居住用賃貸建物の取得に係る消費税の仕入税額控除制限の確認

消費税において、課税資産等の支払・取得における消費税額に対しては、通常、仕入税額控除の適用があります。例外として、直近では2023年10月から導入されていますインボイス制度におけるインボイス登録事業者以外の者からの消費税額には、経過措置期間がありますが仕入税額控除の適用はありません。その他には、既に2020年10月以後の居住用賃貸建物の取得にも仕入税額控除の適用対象外となっています。以下で居住用賃貸建物の取得に対する消費税の取扱いを再度確認したいと思います。
1.居住用賃貸建物の適用対象とその取扱い
(1)住宅の貸付用に供しないことが明らかな建物以外の建物(即ち、居住用賃貸建物)で、かつ、高額特定資産(1千万円以上の棚卸資産又は調整対象固定資産)又は調整対象自己建設高額資産に該当する場合の課税仕入については、仕入税額控除制度の適用が認められなくなります。但し、居住用賃貸建物のうち、契約内容に関係なく住宅貸付用に供しないことが明らかな部分については、引続き仕入税額控除制度の対象です。
 なお、仕入税額控除制度の適用が認められないこととされた居住用賃貸建物について、その仕入日が属する課税期間の初日から3年間内の間に住宅の貸付用以外に供した場合又は譲渡した場合には、それまでの居住用賃貸建物の貸付及び譲渡対価の額を基礎として計算した額を当該課税期間又は譲渡した課税期間の仕入控除税額に加算して調整することができます。
(2)住宅の貸付契約において貸付に係る用途が明らかにされていない場合であっても、当該貸付用に供する建物の状況等から人の居住用に供することが客観的に明らかな貸付については、消費税は非課税となります。判定時期は、課税仕入を行った日の課税期間の末日で行うことができます。
なお、居住用賃貸部分とそれ以外部分(例えば、建物の一部が店舗)に合理的に区分しているときには、居住用賃貸部分のみが仕入税額控除の適用がありません(店舗部分には適用となります)。

2.居住用賃貸建物の取得等に係る消費税額の調整
上述しました様に、居住用賃貸建物に係る課税仕入の消費税額については、仕入税額控除の対象になりません。但し、居住用賃貸建物においても、次の要件を満たす場合には、仕入税額控除ができる調整規定があります。
(1)居住用賃貸以外の部分がある場合
居住用賃貸部分とそれ以外部分(例えば、建物の一部が店舗)に合理的に区分しているときには、居住用賃貸部分のみが仕入税額控除の適用がありませんが、それ以外の部分に係る課税仕入の消費税額については、仕入税額控除の対象となります。
(2)3年間内に住宅の貸付用以外の課税賃貸用に供した場合
当初、居住用賃貸建物として仕入税額控除の不適用対象の賃貸建物を継続保有し、その仕入日が属する課税期間の初日から3年間内の間(調整期間)に住宅の貸付用以外の課税賃貸用に供した場合には、課税賃貸割合分の金額を第3年度の課税期間の仕入税額控除額に加算することができます。
 当初購入時の課税仕入税額 X 課税賃貸割合 = 認容仕入税額控除額として加算
 課税賃貸割合 =(A)の貸付対価の総金額のうち課税賃貸用に係る貸付対価の金 
÷(A):3年間内の間(調整期間)内の居住用賃貸建物の貸付対価の総金額
(3)3年間内に居住用賃貸建物を全部又は一部を第三者に譲渡した場合
居住用賃貸建物を全部又は一部を3年間内の間(調整期間)に第三者に譲渡した場合には、課税譲渡等割合部分の金額を譲渡した課税期間の仕入税額控除額に加算することができます。
 当初購入時の課税仕入税額 X 課税譲渡等割合 = 認容仕入税額控除額として加算
 課税譲渡等割合 ={(B)のうち課税賃貸用に係る貸付対価の金額 +(C)の金額}
÷ {(B)3年間内の間(調整期間)内の居住用賃貸建物の貸付対価の合計額 + 
(C)居住用賃貸建物の譲渡の対価金額}

① 住宅の貸付の非課税範囲につて:
住宅の貸付とは、人の居住用の家屋又は家屋のうち人の居住用とする部分の貸付をいいます(但し、貸付期間が1月未満及び旅館業の施設貸付は除かれます)。
非課税判定は、契約により居住用とすることが明らかな場合や、契約上用途が明らかでない場合でも、貸付等の状況から人の居住用とされていることが明らかな場合には非課税となります。
② 居住用賃貸建物の範囲について:
住宅の貸付用に供しないことが明らかな建物(注1)以外の建物(即ち、居住用賃貸建物)で、かつ、高額特定資産(1千万円以上の棚卸資産又は調整対象固定資産)又は調整対象自己建設高額資産に該当する場合ものをいいます。
注1:住宅の貸付用に供しないことが明らかな建物とは、建物の構造及び設備の状況その他の状況により住宅の貸付用にしないことが客観的に明らかなものであり、その例として、棚卸資産として取得した建物であって、所有している間、住宅の貸付用としないことが明らかなものとなりますので、転売目的で購入したマンション(アパートも含む)は、現に賃借人が存在し家賃収入が生じていることから、居住用賃貸建物に該当します。 
社宅の使用料は非課税売上となりますが、その使用料を徴収する場合には居住用賃貸建物に該当しますが、徴収しない場合には賃貸していませんので該当しません。無償で貸付けることが客観的に明らかである場合には、その取得に係る課税仕入税額は、仕入税額控除の対象となります。
③ 調整対象自己建設高額資産について:
建設等のために要した原材料費及び経費に係る課税仕入等の税抜価額の累計額が1,000万円以上のものをいいます(事業者免税点制度及び簡易課税制度の適用を受ける課税期間に行った課税仕入等を含む)。なお、事業者免税点制度及び簡易課税制度の適用を受ける課税期間に行った課税仕入等を含まないものが、自己建設高額特定資産といいます。
自己建設資産については、その建設等に要した課税仕入等の税抜価額の累計額が1,000万円以上となった日において、居住用賃貸建物に該当するかどうかを判定します。その該当の課税期間以後も、その建物に係る課税仕入等の税額については、仕入税額控除の対象になりません。他方、その該当の課税期間以前のその建物に係る課税仕入等の税額については、仕入税額控除の対象となります。
居住用賃貸建物に係る控除対象外消費税額等の処理(税抜経理処理の場合):
(イ)全額損金算入することができる場合
下記のいずれかに該当する場合には、全額損金算入となります。
①その事業年度の課税売上高割合が80%以上であること
②棚卸資産に係る控除対象外消費税額等であること
③特定課税仕入に係る控除対象外消費税額等であること
④一の資産に係る控除対象外消費税額等が20万円未満であること
(ロ)繰延消費税額等の償却
上記(イ)以外の場合には、)繰延消費税額等の償却を行うことになります。
①初年度
繰延消費税額等×その事業年度の月数÷60×1/2 = 損金算入限度額
②次年度以降
 繰延消費税額等×その事業年度の月数÷60 = 損金算入限度

2024年4月25日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant