1.中小企業の事業承継制度の特例の創設
(1)非上場株式等に係る贈与税・相続税の納税猶予の特例制度の創設
現在、事業承継税制度が存在していますが、同種の特例制度が創設され、平成30年1月1日から平成39年12月31日までの10年間に贈与等に取得する財産に係る贈与税又は相続税について適用されることになりました。
① 「特例後継者」が、「特例認定承継会社」の代表権を有していた者から、贈与又は相続若しくは遺贈(贈与等)がその非上場株式を取得した場合には、その全株の課税価格に対応する贈与税又は相続税の全額について、その特例後継者の死亡日等まで納税を猶予されます。納税猶予対象の株式制限(現行:発行済議決権株式総数の3分の2)を撤廃し、納税猶予割合が80%から100%に引上げられます。
「特例後継者」とは | 特例認定承継会社の「特例承認計画」に記載された代表権を有する後継者(同族関係者と合わせてその総議決権数の過半数を有する者に限る)であって、当該同族関係者のうち、議決権を最も多く所有する者(記載された後継者が2名又は3名以上の場合には、議決権数において、それぞれ上位2名又は3名(但し、議決権数の10%以上を所有する者に限る)をいう。 |
「特例認定承継会社」とは | 平成30年4月1日から平成35年3月31日までの間に特例承認計画を都道府県に提出した会社で、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律第12条第1項の承認を受けたものをいう。 |
「特例承認計画」とは | 認定経営革新支援機関の指導及び助言を受けた特例認定承継会社が作成した計画で、特例認定承継会社の後継者、承継時までの経営見通し等が記載されたものをいう。 |
② 特例後継者が特例認定承継会社の代表者以外の者から贈与等により取得する非上場株式についても、特例承認期間(5年)内に贈与等に係る申告書の提出期限が到来するものに限り、本特例の対象となります。
③ 現行の事業承継税制における雇用確保要件(5年間平均で8割以上の雇用確保)を満たさない場合であっても、納付猶予期限は到来しません。但し、その場合には、その満たせない理由を記載した書類(認定経営革新支援機関の意見が記載されているものに限る)を都道府県に提出しなければならない。なお、その理由が、経営状況の悪化である場合又は正当なものと認められない場合には、特例認定承継会社は、認定経営革新支援機関から指導及び助言を受けて、当該書類にその内容を記載しなければならない。
④ 「経営環境の変化を示す一定の要件を満たす場合」において、特例承継期間経過後に、特例認定承継会社の非上場株式の譲渡をするとき、合併により消滅するとき、解散をするとき等には、納税猶予税額を免除されます。
株価が下がれば差額が免除される減免制度が創設されます。
⑤ 特例後継者が贈与者の推定相続人以外の者(その年1月1日現在で20歳以上であること)であり、かつ。その贈与者が60歳以上である場合には、相続時精算課税を選択できます。
⑥ その他の適用要件等は、現行の事業承継税制と同様です。
(2)現行の事業承継税制の見直し
代表者以外の複数の贈与者からの贈与等を対象とすることになります。
2.一般社団法人等に関する相続税・贈与税の見直し
持分のない一般社団法人又は一般財団法人を利用して財産を移転することによる課税逃れの防止規定が定められました。
(1)一般社団法人等に対して贈与等があった場合の贈与税等の課税の見直し
個人から一般社団法人又は一般財団法人(公益社団法人等、非営利型法人その他の一定の法人は除外)に対して財産の贈与等があった場合の贈与税等の課税は、贈与税等の負担が不当に減少することにならないとされる現行の適用要件(役員等に占める親族等の割合が3分の1以下である旨の定款の定めがあること等)のうちいずれかを満たさない場合に贈与税等が課税されます。
この適用は、平成30年4月1日以後の贈与又は遺贈による贈与税又は相続税について行われます。
(2)特定の一般社団法人等に対する相続税の課税
① 「特定一般社団法人等」の役員(理事に限る)である者(相続開始前5年以内のいずれかの時において特定一般社団法人等の役員も含む)が死亡した場合には、当該法人等の純資産額をその死亡時の「同族役員」(被相続人を含む)の数で割った金額を当該被相続人からのみなし遺贈として、当該法人等に相続税が課されます。
② 上記の相続税が課された場合には、贈与等により贈与税が課されていた時にその贈与税額は相続税額から控除されます。
「特定一般社団法人等」とは、いずれかに該当する場合をいう | ① 相続開始の直前における同族役員数の総役員数の2分の1超の場合 ② 相続開始前5年以内において、同族役員数の総役員数の2分の1超の期間が3年以上であった場合 |
「同族役員」とは | 一般社団法人等の理事のうち、被相続人、その配偶者又は3親等内の親族その他当該被相続人と特殊の関係がある者(被相続人が会社役員となっている会社の従業員等) |
改正の適用時期 | 平成30年4月1日以後の一般社団法人等の役員の死亡に係る相続税について適用となります。但し、同日前に設立されている一般社団法人等は平成33年4月1日以後の適用とし、平成30年3月31日以前の期間は、②の2分の1超の期間に該当しないものとなっています。 |
3.特定の美術品に係る相続税の納税猶予制度の創設
個人が、一定の美術館と特定美術品の長期寄託契約を締結し、文化財保護法に規定する保存活用計画の文化庁長官の認定を受けてその美術(寄託美術館)にその特定美術品を寄託した場合において、その者が死亡し、その特定美術品を相続又は遺贈により取得した者(寄託相続人)がその長期寄託契約及び保存活用計画に基づき寄託を継続したときは、担保の提供を条件に、その寄託相続人が納付すべき相続税額のうち、その特定美術品の課税価格の80%の相続税を猶予することになります。
寄託相続人が死亡した場合は、猶予税額が免除となります。
4.農地等に係る相続税・贈与税の納税猶予制度の見直し
(1)一定の貸付された生産緑地についても相続税の納税猶予が適用となります。
(2)三大都市圏の特定市以外の地域内の生産緑地について、営農継続要件を終身(現行:20年)とします。
(3)特例農地等の範囲に、特定生産緑地である農地等及び三大都市圏の特定市の田園居住地域内の農地が加えられます(贈与税の納税猶予も同様)。
(4)特定生産緑地の指定又は指定の期限延長されなかった生産緑地については、現在の納税猶予に限り、その猶予を継続とします(贈与税の納税猶予も同様)。
5.小規模宅地等についての相続税の課税価格計算特例の見直し
小規模宅地等の特例に対し、本来の趣旨を逸脱し節税する課税逃れにメスが入りました。
(1)家なき子(持ち家に居住していない者)に係る特定居住用宅地等の特例対象者の範囲からの除外者
改正は、平成30年4月1日以後の相続又は遺贈による相続税につて適用となります。
① 相続開始前3年以内に、その者の3親等内の親族又はその者と特別の関係がある法人が所有する国内にある家屋に居住したことがある者
② 相続開始時において居住用家屋を過去に所有していたことがある者
(2)貸付事業用宅地等の範囲から、相続開始前3年以内に貸付事業用の宅地等(相続開始前3年を超えて事業的規模で貸付事業を行っている者の貸付事業用のものは除く)を適用外とする。但し、平成30年3月31日以前から貸付事業用の宅地には適用されません。
(3)介護医療院に入所したことにより被相続人の居住用に供されなくなった家屋の宅地等について、相続の開始直前まで被相続人の居住用とされていたものとして本特例の適用となります。
6.非居住者の国外財産の非課税範囲の見直し
相続開始又は贈与時に国外に住所を有する日本国籍等を有しない者等が、国内に住所を有しなくなった時以前15年以内において国内に住所を有していた期間の合計が10年超の被相続人又は贈与者(当該期間中も日本国籍を有していない者で、当該相続開始又は贈与時に国内に住所を有していない者に限る)から、相続若しくは遺贈又は贈与により取得する国外財産については、相続税又は贈与税を課さないことになります。但し、当該贈与者が、国内に住所を有しなくなった日から同日以後2年を経過する日までの間に国外財産を贈与した場合において、同日までに再び国内に住所を有することとなったときにおける当該国外財産に対する贈与税は課税されます。
改正は、平成30年4月1日以後からの相続若しくは遺贈又は贈与から適用となります。
7.相続税の申告書の添付書類範囲の見直し
平成30年4月1日以後に提出する申告書の添付書類から、戸籍謄本の原本ではなく複写でもよいことになります。