ライフスタイルや家族構成等の多様化を踏まえた年金制度を構築するとともに、所得再分配機能の強化や私的年金制度の拡充等により高齢期における生活の安定を図るため、①社会保険加入対象者の適用拡大、②在職老齢年金制度の見直し、③遺族年金制度の見直し、④標準報酬月額の上限の段階的引上げ、⑤私的年金制度の見直し、⑥将来の基礎年金の給付水準の底上げ等の措置を講ずることになりました。
(1)社会保険加入対象者の適用拡大
2025年6月現在、パート・アルバイトなどの短時間労働者が社会保険の加入対象者の加入要件は、以下の5項目となっていました。
短時間労働者の社会保険の加入条件:
①週の所定労働時間が20時間以上
②賃金が月額8.8万円以上(年間106万円)
③従業員数51人以上の企業に勤務している
④2カ月を超える雇用の見込みがある
⑤学生でない
今回の改正では、②の賃金要件と③の企業規模要件の2つとなっています。
②の賃金要件は、3年以内の政令で定める日で撤廃となります。
③の企業規模要件は、現行の従業員数51人以上から、次の様に段階的に縮小していきます。
施行時期 | 企業規模要件 |
2027年10月から | 従業員数 36人以上 |
2029年10月から | 従業員数 21人以上 |
2032年10月から | 従業員数 11人以上 |
2035年10月から | 従業員数 1人以上(全ての企業対象) |
上記の短時間労働者の加入要件の見直しのほか「個人事業所の適用対象の拡大」と「新たに加入対象となる短時間労働者および事業主への支援」もおこなわれます。
個人事業所における適用範囲の拡大:
現在、常時5人以上の従業員を雇用する個人事業所は、法律で定める17業種に当てはまる場合は社会保険に加入しますが、農業、林業、漁業、飲食サービス、宿泊業などの業種は加入対象外となっています。しかし2029年10月から、常時5人以上の従業員を雇用している場合には、全ての業種が加入対象となります。なお、2029年10月時点ですでに存在している事業所は、当分のあいだ対象外となります。
今回の改正法により、新たに社会保険の加入対象となるパート・アルバイトなどの短時間労働者、そして社会保険料を追加負担することとなる事業主に対し、経済的な支援が実施されます。短時間労働者に対しては、3年間事業主が追加負担することで、社会保険料の負担を軽減できる措置が、事業主に対しては追加負担した保険料について、国などが全額を支援します
(2)在職老齢年金制度の見直し
年金を受給しながら働く高齢者が、年金を減額されにくくなり、より多く働けるようにする、在職老齢年金の見直しをします。
2026年4月から、減額基準限度額が月額50万円から62万円に引き上げられます。
(3)遺族年金制度の見直し
遺族年金を見直し、遺族厚生年金の男女差を解消します。また、こどもが遺族基礎年金を受け取りやすくします。
(4)標準報酬月額の上限の段階的引上げ
保険料や年金額の計算に使う賃金の上限の引上げを行い、一定以上の月収のある方に、賃金に応じた保険料を負担いただくことで、現役時代の賃金に見合った年金を受け取りやすくします。 厚生年金等の標準報酬月額の上限が、現行の65万円から次の様に段階的引上げられます。
適用開始時期 | 標準報酬月額の上限 |
2027年9月から | 680,000円 |
2028年9月から | 710,000円 |
2029年9月から | 750,000円 |
(5)私的年金制度の見直し
3年以内に、iDeCoに加入できる年齢の上限を引き上げ、企業型DCの拠出限度額の拡充、企業年金の運用の見える化などを行います。
(6)将来の基礎年金の給付水準の底上げ
国会における審議の中で、今後の社会経済情勢を見極めた上で、基礎年金の給付水準の低下が見込まれる場合に、基礎年金と厚生年金のマクロ経済スライドを同時に終了させる措置を講じる旨の規程が追加されました。