新消費税法は、 社会保障支出の財源確保を目的として消費税率のアップとなっています。
引上時期(施行日) | 消費税 | 地方消費税 | 合計 |
---|---|---|---|
2014(平成26)年4月1日より | 6.3% | 1.7%(消費税の63分の17) | 8% |
2019(令和元)年10月1日より | 7.8% | 2.2%(消費税の78分の22) | 10% |
注: 消費税率10%への引上時期は、 2019(令和元)年10月1日になっています。
上記のように消費税率は、2019(令和元)年10月1日より8%から10%へ引き上げられることになっていますが、 その施行日(適用日)後でも一定の課税対象に対して、新たな 軽減税率制度の適用以外に経過措置(施行日後でも旧消費税率の適用等)が規定させています。 当経過措置に関する政令やQ&A等が公表されていますので、 それらの概要を含めて以下で紹介します。
改正法附則に別段の定めがあるものを除き、 施行日(令和元年10月1日)以後に国内において事業者が行う資産の譲渡等及び課税仕入、 並びに保税地域から引取られる課税貨物に係る消費税率は新税率10%の適用となります。 従って、施行日の前日(令和元年9月30日)までに締結した契約に基づき行なわれる資産の譲渡等及び課税仕入等であっても、 施行日以後に行なわれるものは、 経過措置が適用される場合を除き、 消費税率は新税率10%の適用となります。 又、 同様に、 施行日の前日(令和元年9月30日)までに仕入れた商品(旧消費税率8%の適用)を施行日以後に販売する場合にも、 その販売に係る消費税率は新税率の適用となります。
なお、 別段の定めとなる経過措置における消費税率は、 事業者の選択(任意)ではなく、 経過措置の適用要件を満たす場合には必ず旧税率を適用しなければなりません(強制適用)。 又、 取引双方の合意があっても任意に適用する消費税率を決められるものでもありません。
資産譲渡等における消費税の課税時期は、
①物の引渡しを要するものにあってはその目的物の全部を完成して引渡した日。
②物の引渡しを要しないものにあってはその約した役務提供の全部を完了し引渡した日。
③資産の貸付けについては前受けに係るものを除き使用料等の支払を受けるべき日を原則としています。
(1) 施行日を跨ぐ資産の譲渡等
① 事業者間で収益・費用の計上基準が異なる場合
例えば、 商品の売上・仕入において事業者間で出荷基準・検収基準という異なる計上基準を採用していた場合でも、 課税資産の譲渡等の認識時点は異なることはありませんので、 施行日前の譲渡であれば双方とも譲渡日の旧消費税率の適用となります。
② 月ごとに役務提供が完了する保守サービスの適用税率
月払いの保守サービスのような役務提供契約の場合には、 その契約上の月ごとに役務提供が完了することになりますので、 その完了時点の消費税率が適用となります。
③ 保守料金を前受けする保守サービスの適用税率
1年分の事務機器等の保守サービス料金が月額で定められてものを受領した場合には、 上記②と同様に課税資産の譲渡等の認識時点は、 その契約上の月ごとに役務提供が完了することになりますので、 その完了時点の消費税率が適用となります。
なお、 保守サービス料金が月額で定められていなく1年分を受領した場合には、 その1年後に役務提供契約が完了することになりますので、 その完了時点の消費税率が適用となります。
施行日前後の返品の取扱い:
施行日前の商品販売のものが施行日後に返品されてきた場合には、 原則として、 その販売時に適用された旧税率により売上に係る対価の返還等の処理を行うことになります。 なお、 合理的な方法により継続して返品等を処理している場合には、 その方法も認められますが、 取引の相手方に適用税率を明記してあげることが必要です。
同様に貸倒れ、 減額等があった場合にも、 同様な取扱い(当初の税率が適用)となります。
以下は、 主な経過措置の対象項目(旧消費税率8%が適用となる項目)とその内容です。
(A) 旅客運賃等に関する経過措置(施行日を跨ぐ取引等)
(B) 水道光熱費等の特定継続供給等に関する経過措置(施行日を跨ぐ取引等)
(C) 請負工事等に関する経過措置(指定日を基準)
(D) 資産の貸付けに関する経過措置(指定日を基準)
(E) 指定役務提供に関する経過措置(指定日を基準)
(F) 予約販売に係る書籍等に関する経過措置(指定日を基準)
(G) 通信販売等に関する経過措置(指定日を基準)
(H) 特定新聞に関する経過措置(施行日を跨ぐ取引等)
(I) 有料老人ホームの一時金に関する経過措置(指定日を基準)
(J) 長期割賦販売等に関する資産譲渡等の時期の特例を受ける経過措置
(K) 長期大規模工事等に関する資産譲渡等の時期の特例を受ける経過措置
(L) リース取引等に関する資産譲渡等の時期の特例を受ける経過措置
(M) 家電リサイクル料金に関する経過措置(施行日を跨ぐ取引等)
(A) 旅客運賃等に関する経過措置
事業者が、 旅客運賃、 映画等の入場料その他不特定多数の者に対する譲渡に係る対価で政令で定めるものを施行日前に領収している(一定の前売り券等)場合には、 その課税資産の譲渡等が施行日以後の場合、 改正前の旧消費税率が適用されます。
政令で定める取引とは:
汽車、 電車、 乗合自動車、 船舶又は航空機に係る旅客運賃・料金 |
映画、 演劇、 演芸、 音楽、 スポーツ又は見せ物を不特定かつ多数の者の見せ、 又は聴かせる場所への入場料金 |
競馬場、 競輪場、 小型自動車競走場又はモーターボート競走場への入場料金 |
美術館、 遊園地、 動物園、 博覧会の会場その他不特定かつ多数の者が入場する施設又は場所でこれらに類するものへの入場料金 |
(1) チケットレスサービスにより乗車券等が発行されていない場合
乗車券等の発行の有無は問いませんので、あくまでも施行日前の領収であれば経過措置の適用となります。
(2) ICカードチャージによる乗車券
ICカードチャージ(入金)された時点では、 乗車券等の販売にはなりませんので乗車券等を購入した時点が施行日後であれば経過措置の適用はありません。
なお、 施行日前に販売した定期乗車券等は経過措置の適用となります。
(3) ディナーショーの料金
ディナーショーは、 見せ物を不特定かつ多数の者に見せ、 又は聴かせる場所への入場料金に該当しますので、 経過措置の適用はあります。 なお、 ディナークルーズと称して、 飲食の提供を主目的とするものである場合には経過措置の適用はありません。
(B) 水道光熱費等の特定継続供給等に関する経過措置
事業者が、 継続供給・提供の契約に基づく電気、 ガス、 水道水及び電気通信役務に関して、 施行日前から継続供給・提供しているもの、 その他政令で定める課税資産の譲渡等を施行日から令和元年10月31日までの間に料金の支払が確定するものは、 改正前の旧消費税率が適用されます。 なお、 令和元年10月31日以後に権利が確定する一定のものについては、 政令で定められました。 計量器を定期的に検針することにより、 一定期間の使用量を確認して料金が確定されるような電気供給、 ガス供給、灯油の供給、 水道水等供給・下水道使用、 電気通信役務提供、 熱供給及び温泉供給が対象ですので、 電気通信役務でも提供に係る料金が月毎に定額で定められているものは除かれます。
なお、 令和元年10月31日以後に初めて料金の支払を受ける権利が確定するものであっては(検針期間の間隔が複数月となる場合(例えば、 水道水の検針は通常2ケ月に1回ということの場合等)には)、 確定金額を当該期間月数で除し、 前回検針日から令和元年10月31日までの期間月数を乗じて按分計算することになります(月数計算では1月未満は1月として計算)。
(1) 継続的に供給等することを約する契約の意義
継続供給・提供の契約とは、 対象となる取引を不特定多数の者に対して継続して行うために定められた条件により、 長期的かつ継続的に供給・提供することを約する契約のものをいいます。 これには、 プロパンガスの供給契約でボンベに取り付けられた内容量メーターにより使用量を把握し料金が確定されるものも含まれます。
(2) 料金支払を受ける権利の確定の意義
料金支払を受ける権利が確定するものとは、 使用量を計量器等で定期的に検針その他これに類する行為で確認する方法により、 一定期間における使用量を把握し料金が確定するものをいいます。
(3) 携帯電話の料金
基本料、 付加機能使用料、 及び通話料等を一括して利用者に請求する料金は、 一定期間の通話量に応じて支払が確定しますので経過措置の適用対象です。
なお、 インターネット通信料金等の月々定額料金となっているものは経過措置の適用はありません(料金が一定期間の使用量に応じて変動しないものは適用外となります)。 但し、 料金設定が多段階定額制となっている場合には経過措置の適用対象となります。
(C) 請負工事等に関する経過措置
事業者が、 平成25年10月1日(前回引上げ時の指定日)から平成31年4月1日(「指定日」といいます)の前日(平成31年3月31日)までの間に締結した工事・製造の請負に係る契約(これに類する政令で定める契約を含む)に基づき、 施行日以後に課税資産の譲渡等を行う場合、 改正前の旧消費税率が適用されます(但し、 指定日以後に対価が増額された場合には、 増額前の部分に限ります)。
なお、 この経過措置を提供する場合には、 書面(請求書等)での通知が必要となります。
(1) 工事請負等の係る契約の範囲
(イ) 工事の請負に係る契約
工事の完成を約し、 かつ、 それに対する対価を支払うことを約する契約。
(ロ) 製造の請負に係る契約
製造に係る目的物の完成を約し、 かつ、 それに対する対価を支払うことを約する契約。
なお、 製造製品であっても、 見込み生産によるものはこの契約には含まれません。
(ハ) これらに類する契約
「請負契約に類する政令で定める契約」については、 「測量、 地質調査、 工事の施工に関する調査、 企画、 立案及び監理並びに設計、 映画の制作、 ソフトウエアの開発その他の請負に係る契約(委任その他の請負に類する契約を含む)で、 ①仕事の完成に長期間を要し、 かつ、 ②当該仕事の目的物の引渡しが一括して行なわれることとされているもののうち③当該契約に係る仕事の内容につき相手方の注文が付されているもの」とされています。
この「注文が付されているもの」には、 「建物の譲渡に係る契約で、 当該建物の内装若しくは外装又は設備の設置若しくは構造についての当該建物の譲渡を受ける者の注文に応じて建築される建物に係るものを含む」とされています。 この注文の有りの内容は、 契約書・ 申込書等で明らかにしておく必要があります。
政令では、 「その他の請負に係る契約(委任その他の請負に類する契約を含む)」としてかなり広い範囲を対象にしており、 通達等では以下のように説明されています。
①その他の請負に係る契約 | 例えば、 修繕や運送、 保管、 印刷、 広告、 仲介、 技術援助、 情報の提供に係る契約、 等 |
②委任その他の請負に類する契約 | 例えば、 検査、 検定等の事務処理の委託に関する契約、 市場調査その他の調査に係る契約、 等 |
③仕事の完成に長期間を要するもの | 上記の①と②のような契約においては、 仕事の完成に長期間を要することが通例であるがゆえの規定ですが、 実際に長期間を要するかは問いません |
④仕事の目的物の引渡しが一括して行なわれるもの | 運送、 設計、 測量など、 目的物の引渡しを要しない請負等の契約では、 約した役務の全部の完了が一括して行なわれたとする要件を満たします。 なお、 月極めの警備保障又はメンテナンス契約のように期間極めの契約の場合には、 約した役務の全部の完了が一括して行なわれたものにはなりませんので要件は満たしません。 次の(イ)、(ロ)のような場合には、 目的物の引渡しが部分的でも一括して行なわれたとする要件を満たすことになります。 (イ) 一の契約により同種の建設工事等を多量に請け負ったような場合で、 その引渡量に応じて工事代金等を収入する旨の特約又は慣習がある場合 (ロ) 一の建設工事等であっても、 その建設工事等の一部が完成し、 その完成した部分を引き渡した都度その割合に応じて工事代金等を収入する旨の特約又は慣習がある場合 |
⑤相手方の注文が付されている契約とは | (イ) 目的物の仕様や規格に相手方の指示が付されている契約 (ロ) 目的物の原材料を相手方が支給することとされている契約 (ハ) 修理又は加工等を目的とする請負等の契約 例えば、 船舶、 車両、 機械、 家具等の制作、 洋服等の仕立て、 広告宣伝用資産の制作、 建物・機械の修繕など修理や加工等を目的とする請負契約ですが、 注文の内容、 注文に係る規模の程度及び対価金額の多寡は問いません。 注文が付されていることを明らかにする方法として、 契約書、 申込書等で明らかにします。 建物の購入者の注文を全く付すことが出来ない青田売りマンションには、 経過措置が適用されません。 なお、 注文を付すことができる青田売りマンションで、 購入者が標準仕様(モデルルーム)を購入された場合、 標準仕様という注文を付したものとして経過措置が適用されます。 青田売りマンションでも、 壁の色やドアの形状等について特別の注文が付すことができるものは、 指定日の前日までに譲渡契約を締結していれば経過措置の適用があります。 |
(2) 契約書等のない工事
契約書その他の書類を作成しているかどうかは、 この経過措置の適用要件ではありませんが、 契約の締結時期や工事内容が経過措置の適用要件を満たしていることを明らかにするためには作成しておくことが必要となります。
(3) 工事請負の着手日
指定日の前日までに工事の請負契約が締結されていることが適用要件であり、 工事着手日の規制はありません。
(4) 仮契約による契約日の判定
正式な仮契約は、 一種の停止条件付請負契約と考えられこの種の契約も経過措置の対象となります。
(5) 工事の対価等に増額があった場合
工事請負契約に係る対価が指定日以後に増額された場合には、 増額前の部分が経過措置の対象となりますが、 その増額された対価の部分については、 その増額が目的物の引渡し以前に確定した場合にはその引渡しを含む課税期間、 引渡し後に確定した場合にはその確定した日を含む課税期間における消費税の課税基準額に算入することになります。 なお、 ソフトウエアの開発のように、 その役務の提供の性質上、 開発レベル若しくはステップ単位の対価(単価)は定めるが、 その目的物全体の対価の額を定めなかったときに、 その単価の額に増額があったときには、 その増額された部分の金額にその目的物に係る役務の提供量を乗じて計算した金額について新税率の適用となります。
(6) 経過措置適用工事に係る請負金額に増減があった場合
(イ) 最終の請負金額が当初契約の請負金額より少ない場合: 最終の請負金額の全額が経過措置の対象となります。
(ロ) 最終の請負金額が当初契約の請負金額より多い場合: 当初契約の請負金額を超える部分については、 経過措置が適用されません(超過部分には新税率が適用)。
(7) 経過措置の適用を受ける工事のための課税仕入
新消費税率は、 経過措置が適用される場合を除き、 施行日以後に行なわれる資産の譲渡等及び課税仕入等について適用となります。 従って、 経過措置の適用を受ける工事に要する課税仕入であっても、 それ仕入が経過措置の適用を受けるものでない限り、 新消費税率が適用となります。
(8) 取引の合意日と契約書交付日が異なる場合
契約書交付日(作成日)が平成31年4月1日以後であったが、 当事者間での合意日が同年の3月31日以前の場合には、 合意日の日付で判定して差支えないものと考えられています。 これは、 民法での契約の成立時点とは申込と承諾が合致した時(当事者間で合意のあった日)とされているからです。 その場合には、合意内容及び合意日を客観的に説明できる書類・資料(覚書、 確認書、 稟議書、 等)が必要となります。 前述しましたように、 契約書その他の書類を作成しているかどうかは、 この経過措置の適用要件ではありませんがその適用要件を満たしていることを示す何らかの書類・資料は必要となることは言うまでもありません。
(9) 経過措置の適用となる工事の下請業者への発注
経過措置の適用対象となる建設工事を下請業者に発注した場合でも、 下請業者との契約の締結時期や工事内容が要件を満たしているか否かで取引ごとに経過措置の適用有無が判断されることになります。
(10) 中間金に係る適用消費税率
請負工事に係る中間金は、 部分引渡等の所定の条件外のものでは前受金と同様に受領時点では法人税法上益金の額に算入しないとともに、 消費税法上も資産の譲渡等の対価として認識されません。 そのため、 中間金(前受金)を振替える日、 即ち、 資産の引渡日に収益認識及び資産の譲渡等の認識をされることから、 同日時点での対応する消費税率が適用となります。 経過措置の適用があるものは旧消費税率、 経過措置の適用外のものは新消費税率の適当となります。
(11) 請負工事の資産の引渡しが遅れた場合
建設工事の引渡予定日が施行日前のものが完成遅れでその引渡しが施行日後になった場合、 引渡時点での消費税率が適用となります。 従って、 経過措置の適用対象工事であるものは旧消費税率、 経過措置の適用外のものは新消費税率の適当となります。
(12) 未成工事支出金(建設仮勘定も含む)の取扱い
原則は、 課税仕入等をした日(材料費等については引渡しを受けた日、 外注費については作業が完了した日、 等)の属する課税期間において仕入税額控除をおこないます。 但し、 未成工事支出金として資産計上する経理処理した課税仕入等については、 継続適用を条件として、 その工事の目的物の引渡した日に属する課税期間の課税仕入等とすることが認められています。 その場合であっても、 課税仕入ごとに、 それぞれ課税仕入をおこなった日において適用されるべき消費税率により控除対象仕入税額を計算しなければなりません。
(D) 資産の貸付けに関する経過措置
事業者が、 平成25年10月1日から指定日の前日(平成31年3月31日)までの間に締結した資産の貸付けに係る契約に基づき、 令和元年10月1日前から同日以後引続きその契約に係る資産の貸付けを行なっている場合で、 契約の内容が次の①及び②又は①及び③の要件に該当するときには、 令和元年10月1日以後の資産の貸付けに係る消費税率は、 改正前の旧消費税率が適用されます。 但し、 指定日以後に対価の額に変更があった場合、 変更後の資産の貸付けについては、 改正後の新消費税率が適用されることになります。
① 貸付期間とその間の対価の額が定められていること
② 事情の変更等で対価の額の変更を求めることができる旨の定めがないこと
③ 契約期間中にいつでも解約の申入れをすることができる旨の定めがないこと、 並びに当該貸付けに係る資産の取得に要した費用の額及び付随費用の額(利子又は保険料の額を含む)の合計額のうちに、 当該契約期間中に支払われる資産の貸付けの対価の額の合計額の占める割合が90%以上であるように契約で定められていることとされています。
①及び②に該当するのは通常の賃貸借契約、①及び③に該当するのが、 いわゆる平成20年3月31日以前に契約を締結した所有権移転外ファイナンス・リース取引のリース契約ということになります(平成20年4月1日以後に契約を締結した所有権移転外ファイナンス・リース取引は、 売買(資産の譲渡)として「引渡基準」で取扱われるためにこの資産の貸付に係る経過措置が適用されません。 又、 売買とされる所有権移転外ファイナンス・リース取引で、 リース料の増額又は減額された場合においてもその資産の引渡時の消費税率が適用となります(例え、 通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理でも、 当該リース資産の引渡時の消費税率が適用)。 同様に、 中途解約となり賃借人から支払われる残存リース料は、 リース資産の引渡時における消費税率が適用となります。
「所有権移転外リース取引」とは、 リース取引(①その賃貸借に係る契約が、 その期間中に解除することができないものであること、 ②賃借人がリース資産からの経済的利益を実質的に授受することができ、 かつ、 関連費用も実質的に負担すべきこととされているものであること)のうち、 次のいずれかに該当するもの及びこられに準ずるもの(準ずるものとして、 リース終了後、 無償と変わらない名目的な再リース料で再リースされることが契約で定められているケース)以外のものとされています。
* リース取引契約無償又は名目的な対価でリース資産が賃借人に譲渡されるものであること
* 賃借人に著しく有利な価額で買い取る権利が与えられているものであること
* その使用可能期間中、 賃借人によってのみ使用されると見込まれるものであること、 又はその目的資産の識別が困難であると認められるものであること
* リース期間がその目的資産の耐用年数に比して相当短いものであること
なお、 この経過措置が適用される場合には、 書面(請求書等にその旨を表示)での通知が必要となります。
(1) 自動継続契約条項のある賃貸借契約
自動継続契約条項があり経過措置が適用中にその解約申出期限を経過して自動更新された場合には、 自動更新から新規のものとして経過措置が適用されません。 一方、 施行日(平成31年10月1日)以前に解約申出期限を経過して自動更新された場合には、 解約申出期限を経過した時に新たな契約の締結の合意とみなされ、 施行日から経過措置の適用はなく新消費税率が適用されることになります。
(2) 貸付期間中の解約条項がある場合
上記③の要件を満たしませんが、 ①と②を満たせば経過措置の適用となります。
(3) 対価の額が定められていることの意義
契約において、 当該契約中の対価の総額が具体的な金額により定められている場合、 又は総額が計算できる具体的な方法が定められている場合をいいます。 しかし、 次のものは該当しない例です。
① 定額料金XX円に売上金額のXX%相当額を加算した金額とする場合
② その年の固定資産税のXX倍とする場合
なお、 貸付期間中に賃借料の変更金額があらかじめ契約で定められている場合には、 「対価の額が定められていること」に該当します。
(4) 一定期間賃貸料の変更が行えない定めがある場合
2年間は賃貸料の変更はできないという定めがある場合には、 その2年間は「対価の額の変更を求めることができる旨の定めがないこと」の要件を満たします。 なお、 消費税率の改正があったときには改正後の税率によるという定めは、 「事情の変更等で対価の額の変更を求めることができる旨の定め」には該当しないことになっていますが、 指定日以後に賃貸料を変更した場合には、 変更後の資産の貸付けについては経過措置の対象となりません。
(5) 正当な理由による対価の増減
諸般の事情により当該対価の額が変更(増加又は減額)された場合には、 新たな貸付契約が締結されたものとして変更後は対価の額の全額について経過措置の対象としません。 なお、 賃貸人が修繕義務を履行しない等の正当な理由がある場合には、 この経過措置の不適用の対象とはなりません。
物価変動、 租税公課等の増減を理由とする対価の額の変更は、 正当な理由には該当しません。 殆どの不動産に対する賃貸借契約には、 この様な条項が入っていると思われますので、 この経過措置の対象にはなりません。
(6) 転貸の取扱い
事業者が他の者から資産を借り受け、 当該資産の貸付け(転貸)を行う場合には、 当該転貸を行う者が貸付け資産を取得したものではないことから、 ①及び③の要件を満たしませんので経過措置の対象となりません。 しかしながら、 ①及び②の要件を満たせば経過措置の対象となります。
(7) 施行日を跨ぐ賃貸借契約(不動賃賃貸の貸借料)に係る適用税率
経過措置の対象とならない賃貸借契約で、 令和元年10月分を9月末までに受領した場合には、 令和元年10月分の賃料であり施行日後の資産貸付の対価として新消費税率の適用となります。 逆に、 令和元年9月分を10月1日以降に受領した場合には、 令和元年9月分の賃料であり施行日前の資産貸付の対価として旧消費税率の適用となります。
(8) 短期前払費用処理の取扱い(経過措置の適用とならない場合)
ご存知のように、 毎払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち事業年度終了時までに未だ提供を受けていない役務に対応する費用)の額で、 支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものについて、 継続して支出した事業年度に損金算入している場合には、 その現金主義による処理が認められています。 この短期前払費用処理に伴い、 その役務提供期間が施行日を跨ぐ(旧消費税率と新消費税率の適用がある)ケースでの、 仕入税額控除の処理には、 ①一括処理(仕入対価返還処理)と②前払部分に係る消費税額を翌期に繰延べる仮払金処理も認められます。 短期前払費用処理で留意すべき点は、 課税仕入れ時期は支払時点が認められますが、 その適用の消費税率はあくまでも、 その役務提供時の適用税率となります。 例えば、 9月分までの賃借料は8%の旧消費税率であり、 10月分以後の賃借料は10%の新消費税率で処理しなければなりません。
事務所の賃借料(税抜で月額10,000円と定められている場合)を例示として、
事業年度: 9月30日
賃借期間: 2019年8月1日~2020年7月31日
賃借料: 2019年8月1日~2019年9月30日の期間: 20,000円(プラス消費税8% 1,600円)
2019年10月1日~2020年7月31日の期間: 100,000円(プラス消費税10% 10,000円)
契約日・支払日: 2019年7月31日 131,600円現金払い
短期前払費用経理処理 | 2019年9月末事業年度 | 2020年9月末事業年度 |
---|---|---|
①一括処理(仕入対価返還処理) | 借) 賃借料 121,852 仮払消費税 9,748 貸)現金 131,600 | 借) 賃借料 100,000 仮払消費税10,000 貸)賃借料 101,852 仮払消費税 8,148 |
②繰延処理: 仮払金処理 | 借) 賃借料 120,000 仮払消費税 1,600 仮払金 10,000 貸)現金 131,600 | 借) 仮払消費税 10,000 貸)仮払金 10,000 |
なお、 短期前払費用適用後に税率差2%相当額の追加請求・支払があった場合には、 仕入対価の返還として処理することが認められます。
事務所の賃借料を例示として、
事業年度: 9月30日
賃借期間: 2019年8月1日~2020年7月31日
賃借料: 2019年8月1日~2020年7月31日の期間: 120,000円(プラス消費税8% 9,600円)
2019年10月1日~2020年7月31日の期間対応の税率差2%分2,000円の追加支払
契約日・支払日: 2019年7月31日 129,600円現金払い
2019年10月1日 2,000円現金払い
2019年7月31日仕訳:
借) 賃借料 120,000 貸) 現金 129,600
仮払消費税 9,600
2019年10月1日仕訳:
借) 仮払金 2,000 貸) 現金 2,000
2020年9月30日決算時仕訳:
借) 賃借料 100,000 貸) 賃借料 100,000
仮払消費税 10,000 仮払消費税 8,000 (消費税率8%)
(消費税率10%) 仮払金 2,000
上記の例示の様に賃借料が月極めで1年間契約等が多いと思いますが、 月極めではない場合の適用税率とその支払時の仕訳は以下のようになります。
賃借期間: 2019年8月1日~2020年7月31日
賃貸料: 年間129,600円(税込み) 2019年8月1日支払い
① 原則処理
役務提供の完了時が2020年7月31日となりますので、 この時点の適用税率である10%が消費税率となります。
借) 賃借料 117,819 貸) 現金 129,600
仮払消費税 22,781
② 短期前払費用処理
特例として、 契約又は慣行により、 1年分の対価を収受することとしており継続的に収受時に費用処理しているときは、 その経理処理が認められています。 この場合における役務提供の完了時が2019年8月1日となりますので、 この時点の適用税率である8%が消費税率となります。
借) 賃借料 120,000 貸) 現金 129,600
仮払消費税 9,600
(E) 指定役務提供に関する経過措置
事業者が、 平成25年10月1日から指定日の前日(平成31年3月31日)までの間に締結した役務の提供に係る契約で、 当該契約の性質上役務の提供時期をあらかじめ定めることができないものであって、 役務提供に先立って対価の全部又は一部が分割して支払われる契約として政令で定めるものに基づき、 令和元年10月1日以後その契約に係る役務提供を行う場合において、 更に契約の内容が次の①及び②の要件に該当するときには、 令和元年10月1日以後の役務提供に係る消費税率は、 改正前の旧消費税率が適用されます。 但し、 指定日以後に対価の額に変更があった場合、 改正後の新消費税率が適用されることになります。
① 役務提供の対価の額が定められていること
② 事情の変更等で対価の額の変更を求めることができる旨の定めがないこと
政令では、 割賦販売法に規定する前払式特定取引に係る契約で指定役務の提供に係るものとされており、 具体的には、 冠婚葬祭のための施設の提供や葬式のための祭壇の貸与、 その他便宜の提供等に係る役務の提供をいいます。
(F) 予約販売に係る書籍等に関する経過措置
事業者が、 指定日前(平成31年4月1日前)に締結した不特定かつ多数の者に対する定期継続供給契約に基づき譲渡する書籍その他の物品に係る対価の全部又は一部を施行日前(令和元年10月1日前)に領収している場合において、 その書籍等の譲渡を施行日(以令和元年10月1日)後に行うときは、 その領収した対価に係る部分の書籍等の譲渡については旧税率が適用されます。
なお、 「定期的に継続して供給する」とは、 週、 月、 年その他の一定の周期を単位とし、 概ね規則的に継続して供給することをいいます。
「定期継続供給契約」とは、 一定の種類のものを一定の代金で引続いて供給する契約が該当し、 書籍その他の物品には、 雑誌等の定期刊行物や百科事典等の書籍の他に食料品、 健康食品、 化粧品、 装花等も含まれます。 なお、 雑誌等のデジタル版は役務の提供に該当するものとして対象外となっています。
指定日前に締結した契約でも、 毎月物品を発送し、 発送の都度代金を決済する場合には、施行日(令和元年10月1日)以後に代金決済するものから経過措置の対象外となります。
* 軽減税率が適用される取引については、本経過措置の適用はありません。
(G) 通信販売等に関する経過措置
通信販売(不特定かつ多数の者に商品の内容、 販売価格その他の条件を提示し、 郵便、 電話その他の方法により売買契約の申込みを受けて当該提示した条件に従って行う商品の販売をいいますが、 予約販売契約のものを除く)の方法により商品を販売する事業者が、 指定日前(平成31年4月1日前)にその販売価格等の条件を提示し、 又は提示する準備を完了した場合において、 施行日前(令和元年10月1日前)に申込みを受け、 提示した条件に従って施行日(令和元年10月1日)以後に商品を販売(通信教育等の役務の提供も含む)するときは、 その商品の販売については旧税率が適用されます。
(1) 不特定かつ多数の者に販売条件を提示することの範囲
一般に、 新聞、 テレビ、 チラシ、 カタログ、 インターネット等の媒体を通じて購読者又は視聴者等に対して販売条件を提示することをいいます。 相当数で固定的でないことが対象であり、 訪問面談により販売条件を提示することは含まれません。
(2) 提示する準備を完了した場合の範囲
販売条件等を提示方法に応じ、 いつでも提示することができる状態にある場合をいいますが、 販売条件等を掲載したカタログ等の印刷物の作成を完了した場合等が該当します。
(3) 指定日前までに条件を提示したことの証明
客観的に説明できる状態であることが重要です。 例えば、 インターネット上で販売条件を提示している場合、 指定日前(平成31年3月31日)までに提示した内容を書類等で残す等の事後的に確認できるように証跡を残しておく必要があります。 当然の事ながら、 提示した販売条件が指定日以降に変更された場合には、 経過措置の対象外となります。
(4) 経過措置の対象となる商品について新税率を適用して請求した場合
結果として、 経過措置上の「提供した条件に従う」という要件を満たさないことになることから、 経過措置の適用はなく新消費税率を適用して計算を行うことになります。
* 軽減税率が適用される取引については、本経過措置の適用はありません。
(H) 特定新聞に関する経過措置(施行日後に販売される雑誌を除く)
事業者が、 不特定かつ多数の者に週、 月、 その他の一定の期間を周期として定期的に発行される新聞で、 発行者が指定する発行日が施行日前(令和元年10月1日前)であるもの(特定新聞)を施行日(令和元年10月1日)以後に譲渡する場合、 その譲渡については旧税率が適用されます。 経過措置から雑誌が除かれましたので、 雑誌は販売日に関係なく令和元年10月1日以後に販売されるものから新税率10%が適用されることになります。
* 軽減税率が適用される取引については、本経過措置の適用はありません。
(I) 有料老人ホームの一時金に関する経過措置
事業者が、 平成25年10月1日から指定日の前日(平成31年3月31日)までの間に締結した有料老人ホームに係る一定の終身入居契約で、 介護に係る役務提供の対価が一時金として支払われ、 事業者の都合で一時金の額の変更ができる旨の定めがないものに基づき、 施行日前(令和元年10月1日前)から施行日以後引続き介護に係る役務の提供を行なっている場合には、 施行日(令和元年10月1日)以後に行なわれる当該入居一時金に対応する役務の提供については旧税率が適用されます。 なお、 指定日以後に当該一時金の額の変更が行なわれた場合には、 変更後に伴う役務の提供については、 この経過措置は適用されません。
(J) 長期割賦販売等に関する資産譲渡等の時期の特例を受ける経過措置
既に、税制改正により収益認識基準の見直しにより長期割賦販売等に該当する資産の譲渡等について延払基準により資産の譲渡等の対価の額を計算する制度が廃止となっています。ただ、平成30年4月1日前に長期割賦販売等に該当する資産の譲渡等を行った事業者について5年間、現行制度を適用できるとともに、平成30年4月1日以後に終了する課税期間において延払基準の適用をやめた場合は、賦払金の残高を10年均等で資産の譲渡等の対価の額とする等の経過措置が講じられています。
従って、延払基準を廃止した場合及び経過措置を適用した場合のいずれであっても、資産の引渡しが令和元年9月30日までに行われているものについては、賦払金の支払日が令和元年10月1日以降でも旧税率8%が適用となります。
(K) 長期大規模工事等に関する資産譲渡等の時期の特例を受ける経過措置
事業者が、 指定日から施行日の前日までの間に締結した消費税法第17条第1項に規定する長期大規模工事又は同条第2項に規定する一定の工事の請負契約に基づき、 施行日以後に目的物の引渡しを行う場合において、 当該工事の対価の額につき、 工事の着手日から施行日の前日までの期間に対応する部分の対価の額、 並びに下記に示す政令で定めるところにより計算した金額に係る部分の課税資産の譲渡等に係る消費税率は、 改正前の旧消費税率が適用されます。
旧消費税率が適用される部分の算式は以下のようになります。
長期工事に係る対価の額に、 令和元年9月30日の現況による当該長期工事の見積原価価額のうちに当該長期工事から令和元年9月30日までの間に支出した原材料費、 労務費その他経費の額の合計額の占める割合を乗じて計算した金額(工事進行基準により計算された金額)。
事業者は、 その相手方に当該目的物の引渡しがこの経過措置の適用を受けたものであること及び適用を受けた部分に係る対価の額を書面で通知する必要があります。
(L) リース取引等に関する資産譲渡等の時期の特例を受ける経過措置
(1) リース延払基準の方法により経理した場合の長期割賦販売等に係る資産譲渡等の時期の特例を受けないこととなった場合の経過措置
事業者が所定のリース譲渡(売買取引としての資産の譲渡)に該当しリース延払基準の方法により経理した場合の長期割賦販売等に係る資産譲渡等の時期の特例を受けた場合において、 リース譲渡を行なった日を含む課税期間に資産譲渡等を行わなかったものとしてリース譲渡収益は繰延べられ、 各事業年度にリース譲渡延払収益が計上されることになっています。 この取扱いで、 このリース譲渡が施行日前に行なわれたものでリース譲渡延払収益額が存在している場合には、 その延払収益額に対しては経過措置の適用となり改正前の旧消費税率が適用されます。
(2) リース譲渡に係る資産譲渡等の時期の特例を受けないこととなった場合の経過措置
事業者が所定のリース譲渡(売買取引としての資産の譲渡)に該当し、 リース譲渡に係る資産譲渡等の時期の特例を受けた場合において、 リース譲渡を行なった日を含む課税期間に資産譲渡等を行わなかったものとしてその後のリース期間にリース譲渡収益は繰延べられことになっています。 この取扱いで、 このリース譲渡が施行日前に行なわれたものでリース譲渡収益額が存在している場合には、 その繰延収益額に対しては経過措置の適用となり改正前の旧消費税率が適用されます。
(M) 家電リサイクル料金に関する経過措置
家電リサイクル法4条に規定する製造業者等が、特定家庭用機器廃棄物の再商品化等に係る対価を施行日(2019年10月1日)前に領収している場合、その対価の領収に係る課税資産の譲渡等(再商品化等)を施行日(2019年10月1日)以後に行うときは、その課税資産の譲渡等について、旧消費税率が適用されます。
(N) 施行日と一部施行日における経過措置の各指定日
消費税率アップの時期(施行日)別に経過措置の指定日が決められています。 上記の経過措置に関する説明は、 令和元年10月1日からの税率10%になる段階でのものを指しています。
消費税率8%へ変更 | 消費税率10%へ変更 |
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平成26年4月1日が「施行日」 | 令和元年10月1日が「一部施行日」 |
「施行日」の半年前の平成25年10月1日が経過措置における「指定日」 | 「一部施行日」の半年前の平成31年4月1日が経過措置における「指定日」 |
なお、 来る令和元年9月30日に決算期を迎えられる法人においては、 消費税率10%となる取引対象のものがあっても10%を適用することはできませんので、 その場合には一旦8%で処理を行い翌期に修正する等の処理が必要となります。