パート主婦(短時間労働者)の中で年間パート給与収入が一定額を超えると税金、社会保険料等の負担増になることから就業調整するケースを聞くことがあります。いわゆる「年収の壁」と言われていますが、税制改正などにより令和7年度から、その年収の壁が多少ですが上昇していますので紹介したいと思います。
以下は、年間給与収入額に対する各種の年収の壁を纏めてみたものです。
(パート年間給与収入額 | 影響する項目 | 影響する人 | 影響する内容 |
---|---|---|---|
106万円未満 | 社会保険 | パート者本人 | 社会保険に加入義務なし |
106万円以上 | 社会保険加入 | 従業員数51人以上の企業に勤務しているパート者本人(週の所定労働時間20時間以上等の加入要件対象者) | パート者本人が社会保険に加入義務発生。今後、社会保険加入対象者の適用拡大予定(注1参照) |
110万円以下 | 住民税 | パート者本人 | 住民税は非課税内 |
110万円超 | 住民税 | パート者本人 | 住民税が発生する |
123万円以下 | 夫の配偶者控除 | 夫 | 夫の配偶者控除(38万円満額控除):但し、夫の給与収入額が10百万以下のケース(注2参照) |
123万円超~ 160万円以下 | 夫の配偶者特別控除 | 夫 | 夫の配偶者特別控除(38万円満額控除) |
160万円超~ 201.6万円以下 | 夫の配偶者特別控除 | 夫 | 夫の配偶者特別控除(収入額の増加に応じて、36万円から減額されていき3万円控除) |
201.6万円超 | 夫の配偶者特別控除 | 夫 | 夫の配偶者特別控除(控除額0円となる) |
130万円以下 | 夫の社会保険の被扶養者基準 | パート者本人(既に、社会保険加入者は除く) | 夫の社会保険の被扶養者として、パート者本人は第3号被保険者を継続 |
130万円超 | 夫の社会保険の被扶養者基準 | パート者本人(既に、社会保険加入者は除く) | 夫の社会保険の被扶養者基準であり、本人が第3号被保険者から外れ、パート者本人の社会保険料(国民年金・国民健康保険料等)への加入が必要となる |
160万円以下 | 所得税課税 | パート者本人 | 所得税は非課税内 |
160万円超 | 所得税課税 | パート者本人 | 所得税が発生する |
以上から、今後の適用改正が無い限り、通常、年間パート給与収入は、130万円以下ならば、給与所得課税、社会保険料、配偶者控除・特別控除にも影響しないことになります。
注1:社会保険加入条件
A. 短時間労働者の社会保険加入条件
2025年9月現在、パート・アルバイトなどの短時間労働者が社会保険の加入対象者の加入要件は、以下の5項目の全てを満たす場合となっていました。
短時間労働者の社会保険の加入条件:
①週の所定労働時間が20時間以上(残業時間は含まれません)
②賃金が月額8.8万円以上(年間106万円)(残業代や賞与、通勤手当、臨時の手当は含まれません)
③従業員数51人以上の企業に勤務している
④2カ月を超える雇用の見込みがある
⑤学生でない(学生は加入対象外ですが、休学中や定時制、通信制の学生は加入対象となります)
今回の改正では、②の賃金要件と③の企業規模要件の2つとなっています。
②の賃金要件は、3年以内の政令で定める日で撤廃となります。
③の企業規模要件は、現行の従業員数51人以上から、次の様に段階的に縮小していきます。
施行時期 | 企業規模要件 |
---|---|
2027年10月から | 従業員数 36人以上 |
2029年10月から | 従業員数 21人以上 |
2032年10月から | 従業員数 11人以上 |
2035年10月から | 従業員数 1人以上(全ての企業対象) |
上記の短時間労働者の加入要件の見直しのほか「個人事業所の適用対象の拡大」と「新たに加入対象となる短時間労働者および事業主への支援」もおこなわれます。
個人事業所における適用範囲の拡大:
現在、常時5人以上の従業員を雇用する個人事業所は、法律で定める17業種に当てはまる場合は社会保険に加入しますが、農業、林業、漁業、飲食サービス、宿泊業などの業種は加入対象外となっています。しかし2029年10月から、常時5人以上の従業員を雇用している場合には、全ての業種が加入対象となります。なお、2029年10月時点ですでに存在している事業所は、当分のあいだ対象外となります。
今回の改正法により、新たに社会保険の加入対象となるパート・アルバイトなどの短時間労働者、そして社会保険料を追加負担することとなる事業主に対し、経済的な支援が実施されます。短時間労働者に対しては、3年間事業主が追加負担することで、社会保険料の負担を軽減できる措置が、事業主に対しては追加負担した保険料について、国などが全額を支援します。
B. 通常の常時雇用者の社会保険加入条件:
社会保険に加入するための条件は、主に雇用形態、勤務時間等に基づいていますが、企業で働く従業員は、次のいずれかの条件に該当する場合、健康保険および厚生年金保険(いわゆる社会保険)への加入が義務付けられます。
①常時雇用されている従業員(注)であること
注:「常時雇用」とは、長期的・継続的に雇用されている、またはその見込みがある状態を指します。具体的には、以下のようなケースが該当します。
• 雇用契約に期間の定めがない(無期雇用)
• 有期契約であっても、過去1年以上継続して雇用されている
• 又は、雇用時点で1年以上の継続雇用が見込まれる
②週の所定労働時間および所定労働日数が、正社員の4分の3以上(4分の3基準)
であること
C. 社会保険加入から除外される雇用者:
以下のいずれかに該当する人は、厚生年金保険および健康保険に加入することができません。
厚生年金保険・健康保険共通:
・継続雇用期間が1カ月以内の日雇い労働者
・2カ月以内の期間を定めて使用される人
・所在地が一定しない事業所に使用される人
・雇用期間4カ月以内で、季節的業務に使用される人
・雇用期間6カ月以内で、臨時的事業の事業所に使用される人
・船員保険の被保険者の人
・国民健康保険組合の事業所に使用される人
健康保険のみ:
・75歳以上の後期高齢者医療制度の被保険者の人
厚生年金保険のみ:
・70歳以上の人
注2:配偶者控除及び配偶者特別控除の控除額の変動
配偶者控除及び配偶者特別控除は、配偶者の所得金額の並びに給与所得者(夫)の所得金額に応じて控除金額が決まっています。給与所得者(夫)の所得金額が1,000万円超(給与収入額で1.195万円になりますと、いずれの控除額はゼロとなります。