2020年度税制改正大綱:所得税、贈与税・相続税

2020年(令和2年)12月12日に自民、公明党両党は2020年度(令和2年度)の与党税制改正大綱を発表しました。以下は、その改正大綱の概要(所得税、贈与税・相続税)となります。

個人所得課税
1.NISAの延長及び新NISAの創設
非課税口座内の少額上場株式等に係る配当所得及び譲渡所得等の非課税措置(少額投資非課税制度)では、居住者等が、 非課税口座を開設した年の1月1日以後、 投資可能期間になされた一定の適用要件を満たす少額上場株式等からの配当等及び譲渡益等に対しては、 非課税とされるものです。
(1)積立NISA(低リスクの投資信託等に投資対象を限定)の勘定設定期間を2042年(令和24年)12月31日まで5年延長する。
(2)ジュニアNISAは延長せずに2023年(令和5年)12月31日で終了とする。なお、2024年(令和6年)1月1日以後は、課税未成年者口座及び未成年者口座内の上場株式等及び金銭の全額について源泉徴収を行わずに払い出すことができます。
(3)現行の一般NISAは2023年(令和5年)12月31日での終了に合わせて、特定非課税累積投資契約(仮称)による新NISAを創設し、現行の積立NISAとの選択適用となります。

 現行(一般NISA)新NISA
非課税可能期間2023年(令和5年)12月末まで2024年(令和6年)1月~2028年(令和10年)12月末まで
非課税年間投資上限額
(譲渡益や配当等の運用益に対し非課税措置)
非課税管理勘定:120万円①特定累積投資勘定:20万円
②特定非課税管理勘定:102万円
非課税期間投資年から最長5年間投資年から最長5年間
非課税の投資可能商品上場株式、公募株式投資信託、ETF,REIT等2階建ての制度として:
①1階(低リスクの投資信託等に投資対象を限定した積立枠);特定累積投資勘定:特定の公募等株式投資信託
②2階(従来通り上場株式等にも投資できる枠);特定非課税管理勘定:上場株式等
原則として、①1階に投資した場合のみ、②2階にも投資が可能となり、例外として、上場株式のみへの投資の場合には、①1階の投資せずに②2階への投資が可能となります。

2.暗号資産デリバティブに係る雑所得等の取扱い
(1)先物取引に係る雑所得等の課税特例及び先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除の適用対象から、暗号資産デリバティブに係る雑所得等は除外となります。
(2)2021年(令和3年)分より、金融商品取引業者等は、年間の暗号資産デリバティブ取引の差金等決済金額の支払調書を、翌年1月末までに税務署長に提出する必要があります。

3.低未利用土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の特別控除の創設
個人が、都市計画区域内にある低未利用土地又はその上の権利を譲渡した場合に、一定の適用要件を満たすときには、その譲渡に係る長期譲渡所得から特別控除として100万円を控除することができます。その適用要件は、以下のとおりです。

市区町村長の承認



低未利用土地等であること及び譲渡後の低未利用土地等の利用について承認がされていること
所有期間譲渡年の1月1日現在で5年超であること
適用外となる譲渡の相手方買手が、売主個人の配偶者、その他の売主と一定の特別な関係がある者であれば適用外
譲渡対価その土地の上にある建物等を含めて譲渡金額が500万円以下であること
継続適用の制限前年又は前々年に当該制度の適用を受けていないこと
適用時期以下のいずれか遅い日から2022年(令和4年)12月31日までの間の譲渡に適用:
①土地基本法等の一部を改正する法律の施行日
②2020年(令和2年)7月1日

4.土地・住宅税制の適用期限延長等

項目期限
短期所有土地の譲渡等の土地譲渡等に係る事業所得等の課税特例適用停止措置の期限を3年延長
特定の居住用財産の買換え及び交換の長期譲渡所得の課税特例の適用期限2年延長
居住用財産の買換等の譲渡損失の繰越控除等の適用期限2年延長
特定居住用財産の譲渡損失の繰越控除等の適用期限2年延長
優良住宅の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税特例について、一部適用対象変更の上、適用期限を延長する3年延長

5.配偶者居住権及び配偶者敷地利用権に係る譲渡所得の取扱い
(1)配偶者居住権及び配偶者敷地利用権の消滅等により対価を得た場合の課税の取扱い
合意解除や放棄により権利が消滅等し、配偶者が対価を取得した場合は、譲渡所得課税となるが、その際の取得費は以下の様に計算します。
  居住建物等の取得費(減価償却後)× 配偶者居住権等割合(注1)- 設定から消滅等までの期間に係る減価の額 = 取得費
(注1):設定時における配偶者居住権等の価額相当額 ÷ 設定時における居住建物等の価額相当額
(2)配偶者居住権及び配偶者敷地利用権の消滅前に居住用建物等を譲渡した場合の取得費の計算方法
相続人が相続により取得した居住建物等(配偶者居住権の目的となっている建物又はその建物の敷地となっている土地等)を、配偶者居住権及び配偶者敷地利用権の消滅前に居住用建物等を譲渡した場合の、譲渡所得の計算上控除する際の取得費は以下の様に計算します。
居住建物等の取得費(減価償却後)- 配偶者居住権等の取得費(注2) = 取得費 
(注2):設定日から譲渡日までの期間に係る減価の額を控除した金額

6.国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例の創設
(1)個人が、2021年(令和3年)以降の各年において、「国外中古建物」を賃貸し不動産所得を有する場合に、その国外不動産所得の損失金額が生じるときは、その国外中古建物の減価償却費の相当部分の金額は、生じなかったものと見做すことになります。
「国外中古建物」とは、建物の減価償却費の計算にあたり、その対象年数の算定が「簡便法」又は「適正であることを証する一定の書類の添付がない見積法」をより行われているものとなります。
(2)上記の適用を受けた国外中古建物を譲渡した場合の、譲渡所得の金額の計算上、その取得費から、生じなかったと見做された償却費相当額部分は控除しないことになります。

7.未婚のひとり親に対する税制上の措置及び寡婦(寡夫)控除の見直し
(1)未婚のひとり親に対する税制上の措置(適用は2020年(令和2年)分以後)
居住者が未婚のひとり親(寡婦(寡夫)を除く)が、次の適用要件を満たす場合には、35万円控除が認められます。
① 未婚のひとり親と生計を一にする子の総所得金額等の金額が48万円以下であること
② 未婚のひとり親の合計所得金額が500万円(年収678万円)以下であること
③ 未婚のひとり親が入籍しない事実婚の世帯であっても住民票に事実婚の旨を登録記載されていないこと
(2)寡婦(寡夫)控除の見直し
① 寡婦控除の要件に新たに寡夫控除と同様に所得要件として、合計所得金額が500万円(年収678万円)以下であることを加える
② 寡婦(寡夫)の要件に住民票に事実婚の旨を登録記載されていないことを加える
③ 子ありの寡夫の控除額(現行所得税27万円)について、子ありの寡婦と同様に同額の35万円とする

8.国外居住親族に係る扶養控除等の見直し(適用は2023年(令和5年)分以降)
扶養控除の対象者から日本国外に居住する親族のうち、30歳以上70歳未満の者が除外となります。但し、下記のいずれかに該当する者は適用対象のままです(明らかにする書類が必要)。

扶養控除の対象者提出又は提示が必要な書類
留学により非居住者となった者公的な在留者であることを証する書類
障害者
居住者から年間38万円以上の生活費又は教育費の支給を受けている者送金関係書類等で38万円以上であることを明らかにする書類

9.確定拠出年金制度の見直し

改正項目対象制度改正前改正後
加入年齢の見直し企業型DC厚生年金被保険者の65歳未満厚生年金被保険者の70歳未満
個人型のDC(iDeCo)及び農業者年金制度国民年金被保険者の60歳未満国民年金被保険者の65歳未満
受給開始時期の選択肢の拡大企業型DC・個人型DC(iDeCo)60歳~70歳の間で選択70歳以降も選択可
DB60歳~65歳の間で選択60歳~70歳の間で選択

10.相続国外財産に係る相続直後の国外財産調書等への記載の柔軟化
相続開始の日に属する年度の12月31日に有する国外財産調書については、その相続又は遺贈により取得した国外財産を記載しないで提出することができるようになります。この場合の提出義務の判定には、その相続国外財産の価額を除外して行うことになります(国外財産調書における相続財産についても同様となります)。
改正は、2020年(令和2年)分以後の国外財産調書又は国外財産調書について適用となります。

11.居住用財産の譲渡特例を適用した場合における住宅ローン控除適用の見直し
新規住宅の居住年から3年目に新規住宅及びその敷地の土地等以外の資産の譲渡(従前住宅を譲渡)した場合において、その従前住宅を譲渡に対して、下記の譲渡特例の適用を受けるときには、新規住宅について住宅ローン控除の適用ができないことになります。
① 居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税特例
② 居住用財産の譲渡所得の特別控除
③ 特定の居住用財産等の買換え及び交換の場合の長期譲渡所得の課税特例
改正は、2020年(令和2年)4月1日以後に従前住宅等を譲渡する場合に適用となります。

以上

贈与税・相続税(資産課税)
1.所有者不明土地等に係る課税上の措置
(1)現に所有している者の申告の制度化(2020年(令和2年)4月1日以後の条例の施行日以後から適用)
登記簿上の所有者が死亡している場合、市町村長は条例によりその土地又は家屋を現に所有している者に対して固定資産税の賦課徴収に必要な事項を申告させることができることになります。罰則も設けることになっています。
(2)使用者を所有者とみなす制度の拡大(2021年(令和3年)度以後の年度分の固定資産税から適用)
市町村は、一定の調査を尽くしてもなお固定資産の.所有者が一人も明らかとならない場合には、その使用者を所有者とみなして固定資産課税台帳に登録し、その使用者に固定資産税を課すことができることになります。

2.住宅用家屋の所有権移転等における登録免許税
登録免許税の軽減税率の適用措置を2年延長する。

3.不動産譲渡に関する契約書等に係る印紙税
印紙税の税率特例措置の適用措置を2年延長する。

4.医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予制度等の適用期限延長
適用期限が3年延長となります。

以上

2019年12月31日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant