2016年12月8日に与党が決定しました2017(平成29)年度税制改正大綱に関しまして、法人税に関する主な改正案の概要は、 以下のとおりです。
1.競争力強化のための研究開発税制等の見直し
(1) 試験研究費の範囲の見直し
試験研究費の範囲に、「対価を得て提供する新たな役務の開発に係る試験研究のために要する一定の費用が追加されます。 この「一定の費用」とは、対価を得て提供する新たな役務(新サービス)の開発を目的として行う業務に要する費用となっています。
(2) 総額型(試験研究費の総額に係る税額控除制度)の見直し
① 税額控除率等の見直し
試験研究費の増減割合に応じた税額控除率に変動されます。 現行では試験研究費割合に応じ8%~10%ですが、以下の様に変わります。
改正 | |
区分 | 税額控除率 |
5% < 増減割合 | 9% +(増減割合-5%)x 0.3 |
-25% ≦ 増減割合 ≦ 5% | 9% -(5%-増減割合)x 0.3 |
増減割合 < -25% | 6% |
「試験研究費の増減割合」とは、試験研究費増減差額の比較試験研究費に対する割合
「試験研究費増減差額」とは、試験研究費の額から比較試験研究費の額を減算した金額
② 税額控除率の上限引上げ(2年間の時限措置)
(イ)総額型の税額控除率の上限は、原則、10%だが、2年間の時限措置として14%に引上げられます。
(ロ)中小企業等技術基盤強化税制による総額型の場合、試験研究費の増加割合が5%を超える場合には次の様になります。
(①)税額控除率 = 12%% +(試験研究費の増加割合-5%)x 0.3}、 但し、税額控除率の上限は17%
(②)税額控除額 = 試験研究費の額 x 税額控除率
税額控除額の上限 = 当期の法人税額 x 25% + 上乗せ部分(当期の法人税額 x 10%)
なお、この適用にあたり、高水準型(平均売上金額の10%を超える試験研究費に係る税額控除制度)との選択適用となります。
(3) 高水準型(平均売上金額の10%を超える試験研究費に係る税額控除制度)の時限措置等
① 適用期限が2年延長されます。
② 試験研究費の額が平均売上金額の10%を超える場合の上乗せ措置2年間の時限措置)
試験研究費の額が平均売上金額の10%を超える場合、「高水準型」の適用に代えて、以下のとおり「総額型」の控除税額の上限(当期の法人税額の25%)に一定の金額を上乗せできることになります。
参考:高水準型においての税額控除計算
税額控除額 = (当期試験研究費の額 – 平均売上金額 x 10%) x 超過税額控除割合
平均売上金額:当期及び当期前3年以内に開始した各事業年度の売上の平均額
超過税額控除割合:(試験研究費割合 – 10%) X 0.2
税額控除限度額は、 当期法人税額の10%
改正: 上乗せ措置
(①)総額型
当期の法人税額の25% + 上乗せ部分{(当期の法人税額 x(試験研究費割合 -10%)x 2}
(②)総額型(中小企業等技術基盤強化税制による総額型)
当期の法人税額の25% + 上乗せ部分{(当期の法人税額 x(試験研究費割合 -10%)x 2}
なお、この適用にあたり、上述しました総額型との選択適用となります。
(4) 増加型(試験研究費の増加額に係る税額控除制度)
平成28年度末の期限をもって廃止となります(現行:高水準型との選択適用)。
(5) オープンイノベーション型(特別試験研究費の額に係る税額控除制度)
特別試験研究費の対象となる支出費用が限定されていたが、その限定が廃止され、その研究に要した費用となります。
2.所得拡大促進税制の税額控除制度の見直し
(1) 大企業
現行 | 改正 | |
適用要件 | 平均給与等支給額 > 比較平均給与等支給額
|
(平均給与等支給額 - 比較平均給与等支給額)÷ 比較平均給与等支給額 ≧ 2% |
控除税額 | 雇用者給与等支給増加額 x 10% | 雇用者給与等支給増加額 x 10% +(①又は②のいずれかの金額) x 2%
① 雇用者給与等支給増加額 ≧(雇用者給与等支給額 - 比較雇用者給与等支給額)ならば、雇用者給与等支給額 - 比較雇用者給与等支給額の金額 ② 雇用者給与等支給増加額 <(雇用者給与等支給額 - 比較雇用者給与等支給額)ならば、雇用者給与等支給増加額の金額 |
(2) 中小企業者等
現行 | 改正 | |
控除税額 | 雇用者給与等支給増加額 x10% | 雇用者給与等支給増加額 x 10% + (①又は②のいずれかの金額)x 12%
① 雇用者給与等支給増加額 ≧(雇用者給与等支給額 - 比較雇用者給与等支給額)ならば、雇用者給与等支給額 – 比較雇用者給与等支給額の金額 ② 雇用者給与等支給増加額 <(雇用者給与等支給額 – 比較雇用者給与等支給額)ならば、雇用者給与等支給増加額の金額 |
3.確定申告書の提出期限の延長の特例
法人が、①会計監査人を置いている場合で、かつ、②定款等の定めにより各事業年度終了から3月以内に決算についての定時総会が招集されない常況にあると認められる場合には、4月を超えない範囲内で確定申告書を提出することが税務署長より認められます。
原則、「事業年度終了から2ヵ月以内」から、現行の「1ヵ月の提出期限の延長特例」は存置され、別途、最大で4ヵ月の提出期限の延長」となり、事業年度終了から最大6ヵ月以内の特例が創設されます。 また、法人税事業税についても、同様な取扱いとなります。
4.役員給与関連
(1) 利益連動給与の見直し(平成29年4月1日以後の支給又は交付決議分から適用対象)
算定指標の範囲に、株式の市場価格の状況を示す指標及び売上高の状況を示す一定の指標を加えるとともに、当該事業年度後の事業年度又は将来の所定の時点若しくは期間の指標を用いることができるようになります。
(2) 事前確定届出給与の見直し(平成29年4月1日以後の支給又は交付決議分から適用対象)
① 所定の時期に確定した数の株式を交付する給与が対象に加えられます。
② 所定の時期に確定した数の新株予約権を交付する給与が対象に加えられるとともに一定の新株予約権の給与は事前確定の届出は不要となります。
③ 利益その他の指標を基礎として譲渡制限が解除される数が算定される譲渡制限付株式による給与は対象外となります。
(3) 定期同額給与の範囲の見直し(平成29年4月1日以後の支給又は交付決議分から適用対象)
税及び社会保険料の源泉徴収等の控除後で金額が同額となるものも定期給与に加えられます。
(4) 退職給与の見直し (平成29年10月1日以後の支給又は交付決議分から適用対象)
退職給与で「利益その他の指標(勤務期間及び既に支給した給与を除く)」を基礎に算定されたもののうち、次の①と②の全額が損金不算入となります。
① 利益連動給与の損金算入要件を満たさないもの
② 新株予約権による給与で事前確定届出給与又は利益連動給与の損金算入要件を満たさないもの
(5) 譲渡制限付株式(RS)と新株予約権(SO)を対価とする費用の帰属事業年度の特例の見直し
(平成29年10月1日以後の支給又は交付決議分から適用対象)
① 役務提供を受けた法人以外の法人が交付するものも対象に加えられます。
② RSの損金算入時期が、原則、「譲渡制限が解除されることが確定した日の属する事業年度」となります。 現行は、「譲渡制限解除日の属する事業年度」からの見直し。
③ RSやSOが、非居住者に交付された場合、その者が居住者であったとした場合に給与所得等が生じることが確定した日に役務提供を受けたこととなる。
5.組織再編税制等の見直し
多くの見直しが行われますが、特定事業を切り出して独立会社とするスピンオフ関係の改正事項(分割型分割や現物分配によるスピンオフが行われた場合、適用要件を満たすことでスピンオフを行った会社側への譲渡損益の課税が繰り延べられる)は、平成29年4月1日以後の組織再編成に適用となります。 又、吸収合併・株式交換に係る適格要件の見直しなどといったスピンオフ関係以外の改正事項は、平成29年10月1日以後の組織再編成に適用となります。
6.営業権等の償却方法の見直し
営業権、資産調整勘定及び負債調整勘定の償却方法について、取得年度の償却限度額の計算上、月割計算で行うことになります。
7.地域中核企業向け設備投資促進税制の創設
企業立地促進法の改正を前提に、青色申告法人が同改正法の施行日から平成31年3月31日までの間に、一定の計画(国の確認が必要)に係る一定の地域内で一定の施設等(取得価額の合計が2千万円以上)を新設、又は増設した場合に、その施設等を構成する機械装置、器具備品、建物・建物附属設備・構築物の取得等をして、一定の事業用に供したときは、取得価額(本制度の上限は100億円)の40%(建物・建物附属設備・構築物は20%)の特別償却、又は4%(建物・建物附属設備・構築物は2%)の税額控除(但し、法人税額の20%が限度)との選択適用ができます。
8.中小企業向け設備投資促進税制の拡充
(1) 中小企業経営強化税制への改組(以前の中小企業投資促進税制の上乗せ措置)
青色申告書を提出する中小企業者等で中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定を受けたものが、平成29年(2017年)4月1日から平成31年(2019年)3月31日までの間に、生産等設備を構成する機械装置、工具、器具備品、建物、建物附属設備、及びソフトウェアで特定経営力向上設備等に該当するもののうち、一定の規模以上のものの取得等をして、その特定経営力向上設備等を国内にあるその法人の指定事業の用に供した場合に、その普通償却限度額との合計で取得価額までの特別償却と、その取得価額の7%(特定中小企業者等では10%)の税額控除(但し、法人税額の20%が限度で、控除限度超過額は1年間繰越可能)との選択適用が認めるというものです。
制度の目的 | 生産性の高い先進的な設備や生産ライン等の改善のための設備投資に対する税制支援(即時償却又は税額控除)を行い、 中小企業者の民間投資を活性化させる | ||||||||||||||||||||||||
適用法人 | 青色申告書を提出する中小企業者等 | ||||||||||||||||||||||||
適用要件 | 「生産等設備」を構成する「特定経営力向上設備等」のうち、 一定規模以上のものを取得等し、 その設備を国内にあるその法人の指定事業の用に供した場合 | ||||||||||||||||||||||||
生産等設備とは | 法人の指定事業用に直接供される減価償却資産で構成されるもの。 従って、 本店、 寄宿舎等の建物附属設備、 福利厚生施設等は非該当 | ||||||||||||||||||||||||
特定経営力向上設備等とは | 経営力向上設備等(①生産性向上設備と②収益力強化設備)のうち経営力向上に著しく資する一定のもので、その法人の認定を受けた経営力向上計画に記載されたもの | ||||||||||||||||||||||||
①生産性向上設備 |
*1: ソフトウエア及び旧モデルがないもの(*1の販売開始要件を満たすこと)以外は、 同メーカーの旧モデル比で経営力の向上に資するものの指標(生産効率、 エネルギー効率、精度等)が年平均1%以上向上するものであること |
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②収益力強化設備 | 経済産業局の確認を受けた投資計画に記載された設備(機械装置、 工具、 器具備品、建物附属設備、及びソフトウエア)で投資利益率が年平均5%以上となることが見込まれるものであること | ||||||||||||||||||||||||
特別償却と税額控除との選択適用 | その普通償却限度額との合計で取得価額までの特別償却と、その取得価額の7%(特定中小企業者等では10%)の税額控除(但し、法人税額の20%が限度 (20%限度は、中小企業経営強化税制、中小企業投資促進税制及び経営改善設備投資促進税制における税額控除額の合計で20%)で、控除限度超過額は1年間繰越可能)との選択適用が認めるというものです。 | ||||||||||||||||||||||||
適用時期 | 同法の施行日(平成29年4月1日)から平成31年3月31日までの間の取得等。 |
(2) 中小企業投資促進税制
対象資産から器具備品が除外され、 適用期限が2年延長となります。
特別償却の種類 | 対象法人、 対象設備の範囲等 | 限度額 | |
特別償却等 | 税額控除 | ||
中小企業者等の機械等(平成10.6.1から31.3.31まで)
(①機械装置で、 1台又は1基で取得価額160万円以上、 ②ソフトウエアで70万円以上、 ③車両総重量3.5トン以上の貨物自動車、 ④内航船舶) 新品を指定事業に供する |
中小企業者等(資本金3千万円以下)で大規模法人(資本金1億円超の法人で、 単独所有で50%以上、 又は複数所有で3分の2以上の所有関係。 なお、 所有割合判定では、 親会社の同族関係者の持株等は考慮しません)の所有法人を除き、 常時勤務従業員数が1千人以下等)が新品の一定の機械装置等を取得し事業に供した場合には、特別償却、 又は税額控除の選択可(特別償却の適用要件としては、 資本金1億円以下の中小企業者等) | 基準取得価額の30%
(なお、 内航船舶の基準取得価額は、 実際の取得価額の75%相当額) |
次の①と②のいずれか少額の金額
①基準取得価額(内航船舶では、取得価額の75%相当額)の7% ②当期法人税額の20% (20%限度は、中小企業経営強化税制、中小企業投資促進税制及び経営改善設備投資促進税制における税額控除額の合計で20%) また、 ①>②のときには、 限度超過額を1年間の繰越控除可 |
(3) 特定中小企業者等の経営改善設備投資促進税制の期限延長
適用期限が2年延長となります。 その概要は以下のとおり。
(商業・サービス業・農林水産業の中小企業等の設備投資促進税制)
青色申告法人で指定事業を営む中小企業等が経営改善に関する指導及び助言を受けて行う店舗改修等に伴い器具備品及び建物附属設備の取得等を行なった場合、その取得価額に対して特別償却か税額控除かを選択適用できる制度(所得税についても同様の取扱い)。
適用期間 | 平成29年4月1日~平成31年3月31日の間に店舗改修等を行なった場合 |
指定事業 | 卸売業、 小売業、 サービス業、 農林水産業(性風俗関連特殊営業及び風俗営業を除く) |
適用要件 | 商工会議所、 認定経営革新等支援機関等による法人の経営改善に係る指導及び助言を受けて行う店舗改修等であること |
対象設備 | ① 器具備品: 1台又は1基の取得価額が30万円以上
② 建物附属設備: 1つの取得価額が60万円以上 |
特別償却額 | 対象設備の取得価額 X 30% |
税額控除額 | 対象法人は、 資本金3,000万円以下の中小法人等に限定 (但し、 認定経営革新等支援機関等は対象から除外)
対象設備の取得価額 X 7% (但し、 控除限度額は当期法人税額の20% (20%限度は、中小企業経営強化税制、中小企業投資促進税制及び経営改善設備投資促進税制における税額控除額の合計で20%)であり、 控除限度超過額は1年間の繰越可能) |
9.中小企業者等に係る法人税の軽減税率の特例の期限延長
中小企業者等に対して、所得800万円以下の部分につき、法人税率15%とする軽減税率の特例の適用期限が2年延長され、平成31年3月31日までの開始事業年度に適用となります。
10.地方拠点強化税制(オフィス減税)の拡充
(1)地方活力向上地域において特定建物等を取得した場合の特別償却又は税額控除制度における税額控除率を引き上げる措置の適用期限を1年延長する。
(2)雇用促進税制の特例について、無期雇用かつフルタイムの新規雇用等に対する税額控除額を上乗せする等の拡充を行う。
11.災害に関する税制上の措置
災害時における税制上の救済措置等が規定されました。
12.法人税の納税地異動における届出書
異動における届出書は、その移動後の納税地の所轄税務署長への届出は不要となります。
13.法人の設立届出書等
法人の設立届出書において、登記事項証明書の添付は不要となります。
14.特定資産の買換特例(9号買換特例)の適用期限の延長等
9号買換特例について、買換資産のうち、鉄道事業用車両運搬具が「貨物鉄道事業用の電気機関車」に限定した上で、適用期限を平成31年度末まで3年延長となります。
15.医療用機器の特別償却制度の用期限の延長等
適用対象機器の見直しを行った上で、適用期限を平成30年度末まで2年延長となります。
16.中小企業向け租税特別措置の適用停止
中小企業向け租税特別措置について、平均所得金額(前3事業年度の所得金額の平均額)が年15億円を超える事業年度においては、その租税特別措置の適用が停止となります。 適用は、平成31年4月1日以後開始事業年度からとなります。
以上。