養控除、 配偶者特別控除等の人的控除項目)には、 その控除に該当するかの判定基準にその年度の合計所得金額がありますので留意してください。 多い誤りとしては、 配偶者の合計所得金額が控除対象金額を超えているケースです。
配偶者控除の場合の合計所得金額は、 38万円以下(給与収入額では103万円以下)でなければなりません。 「配偶者」とは、 婚姻の届出をしている配偶者をいい、 内縁関係の人は含まれません。
配偶者特別控除の場合の合計所得金額は、 38万円超~123万円以下でなければなりません。
公的年金等の雑所得だけの方で控除対象扶養者(合計所得金額が38万円以下)になる場合には、 公的年金等の収入金額が158万円以下(年齢65歳未満の人は108万円以下)という条件を満たす人です。

(ハ) 年齢16歳未満の年少扶養親族
控除対象扶養控除に関して、 平成23年度から年齢16歳未満の年少扶養親族に対する扶養控除が所得税では廃止となっています(年齢16歳未満は所得税における扶養控除対象者ではありません)。 しかし、 住民税の方では控除対象となっていますので住民税に関する欄への記載を忘れないでください。 なお、 年齢16歳未満の年少扶養親族であっても、 障害者又は特別障害者に該当する場合には、 障害者控除を受けることはできます。
平成30年度の年末調整時における年齢16歳未満とは、 平成15年1月2日以後に生まれた人が年少者となります。

(ニ) 扶養親族
所得者と生計を一にする親族(6親等内の血族と3親等内の姻族)で、 合計所得金額が38万円以下の人を扶養親族(配偶者、青色事業専従者及び白色事業専従者を除く)といいます。 その中には、 以下のように区分されています。
① 控除対象扶養親族
扶養親族のうち、 年齢16歳以上の人をいいます(平成30年度の年末調整では、 平成15年1月1日以前に生まれた人)。
② 特定扶養親族
扶養親族のうち、 年齢19歳以上23歳未満の人をいいます(平成30年度の年末調整では、 平成8年1月2日から平成12年1月1日までの間に生まれた人)。
③ 老人扶養親族
控除対象扶養親族のうち、 年齢70歳以上の人をいいます(平成30年度の年末調整では、 昭和24年1月1日以前に生まれた人)。
④ 同居老親等
老人扶養親族のうち、 所得者又はその配偶者の直系尊属でいずれかとの同居を常況としている人をいいます。
(注): 国外居住親族に係る扶養控除等の適用時に所定の書類添付等の義務化
非居住者である親族(国外居住親族)に係る扶養控除、 配偶者控除、 障害者控除又は配偶者特別控除の適用を受ける場合には、 「親族関係書類」及び「送金関係書類」の提出又は提示を受ける必要があります。
具体的な手続きとして、 適用を受ける旨を「扶養控除等(異動)申告書」上の「非居住者である親族」欄に○印を付し、 関係書類の提出等を行います。
「親族関係書類」の書類とは、
* 戸籍の附票その他の国又は地方公共団体が発行した書類及び国外居住親族のパソポートの写し
* 外国政府又は外国地方公共団体が発行した書類(国外居住親族の氏名、生年月日及び住所又は居所の記載があることが必要):例えば、戸籍謄本その他これに類する書類、出生証明書、婚姻証明書、等
「送金関係書類」の書類とは、
各人に支払ったことを明らかにする、金融機関の書類又はその写し、或いは、購入したことを証するクレジットカード発行会社の書類又はその写し、等
* 生活費を現金渡しの場合には、送金等の確認が出来ない限り、扶養控除の適用は受けられません。
* 生活費を次年度分を含めて当年度に送金した場合、その送金書類を当年度分として使用することは出来ません。その年において各人に支払っていることが必要となります。
* 生活費を長男及び次男の二人分を長男名義の口座に送金した場合には、長男のみが扶養控除の適用となります。各人に対して行ったことを明らかにする書類が必要となります。

(ホ) 生命保険料控除の改組
平成24年(2012年)1月1日からの契約分(新契約)から一般生命保険に含まれていた「介護医療保険」が独立の控除対象となりました。 平成23年までの契約分(旧契約)については、 昨年までと同様に「一般生命保険」と「個人年金保険」の2つに分けられ最高控除額は、 各5万円です。 新契約は、 「一般生命保険」、 「介護医療保険」と「個人年金保険」の3つに分けられ最高控除額は、 各4万円となります。 なお、 旧契約と新契約が混在するケースも発生することもありますが、 各保険料控除の合計適用限度額が12万円とされています。 従いまして、 支払保険契約が、 旧契約か新契約かを保険会社からの証明書で確認しながら申請書に正しく記載する必要があります。
生命保険契約等により支払われた保険料や掛金は所得者本人が支払ったものに限られています。 又、 保険金、 共済金等の給付金の受取人の全てが所得者本人又は所得者の配偶者や親族となっていることが必要です。
翌年以後に払込期日が到来する保険料を一括して前納保険料がある場合には、 本年中に相当する部分のみが支払保険料の金額となります。

(ヘ) 社会保険料控除
所得者本人と生計を一にする親族が負担することになっている社会保険料を所得者自身が支払った場合(時限措置により納付可能となった過去分の保険料の支払分も含む)には、 所得者本人の社会保険料として控除できます。
年金から特別徴収された介護保険料や後期高齢者医療保険料については、 支払者が年金受給者自身となることから、 その年金の受給者の社会保険料として控除となります。
翌年以後に払込期日が到来する保険料を一括して前納保険料がある場合には、 前納期間が1年以内の場合には、 その全額を本年の社会保険料として控除することができます。 なお、 国民年金保険料については、 2年分を前納できることになりましたので、 全額控除をするか、 又は期間按分して控除(この場合には、 按分の明細書が要作成)する方法のいずれかを選択することが可能です。

(ト) 地震保険料控除
所得者本人と生計を一にする親族が所有して常時居住している家屋や生活に通常必要な家財に対して支払った保険料の内、 一定の金額を地震保険料控除として控除できます。
一つの契約等で、 地震等損害に対する損害保険契約と旧長期損害保険契約のいずれの契約区分にも該当する場合には、 選択によりいずれか一方の契約区分のみが地震保険料控除の控除額となります(有利な方を選択する)。

(チ) (特定増改築等)住宅借入金等特別控除
現在、 各種の住宅借入金等特別控除がありますが、 控除を受けようとする初年度分については、 確定申告により控除の適用を受ける必要があります。 2年度以降分については、 年末調整の際に下記のものを給与支払者に提出します。
① 税務署長が発行した「年末調整のための(特定増改築等)住宅借入金等特別控除証明書」。 この証明書の上部に「給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書」がありますので、 控除金額等の記載を行い提出します。
② 金融機関等が発行した「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」
一般の住宅借入金等特別控除は、 居住者が一定の要件を満たす住宅の取得等して、 その人の居住の用に供した場合(その家屋の取得等の日から6ケ月以内に居住用に供したものに限られています)において、 その住宅の取得等のために一定の住宅借入金(償還期間10年以上等)を有するときには、 居住年以後10年間(平成13年7月1日から平成33年12月31日までの間で居住した場合には、 最長10年間。 それ以前のものは最長15年間)の各年のうち、 合計所得金額が3千万円以下である年について、 住宅借入金等の年末残高を基にした所定額を住宅借入金等特別控除としてその年の所得税額から控除できるというものです。
家屋に入居後、 本年12月31日まで継続して居住用に供していることが控除の適用要件ですので、 年度の途中で海外勤務となり出国している場合には、 この制度の適用はありません。
自己の居住用の家屋が2以上有する場合には、 主として居住用とする1の家屋に限られます。
連帯債務(共有)の場合には、 各年12月31日現在のその住宅借入金等の金額に控除を受ける人の負担割合(持分割合)を加味して控除額を計算します。 その割合は、 小数点以下第4位を切上げ、 90%以上である場合は100%とします。
住宅ローンの借換え: この制度の適用者が、 住宅借入金等の借換えをした場合に一定の要件を満たすときには適用が継続します。 住宅ローン金利が低くいものがあるとローンの借換えを行う場合があります。 一般の住宅ローンの場合の借換えでは、 新たな借入金が当初の借入金を消滅させるもので、 適用対象となっていた家屋の取得等のための資金に充てるものであれば住宅ローン控除の継続適用の対象となります。 その場合の新たな借入金の償還期間も10年以上であることが適用要件となっています。 ローン借換後の借入額が借換前の借入残高以下であれば、 年末借入残高が控除対象額となりますが、 逆に借換後の借入額が借換直前の借入残高を上回る場合、 次の按分計算して控除対象額を導く必要があります。
ローン借換後の借入額の年末残高 X (借換直前の借入残高 ÷ 借換直後の借入額) = 控除対象借入額の年末残高

(リ) 給与と徴収税額の集計
年中に支払った給与・賞与が対象になりますが、 本年分の給与で未払いであっても、 本年中に支給日が到来して支払の確定したものについても年末調整の対象になります。

以上が年末調整の概要となります。

2018年11月8日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

相続分野で民法改正の概要

民法の相続分野の規定を約40年ぶりに見直す民法改正が2018年7月6日に成立し、7月13日に公布されました。主な法改正は以下の6点で、2020年7月13日までに順次施行されることになっています(下記に記載以外の施行は、2019年7月13日までに政令で定める日となっていますが、法務省のHP等で公表される予定です)。
一 配偶者の居住権保護(施行は、2020年7月13日までに政令で定める日)
二 遺産分割等に関する見直し
三 遺言制度に関する見直し(施行は2019年1月13日から)
四 遺留分制度に関する見直し
五 相続の効力等に関する見直し
六 相続人以外の人からの介護・看護への特別寄与分の請求権
以下、それらの概要を記載します。

一 配偶者の居住権保護
1. 配偶者短期居住権
(1)居住建物を配偶者を含む共同相続人間で遺産分割すべき場合
配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に無償で居住していた場合には、配偶者は、下記のいずれか遅い日までの間、無償でその建物を使用することができます。
① 遺産分割によりその建物の帰属が確定するまでの間
② 相続開始から6ヵ月間の間
(2)上記(1)以外に、居住建物を第三者に遺贈や配偶者が相続放棄した場合等
居住建物の所有者は建物に無償で居住していた配偶者に対して、いつでも配偶者短期居住権の消滅を申入れすることが可能ですが、その申入れを受けてから6ヵ月間は引続き配偶者は無償でその建物を使用することができます。
2. 配偶者居住権
配偶者が相続開始時に居住していた被相続人の所有建物を対象として、残された配偶者の保護を手厚くし、遺産分割の協議が調うなどすれば、残された配偶者は自身が亡くなるまで(終身又は当事者間で存続期間を定めた場合にはその一定期間)今の住居に住み続けられる「配偶者居住権」を得られ、住居の所有権を取得する必要がなくなります(配偶者は家に居住権を設定する登記手続きを法務局(登記所)にすることで権利を確保)。それにより、遺産分割では預貯金など他の遺産の取り分を増やし、老後の生活資金にあてることも可能になります。居住権のみなら、所有権を取得する場合よりも評価額が低くなるためです(これまでの相続財産の評価額が、居住権評価額と所有権評価額に分けられることになります)。なお、配偶者居住権は、協議による遺産分割の場合に限られるものではなく、被相続人の遺言によって取得させることもできます。
配偶者居住権の財産評価額方法は、今後公表されることになります。

二 遺産分割等に関する見直し
1.特定配偶者に遺贈又は贈与した居住用不動産の特別受益の持戻し計算免除
婚姻期間が20年以上で、配偶者に居住用の建物又はその敷地の全部又は一部(居住用不動産)を生前贈与するか遺言で贈与の意思を示せば、その居住用不動産は被相続人が特別受益の持戻し免除の意思表示したものと推定し、遺産分割の対象にしない(遺産分割の共有財産にならない)という優遇措置が設けられました。
2.預貯金債権の仮払い制度
遺産分割の協議中でも、相続した預貯金を葬儀費用や生活費用に充てるため、仮払いを認める仮払制度が設けられます。
(1) 家事事件手続法の保全処分要件の緩和
家庭裁判所に遺産分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、仮分割の仮処分の必要性があり、かつ、他の共同相続人の利益を害しないと裁判所が判断した場合には、預貯金債権の仮払いが認められることになります。
(2) 家庭裁判所の判断なく預貯金債権の払戻し
各共同相続人は、預貯金債権のうち、各預貯金口座ごとに以下の金額(但し、一つの金融機関で引き出せる金額については法務省令で定める金額を上限:100万円~150万円程度の予定)まで、他の共同相続人の同意なく単独で払戻しを求めることができます。
 相続開始時の個々の預貯金口座の金額 × 3分の1 × 共同相続人の法定相続分 
= 単独で払戻しを求めることができる金額
3. 遺産分割前に相続財産が処分された場合の遺産分割の範囲
(1) 遺産分割前に相続財産が処分された場合であっても、共同相続人全員の同意により、当該処分された財産を遺産分割の対象に含めることができます。
(2) 共同相続人の1人又は数人が遺産分割前に相続財産を処分した場合には、当該処分した共同相続人については、上記(1)の同意を得る必要はありません。

三 遺言制度に関する見直し
1.自筆証書遺言の利便性と信頼性の向上
これまで生前に被相続人が書く自筆証書遺言は、内容に問題があっても死後まで分からず、信頼性に欠ける等から相続を巡るトラブルも少なくありませんでした。そこで、自筆証書遺言は、今後、公的機関である全国の法務局で形式に関し事前チェック後に保管できるようにして、相続人が遺言があるかを簡単に調べられるようになります。法務局に預けた場合は、家庭裁判所で相続人が立ち会って内容確認する「検認」の手続きを不要とし、又、財産目録はこれまで全文を自筆に限定していましたが、パソコンでの作成可能となります(但し、財産目録の毎ページに署名押印しなければなりません。又、自書によらない記載が両面に及ぶ場合には、その両面に署名押印しなければなりません)。この法務局に預ける場合の手数料も数千円程度に安価を想定しているようです。
なお、遺言者の死亡届が提出された場合、法務局から相続人に通知できるようなシステムも検討されます。
2.遺言執行者権限の明確化
これまで遺言執行者は常に相続人の利益のために職務を遂行すべきであるとの誤った認識を抱く者も少なくなく、このために遺言執行者と相続人との間でトラブルになるケースが相当数生じていました。そこで、
(1) 遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示していた行為は、相続人に対し直接にその効力が帰属するという規定表現になりました。
(2) 特定遺贈又は特定財産承継遺言がされた場合における遺言執行者の権限等について明確化が図られました。

四 遺留分制度に関する見直し
1.遺留分減殺請求権の金銭債権化
これまで減殺請求により当然に物権的効果が生ずることとされているため、減殺請求の結果、遺贈又は贈与の目的財産は受贈者と遺留分権利者との共有になることが多く、このような帰結は、円滑な事業承継を困難にするものであり、又、共有関係の解消をめぐって新たな紛争を生じさせることになることがありました。そこで、
(1) 遺留分に関する権利行使により生ずる権利を遺留分侵害額に相当する金銭債権化することとしました。
(2) 遺留分権利者から遺留分侵害額請求を受けた時点で相当期間経過しており請求を受けた時点では、受遺者又は受贈者が十分な資金がなく金銭を直ちに準備できない場合には、受贈者等は、裁判所に対し金銭債務の全部又は一部の支払につき期限の許与を求めることができるようになりました。
2.遺留分及び遺留分侵害額の算定方法
(1)遺留分及び遺留分侵害額の計算式
① 「遺留分」 = 「遺留分を算定するための財産価額」 × 1/2(*1)× 遺留分権利者の法定相続分 
                 (*1)相続人が直系尊属のみの場合は1/3
「遺留分を算定するための財産価額」 
= 相続時における被相続人の積極財産の額 
+ 相続人に対する生前贈与の額(原則10年以内*2)
+ 第三者に対する生前贈与の額(原則1年以内)
- 被相続人の債務の額
              (*2)被相続人と受贈者が、遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与した場合には、10年前の贈与分も含む
 ② 遺留分侵害額 = 「遺留分の額」- 遺留分権利者が受けた特別受益額 - 遺産分割の対象財産がある場合(既に遺産分割が終了している場合も含む)には具体的相続分に応じて遺産を取得したものとした場合の当該遺産の価額(但し、寄与分もよる修正は考慮しない)+ 被相続人に債務がある場合には、その債務のうち遺留分権利者が負担する債務の額
(2)相続人に対する贈与は、相続開始前10年間にされたものに限定し、その価額を遺留分を算定するための財産価額に算入する。

五 相続の効力等に関する見直し
特定財産承継遺言(相続させる旨の遺言)や相続分の指定された場合により承継された財産については、登記等の対抗要件なくして第三者に対抗することができていましたが、法定相続分を超える部分の承継については、登記等の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができないことになります。

六 相続人以外の人からの介護・看護への特別寄与分の請求権
被相続人の親族で相続の対象にならない人でも、被相続人に対して介護や看病その他の労務の提供により被相続人の財産の維持又は増加に貢献(寄与)した場合は、相続人に金銭(特別寄与料)を請求できる仕組みが取り入れられます。対象は、息子の妻が義父母を介護していたケース等を想定したもので、特別寄与の請求権者は、被相続人の親族に限定されることになっています。これまでの介護の寄与をめぐり争った場合の家庭裁判所が示す目安は、次の通りです。
介護の日当額(8千円)× 日数(500日)× 裁量的割合(70%)
= 介護寄与分額(280万円) 

以上です。

2018年10月28日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

相続税の納税義務者の範囲

相続税の納税義務者は、 無制限納税義務者(居住無制限納税義務者及び非居住無制限納税義務者)及び制限納税義務者に区分され、以下の様に課税されます。
1. 居住無制限納税義務者:国内・国外財産ともに課税
2. 非居住無制限納税義務者:国外財産にも課税(国内・国外財産ともに課税)
3. 制限納税義務者:国内財産のみに課税

課税範囲は、被相続人と相続人の双方の状況により、以下の様になっています。

相続人・受贈者
国内に住所有り
相続人・受贈者
国内に住所無し
日本国籍有り日本国籍無し
一時的住所の
外国人(注1)
10年以内に国内
に住所有り
10年を超えて
国内に住所無し
被相続人・贈与者
国内に住所有り
一時的住所の
外国人(注1)
国内財産国内財産国内財産
被相続人・贈与者
国内に住所無し
10年以内に国内
に住所有り
日本国籍のない
外国人(注2)
国内財産国内財産国内財産
10年を超えて
国内に住所無し
国内財産国内財産国内財産

水色の部分に該当すれば、国内財産のみに課税となります。その他は、国内・国外財産ともに課税となります。

注1(一時的住所の外国人):出入国管理及び難民認定法別表第1の在留資格の者で、過去15年以内において国内に住所を有していた期間の合計が10年以下の者
注2(日本国籍のない外国人):相続開始時に、国内に住所を有しなくなった被相続人で、相続開始前10年以内のいずれかの時に住所を有していたことがあるが日本国籍を有していなかった者、又は、相続開始前10年以内のいずれかの時に住所を有していない者である外国人
*「一時居住者」とは、
 相続開始の時において在留資格を有する者であって当該相続の開始前15年以内においてこの法律の施行地に住所を有していた期間の合計が10年以下であるものをいう。
*「一時居住被相続人」とは、
 相続開始の時において在留資格を有し、かつ、この法律の施行地に住所を有していた当該相続に係る被相続人であって当該相続の開始前15年以内においてこの法律の施行地に住所を有していた期間の合計が10年以下であるものをいう。
*「非居住被相続人」とは、
 相続開始時に、国内に住所を有しなくなった被相続人で、相続開始前10年以内のいずれかの時に住所を有していたことがあるが日本国籍を有していなかった者、又は、相続開始前10年以内のいずれかの時に住所を有していない者である外国人をいう。

国内住所の有無の判定基準について:
1.「住所とは各人の生活の本拠をいい、生活の本拠であるかどうかは客観的事実によって判定する」と定められています。
2.「生活の本拠とは、その者の生活に最も関係の深い一般生活、全生活の中心を指すものであるところ」と判示しています。又、「一定の場所がその者の住所とする意思だけでは足りず、客観的に生活の本拠たる実態を必要とするものと解される」と判示しています。
3.「住所」の推定規定
国内に住所を有するものと推定する場合や、逆に国内に住所を有しない者と推定する場合があります。
イ(国内に住所を有する者と推定する場合)
所得税法施行令:
第14条 国内に居住することとなった個人が次の各号のいずれかに該当する場合には、その者は、国内に住所を有する者と推定する。
一 その者が国内において、継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有すること。
二 その者が日本の国籍を有し、かつ、その者が国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有することその他国内におけるその者の職業及び資産の有無等の状況に照らし、その者が国内において継続して1年以上居住するものと推測するに足りる事実があること。
2 前項の規定により国内に住所を有する者と推定される個人と生計を一にする配偶者その他その者の扶養する親族が国内に居住する場合には、これらの者も国内に住所を有する者と推定する。
ロ(国内に住所を有しない者と推定する場合)
第15条 国外に居住することとなった個人が次の各号のいずれかに該当する場合には、その者は、国内に住所を有しない者と推定する。
一 その者が国外において、継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有すること。
二 その者が外国の国籍を有し又は外国の法令によりその外国に永住する許可を受けており、かつ、その者が国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有しないことその他国内におけるその者の職業及び資産の有無等の状況に照らし、その者が再び国内に帰り、主として国内に居住するものと推測するに足りる事実がないこと。
2 前項の規定により国内に住所を有しない者と推定される個人と生計を一にする配偶者その他その者の扶養する親族が国外に居住する場合には、これらの者も国内に住所を有しない者と推定する。

●原則、被相続人の本籍がある国の法律に基づいて相続手続きを行いますが、国によって多少異なる取扱いもあります。相続税は遺産を受取る相続人に課税されるものであり、被相続人が海外に住んでいても、又外国籍であっても、相続人に日本の相続税が課税される場合があります。
●住所・国籍の有無、 居住期間の計算は、 財産取得した時を基準とします。
●日本国籍と外国国籍とを併有する重国籍者は、 日本国籍を有する個人扱いになります。 但し、 自己の意思(志望)によって外国籍を取得している者である限り、 その取得時点で国籍法第11条の規定によって日本国籍を喪失したことになります。
●制限納税義務者の納税義務の範囲に関して、 日本国内にある財産に限定されることから債務控除の範囲も日本国内にある財産に関連する債務に限定されていますが、 その債務の範囲は5項目の限定列挙となりかなり限定的であることに留意すべきです(相法第13条②)。
●特定納税義務者とは、 被相続人から相続又は遺贈により財産を取得しなかった者のうち、 特定贈与者である被相続人より相続時精算課税の適用を受けていた財産に対して相続税の納税義務(精算の義務)を負うことになる者です。
●国外転出時課税の適用がある場合の納税猶予期限を10年に延長している個人が死亡した場合(被相続人)又は財産の贈与をした場合(贈与者)は、非居住者であっても、相続の開始前又は贈与前の5年以内に相続税法の施行地に住所を有していたものとみなされます。

2018年9月20日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

不動産取引(取得・購入・売却、他)における諸税金知識

土地や建物の不動産を購入、売却等する機会が多くないことから、その事案が起きた時に税金を含む諸費用に関して不安に思うことがあります。以下に、主に税金を中心とした諸費用を検討してみたいと思います。

1.不動産取得
不動産取得には、大別すると購入、贈与、相続の3種類がありますが、通常、負担しなければならない諸費用には、次のものが考えられます。

(1) 仲介(媒介)手数料
不動産業者に仲介して購入する場合には、仲介(媒介)手数料がかかってきます。その手数料(消費税を除く)は、通常、下表の合計額の範囲となるかと思います(法定上の上限はありますが、金額は任意に設定できます)。

売買金額

仲介(媒介)手数料
200万円以下5%
200万円超~400万円以下4%
400万円超3%

(2) 印紙税
不動産売買契約書の売買金額に基づいて印紙を貼付しなければなりません。印紙税法により、下表の印紙代の負担が必要となりますが、平成32年3月31日までは軽減特例の適用となっています。

売買金額印紙税
1万円未満
非課税
1万円超~50万円以下
200円
500万円超~100万円以下
500円
100万円超~500万円以下
1,000円
500万円超~1,000万円以下

5,000円
1,000万円超~5,000万円以下
10,000円
5,000円超~1億円万円以下30,000円
1億円超~5億円万円以下

60,000円
5億円超~10億円万円以下
160,000円
10億円超~50億円万円以下320,000円
50億円超480,000円

(3) 登録免許税
不動産を取得すると所有権を登記所に保存登記や移転登記をすることになりますが、移転登記の場合には、下表の登録免許税を納める必要があります。

 登記内容登録免許税
土地売買固定資産税評価額の2%(本則)
固定資産税評価額の1.5%(平成31年3月31日までの登記には軽減特例の適用)
相続、共有物の分割、法人の合併固定資産税評価額の0.4%
贈与、交換、収用、競売、等固定資産税評価額の2%
建物所有権保存固定資産税評価額の0.4%(本則)
固定資産税評価額の0.15%(平成32年3月31日までの新築の居住用家屋を自己の居住用に供した場合の軽減特例)
所有権移転
売買・競売固定資産税評価額の2%(本則)
固定資産税評価額の0.3%(平成32年3月31日までに取得した居住用家屋を自己の居住用に供した場合の軽減特例)
相続・法人の合併固定資産税評価額の0.4%
贈与、交換、収用、等固定資産税評価額の2%

なお、これらの登記を司法書士等に依頼するときには、報酬料が必要となります(固定資産税評価額が1千万円以下の場合には、5万円前後の報酬料がかかるとみておいたほうがよいでしょう)。

(4) 不動産取得税
不動産を売買、交換、贈与、寄付、建築等により取得すると不動産取得税がかかってきます。なお、相続の場合には、不動産取得税は非課税となっています。
この不動産取得税は、取得後6ヶ月~1年半後に県税事務所から納税通知書が送付されてきます。

不動産不動産取得税
相続以外(所定の各種軽減措置が有り)相続
土地固定資産税評価額の4%(本則)
固定資産税評価額の3%(平成33年3月31日までに住宅及びその敷地として土地を取得した場合の軽減)。
なお、宅地及び宅地並みに評価されている土地を平成33年3月31日までに取得した場合には、課税標準が

固定資産税評価額の50%となる特例(固定資産税評価額×50%×3%)があります。
非課税
建物固定資産税評価額の4%(本則)
固定資産税評価額の3%(平成33年3月31日までに住宅として取得した場合の軽減)
非課税

なお、別途、税額軽減として①新築住宅及びその敷地を取得した場合、②中古住宅及びその敷地を取得した場合、③認定長期優良住宅を取得した場合には適用があります。

(5) 抵当権設定登記
不動産購入時に借入ローンを組んでいる場合には、ローンを担保する抵当権の設定登記する手続きが取られています。

2.不動産売却
不動産の取得時には、上述しましたように様々は経費がかかりますが、不動産売却時にもやはり諸経費がかかります。次のものが考えられます。

(1) 仲介(媒介)手数料
不動産業者に仲介して売却する場合には、仲介(媒介)手数料がかかってきます。その手数料(消費税を除く)は、上述しました不動産の取得時と同様となります。

(2) 印紙税
不動産売買契約書の売買金額に基づいて印紙を貼付しなければなりません。印紙税法により、上述しました不動産の取得時と同様に印紙代の負担が必要となりますが、平成32年3月31日までは軽減特例の適用となっています。

(3) 登録免許税
不動産売却時には、取得者への名義変更(所有権移転登記)に必要となる登録免許税が発生しますが、通常は購入者(取得者)側で所有権移転登記を行いますので、売却者側では登録免許税を負担することはありません。

(4) 抵当権抹消登記
不動産売却時にローン残高があり抵当権設定登記されている場合には、売却代金等でローン完済時に、その抵当権の抹消登記が必要となりますので、登録免許税が必要となります(1物件あたり1千円)。

(5) 譲渡所得税・住民税
不動産売却時に利益が出た場合には、その利益に対する課税譲渡所得に対して所得税(国税)と住民税(地方税)が課せられます。
譲渡価格(売却代金)-(取得費+売却諸経費)- 特別控除 = 課税譲渡所得

所有期間 所得税(国税)住民税(地方税)合計
短期:5年以下30.63%9%39.63%
長期:5年超15.315%5%20.315%
特例軽減税率
土地・建物の所有期間10年超の
居住用不動産の売却の場合:
課税譲渡所得6千万円以下10.21%4%14.21%
6千万円超:
①6千万円以下の部分10.21%4%14.21%
②6千万円超の部分15.315%5%20.315%

なお、居住用不動産(マイホーム)を売却した場合には、課税譲渡所得から3千万円の特別控除があります。
以上になります。

2018年8月16日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

都会の農地 宅地化抑制 貸しても税優遇・面積要件緩和

国や地方自治体は都市部に集まる農地「生産緑地」の宅地への転用が急増しないように対策を急ぐ。2020年に約8割の生産緑地の税優遇が期限切れとなる「22年問題」を放置すれば、宅地供給が急激に膨らみ、住宅市場が混乱しかねないためだ。国は地主に第三者に生産緑地を貸しても税優遇を受けられる法律を9月にも施行。指定基準を緩める自治体も相次ぐ。

2018年8月15日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

軽減税率、悩むスーパー 店内飲食・持ち帰りで違い

2019年10月に予定される消費税率引き上げまで1年余りとなり、小売業界が軽減税率制度への準備を本格化してきた。食料品を持ち帰るか店内で食べるかで顧客が払う消費税率が異なるので、スーパーのレジ精算などに混乱が懸念されます。
軽減税率制度は消費税率が10%になっても食品や新聞などの税率を8%に据え置く低所得者対策だ。食品は8%の軽減税率が適用とされるが、外食は対象外で税率は10%。スーパーで買った食品でも、店内のイートインコーナーなどで食べる場合には外食扱いとなり10%になる。この税率適用は、レジでの顧客の申告に基づくことになります。

2018年8月5日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

相続分野で民法改正

民法の相続分野の規定を約40年ぶりに見直す民法改正が7月6日に成立しました。法改正のポイントは3点で、2020年7月までに順次施行されることになりました。
1.配偶者居住権の創設
残された配偶者の保護を手厚くし、遺産分割の協議が調うなどすれば、残された配偶者は自身が亡くなるまで今の住居に住み続けられる「配偶者居住権」を得られ、住居の所有権を取得する必要がなくなります。それにより、遺産分割では預貯金など他の遺産の取り分を増やし、老後の生活資金にあてることも可能になる。居住権のみなら、所有権を取得する場合よりも評価額が低くなるためだ。又、遺産分割が終わるまで、それまでの住居に無償で住める「短期居住権」も新たに設ける。新たな制度では婚姻期間が20年以上で、配偶者に住居を生前贈与するか遺言で贈与の意思を示せば、その住居は遺産分割の対象にしないという優遇措置が設けられます。
2.自筆証書遺言の利便性と信頼性の向上
これまで生前に被相続人が書く自筆証書遺言は、内容に問題があっても死後まで分からず、信頼性に欠ける等から相続を巡るトラブルも少なくありませんでした。そこで、自筆証書遺言は、今後、公的機関である全国の法務局で形式に関し事前チェック後に保管できるようにして、相続人が遺言があるかを簡単に調べられるようになります。法務局に預けた場合は、家庭裁判所で相続人が立ち会って内容確認する「検認」の手続きを不要とし、又、財産目録はこれまで自筆に限定していたが、パソコンでの作成可能となります。この法務局に預ける場合の手数料も数千円程度に安価を想定しているようです。
なお、遺言者の死亡届が提出された場合、法務局から相続人に通知できるようなシステムも検討されます。
3.相続人以外の人からの介護・看護への寄与分の請求権
被相続人の親族で相続の対象にならない人でも、介護や看病で被相続人の財産の維持などに貢献した場合は、相続人に金銭を請求できる仕組みも取り入れられます。対象は、息子の妻が義父母を介護していたケース等を想定したものです。
その他として、遺産分割の協議中でも、相続した預貯金を葬儀費用や生活費用に充てるため、仮払いを認める制度も設けられます。

2018年7月6日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

直近尊属から住宅取得等資金贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置

特定受贈者(贈与年の1月1日現在20歳以上で合計所得金額2,000万円以下の者)が、 その直系尊属(親、祖父母等)から受ける居住用家屋の新築・取得・増改築等用に住宅取得等資金の贈与については、非課税限度額が定められていますが、消費税率の8%から10%への引上日が平成31年10月1日に予定されています。適用消費税率と住宅取得等の契約日の条件により、その非課税限度額が以下のようになります。特に、契約締結日には留意する必要があります。
⓵住宅用家屋の取得価額に消費税率10%の消費税等が含まれている場合 (消費税率10%で契約した者)

住宅用家屋の取得価額に消費税率良質な住宅用家屋(省エネ等住宅)左記以外の住宅用家屋(その他の一般住宅)
平成31年4月~平成32年3月3,000万円2,500万円
平成32年4月~平成33年3月1,500万円1,000万円
平成33年4月~平成33年12月1,200万円700万円
なお、 東日本大震災の被災者が受贈者の場合には、 以下のようになります。
平成31年4月~平成32年3月
平成32年4月~平成33年12月

3,000万円
1,500万円
2,5000万円
1,000万円

⓶上記(1)以外の場合 (消費税率8%で契約した者や個人間売買で中古住宅売買契約した者)

住宅用家屋の取得等に係る契約の締結期間良質な住宅用家屋(省エネ等住宅)左記以外の住宅用家屋(その他の一般住宅)
平成28年1月~ 平成32年3月1,200万円700万円
平成32年4月~平成33年3月1,000万円500万円
平成33年4月~平成33年12月800万円300万円
なお、 東日本大震災の被災者が受贈者の場合には、 以下のようになります。
平成26年度申告対象分
~ 平成33年12月
1,500万円1,000万円

上記の「良質な住宅用家屋」とは、 省エネルギー対策等級4(平成27年4月以降は断熱等性能等級4)、 又は耐震等級2以上若しくは免震建築物に該当する住宅用家屋のことであり、 所定の証明書が必要となります。
① 「良質な住宅用家屋」の範囲に、 一次エネルギー消費量等級4以上に該当する住宅用家屋及び高齢者等配慮対策等級3以上に該当する住宅用家屋も対象。
② 適用対象となる増改築の範囲に、 一定の省エネ改修工事、 バリアフリー改修工事及び給排水菅又は雨水の侵入を防止する部分に係る工事も対象。

以下の適用要件があります。
① 住宅取得等資金であること
住宅取得等資金とは、住宅の新築、取得または増改築等に充てるための金銭をいいます。尚、住宅の新築に先行して、その敷地用の土地等を取得する場合における取得資金もこの制度の適用対象となっています。金銭の贈与を受けた年の翌年の3月15日までに、原則として居住することが必要となっていますが、その後に遅滞なく(同年の12月31日までに居住できなかったときには、この非課税制度は認められなく、同日から2ヶ月以内に修正申告をしなければなりません)、居住することが確実に見込まれる場合であれば特定受贈者は所定の計算明細書等を添付して贈与税の申告期限内に提出すれば、この非課税制度の適用を受けることができます。
② 受贈者の非課税の適用要件:
(イ) 贈与時に日本国内に住所がある、 或いは日本国内に住所が無いものの日本国籍を有し、 かつ、 受贈者又は贈与者がその贈与前5年以内に日本国内に住所があったことがある。
(ロ) 贈与時に贈与者の直系卑属(子や孫等)である。
(ハ) 贈与時の1月1日現在で20歳以上である。
(ニ) 贈与年の合計所得額が2,000万円以下である。
③ 住宅の新築・取得の適用要件:
日本国内にある家屋で、 受贈者が主として居住用に使用するものであり、 次の要件を満たす必要があります(土地だけの取得では不可)。
(イ) 適用対象となる住宅用家屋の床面積(区分所有の場合には、 その区分所有部分)は、 240㎡以下(東日本大震災の被災者が受贈者の場合には、 240㎡以下の床面積制限無し)。
(ロ) 中古家屋の場合には、 耐火建築物であれば築25年以内 、耐火建築物以外では築20年以内のものであること。 但し、 地震に対する安全基準に適合するものには、 この建築年数制限は無し。
(ハ) 床面積の2分の1以上が専ら居住用に使用されていること。
④ 住宅の増改築等の適用要件:
日本国内にある家屋で、 次の一定の増改築であることが必要です。
(イ) 工事代金が100万円以上で、 かつ、 居住用の工事費が全体の2分の1以上であること。
(ロ) 増改築等の家屋の床面積の2分の1以上が専ら居住用に使用されていること。
(ハ) 増改築等の家屋の床面積が50㎡以上(区分所有の場合には、 その区分所有部分)。
⑤ 相続開始前3年以内贈与の相続財産への加算措置の対象外
⑤ その他の適用要件:
(イ) 受贈者の一定の親族等の特別な関係者との請負契約等により新築若しくは増改築等をする場合、 又はこれらの特別な関係者から取得する場合には、 この特例の適用を受けることはできません。 
(ロ) 贈与税の申告期限内に申告する必要があります。

この非課税適用において、居住時期以外にも次の点に関し、留意すべきです。
 住宅新築(一戸建て)の時期
新築は、資金贈与日の翌年の3月15日までに行わなければなりません。同日までに屋根(その骨組を含む)を有し、土地に定着した建造物として認められる時以降の状態が必要となります。
 住宅取得(マンション)の時期
売主から住宅の引渡し(通常は鍵の引渡し、 又は少なくとも残代金の支払完了、等)を翌年の3月15日までに受ける必要があります。従って、売買契約の締結等の状態では不十分です。
 住宅の新築、取得または増改築等の取引の相手先
受贈者の一定の親族等特別な関係者との契約に基づくものは適用対象外となります。
 居住用の不動産の贈与
父から居住用の不動産の贈与を受けても、 この非課税制度は家屋に関し金銭による贈与に限定されていますので適用対象外です。

尚、住宅取得等資金の非課税は、下記の特例と併用が可能です(優良住宅のケース)。
① 歴年課税の基礎控除
平成30年度:110万円(基礎)+ 1,200万円 = 1,310万円の非課税
② 相続時精算課税の特別控除
平成30年度:2,500万円(特別)+1,200万円 = 3,700万円の非課税

2018年6月30日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

給与等支給拡大促進税制の改組(所得拡大促進税制)

平成30年度税制改正により、平成30年4月1日以降の開始事業年度より所得拡大促進税制の適用要件が大きく変更になりましたので、その現行制度(平成30年3月31日までに開始する事業年度)との相違を以下に記します。

1. 平成29年4月1日から平成30年3月31日までの間に開始する事業年度
青色申告法人が、平成30年3月31日までの間に開始する事業年度において国内雇用者に対する給与等支給額に関して、 その法人の雇用者給与等支給増加額(雇用者給与等支給額から基準雇用者給与等支給額を控除した金額)が基準雇用者給与等支給額に対し5%以上(中小法人等は3%以上)であり、 かつ、 他の2要件等を満たす場合には、 その雇用者給与等支給増加額の10%(条件により10%以上)の税額控除(但し、 大法人は法人税額の10%(中小法人等は20%)が控除限度)ができることになっています。

適用期間平成29年4月1日~平成30年3月31日の間に開始する事業年度
適用要件次の3要件を全て満たす場合:
(1) 当期の雇用者給与等支給増加額 (雇用者給与等支給額 - 基準雇用者給与等支給額) ÷ 基準雇用者給与等支給額 ≧ 5%
(2) 当期の雇用者給与等支給額 ≧ 前期の雇用者給与等支給額
(3)-1中小企業の場合
当期の継続雇用者平均給与等支給額 > 前期の継続雇用者平均給与等支給額(比較平均給与等支給額)
(3)-2大企業の場合
(平均給与等支給額 - 比較平均給与等支給額)÷ 比較平均給与等支給額 ≧ 2%
(従って、割合が2%未満の場合には、制度の適用がありません)
国内雇用者の範囲国内雇用者とは、 役員、役員の特殊関係者及び使用人兼務役員を除く使用人で国内事業所に勤務し賃金台帳に記載されている雇用者(従って、 雇用保険の一般被保険者でない雇用者も含む)
継続雇用者の範囲継続雇用者とは、適用年度およびその前年度の両方において給与等の支給を受けた国内雇用者であり、継続雇用者に係る金額は、雇用保険法における一般被保険者に該当する者に対して支給したものに限りますが、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」9条1項2号に規定する継続雇用制度の対象である者に対して支給したものを除く、ということになっています。
具体的には、 前期の退職者、 当期の新規雇用者、 継続雇用制度に基づき雇用されている高年齢再雇用者(なお、 適用年度に当該継続雇用制度の対象者になった場合には、 制度前の支給額部分は両年度で一般被保険者に該当することからその部分は除かれません) を除きますが、 一定の週20時間以上のパート・アルバイトで雇用保険法の適用要件を満たす一般被保険者は含まれます。
従いまして、 第1に、雇用保険法における一般被保険者に該当する者に対して支給したものに限られますので、
(イ) 正社員、及び
(ロ)パート・アルバイトのうち週所定労働時間が20時間以上で一般被保険者になっている者
ということになりますが、 但し、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」9条1項2号に規定する継続雇用制度の対象である者に対して支給したものを除くとされていますので、定年が65歳未満の会社で、65歳未満で定年退職した者を対象とする継続雇用制度を採用している会社の場合、定年以降の継続雇用制度の対象者に支給した金額は控除しなければなりません(この対象者の定年後の給与額は、 通常引下げられることとなり会社にとって不利とならない配慮により含めない処置となっています)。
給与等の範囲給料、 賃金、 賞与等で賃金台帳に記載された支給額(非課税とされる通勤手当等の額も含む)のみを対象としますが、 合理的な方法により継続して給与等の支給額を計算している場合には、 これも認められます。 退職金等は対象外です。
雇用者給与等支給額適用年度(当期)の損金算入される国内雇用者に対する給与等支給額。 なお、 控除すべきものとして、 国等から支給を受けた助成金や出向先法人から受けた出向者分の給与負担金受給額、 等は控除します。
なお、 出向先法人では、 その賃金台帳に出向者を記載している時には、 その給与負担金は含まれます。
基準雇用者給与等支給額・基準年度平成25年4月1日以後の開始事業年度のうち、 最も古い事業年度の前年度が基準事業年度となり、 その基準年度における損金算入される国内雇用者に対する給与等の支給額。
従いまして、 基準事業年度の例示として、 事業年度末が3月末の場合には、 基準事業年度は平成25年3月31日終了事業年度となり、 9月末の場合には、 平成25年9月30日終了事業年度、 2月末の場合には、 平成26年2月28日終了事業年度となります(つまり、 3月末事業年度以外の場合には、 平成25年4月1日を含む事業年度ということ)。
雇用者給与等支給増加額雇用者給与等支給額 - 基準雇用者給与等支給額 = 雇用者給与等支給増加額
比較雇用者給与等支給額適用前年度(前期)の損金算入される国内雇用者に対する給与等支給額
継続雇用者平均給与等支給額当期の適用年度における損金算入される国内の継続雇用者に対する給与等支給額 ÷ 適用年度における給与等月別継続雇用対象者の人数の述べ人数・合計数) = 継続雇用者平均給与等支給額
対象となる継続雇用者とは、 適用年度及び前年度において給与等の支給を受けた国内雇用者に対する給与等のうち、 雇用保険法の一般被保険者に対する給与等をいう。 従って、 前期の退職者、 当期の新規雇用者、 継続雇用制度に基づき雇用されている高年齢再雇用者を除きますが、 一定の週20時間以上のパート・アルバイトで一般被保険者は含まれます。
継続雇用者比較平均給与等支給額(前期の適用前年度における損金算入される国内の継続雇用者に対する給与等支給額) ÷ 適用年度における給与等月別継続雇用対象者の人数の述べ人数・合計数) = 継続雇用者比較平均給与等支給額
税額控除額・限度額大企業の場合:
雇用者給与等支給増加額 X 10% + (①又は②のいずれかの金額)X 2%
① 雇用者給与等支給増加額 ≧(雇用者給与等支給額 - 比較雇用者給与等支給額)ならば、雇用者給与等支給額 - 比較雇用者給与等支給額の金額
② 雇用者給与等支給増加額 <(雇用者給与等支給額 - 比較雇用者給与等支給額)ならば、雇用者給与等支給増加額の金額
中小企業の場合:
比較平均給与等増加割合が2%以上の場合には、控除税額が増額となります。
雇用者給与等支給増加額 X 10% + (①又は②のいずれかの金額)X 12%
① 雇用者給与等支給増加額 ≧(雇用者給与等支給額 - 比較雇用者給与等支給額)ならば、雇用者給与等支給額 - 比較雇用者給与等支給額の金額
② 雇用者給与等支給増加額 <(雇用者給与等支給額 - 比較雇用者給与等支給額)ならば、雇用者給与等支給増加額の金額

税額控除限度額 = 当期法人税額 X 10%又は20%以内
(但し、 控除限度額は、 大会社等については当期法人税額の10%、 中小企業者等については当期法人税額の20%)
中小企業者等中小企業者等とは、青色申告法人のうち、中小企業者又は農業協同組合等をいいます。
中小企業者とは、次に掲げる法人をいいます。
① 資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人
 ただし、同一の大規模法人(資本金の額若しくは出資金の額が1億円を超える法人又は資本若しくは出資を有しない法人のうち常時使用する従業員の数が1,000人を超える法人をいい、中小企業投資育成株式会社を除きます) に発行済株式又は出資の総数又は総額の2分の1以上を所有されている法人、 及び2以上の大規模法人に発行済株式又は出資の総数又は総額の3分の2以上を所有されている法人を除きます。
② 資本又は出資を有しない法人のうち常時使用する従業員の数が1,000人以下の法人
役員の特殊関係者役員の特殊関係者とは、次に掲げる者をいいます。
① 役員の親族 (配偶者、6親等以内の血族、及び3親等以内の姻族)
② 役員と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者
③ 上記以外の者で役員から生計の支援を受けているもの
④ 上記の者と生計を一にするこれらの者の親族
その他、 他の税額控除適用との関係3つの適用要件が以下のように異なりまので、 国内雇用者に対する雇用者給与等支給額があれば、 必ず適用要件を全て満たすことになります。
(1) 当期の雇用者給与等支給増加額 (雇用者給与等支給額 - 基準雇用者給与等支給額) ÷ 基準雇用者給与等支給額 ≧ 5%に関して
 雇用者給与等支給額 X 30% ≧ 雇用者給与等支給額 X 3.5%(70% X 5%)
(2) 当期の雇用者給与等支給額 ≧ 前期の雇用者給与等支給額に関して
 雇用者給与等支給額 ≧ 0
(3) 当期の継続雇用者平均給与等支給額 > 前期の継続雇用者平均給与等支給額に関して
 1/1> 0/1
平成25年4月1日以後に設立された法人の場合には、 通常の基準年度がありませんが、 設立事業年度において雇用者に給与等を支給している場合には、 その設立事業年度における雇用者平均給与等支給額の70%相当額が基準雇用者給与等支給額として必ず本制度を適用することができますが、平成29年4月1日以後平成30年3月31日の間で開始する事業年度までに設立した法人は、以下の表1になります。
継続雇用者給与等支給額がゼロの場合の平均給与等支給額の計算① 当期の平均給与等支給額の計算
分子の額(継続雇用者給与等支給額): 1円とする
分母の数(継続雇用者給与等支給額に係る給与等支給数): 1とする
② 前期の平均給与等支給額の計算
分母の数(継続雇用者給与等支給額に係る給与等支給数): 1とする
継続雇用者給与等支給額がゼロの場合であっても、平均給与等支給額の要件は必ず満たされることになる。

表1
基準雇用者給与等支給額
=雇用者給与等支給額X70%
要件満たす 
比較雇用者給与等支給額 = 0要件満たす
平均給与等支給額 = 1/1大企業比較雇用者給与等増加割合が2%以上の要件を満たせず。
税額控除の不適用となる。
比較平均給与等支給額 = 0/1中小企業上乗せの比較平均給与等増加割合が2%以上の要件を満たせず。
12%の上乗せの税額控除のみ不適用となる。

雇用者給与等支給増加割合の要件の開始事業年度別推移:
 平成26年度
平成27年度

平成28年度
平成29年度(注1)

中小企業者等

2%3%
3%
3%
大法人2%3%4%
5%
注1:平成29年度とは、平成29年4月1日~平成30年3月31日の間で開始する事業年度で適用。

2.所得拡大促進税制の改組(大企業):平成30年4月1日以降開始事業年度より
平成30年度税制改正により、大企業において、十分な賃上げや国内設備投資を行った場合には、賃上げ金額の一定割合の税額控除ができることになります。又、更に人材投資を増加させた企業に対しては、税額控除割合が上乗せとなります。なお、これまでの基準事業年度、継続雇用者の定義及び適用要件が変わった点に留意する必要があります。

対象法人・対象期間青色申告の大法人で、平成30年4月1日~平成33年3月31日までの期間に開始する各事業年度
但し、設立初年度は対象外
適用3要件①賃金要件:
(イ) 雇用者給与等支給額 > 比較雇用者給与等支給額
(ロ)(継続雇用者給与等支給額 - 継続雇用者比較給与等支給額)÷ 継続雇用者比較給与等支給額 ≧ 賃上げ率3%
②投資要件:
(ハ) 国内設備投資額 ≧ 減価償却費総額 X 90%
上乗せ要件
(適用4要件)
③教育費要件:
(ニ) (教育訓練費 - 比較教育訓練費)÷ 比較教育訓練 ≧ 
20%
継続雇用給与等支給額及び継続雇用比較給与等支給額の範囲継続雇用者とは、当期(継続雇用給与等支給額)及び前期(継続雇用比較給与等支給額)の全期間の各月において給与等の支給を受けた国内雇用者として一定の雇用者であること(雇用保険法の一般被保険者に該当する者に限られ、前期に中途入社した者、当期に退職した者、継続雇用制度対象者は含まれません)。
当継続雇用者がいない場合には、①の適用要件を満たさない
国内設備投資額とは国内で当期中取得の減価償却資産で当期末に有する取得価額の合計額をいう
減価償却費総額とは全減価償却資産の損金経理した減価償却費の総額(過年度分の減価償却超過額の当期認容額を除き、特別償却準備金の積立額を含む)をいう
税額控除額イ:適用3要件
給与等支給額増加額(雇用者給与等支給額 - 比較雇用者給与等支給額)X 15% = 税額控除額
ロ:適用4要件
なお、更に、上記適用3要件以外に教育訓練要件を満たせば、
(教育訓練費 - 比較教育訓練費)÷ 比較教育訓練 ≧ 
20%の場合の税額控除額は;
給与等支給額増加額 X 20% = 税額控除額
教育訓練とは
国内雇用者の職務に必要な技術又は知識を取得させ、又は向上させる次の費用(外部支払)をいう。
①法人が教育訓練等を自ら行う場合の社外講師謝金等の費用
②他の者に委託して教育訓練等を行わせる場合のその委託費
③他の者が行う教育訓練等に参加させる場合のその参加に要する費用(授業料、受講料、受験手数料、等)
比較教育訓練費とは
前期及び前々の教育訓練費の年平均額をいう
税額控除額の上限
税額控除の上限は、法人税額の20%

3.所得拡大促進税制の改組(中小企業):平成30年4月1日以降開始事業年度より
平成30年度税制改正により、中小企業において、十分な賃上げを行った場合には、賃上げ金額の一定割合の税額控除ができることになります。又、更に人材投資を増加させた企業に対しては、税額控除割合が上乗せとなります。なお、大企業と同様に適用要件等が変更になっています。

対象法人・対象期間青色申告の中小企業者等で、平成30年4月1日~平成33年3月31日までの期間に開始する各事業年度
但し、設立初年度は対象外
適用2要件と税額控除額①賃金要件:
(イ) 雇用者給与等支給額 > 比較雇用者給与等支給額
(ロ)(継続雇用者給与等支給額 - 継続雇用者比較給与等支給額)÷ 継続雇用者比較給与等支給額 ≧ 賃上げ率1.5%

税額控除額:給与等支給額増加額(雇用者給与等支給額 - 比較雇用者給与等支給額)X 15% = 税額控除額
上乗せ要件
(適用3要件)と税額控除額
要件:
(ロ)(継続雇用者給与等支給額 - 継続雇用者比較給与等支給額)÷ 継続雇用者比較給与等支給額 ≧ 賃上げ率2.5%
(ハ) 次のいずれかの要件を満たす場合
Ⅰ 教育費要件:
(教育訓練費 - 前期教育訓練費<中小企業比較教育訓練費>)÷ 前期教育訓練費 ≧ 10%の場合、又は
Ⅱ その事業年度終了日までに中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定を受け、その計画に従って経営力向上が確実に行われたものとして証明がされた場合

税額控除額:給与等支給額増加額(雇用者給与等支給額 - 比較雇用者給与等支給額)X 25% = 税額控除額
継続雇用給与等支給額及び継続雇用比較給与等支給額の範囲継続雇用者とは、当期(継続雇用給与等支給額)及び前期(継続雇用比較給与等支給額)の全期間の各月において給与等の支給を受けた国内雇用者として一定の雇用者であること(雇用保険法の一般被保険者に該当する者に限られ、前期に中途入社した者、当期に退職した者、継続雇用制度対象者は含まれません)。
当継続雇用者がいない場合には、①の適用要件を満たさない
教育訓練とは国内雇用者の職務に必要な技術又は知識を取得させ、又は向上させる一定の費用(外部支払)をいう
中小企業比較教育訓練費とは
当期開始前の前1年以内に開始した各事業年度の教育訓練費の年平均額(前期の教育訓練)をいう
税額控除額の上限
税額控除の上限は、法人税額の20%

2018年5月31日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant