- 年末調整とは
毎年11月となりますと会社(給与支払者)の給与担当部署は、 「年末調整」の準備・対応という大変忙しい時期を迎え、 勤務者(従業員)はその年末調整の為に必要となる申告書や証明書類等を所定の期限までに会社に提出することが求められます。 会社は、 勤務者から回収した年末調整用の書類の内容を確認しその最終提出情報に基づいて、 暦年の最終給与支払時(通常、 12月給与)に納めるべき年間の所得税及び復興特別所得税(年税額)を算出し、 これまでの給与支給時に源泉徴収された累計税額とを比べその差額となる過不足額を精算(徴収又は還付)します。 その一連の精算手続が年末調整ということになります。 一般的には、 年末調整により還付されるケースが多いかと思います。
- 平成29年度(2017年度)の所得税に係わる改正
平成29年度の年末調整において、税制改正により影響を受ける主な項目は以下の通りです。
(1) 給与所得控除額の上限額引下げ
給与収入1,000万円超から給与所得控除額は220万円が上限となりました。
(2) マイナンバーの記載不要の特例制度
平成28年1月よりマイナンバー制度が導入されましたが、平成29年分以後の扶養控除等(異動)申告書等へのマイナンバーの記載不要の特例制度が創設されました。 その適用要件として、既にマイナンバーの情報が提供されており、 その情報を記載した帳簿を会社が備えているときには記載不要となりました。
マイナンバーの記載不要の特例制度が適用できない方には、以下の対応が必要となります。
「平成29分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出にあたり、 給与所得者本人、 控除対象配偶者、 控除対象扶養親族等の個人番号を記載することになります。 提出にあたり、 給与支払者が給与所得者から個人番号の提供を受ける場合は、 本人確認として、 提供の番号が正しいことの確認(番号確認)と、 番号提供者が真にその番号の持ち主であることの確認(身元確認)を行う必要があります。 なお、 控除対象配偶者、 控除対象扶養親族等の本人確認は、 給与所得者が行うことになっています。
平成28年1月以降の支払に係る給与所得の源泉徴収票には、 上記の個人番号を記載して税務署等の行政機関に提出することになりますので、 「扶養控除等(異動)申告書」に必要なマイナンバーが記載されていない場合には、 源泉徴収票作成までにマイナンバーの提供を受ける必要があります。 なお、 給与所得者への源泉徴収票には、 個人番号は記載されません。
(3) 平成30年1月以後の源泉徴収等に関する改正
平成29年度税制改正におきまして、平成30年1月(平成30年度)より配偶者控除及び配偶者特別控除に改正がありました。その為に、源泉徴収事務においてその対応に注意が必要となります。特に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」等の記載内容や扶養親族等の数の数え方に関する点です。年末調整時にも影響する内容となっています。これらの内容に関しましては、後日紹介いたします。
- 年末調整の対象者
年末調整の対象者は、 原則として会社に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している人は全員含まれます。 但し、 給与収入額が2千万円を超える人は年末調整を行ないませんので自身の確定申告を通じて年税額の精算をしなければなりません。 通常、 1カ所から給与支給を受けている人は、 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出し年末調整を受けることになります。
次の人は年末調整の対象者にはなりません。
(1) 年中の給与収入額が2千万円を超える人
(2) 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していない人(年末調整を行うことができませんが、 支払の際の源泉徴収においては乙欄の税額表が適用となります)
(3) 年中に退職(死亡退職した人、 非居住者として国外勤務者となった人、 等を除く)した人
(4) 国内に住所も1年以上の居所を有していない人(非居住者)
(5) 災害免除法の規定により源泉徴収について徴収猶予や還付を受けた人
(6) 日雇労働者等(丙欄の税額表適用者)
年末調整の為に提出が求められる申告書とその中に記載される控除項目は以下のとおりです。 当該控除項目以外に所得から控除可能な項目がある場合にはそれらの項目は確定申告で行うことになります。
申告書の名称 | 控除項目 |
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 | 配偶者控除、 扶養控除、 障害者控除、 寡婦(夫)控除、 勤労学生控除、 基礎控除 |
給与所得者の配偶者特別控除申告書 | 配偶者特別控除 |
給与所得者の保険料控除申告書 | 生命保険料控除(一般生命・介護医療・個人年金)、 地震保険料控除、 社会保険料控除、 小規模企業共済等掛金控除 |
給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書 | (特定増改築等)住宅借入金等特別控除(2年目から年末調整の対象で初年度は確定申告が必要) |
申告書記載上の主な注意点は以下のものがあります。
(イ) 12月31日時点の現況で記載
その年の12月31日現在の現況を見積もりで記載することになります。 見積記載の内容に修正が生じた場合(例えば、 扶養者数の増減、 等)には、 再年末調整(翌年の1月末までは可能)又は確定申告により適正な精算を行うことになります。
(ロ) 人的控除項目の判定基準に合計所得金額基準
控除項目の中(控除対象配偶者、 控除対象扶養控除、 配偶者特別控除等の人的控除項目)には、 その控除に該当するかの判定基準にその年度の合計所得金額がありますので留意してください。 多い誤りとしては、 配偶者の合計所得金額が控除対象金額を超えているケースです。
配偶者控除の場合の合計所得金額は、 38万円以下(給与収入額では103万円以下)でなければなりません。 「配偶者」とは、 婚姻の届出をしている配偶者をいい、 内縁関係の人は含まれません。
配偶者特別控除の場合の合計所得金額は、 38万円超~76万円以下でなければなりません。
公的年金等の雑所得だけの方で控除対象扶養者(合計所得金額が38万円以下)になる場合には、 公的年金等の収入金額が158万円以下(年齢65歳未満の人は108万円以下)という条件を満たす人です。
「所得金額」として、 税法の規定のなかに「合計所得金額」、 「総所得金額」、 「総所得金額等」の3種類が適用判定基準の中に出てきますが、 それぞれ多少の違いがあります。
(1) 所得金額基準は主にどの適用範囲に出てきているか
所得金額 | 主な適用範囲 |
合計所得金額 | ●扶養控除対象者: 合計所得金額が38万円以下
●配偶者控除対象者: 合計所得金額が38万円以下 ●配偶者特別控除対象者: 合計所得金額が38万円超76万円未満、 並びに申告者本人の控除対象者: 合計所得金額が1,000万円以下 ●寡婦(寡夫)控除対象者: 合計所得金額が500万円以下 ●勤労学生控除対象者: 合計所得金額が65万円以下 ●住宅ローン控除対象者: 合計所得金額が3,000万円以下の年 ●居住用財産の買換えの譲渡損失の損益通算・繰越控除の適用対象者: 合計所得金額が3,000万円以下の年 ●特定居住用財産の譲渡損失の損益通算・繰越控除の適用対象者: 合計所得金額が3,000万円以下の年 ●市県民税均等割の非課税判定基準・市県民税の扶養親族や各種控除の判定基準 ●直系尊属から住宅取得等資金の受贈与者の非課税対象者: 合計所得金額が2,000万円以下 |
総所得金額 | |
総所得金額等 | ●医療費控除限度額: 総所得金額等の5%
●雑損控除限度額: 損失の金額 - 総所得金額等 X 10% ●寄付金控除限度額: 総所得金額等 X 40% - 2,000円 ●寡婦となる要件: 扶養親族その他その人と生計を一にするその年分の総所得金額等が38万円以下の子がいる人 ●寡夫となる要件: 生計を一にするその年分の総所得金額等が38万円以下の子がいる人 ●市県民税所得割の非課税判定基準 |
(2) ①合計所得金額、 ②総所得金額、 ③総所得金額等の定義
左から右にみて所得の範囲等がそれぞれ異なっていることがお分りになるかと思います。
所得種類 | ① | 各種繰越控除の適用(①から控除) | ② | ③ | |||
利子所得 | 所 得 金 額 の 損 益 通算 |
合 |
* 純損失や雑損失の繰越控除
* 居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除 * 特定居住用財産の譲渡損失の繰越控除 * 上場株式等の譲渡損失の繰越控除 * 特定中小会社発行株式の譲渡損失の繰越控除 * 先物取引の差金等決済損失の繰越控除 |
総 |
総 |
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配当所得 | |||||||
不動産所得 | |||||||
事業所得 | |||||||
給与所得 | |||||||
雑所得 | |||||||
一時所得 | 2分 の1 |
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総合課税の譲渡所得 | 長期 | ||||||
短期 | |||||||
分離課税(土地・建物等)の譲渡所得(特別控除適用前) | 長期 | ||||||
短期 | |||||||
分離課税の株式等の譲渡所得 | |||||||
分離課税の先物取引の雑所得 | |||||||
退職所得 | |||||||
山林所得 |
配偶者控除、 扶養者控除等の所得基準額は、 「総所得金額」より範囲が広い「合計所得金額」で判定することになり、 分離課税所得の発生年度には注意が必要となります。
(ハ) 年齢16歳未満の年少扶養親族
控除対象扶養控除に関して、 平成23年度から年齢16歳未満の年少扶養親族に対する扶養控除が所得税では廃止となっています(年齢16歳未満は所得税における扶養控除対象者ではありません)。 しかし、 住民税の方では控除対象となっていますので住民税に関する欄への記載を忘れないでください。 なお、 年齢16歳未満の年少扶養親族であっても、 障害者又は特別障害者に該当する場合には、 障害者控除を受けることはできます。
平成29年度の年末調整時における年齢16歳未満とは、 平成14年1月2日以後に生まれた人が年少者となります。
(ニ) 扶養親族
所得者と生計を一にする親族(6親等内の血族と3親等内の姻族)で、 合計所得金額が38万円以下の人を扶養親族(配偶者、青色事業専従者及び白色事業専従者を除く)といいます。 その中には、 以下のように区分されています。
① 控除対象扶養親族
扶養親族のうち、 年齢16歳以上の人をいいます(平成29年度の年末調整では、 平成14年1月1日以前に生まれた人)。
② 特定扶養親族
扶養親族のうち、 年齢19歳以上23歳未満の人をいいます(平成29年度の年末調整では、 平成7年1月2日から平成11年1月1日までの間に生まれた人)。
③ 老人扶養親族
控除対象扶養親族のうち、 年齢70歳以上の人をいいます(平成28年度の年末調整では、 昭和23年1月1日以前に生まれた人)。
④ 同居老親等
老人扶養親族のうち、 所得者又はその配偶者の直系尊属でいずれかとの同居を常況としている人をいいます。
(注): 国外居住親族に係る扶養控除等の適用時に所定の書類添付等の義務化
非居住者である親族(国外居住親族)に係る扶養控除、 配偶者控除、 障害者控除又は配偶者特別控除の適用を受ける場合には、 「親族関係書類」及び「送金関係書類」の提出又は提示を受ける必要があります。
具体的な手続きとして、 適用を受ける旨を「扶養控除等(異動)申告書」上の「非居住者である親族」欄に○印を付し、 関係書類の提出等を行います。
(ホ) 生命保険料控除の改組
平成24年(2012年)1月1日からの契約分(新契約)から一般生命保険に含まれていた「介護医療保険」が独立の控除対象となりました。 平成23年までの契約分(旧契約)については、 昨年までと同様に「一般生命保険」と「個人年金保険」の2つに分けられ最高控除額は、 各5万円です。 新契約は、 「一般生命保険」、 「介護医療保険」と「個人年金保険」の3つに分けられ最高控除額は、 各4万円となります。 なお、 旧契約と新契約が混在するケースも発生することもありますが、 各保険料控除の合計適用限度額が12万円とされています。 従いまして、 支払保険契約が、 旧契約か新契約かを保険会社からの証明書で確認しながら申請書に正しく記載する必要があります。
生命保険契約等により支払われた保険料や掛金は所得者本人が支払ったものに限られています。 又、 保険金、 共済金等の給付金の受取人の全てが所得者本人又は所得者の配偶者や親族となっていることが必要です。
翌年以後に払込期日が到来する保険料を一括して前納保険料がある場合には、 本年中に相当する部分のみが支払保険料の金額となります。
(ヘ) 社会保険料控除
所得者本人と生計を一にする親族が負担することになっている社会保険料を所得者自身が支払った場合(時限措置により納付可能となった過去分の保険料の支払分も含む)には、 所得者本人の社会保険料として控除できます。
年金から特別徴収された介護保険料や後期高齢者医療保険料については、 支払者が年金受給者自身となることから、 その年金の受給者の社会保険料として控除となります。
翌年以後に払込期日が到来する保険料を一括して前納保険料がある場合には、 前納期間が1年以内の場合には、 その全額を本年の社会保険料として控除することができます。 なお、 国民年金保険料については、 2年分を前納できることになりましたので、 全額控除をするか、 又は期間按分して控除(この場合には、 按分の明細書が要作成)する方法のいずれかを選択することが可能です。
(ト) 地震保険料控除
所得者本人と生計を一にする親族が所有して常時居住している家屋や生活に通常必要な家財に対して支払った保険料の内、 一定の金額を地震保険料控除として控除できます。
一つの契約等で、 地震等損害に対する損害保険契約と旧長期損害保険契約のいずれの契約区分にも該当する場合には、 選択によりいずれか一方の契約区分のみが地震保険料控除の控除額となります(有利な方を選択する)。
(チ) (特定増改築等)住宅借入金等特別控除
現在、 各種の住宅借入金等特別控除がありますが、 控除を受けようとする初年度分については、 確定申告により控除の適用を受ける必要があります。 2年度以降分については、 年末調整の際に下記のものを給与支払者に提出します。
① 税務署長が発行した「年末調整のための(特定増改築等)住宅借入金等特別控除証明書」。 この証明書の上部に「給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書」がありますので、 控除金額等の記載を行い提出します。
② 金融機関等が発行した「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」
一般の住宅借入金等特別控除は、 居住者が一定の要件を満たす住宅の取得等して、 その人の居住の用に供した場合(その家屋の取得等の日から6ケ月以内に居住用に供したものに限られています)において、 その住宅の取得等のために一定の住宅借入金(償還期間10年以上等)を有するときには、 居住年以後10年間(平成13年7月1日から平成33年12月31日までの間で居住した場合には、 最長10年間。 それ以前のもは最長15年間)の各年のうち、 合計所得金額が3千万円以下である年について、 住宅借入金等の年末残高を基にした所定額を住宅借入金等特別控除としてその年の所得税額から控除できるというものです。
家屋に入居後、 本年12月31日まで継続して居住用に供していることが控除の適用要件ですので、 年度の途中で海外勤務となり出国している場合には、 この制度の適用はありません。
自己の居住用の家屋が2以上有する場合には、 主として居住用とする1の家屋に限られます。
連帯債務(共有)の場合には、 各年12月31日現在のその住宅借入金等の金額に控除を受ける人の負担割合(持分割合)を加味して控除額を計算します。 その割合は、 小数点以下第4位を切上げ、 90%以上である場合は100%とします。
住宅ローンの借換え: この制度の適用者が、 住宅借入金等の借換えをした場合に一定の要件を満たすときには適用が継続します。 住宅ローン金利が低くいものがあるとローンの借換えを行う場合があります。 一般の住宅ローンの場合の借換えでは、 新たな借入金が当初の借入金を消滅させるもので、 適用対象となっていた家屋の取得等のための資金に充てるものであれば住宅ローン控除の継続適用の対象となります。 その場合の新たな借入金の償還期間も10年以上であることが適用要件となっています。 ローン借換後の借入額が借換前の借入残高以下であれば、 年末借入残高が控除対象額となりますが、 逆に借換後の借入額が借換直前の借入残高を上回る場合、 次の按分計算して控除対象額を導く必要があります。
ローン借換後の借入額の年末残高 X (借換直前の借入残高 ÷ 借換直後の借入額) = 控除対象借入額の年末残高
(リ) 給与と徴収税額の集計
年中に支払った給与・賞与が対象になりますが、 本年分の給与で未払いであっても、 本年中に支給日が到来して支払の確定したものについても年末調整の対象になります。
以上が年末調整の概要となります。