約120年ぶりの民法の抜本改正(今回の大部分は債権法の関する改正)が平成29年5月26日に成立しました。 施行期日は公布日から3年以内に政令で定める日とされており、平成32年頃の施行とみられています。 その中でポイントなる主な改正内容は、以下のとおりです。
改正項目 | 主な改正内容 | |
消滅時効期間の統一
(短期消滅時効の廃止) |
改正前 | 職業別に、 飲み屋さんのツケは1年で時効消滅、小売商のツケや学習塾の授業料、弁護士報酬債権は2年、医師・助産師の診療報酬債権は3年で時効消滅と、 短期消滅時効のものがありました。一般的な債権の消滅時効期間が、「権利行使できる時から10年間」と決められていました。 |
改正後 | 改正前の様に区別をすることの合理性が疑われてきたため、改正ではこれらの職業別の短期消滅時効が廃止され、これらの債権は他の債権と同様、消滅時効期間は、「権利行使できる時から10年」という従来の一般原則に加えて、「権利行使できると知った時から5年」の時効期間が追加され統一されることになりました。 つまり、時効の完成を主張する側が、権利者が権利行使できると知っていたことを主張・立証できれば、5年で時効完成するということです。 | |
法定利率の引き下げと変動利率の導入 | 改正前 | 当事者で定めの無い場合に使用される利率(これを法定利率)であり、年5%となっていました(法律の範囲内であれば利率を当事者間で決めることができる、約定利率とは異なります)。 |
改正後 | 利率を現実の利回りに少しでも近づけようとするもので、法定利率を3%に引き下げ、市場金利との乖離を少なくするため、その後3年ごとに1%刻みで見直す変動制への移行となりました。 | |
企業融資で求められる保証人の制限・保護の強化 | 改正前 | 企業への融資の場面でも個人が保証人になることには制限がなく自由でした。 |
改正後 | 事業資金の借入れについて個人が保証人になるということは、予期しない負担を強いられ過大な負担が生じる危険がありましたので、その保証人の制限・保護が図られる規定となりました。
① 個人根保証は、金額の枠(極度額)を定めないときは無効となります。 ② 事業のための債務についての個人(根)保証は、その締結の前1か月以内に作成された公正証書で保証人となろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ無効となります。 第三者を連帯保証人とする場合は、1か月前以内に公証人役場で、保証債務を履行する意思を表示して記録することが必要というものです。 ③ 事業のための債務についての個人(根)保証は、主たる債務者である団体の取締役等、支配社員等、事業に現に従事する主たる債務者の配偶者に限定されます。 保証人の範囲を制限するもので、これらにあたらない第三者は事業のための融資を受ける際の保証人とはなれない、とする規定です。 |
|
敷金は原則返還及び賃借物の現状回復義務 | 改正前 | 敷金についての規定がありませんでした。 |
改正後 | 過去の裁判例をもとに敷金についての規定が新たに追加となりました。 マンションやアパートを借りる際に払う敷金に関しまして、これまで不明瞭な点も多くトラブルにもなってきましたので、明確な追加規定ができました。
敷金の返還義務及び賃借物の現状回復義務が規定されました。 ① 敷金を「賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」と定義し、「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」は、「賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭債務の額を控除した残額を返還しなければならない」 ② 更に、「賃借人は、賃借物を受け取った後に生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に回復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない」 |
|
定型約款の新設 | 改正前 | 約款についての規定がありませんでしたので、当事者の意思を尊重するという観点から、約款に書いてあるからといって必ずしも当事者がそれに拘束されるわけではありませんでした。 |
改正後 | 定型約款を定義し、その「定型約款」について、不当条項や、変更の場合の規制が行われようになりました(定型的な取引など一定の場合には約款も契約の内容として効力をもつようになります)。 また、この特定約款の条項については、消費者は、消費者契約法10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効とする規定)のどちらかを選んで主張できるとされました。 どんな内容の約款でも有効というものではなく、相手の権利を制限したり義務を加重する規定の場合、社会通念上の信義に反して相手の利益を一方的に害するものには効力はなく無効とみなすものとなります。 | |
瑕疵担保責任は契約責任説を採用 (購入商品に問題があった場合の責任) | 改正前 | 購入した商品に欠陥があった場合、契約の解除か損害賠償請求についてしか規定がありませんでした。 |
改正後
|
欠陥商品に対し不都合ということで、更に明文で規定されることになりました。
契約の当事者間で契約の趣旨にあった品質を満たしていなければ、売主は契約上の責任を負い、買主は契約の解除、損害賠償請求に加え、修理や代金減額も請求できることになりました。 商品などに欠陥があることを「瑕疵(かし)」表現されていましたが、改正では瑕疵という言葉はなくなり「不適合(ふてきごう)」と表現されることになりました。 |