平成28年度(2016度)税制改正大綱: 消費税

自民・公明両党の税制調査会は、平成27年12月16日に平成28(2016)年度税制改正大綱を正式に決定した。 消費税に関して、 その主要改正項目の概要を以下に紹介します。

軽減税率制度の導入

消費税率10%への引き上げを平成29年(2017年)4月に実施されることに伴い、日々の生活で幅広い消費者が消費・利活用している物の消費税負担を軽くし、買い物の都度、痛税感の緩和を実感できる利点があるため、同日に軽減税率制度が導入されます。

軽減税率制度の概要は、以下のとおり。

対象品目 *酒類・外食を除く生鮮食品と加工食品

*定期購読契約が締結された週2回以上発行される新聞

税率 *軽減税率:8%(国分6.24%、地方分1.76%)

*標準税率:10%(国分7.8%、地方分2.2%)

請求書 *平成33年(2021年)4月から商品ごとの税額を示すインボイス(税額票)を導入

*それまでは経過措置として簡易な経理方式を認める

1.軽減税率8%の対象品目

(1)酒類・外食を除く飲食料品(生鮮食品と加工食品)の譲渡 ①飲食料品の譲渡とは、食品表示法に規定する食品の譲渡をいい、酒税法に規定する酒類及び外食サービスを除く。

②飲食料品と飲食料品以外の資産が一体となっている資産(一体商品)の取扱い

一体商品については、飲食料品には該当しません。

但し、一定金額以下の少額資産であって、その資産の主たる部分が飲食料品から構成されているものは、その全体を飲食料品として軽減税率の対象となります。

③飲食料品から除かれる外食

食品衛生法上の飲食店営業、喫茶店営業その他の食事の提供を行う事業を営む事業者が、一定の飲食設備のある場所等において行う食事の提供は、外食に当たりません。

(イ)8%軽減税率対象(外食に当たらない事例)

基本は、テイクアウト・持ち帰り・宅配の)場合であり、

牛丼屋・ハンバーガー店等のテイクアウト

そば屋等の出前、ピザ等の宅配

屋台での軽食(テーブル椅子等の飲食設備がない場合)、寿司屋等のお土産

コンビニ等での弁当・惣菜(イートン・コーナーのある場合であっても、持ち帰りが可能な状態で販売される場合

(ロ)10%標準税率対象(外食に当たる事例)

牛丼屋・ハンバーガー店等での店内飲食

そば屋等での店内飲食、ピザ等での店内飲食

フードコートでの飲食、寿司屋での店内飲食

コンビニのイートン・コーナーでの飲食を前提に提供される飲食料品(トレイに載せられて座席まで運ばれる、返却の必要がある食器に盛られた食品)、ケータリング・出張料理

(2)定期購読契約が締結された週2回以上発行される新聞の譲渡 一定の題号を用い、政治、経済、社会、文化等に関する一般社会的事実を掲載する週2回以上発行される新聞に限られます。
(3)保税地域から引き取られる課税貨物(上記(1)の飲食料品)
適用時期 平成29年4月1日以後に国内において事業者が行う資産の譲渡及び課税仕入れ、並びに保税地域から引き取られる課税貨物に適用

2.請求書の記載事項

軽減税率適用にあたり請求書の作成・記載事項等は、次の様になります。 平成33年4月に、インボイス制度として「適格請求書等保存方式」を導入しますが、 それまでの間は、簡素な方法として「区分記載請求書等保存方式」としています。

請求書等保存方式

(現行制度)

区分記載請求書等保存方式

(平成29年4月1日~)

適格請求書等保存方式

(インボイス制度)

(平成33年4月1日~)

①請求書発行者の氏名又は名称

②取引年月日

③取引の内容

④対価の額

⑤請求書受領者の氏名又は名称

①~⑤同左の記載 ①~⑤同左の記載
⑥軽減税率対象課税品目である旨(帳簿にも要記載)

⑦税率の異なるごとに合計した対価の額

(注)請求書の交付を受けた事業者による追記も可

同左の記載

⑦税率の異なるごとに合計した対価の額及び適用税率

⑧登録番号

⑨消費税額等

*売手に区分記載請求書の交付・保存義務は課されません。

*買手に区分記載請求書の保存を仕入税額控除の要件になりますが、追加記載事項(⑥と⑦)は買手が事実に基づき追記することが認められます。

偽りの請求書の交付行為に対しての罰則はありません。

*「適格請求書発行事業者」から交付を受けた「適格請求書」又は「適格簡易請求書」の保存が仕入税額控除の要件となります、「適格請求書等保存方式」(インボイス制度)が導入されます。

*適格請求書発行事業者には、「適格請求書」又は「適格簡易請求書」の交付・保存を義務付け、偽りの請求書の交付行為に対して罰則があります。

*「適格請求書発行事業者」とは、免税事業者以外の事業者であり、所轄税務署長に申請書を提出し、交付事業者として登録を受けた事業者です(登録番号を受領)。登録申請は、平成31年4月1日から登録制度が開始されます。 登録後、その氏名又は名称及び登録番号等はインターネット上で公開となります。

*「適格請求書」とは、上記事項を記載した請求書、納品書、その他これらに類する書類をいいます。

適格請求書交付義務の免除項目:

適格請求書発行事業者は免税事業者を除く他の事業者から求められたときには適格請求書を交付しなければなりませんが、次の課税資産の譲渡等は交付義務が免除されています。

(イ)公共交通機関の船舶、バスまたは鉄道による旅客の運送(但し、3万円未満に限る)

(ロ)媒介または取次ぎに係る業務を行う者(卸売市場、農業協同組合または漁業協同組合等)が委託を受けて行う農水産品の譲渡等

(ハ)自動販売機により行なわれるもの(但し、3万円未満に限る)

(ニ)その他請求書等の交付が困難な課税資産の譲渡等のうち一定のもの

適格簡易請求書の交付可能な事業者:

適格請求書発行事業者が、小売業、飲食店業、写真業、旅行業、タクシー業又は駐車場業等の不特定かつ多数の者に課税資産の譲渡等を行う一定の事業を行う場合には、適格請求書に代えて適格簡易請求書を交付することができます。 適格簡易請求書は、適格請求書と異なる点は、書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称が省略でき、又、消費税額等か適用税率のどちらかの記載とするところです。

3.

納付税額の計算方法

区分記載請求書等保存方式

 

現行通り、適用税率ごとに取引総額に110分の10、或いは108分の8を乗じて計算する「割戻し計算」を維持する。
適格請求書等保存方式

(インボイス制度)

適用税率ごとに取引総額に110分の10、或いは108分の8を乗じて計算する「割戻し計算」と、「適格請求書」に記載のある消費税額の「積上げ計算」のいずれかを選択できます。

但し、売上税額を「積上げ計算」する場合には、仕入税額も「積上げ計算」としなければなりません。

4.税額計算の特例

複数税率に対応した区分経理が困難な中小事業者や、大会社でもシステム整備が間に合わない事業者等が存在することを想定して、軽減税率制度を導入して一定の間は、「税額計算の特例」を認めています。

(1)売上税額の計算特例 

売上を税率ごとに区分することが困難な事業者の為に、売上税額の簡便計算に係る経過措置(売上税額の計算特例)が設けられています。

軽減税率対象品目の売上 = 売上 X 下記の計算に基づく軽減税率売上割合

対象 ① 仕入を管理できる卸売事業者及び小売事業者

(簡易課税制度の適用を受けない課税期間に限る)

② ①以外の事業者 ③ ①や②の計算が困難な事業者(主に軽減税率対象品目を販売する事業者が対象)
理由 仕入れた商品をそのまま販売する卸売業や小売業では、売上に占める軽減税率対象品目の売上の割合と、仕入に占める軽減税率対象品目の仕入の割合は概ね一致する。 仕入れた商品を加工して販売する場合、①の方法は不適切となる。 又、仕入の区分経理が行えない事業者は①を使用できない。 仕入の管理も、10日間の売上管理もできない場合、①や②の方法では売上税額を計算できない。
算式 軽減税率売上割合

=軽減税率対象品目の仕入額 ÷ 仕入総額

軽減税率売上割合

=通常の連続する10営業日軽減税率対象品目の売上額 ÷ 通常の連続する10営業日の売上総額

軽減税率売上割合

= 50%

利点 仕入の管理が可能であれば、売上税額を計算できる。 通常の連続する10日間営業日の売上管理・把握できれば容易に売上税額を計算できる。 売上や仕入の管理ができなくとも売上税額を計算できる。

特例の適用対象事業者及び適用時期

特例の適用対象事業者 適用時期
基準期間の課税売上高が5千万以下の事業者 平成29年4月の軽減税率制度の導入から4年間、特例を選択できる。
基準期間の課税売上高が5千万超の事業者 平成29年4月の軽減税率制度の導入から1年間、特例を選択できる。

(2)仕入税額の計算特例

仕入れを税率ごとに区分することが困難な事業者の為に、仕入税額の簡便計算に係る経過措置(仕入税額の計算特例)が設けられています。

軽減税率対象品目の仕入 = 仕入 X 下記の計算に基づく軽減税率仕入割合

対象 ① 売上を管理できる卸売事業者及び小売事業者

(売上税額の計算特例①の選択、及び簡易課税制度の適用を受けない課税期間に限る)

② ①の計算が困難な事業者
理由 仕入れた商品をそのまま販売する卸売業や小売業では、売上に占める軽減税率対象品目の売上の割合と、仕入に占める軽減税率対象品目の仕入の割合は概ね一致する。 ①の方法では仕入税額を計算できない事業者の存在
算式 軽減税率仕入割合

=軽減税率対象品目の売上額 ÷ 売上総額

事後選択により「簡易課税制度」(又は「簡易課税に準じた方法」)の適用を受けられる。
利点 売上の管理が可能であれば、仕入税額を計算できる。 売上や仕入の管理ができなくとも売上税額を計算できる。

特例の適用対象事業者及び適用時期

特例の適用対象事業者 適用時期
基準期間の課税売上高が5千万以下の事業者 * 平成29年4月1日から平成30年3月31日の属する課税期間の末日までの期間が対象期間となります。 従って、3月末決算法人以外の法人では、通常、2つの課税期間が含まれることから、当2期の課税期間について特例が適用できます。

* 事後選択により「簡易課税制度」を適用できる(対象となる課税期間の末日までに同制度の適用を受ける旨の届出書を提出すれば、その提出日の属する課税期間から適用が認められます。

基準期間の課税売上高が5千万超の事業者 * 平成29年4月1日から平成30年3月31日の属する課税期間の末日までの期間が対象期間となりますが、平成29年4月1日を跨ぐ課税期間では、同日より前の期間分(平成29年3月31日以前の期間分)の税額については特例が適用できず、通常通りの計算をしなければなりません。

* 事後選択により「簡易課税に準じた方法」で仕入税額を計算できる(対象となる課税期間の末日までに同特例の適用を受ける旨の届出書を提出すれば、その提出日の属する課税期間から適用が認められます。

5.免税事業者からの仕入税額控除

区分記載請求書等保存方式

 

免税事業者からの仕入についても、仕入税額控除できる。
適格請求書等保存方式

(インボイス制度)

原則、免税事業者からの仕入は、仕入税額控除ができないが、次の特例が認められています。
平成33年4月~平成36年3月までの3年間 仕入税額相当額の80%控除
平成36年4月~平成39年3月までの3年間 仕入税額相当額の50%控除

以上

2016年2月15日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant