2016年12月8日に与党が決定しました2017(平成29)年度税制改正大綱に関しまして、所得税に関する主な改正案の概要は、 以下のとおりです。
個人所得課税
1.配偶者控除及び配偶者特別控除の見直し
現行では、配偶者の合計所得金額が38万円以下(給与収入では103万円以下)の場合に配偶者控除38万円(老人控除対象配偶者48万円)、 並びに配偶者の合計所得金額が38万円超76万円未満の場合に配偶者特別控除が適用となっていましたが、 改正では、 配偶者控除は世帯主の年収に応じて縮小され、配偶者特別控除は配偶者の年収要件を103万円から150万円に引上げ、 かつ配隅者及び世帯主の年収に応じて控除額が以下の様に9段階で縮小となります。
適用は、 平成30年分以後(2018年1月から)の所得税からとなっています。
配偶者の収入金額 |
世帯主の収入・所得別控除額(金額単位:万円) |
収入 |
所得 |
収入 |
所得 |
収入 |
所得 |
収入 |
所得 |
1,120以下 |
900
以下 |
1,170以下 |
950
以下 |
1,220以下 |
1,000以下 |
1,220超 |
1,000超 |
配隅者
控除 |
103万円以下(所得金額で38万円以下)(注)
|
38(48) |
26(32) |
13(16) |
0 |
配偶者特別控除 |
103万円超
150万円以下(所得金額で38万円超85万円以下 |
38 |
26 |
13 |
0 |
155万円以下
(所得金額で90万円) |
36 |
24 |
12 |
0 |
160万円以下
(所得金額で95万円) |
31 |
21 |
11 |
0 |
167万円以下
(所得金額で100万円) |
26 |
18 |
9 |
0 |
175万円以下
(所得金額で105万円) |
21 |
14 |
7 |
0 |
183万円以下
(所得金額で110万円) |
16 |
11 |
6 |
0 |
190万円以下
(所得金額で115万円) |
11 |
8 |
4 |
0 |
197万円以下
(所得金額で120万円) |
6 |
4 |
2 |
0 |
201万円以下
(所得金額で123万円) |
3 |
2 |
1 |
0 |
201万円超
(所得金額で123万円) |
0 |
0 |
0 |
0 |
注:カッコ内の金額は、年齢70歳以上の老人控除対象配偶者の場合です。
2.非課税累積投資契約に係る非課税措置(積立NISA)の創設
居住者等が金融商品取引業者等の営業所に開設した非課税口座に累積投資勘定を設けた日に属する1月1日以後20年間の間に支払われる累積投資勘定にかかる年間40万円以内の公募等株式投資信託からの配当(当該金融商品取引業者等による支払事務の取扱いに限る)や譲渡所得(譲渡損失はないものとみなす)には、所得税及び個人住民税は課税させないという制度です。 つまり、非課税累積投資契約に係る積立NISAの上限は年間40万円で非課税期間が20年とするものです。
なお、積立NISAは、現行の非課税上場株式等管理契約にかかる非課税措置(NISA)と選択適用となります。
公募等株式投資信託とは、その受益権が金融商品取引所に上場等されているもの、又はその設定に係る受益権の募集が一定の公募によるものに限られます。
非課税口座に設けられた非課税管理勘定に他から移管される上場株式等の価額(払出し時の金額)の上限額を撤廃し、ジュニアNISAの移管についても同様となります。
改正の適用は、平成31年分以後の所得税(個人住民税は平成32年分以後)からとなります。
3.住宅の耐久性向上改修工事に対する特別控除の追加
(1)特定の増改築等に係る住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除特例
当該特例の適用対象となる工事に特定の省エネ改修工事と併せて行う一定の耐久性向上改修工事を加えるとともに、税額控除率2%の対象となる住宅借入等の範囲に当該耐久性向上改修工事の費用も加えられます。
一定の耐久性向上改修工事 |
①小屋裏、②外壁、③浴室、脱衣室、④土台、軸組等、⑤床下、⑥基礎若しくは⑦地盤に関する劣化対策工事、又は⑧給排水若しくは給湯管に関する維持管理若しくは更新を容易にするための工事で、一定の要件を満たすものをいう。
例えば、工事費用(補助金等があれば控除後)の合計額が50万円超であること。 |
改修工事証明書 |
建築士等の一定の指定機関からの証明書が必要 |
適用期間 |
増改築等をした居住用家屋を、平成29年4月1日から平成33年12月31日までの間に自己の居住用に供する場合に適用 |
(2)既存住宅に係る特定の改修工事における所得税額の特別控除特例
当該特例の適用対象となる工事に一定の耐久性向上改修工事で耐震改修工事又は省エネ改修工事と併せて行うものを加えるとともに、その控除額はそれぞれの改修工事に係る標準的な工事費用相当額の合計額(250万円(省エネ改修工事と併せて太陽光発電装置を設置する場合には350万円)を限度)の10%になります。
なお、耐震改修工事及び省エネ改修工事と併せて一定の耐久性向上改修工事を行った場合の控除額は、それぞれの改修工事に係る標準的な工事費用相当額の合計額(500万円(省エネ改修工事と併せて太陽光発電装置を設置する場合には600万円)を限度)の10%になります。
一定の耐久性向上改修工事 |
①小屋裏、②外壁、③浴室、脱衣室、④土台、軸組等、⑤床下、⑥基礎若しくは⑦地盤に関する劣化対策工事、又は⑧給排水若しくは給湯管に関する維持管理若しくは更新を容易にするための工事で、一定の要件を満たすものをいう。
例えば、工事費用(補助金等があれば控除後)の合計額が50万円超であること。 |
標準的な工事費用相当額 |
耐久性向上改修工事の種類ごとの標準的な工事費用額 X 当該耐久性向上改修工事の箇所数 |
適用期間 |
増改築等をした居住用家屋を、平成29年4月1日から平成33年12月31日までの間に自己の居住用に供する場合に適用 |
その他の適用要件 |
現行の本特例と同様 |
4.短期所有土地の譲渡等をした場合の土地の譲渡等に係る事業所得等の課税特例の延長
適用停止措置の期限を3年延長する。
5.優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税特例の延長
適用期限を3年延長する。
6.給与所得者等が使用者等から住宅借入金等のローン控除における利率の見直し
ローン控除の対象とならない利率は、現行の1%未満から0.2%未満に引下げる。
適用は、平成29年1月1日以後に居住用家屋を自己の居住用に供する場合からとなります。
7.災害に関する税制上の措置
災害により税制上の特例を受けられなくなった場合の救済措置が規定されました。 例えば、
(1)住宅借入金等を有する場合のローン控除の継続適用を認める。
(2)勤労者財産形成住宅(年金)貯蓄の払出しに伴う遡及課税を行わない
(3)買替資産等を予定期間等内に取得等をすることが困難となった場合には、その予定期間等を2年の範囲内で延長可とする。
8.肉用牛の売却による農業所得の非課税特例の延長
適用期限を3年延長する。
9.所得税の届出書の税務署長への提出不要
届出書名 |
提出不要となる税務署先 |
① 納税地の変更に関する届出書 |
その変更後の納税地の所轄税務署長 |
② 納税地の異動に関する届出書 |
その異動後の納税地の所轄税務署長 |
③ 個人事業の開業・廃業等届出書 |
その個人の納税地の所轄税務署長以外の税務署長 |
④ 給与支払事務所等の移転届出書 |
その移転後の給与支払事務所等の所在地の所轄税務署長 |
10.医療費控除等における提出証憑として領収書から明細書の提出変更
医療費控除、又は特定一般用医薬品等の購入による医療費控除の特例(セルフメディケーション税制)の適用を受けるには、現行の医療費・医薬品の領収書に代えて、その明細書を確定申告書の提出時に添付しなければならなくなりました。 当該領収書は、確定申告期限から5年間の保管義務があります。
適用は、平成29年分以後の確定申告書を平成30年1月1日以後に提出するものからとなります。 なお、経過措置として、平成29年分から平成31年分までの確定申告については、現行の領収書でもOKです。
11.指定都市における個人住民税率の変更
(1)個人住民税所得割の標準税率の変更
|
現行 |
改正 |
道府県民税 |
4% |
2% |
市民税 |
6% |
8% |
変更は、平成30年度分以後の個人住民税について適用とする。
(2)退職所得の分離課税に係る所得割の税率に関する特例
退職所得の分離課税に係る所得割の税率については、上記(1)にかかわらず、当分の間、現行どおりとする。 2%差額は自治体間で精算する。
12.雇用保険法の失業等給付等に対する非課税措置の継続
失業給付金等に対して、非課税措置の継続と税金の滞納処分による差押えの禁止とする。
以上です。