令和3年度(2021年度)年末調整における主な改正・変更ポイント

年末調整に時期が近づいてきましたが、令和3年度に新たに影響する特別は税制改正事項がありませんが、前年度(令和2年度)には多くの改正事項がありましたので、再度、その主な内容を確認しておきたいと思います。
A. 令和2年度より主な改正事項
① 給与所得控除・公的年金等控除の減額から基礎控除の増額への振替
② 給与所得控除の見直し(減額)
③ 公的年金等控除の見直し(減額)
④ 基礎控除の見直し(増額)

1.給与所得控除の見直し
イ 給与所得控除額を一律10万円引下げ
ロ 給与所得控除額の上限が、給与等の収入金額850万円で195万円に引下げ

給与等の収入金額給与所得控除額
令和元年度令和2年度以降
162.5万円以下65万円55万円
162.5万円超 ~ 180万円以下収入金額X40%収入金額X 40%-10万円
180万円超 ~ 360万円以下収入金額X 30%+18万円収入金額X 30%+8万円
360万円超 ~ 660万円以下収入金額X 20%+54万円収入金額X 20%+44万円
660万円超 ~850万円以下収入金額X10%+120万円収入金額X10%+110万円
850万円超 ~ 1,000万円以下195万円(上限)
1,000万円超220万円(上限)

2.公的年金等控除の見直し
イ 公的年金等控除額を一律10万円引下げ
ロ 公的年金等の収入金額1千万円超における公的年金等控除額の上限が1,955千円
ハ 公的年金等の雑所得以外の合計所得金額に対する公的年金等控除額の引下げ

公的年金等の雑所得以外の合計所得金額 公的年金等控除額の引下金額
1千万円以下無し
1千万円超~2千万円以下一律、10万円引下げ
2千万円超一律、20万円引下げ

3.基礎控除額の見直し
イ 基礎控除額を一律10万円引上げ
ロ 合計所得金額が2,400万円超から逓減

合計所得金額(注)基礎控除額
令和元年度令和2年度以降
所得税住民税所得割所得税住民税所得割
2,400万円以下38万円33万円48万円43万円
2,400万円超~2,450万円以下32万円29万円
2,450万円超~2,500万円以下16万円15万円
2,500万円超

注:年末調整において、基礎控除の適用を受ける場合に見積額を基礎控除申告書で申告する。
地方税においては、前年の合計所得金額で判定する。

4.所得金額調整控除
以下のいずれかの要件に該当する場合(子育て世帯や介護世帯)には、負担増とならないように一定額を給与所得から控除します(控除額の緩和で夫婦双方での適用可)。
(1)給与等の収入金額が850万円超の居住者の中で、
① 特別障害者である者
② 年齢23歳未満の扶養親族を有する者
③ 特別障害者である同一生計配偶者又は扶養親族を有する者
給与所得から控除額(所得金額調整控除額) ={給与等の収入金額(上限1千万円)- 850万円}X 10%
給与等の収入金額が1千万円以上の場合には、所得金額調整控除額は15万円(最高)。
(2)給与所得控除後の給与等の金額及び公的年金等に係る雑所得の金額とがある居住者で、その合計額が10万円超の場合には、
給与所得から控除額(所得金額調整控除額)={給与所得控除後の給与等の金額(上限10万円)+ 公的年金等に係る雑所得の金額(上限10万円)}- 10万円
給与所得の金額 = 給与等の収入金額 − 給与所得控除額 − 所得金額調整控除額(最高10万円)
注:公的年金等に係る確定申告不要制度において、当所得金額調整控除を給与所得の金額から控除するものとする。

5.各種合計所得金額要件の見直し

項目 令和元年度令和2年度以降
同一生計配偶者及び扶養親族の合計所得金額要件38万円以下48万円以下
源泉控除対象配偶者の合計所得金額要件85万円以下95万円以下
配偶者特別控除の対象となる配偶者の合計所得金額要件38万円超~123万円以下48万円超~133万円以下とし、配偶者の合計所得金額の区分を、それぞれ10万円引下げる
勤労学生の合計所得金額要件65万円以下75万円以下

B. 所得控除額の確認
所得の合計額から控除できるもの(所得控除)には、次の15種類があります。
(1) 人的控除
① 基礎控除:全ての人が基本48万円の控除(所得制限あり)
  ② 扶養控除:扶養親族がいる場合には一定額の控除
  ③ 配偶者控除:控除対象配偶者がいる場合には一定額の控除
  ④ 配偶者特別控除:1,000万円以下の合計所得金額である人が生計を一にする配偶者がいる場合には一定額の控除(上記の③の控除と重複できない)
  ⑤ 勤労学生控除:本人が勤労学生である場合には27万円の控除
  ⑥ ひとり親控除:一定の要件を満たす場合には35万円の控除
  ⑦ 寡婦控除:一定の要件を満たす場合には27万円の控除
  ⑧ 障害者控除:本人、控除対象配偶者、扶養親族が障害者である場合には、それぞれに一定額の控除

(2) 物的控除
  ⑨ 寄付金控除:本人が特定の寄付金を支出した場合には一定額の控除
  ⑩ 生命保険料控除:生命保険料を支払った場合には、一般、 介護と個人年金とに区分して一定額の控除
  ⑪ 地震保険料控除:常時住んでいる家屋や家財等の地震保険料を支払った場合に   は一定額の控除
  ⑫ 小規模企業共済等掛金控除:当掛金を支払った場合には全額の控除
  ⑬ 社会保険料控除:1年間に支払った保険料は全額の控除
  ⑭ 医療費控除:本人や同一生計の親族の医療費を支払った場合には一定額の控除
  ⑮ 雑損控除:資産が災害、盗難などにより損害を受けた場合には、損失額が
    一定額を超えた分の控除
人的控除を一覧にすると以下のようになります。

人的控除項目対象者控除額本人の所得要件等
基礎控除 本人48万円合計所得金額24百万円以下。超える場合には、段階的に控除額減額(25百万円超でゼロ円)
扶養控除生計を一にし、 かつ、 年間所得が48万円以下である親族等(扶養親族)を有する者(事業専従者は除く)
年少扶養親族年齢が16歳未満
(所得税上は控除金額はありませんが、 住民税上では控除対象となりますので、 申告書上の住民税に関する事項の所に扶養者名等の記載をお忘れなく)
0万円
一般扶養親族年齢が16歳以上19歳未満又は23歳以上の70歳未満 38万円非居住者の場合には、原則、30歳以上70歳未満を除く
特定扶養親族年齢が19歳以上23歳未満63万円
老人扶養親族 年齢が70歳以上(非同居)48万円
(同居老親等加算) 直系尊属であり同居を常況 + 10万円
配偶者控除(注1)生計を一にし、 かつ、 年間所得が48万円以下である配偶者を有する者(事業専従者は除く)
(一般控除対象) 年齢が70歳未満 38万円
(老人控除対象)年齢が70歳以上48万円
配偶者特別控除
(注1)
生計を一にする年間所得が48万円を超え133万円未満である配偶者(事業専従者は除く) 最高38万円(年間所得に応じて)年間所得1,000万円以下
勤労学生控除 本人が学校教育法に規定する学校の学生、 生徒等27万円年間所得75万円以下かつ給与所得以外が10万円以下
寡婦控除
(ひとり親に該当しない方)
夫と離婚した者、 扶養親族(子以外:子を有する場合にはひとり親控除の適用)を有する者かつ住民票に夫(未婚)・妻(未婚)記載なし
又は、扶養親族無しで夫と死別した者又は生死不明である者かつ住民票に夫(未婚)・妻(未婚)記載なし
27万円年間所得500万円以下(給与収入678万円以下)
ひとり親控除①未婚(離婚後、死別後を含む、及び生死不明な配偶者がいる方も含む)のひとり親であり、②生計を一にする子の総所得金額等の金額が48万円以下であること
③未婚のひとり親が入籍しない事実婚の世帯であっても住民票に事実婚の旨「夫(未婚)・妻(未婚)」を登録記載されていないこと
35万円年間所得500万円以下(給与収入678万円以下)
障害者控除障害者である者
障害者である同一生計配偶者又は扶養親族者
27万円
(特別障害者)特別障害者である者
特別障害者である同一生計配偶者又は扶養親族者
40万円
(同居特別障害者)特別障害者である同一生計配偶者又は扶養親族と同居を常況としている者75万円

普通障害者・特別障害者の区分例:

障害の内容普通障害者特別障害者
精神に障害がある方で精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている方右の等級以外の方精神障害者保健福祉手帳の障害の等級が1級の方
身体上の障害がある方で身体障害者手帳の交付を受けている方障害の程度が3級から6級の方障害の程度が1級又は2級の方

注1:配偶者控除及び配偶者特別控除の見直し
配偶者の合計所得金額が48万円以下(給与収入では103万円以下)の場合に配偶者控除38万円(老人控除対象配偶者48万円)、 並びに配偶者控除は世帯主の年収に応じて縮小され、配偶者特別控除は配偶者の年収要件を103万円から150万円に引上げ、 かつ配隅者及び世帯主の年収に応じて控除額が以下の様に9段階で縮小となります。

配偶者控除等に関する源泉徴収及び確定申告における見直し
(1)給与等又は公的年金等の源泉徴収における源泉控除対象配偶者に係る控除適用は、夫婦いずれか一方しか適用できません。
(2)居住者の配偶者が、公的年金等の源泉徴収において源泉控除対象配偶者の適用を受け、かつ、公的年金等に係る確定申告不要制度を受ける場合には、その居住者は確定申告において配偶者特別控除の適用を受けることはできません。

C. 給与所得者の年末調整
1. 年末調整とは
会社等の給与支払者(源泉徴収義務者)は、給与等の支払時に所定の源泉所得税を徴収しています。この源泉所得税は事前の条件下での計算に基づくものであり、一種の仮計算による前払税金ですので、この仮計算を最終条件に基づいての再計算(年税額を確定する手続)が年末調整です。具体的には、給与支払者は暦年(1月~12月)の総給与額に対して12月の最終給与支払日に最終条件に基づいて再計算し、徴収していた総源泉所得税の過不足を調整(精算)します。
通常のサラリーマンは、事業者が行うこの年末調整で給与収入の納税手続きは完了(事務処理・対応の緩和)となり、個人が行う確定申告は不要となりますので、税制度の内容に触れることが少ないことから税知識の理解不足に繋がっている感があります。

2. 年末調整の対象者又は非対象者
年末調整の対象者は、 原則として会社に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している人は全員含まれます。 但し、 給与収入額が2千万円を超える人は年末調整を行ないませんので自身の所得税確定申告を通じて年税額の精算をしなければなりません。 通常、 1カ所から給与支給を受けている人は、 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出し年末調整を受けることになります。

次の人は年末調整の対象者にはなりません。
(1) 年中の給与収入額が2千万円を超える人
(2) 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していない人(年末調整を行うことができませんが、 支払の際の源泉徴収においては乙欄の税額表が適用となっています)
(3) 年中に退職(死亡退職した人、 非居住者として国外勤務者となった人、 等を除く)した人
(4) 国内に住所も1年以上の居所を有していない人(非居住者)
(5) 災害免除法の規定により源泉徴収について徴収猶予や還付を受けた人
(6) 日雇労働者等(丙欄の税額表適用者)

この様に一般のサラリーマンの方は、この年末調整を給与支払者から受けることで、その年の所得税は確定しますので、原則として確定申告は必要ありません。年末調整の対象外の方や、年末調整の一部処理洩等の方は、通常、その年の翌年の2月15日から3月15日の間に確定申告を行います。

3. 年末調整のスケジュール
一般的な年末調整のスケジュール(流れ)は、以下のようになります。

11月上旬必要書類の準備および従業員への事前案内
中旬従業員への年末調整用の提出書類の案内  注1
下旬年末調整用書類の回収
12月上旬回収書類のチェック
中旬年末調整計算
下旬給与支給(年末調整の還付又は追徴)
翌年1月10日期限徴収税額の納付
20日期限徴収税額の納付(特例適用の場合)
31日期限源泉徴収票の交付(従業員)法定調書合計表の
提出(税務署)注2
給与支払報告書の
提出(市区町村)注3

注1:扶養控除等/保険料控除申告書の書類や証明書の提出を依頼します。 この時に、次年度分の扶養控除等申告書の作成・提出も併せて依頼すると良いでしょう。
注2:合計表と共に法定調書提出の対象となる一定の役員等の源泉徴収票(1枚)も提出します。
注3:給与支払報告書とは、源泉徴収票と同じ書式であり、2枚と一定の事項を記載した総括表(表紙)も提出します。

上述の様に11月となりますと給与支払者(会社)は、 年末調整の準備・対応が始まり、 勤務者(従業員)は年末調整の為に必要となる申告書や証明書類等を所定の期限までに給与支払者に提出することが求められます。 給与支払者は、 勤務者から回収した年末調整用の書類の内容を確認しその最終情報に基づいて、 暦年における最終給与支払い時(通常、 12月給与)に納めるべき年間の所得税(年税額)を算出し、 これまでの支給時に源泉徴収された税額と比べその過不足額を精算(徴収又は還付)します。 一般的には、 年末調整により還付されるケースが多いかと思います。

4. 年末調整での取扱項目
給与所得者の年末調整で取扱える項目と取扱えない項目の主なものは、次の通りです。

取 扱 項 目   非取扱項目(要確定申告)
社会保険料控除(生計を一にする親族等の負担分)雑損控除
小規模企業共済等掛金控除医療費控除
生命保険料控除寄付金控除
地震保険料控除 住宅借入金等特別控除(初年度)
配偶者控除、 又は配偶者特別控除その他各種特別控除
所得金額調整控除
住宅借入金等特別控除(2年目以降)
障害者控除
ひとり親控除
寡婦控除
中途入社の方は、前職の給与収入(源泉徴収票)
扶養家族等の控除情報更新(注)

注:年始にはその年の給与所得者の扶養控除等(異動)申告書が提出(原則として、 本年最初の給与の支払を受ける日の前日までに提出)されているため、その内容は毎月の給与計算に反映され、源泉所得税が給与収入から天引されています。 提出後に控除関連事項に異動が生じた場合には、 その都度異動申告を行うことになっています。

年末調整の為に提出が求められる申告書とその中に記載される控除項目は以下のとおりです。 当該控除項目以外に所得から控除可能な項目がある場合にはそれらの項目は確定申告で行うことになります。

申告書の名称控除項目
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書扶養控除、 障害者控除、 ひとり親控除、寡婦控除、 勤労学生控除
給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書基礎控除、
配偶者控除・配偶者特別控除、
所得金額調整控除
給与所得者の保険料控除申告書生命保険料控除(一般生命・介護医療・個人年金)、 地震保険料控除、 社会保険料控除(申告分)、 小規模企業共済等掛金控除(申告分)
給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書(特定増改築等)住宅借入金等特別控除(2年目から年末調整の対象で初年度は確定申告が必要)

注: マイナンバーの記載不要の特例制度
平成28年1月よりマイナンバー制度が導入されています。原則、マイナバーを記載すべき書類の提出を受ける際には、その都度(毎回)必ず、マイナバーカード等で本人確認する必要があります。但し、平成29年分以後の扶養控除等(異動)申告書等へのマイナンバーの記載不要の特例制度が創設され、その適用要件として、過去にマイナンバーの情報が提供されており、 一度その番号確認を実施した上で作成した帳簿(特定個人情報ファイル)を会社が備えているときには記載不要となりました。 これは、確認書類の提示を受けることが困難な場合を前提とされていますが、変更が無いことが口頭等で確認されていれば参照できることでよいかと思います。なお、本人確認のうち身元確認については、過去に一度確認を行っている場合、本人を対面で確認することで明らかに本人であると認識されたる場合には、身元確認書類の提示は不要となります。
マイナンバーの記載不要の特例制度が適用できない方には、以下の対応が必要となります。
「平成3年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出にあたり、 給与所得者本人、 源泉控除対象配偶者、 控除対象扶養親族等の個人番号を記載することになります。 提出にあたり、 給与支払者が給与所得者から個人番号の提供を受ける場合は、 本人確認として、 提供の番号が正しいことの確認(番号確認)と、 番号提供者が真にその番号の持ち主であることの確認(身元確認)を行う必要があります。 なお、 控除対象配偶者、 控除対象扶養親族等の本人確認は、 給与所得者(従業員)が行うことになっています。
平成28年1月以降の支払に係る給与所得の源泉徴収票には、 上記の個人番号を記載して税務署等の行政機関に提出することが必要となりますので、 「扶養控除等(異動)申告書」に必要なマイナンバーが記載されていない場合には、 源泉徴収票作成までにマイナンバーの提供を受ける必要があります。 なお、 給与所得者への源泉徴収票には、 個人番号は記載されません。

申告書記載上の主な注意点は以下のものがあります。
(イ) 12月31日時点の現況で記載
その年の12月31日現在の現況を見積もりで記載することになります。 見積記載の内容に修正が生じた場合(例えば、 扶養者数の増減、 等)には、 再年末調整(翌年の1月末までは可能)又は確定申告により適正な精算を行うことになります。

(ロ) 人的控除項目の判定基準に合計所得金額基準
控除項目の中(控除対象配偶者、 控除対象扶養控除、 配偶者特別控除等の人的控除項目)には、 その控除に該当するかの判定基準にその年度の合計所得金額となりますので留意してください。 多い誤りとしては、 配偶者の合計所得金額が控除対象金額を超えているケースです。
配偶者控除の場合の合計所得金額は、 48万円以下(給与収入額では103万円以下)でなければなりません。
配偶者特別控除の場合の合計所得金額は、 48万円超~133万円以下でなければなりません。
公的年金等の雑所得だけの方で控除対象扶養者(合計所得金額が48万円以下)になる場合には、 公的年金等の雑所得以外の合計所得金額が1千万円以下では、公的年金等の収入金額が158万円以下(年齢65歳未満の人は108万円以下)という条件を満たす人です。

「所得金額」として、 税法の規定のなかに「合計所得金額」、 「総所得金額」、 「総所得金額等」の3種類が適用判定基準の中に出てきますが、 それぞれ多少の違いがあります。
①合計所得金額、 ②総所得金額、 ③総所得金額等の定義
総所得金額とは、総合課税項目の所得合計であり、合計所得金額とは、更に分離課税での繰越控除適用前の分離課税所得等を加えた所得合計であり、総所得金額等とは、更に分離課税での繰越控除を控除した所得金額となります。

所得種類  各種繰越控除の適用
利子所得所得金額の損益通算合計所得金額* 純損失や雑損失の繰越控除
* 居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除
* 特定居住用財産の譲渡損失の繰越控除
* 上場株式等の譲渡損失の繰越控除
* 特定中小会社発行株式の譲渡損失の繰越控除
* 先物取引の差金等決済損失の繰越控除
総所得金額総所得金額等
配当所得
不動産所得
事業所得
給与所得
雑所得
一時所得2分の1
総合課税の譲渡所得長期
短期
分離課税(土地・建物等)の譲渡所得(特別控除適用前)長期
分離課税の株式等の譲渡所得短期
分離課税の先物取引の雑所得
退職所得
山林所得

(ハ) 年齢16歳未満の年少扶養親族
控除対象扶養控除に関して、 平成23年度から年齢16歳未満の年少扶養親族に対する扶養控除が所得税では廃止となっています(年齢16歳未満は所得税における扶養控除対象者ではありません)。 しかし、 住民税の方では控除対象となっていますので住民税に関する欄への記載を忘れないでください。 なお、 年齢16歳未満の年少扶養親族であっても、 障害者又は特別障害者に該当する場合には、 障害者控除を受けることはできます。
令和3年度の年末調整時における年齢16歳未満とは、 平成18年1月2日以後に生まれた人が年少者となります。

(ニ) 扶養親族
所得者と生計を一にする親族(6親等内の血族と3親等内の姻族)で、 合計所得金額が48万円以下の人を扶養親族(配偶者、青色事業専従者及び白色事業専従者を除く)といいます。 その中には、 以下のように区分されています。
① 控除対象扶養親族
扶養親族のうち、 年齢16歳以上の人をいいます(令和3年度の年末調整では、 平成18年1月1日以前に生まれた人)。
② 特定扶養親族
扶養親族のうち、 年齢19歳以上23歳未満の人をいいます(令和3年度の年末調整では、 平成11年1月2日から平成15年1月1日までの間に生まれた人)。
③ 老人扶養親族
控除対象扶養親族のうち、 年齢70歳以上の人をいいます(令和3年度の年末調整では、 昭和27年1月1日以前に生まれた人)。
④ 同居老親等
老人扶養親族のうち、 所得者又はその配偶者のいずれかとの同居を常況としている必要がありますが、 同居特別障害者は、 所得者、 その配偶者又は所得者と生計を一にするその他の親族のいずれかとの同居を常況としていることが適用の要件となっています。

(ホ) 生命保険料控除の改組
平成24年(2012年)1月1日からの契約分(新契約)から一般生命保険に含まれていた「介護医療保険」が独立の控除対象となりました。 平成23年までの契約分(旧契約)については、 昨年までと同様に「一般生命保険」と「個人年金保険」の2つに分けられ最高控除額は、 各5万円です。 新契約は、 「一般生命保険」、 「介護医療保険」と「個人年金保険」の3つに分けられ最高控除額は、 各4万円となります。 なお、 旧契約と新契約が混在するケースも発生することもありますが、 各保険料控除の合計適用限度額が12万円とされています。 従いまして、 支払保険契約が、 旧契約か新契約かを保険会社からの証明書で確認しながら申請書に正しく記載する必要があります。
生命保険契約等により支払われた保険料や掛金は所得者本人が支払ったものに限られています。 又、 保険金、 共済金等の給付金の受取人の全てが所得者本人又は所得者の配偶者や親族となっていることが必要です。
翌年以後に払込期日が到来する保険料を一括して前納保険料がある場合には、 本年中に相当する部分のみが支払保険料の金額となります。

(ヘ) 社会保険料控除
所得者本人と生計を一にする親族が負担することになっている社会保険料を所得者自身が支払った場合(時限措置により納付可能となった過去分の保険料の支払分も含む)には、 所得者本人の社会保険料として控除できます。
年金から特別徴収された介護保険料や後期高齢者医療保険料については、 支払者が年金受給者自身となることから、 その年金の受給者の社会保険料として控除となります。
翌年以後に払込期日が到来する保険料を一括して前納保険料がある場合には、 前納期間が1年以内の場合には、 その全額を本年の社会保険料として控除することができます。 なお、 国民年金保険料については、 2年分を前納できることになりましたので、 全額控除をするか、 又は期間按分して控除(この場合には、 按分の明細書が要作成)する方法のいずれかを選択することが可能です。

(ト) 地震保険料控除
所得者本人と生計を一にする親族が所有して常時居住している家屋や生活に通常必要な家財に対して支払った保険料の内、 一定の金額を地震保険料控除として控除できます。
一つの契約等で、 地震等損害に対する損害保険契約と旧長期損害保険契約のいずれの契約区分にも該当する場合には、 選択によりいずれか一方の契約区分のみが地震保険料控除の控除額となります(有利な方を選択する)。

(チ) (特定増改築等)住宅借入金等特別控除
現在、 各種の住宅借入金等特別控除がありますが、 控除を受けようとする初年度分については、 確定申告により控除の適用を受ける必要があります。 2年度以降分については、 年末調整の際に下記のものを給与支払者に提出します。
① 税務署長が発行した「年末調整のための(特定増改築等)住宅借入金等特別控除証明書」。 この証明書の上部に「給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書」がありますので、 控除金額等の記載を行い提出します。
② 金融機関等が発行した「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」
一般の住宅借入金等特別控除は、 居住者が一定の要件を満たす住宅の取得等して、 その人の居住の用に供した場合(その家屋の取得等の日から6ケ月以内に居住用に供したものに限られています)において、 その住宅の取得等のために一定の住宅借入金(償還期間10年以上等)を有するときには、 居住年以後10年間(平成13年7月1日から平成30年12月31日までの間で居住した場合には、 最長10年間。 それ以前のものは最長15年間)の各年のうち、 合計所得金額が3千万円以下である年について、 住宅借入金等の年末残高を基にした所定額を住宅借入金等特別控除としてその年の所得税額から控除できるというものです。
家屋に入居後、 本年12月31日まで継続して居住用に供していることが控除の適用要件ですので、 年度の途中で海外勤務となり出国している場合には、 この制度の適用はありません。
自己の居住用の家屋が2以上有する場合には、 主として居住用とする1の家屋に限られます。
連帯債務(共有)の場合には、 各年12月31日現在のその住宅借入金等の金額に控除を受ける人の負担割合(持分割合)を加味して控除額を計算します。 その割合は、 小数点以下第4位を切上げ、 90%以上である場合は100%とします。

住宅ローンの借換え: この制度の適用者が、 住宅借入金等の借換えをした場合に一定の要件を満たすときには適用が継続します。 住宅ローン金利が低くいものがあるとローンの借換えを行う場合があります。 一般の住宅ローンの場合の借換えでは、 新たな借入金が当初の借入金を消滅させるもので、 適用対象となっていた家屋の取得等のための資金に充てるものであれば住宅ローン控除の継続適用の対象となります。 その場合の新たな借入金の償還期間も10年以上であることが適用要件となっています。 ローン借換後の借入額が借換前の借入残高以下であれば、 年末借入残高が控除対象額となりますが、 逆に借換後の借入額が借換直前の借入残高を上回る場合、 次の按分計算して控除対象額を導く必要があります。
ローン借換後の借入額の年末残高 X (借換直前の借入残高 ÷ 借換直後の借入額) = 控除対象借入額の年末残高

(リ) 給与と徴収税額の集計
年中に支払った給与・賞与が対象になりますが、 本年分の給与で未払いであっても、 本年中に支給時期がきており支払金額が確定したものについても年末調整の対象になります。

(ヌ) 年末調整のやり直し(再調整)
年末調整後に関係事項に異動があった場合には、 年末調整のやり直し(再調整)をすることになります(①以外は翌年1月末までに所定の申告書の提出を受け翌年1月末までなら可能)。 例えば、
① 給与の追加払いがあった場合
年末までに本年分の給与の追加払いがあった場合には、 年末調整のやり直しをしなければなりません。
翌年になって給与改訂により本年分まで遡って支給することになっても、 それは改訂時の年度の所得となりますので年末調整のやり直し対象にはなりません。
② 控除対象配偶者、 控除対象扶養者等の数に異動(増減) があった場合
異動事項の申告を受けた場合には、 年末調整のやり直しを行ないます。
③ 保険料の追加払いがあった場合
保険料控除額に影響する保険料の追加払いがあり異動事項の申告を受けた場合には、 年末調整のやり直しを行ないます。
④ 配偶者等の控除対象者の合計所得金額の見積額と確定額に差異があり控除額が変動することになった場合
異動事項の申告を受けた場合には、 年末調整のやり直しを行ないます。
⑤ 住宅借入金等特別控除申告書の提出があった場合
申告書の提出を受けた場合には、 年末調整のやり直しを行ないます。
なお、 上記の様に年末調整後に関係事項に異動があった場合で年末調整のやり直しがされなかった項目の中で、 所得税額が過少になっている場合には、 確定申告で適正に精算する必要があります。

5. 令和3年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
令和3年分の扶養控除、 障害者控除、 ひとり親控除、寡婦控除、 勤労学生控除の各控除の為に申告書を作成しますが、同時に令和4年度の扶養親族等を確認・確定します。
その控除に該当するかの判定は、その年度の合計所得金額(見積金額)と年度末等における現況によることになります。
A 源泉控除対象配偶者
 「源泉控除対象配偶者」とは、居住者(合計所得金額が900万円以下である者に限る)の配偶者でその居住者と生計を一にするもの(青色事業専従者等を除く)のうち、合計所得金額が95万円以下である者をいう。
B 控除対象扶養親族(平成18.1.1以前生まれの16歳以上)
 ①一般扶養親族(年齢16歳以上19歳未満)
 ②特定扶養親族(年齢19歳以上23歳未満)
 ③老人扶養親族(年齢70歳以上(非同居))
 ④同居老人扶養親族(年齢70歳以上(同居))
C 障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生
イ 障害者
 一般障害者(所得者、同一生計配偶者、扶養親族)
 特別障害者(所得者、同一生計配偶者、扶養親族)
 同居特別障害者(同居:同一生計配偶者、扶養親族)
ロ 寡婦
①-1夫と離婚した者で扶養親族(子以外:子を有する場合にはひとり親控除の適用)を有する者、かつ住民票に夫(未婚)・妻(未婚)記載(いわゆる事実婚)なし
①-2又は、扶養親族無しで夫と死別した者又は生死不明である者、かつ住民票に夫(未婚)・妻(未婚)記載なし
②合計所得金額500万円以下であること
ハ ひとり親
①未婚(離婚後、死別後を含む、及び生死不明な配偶者がいる方も含む)のひとり親
②生計を一にする子の総所得金額等の金額が48万円以下であること
③未婚のひとり親が入籍しない事実婚の世帯であっても住民票に事実婚の旨「夫(未婚)・妻(未婚)」を登録記載されていないこと
④合計所得金額500万円以下であること
二 勤労学生(所得者本人)
D 他の所得者が控除を受ける扶養親族等
〇 住民税に関する事項:16歳未満の年少扶養親族(平成18.1.2以後生まれ)

6. 令和3年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書
基礎控除、配偶者控除・配偶者特別控除、所得金額調整控除の各控除の為に申告書を作成します。
(1)給与所得者の基礎控除申告書
所得者の給与所得及び他の所得の合計金額に応じて基礎控除額が決まります。

合計所得金額基礎控除額
所得税住民税所得割
2,400万円以下48万円43万円
2,400万円超~2,450万円以下32万円29万円
2,450万円超~2,500万円以下16万円15万円
2,500万円超

2)給与所得者の配偶者控除等申告書
所得者の所得金額と生計0を一にする配偶者の所得金額との組み合わせをより、配偶者控除額又は配偶者特別控除額が決まります。
配偶者の合計所得金額が48万円以下(給与収入では103万円以下)の場合に配偶者控除38万円(老人控除対象配偶者48万円)を上限に、 配偶者控除は世帯主の年収に応じて縮小され、配偶者特別控除は配偶者の年収要件を103万円から150万円に引上げ、 かつ配隅者及び世帯主の年収に応じて控除額が9段階で縮小となっています。

(3)所得金額調整控除申告書
所得者の年間給与収入金額が850万円超の場合で、以下のいずれかの要件を満たす場合には、控除額15万円(最高)の適用があります。
① 所得者本人が特別障害者である者
② 年齢23歳未満の扶養親族を有する者
③ 特別障害者である同一生計配偶者を有する者
④ 特別障碍者である扶養親族を有する者
給与所得から控除額 =(給与等の収入金額(上限1千万円)- 850万円)X
 10%
給与等の収入金額が1千万円以上の場合には、所得金額調整控除額は15万円(最高)。

なお、給与所得控除後の給与等の金額及び公的年金等に係る雑所得の金額がある所得者で、その合計額が10万円超の場合には、最高10万円の所得金額調整控除額があり、給与所得から控除することがありますが、年末調整では適用を受けることが出来ません。その場合、年末調整の際に「給与所得者の基礎控除申告書」等で合計所得金額を計算する時には、当該年金所得金額を考慮する必要があります。
給与所得から控除額(所得金額調整控除額)={給与所得控除後の給与等の金額(上限
10万円)+ 公的年金等に係る雑所得の金額(上限10万円)}- 10万円
給与所得の金額 = 給与等の収入金額 − 給与所得控除額 − 所得金額調整控除額(最高10万円)

7. 令和3年分 給与所得者の保険料控除申告書
生命保険料控除(一般生命・介護医療・個人年金)、 地震保険料控除(申告分)、 社会保険料控除、 小規模企業共済等掛金控除(申告分) の各控除の為に申告書を作成します(証明書類の添付)。
(1)生命保険料控除(一般生命・介護医療・個人年金)
① 所得者本人が支払ったもので、保険金等の受取人が所得者又はその配偶者や親族(個人年金保険の場合には親族を除く)であることが必要
② 新旧の保険区分に注意
(2)地震保険料控除
① 所得者本人が年内に支払ったもので、所得者又は生計を一にする親族が所有する常時居住する家屋や、生活に通常必要な家財を目的とする保険であることが必要
② 同一契約内に地震保険と旧長期損害保険がある場合には、いずれか有利の保険料を選択
(3) 社会保険料控除
① 所得者又は生計を一にする親族分で所得者が支払ったもの
② 配偶者が年金から特別徴収(天引き)された保険料(介護保険料等)については、その年金受給者が支払ったことになることに注意(所得者からの控除とはならない)
(4)小規模企業共済等掛金控除
① 確定拠出年金法に基づく企業型年金加入者掛金、個人型年金加入者掛金(iDeCo等)も含む
② 前納減額金は、支払い掛金から控除

8.  給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書
ローン控除の初年度は確定申告により控除適用を受ける必要があります。2年目以降は年末調整で控除を適用することができますので、年末調整時に、
① 添付書類として、税務署長が発行したその年度分の「年末調整のための(特定増改築等)住宅借入金等特別控除証明書」
② 添付書類として、金融機関等が発行した「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」

9. 税務関係書類における押印の不要
源泉所得税関係書類について、押印が不要となりました。

10. 年末調整手続の電子化
令和2年度の年末調整から、生命保険料控除、地震保険料控除及び住宅借入金等特別控除(ローン控除)の3件に係る控除証明書等については、従業員から電子データで会社に提出できることになっています。具体的には、
① 従業員が保険会社、金融機関、税務署等から電子データで受領する。
② 従業員が当電子データを専用の年末調整ソフトを使用してインポートし年末調整申告用の電子データを作成する。
③ 従業員が年末調整申告用の電子データと控除証明書等データを会社に提供(送信)する。
④ 会社が、送信されたデータを給与システムにインポートして年末調整計算を行う。
注:現時点では、全ての保険会社、金融機関等がこの電子化に対応しているわけではありませんので、事前確認が必要としています。

電子化の事前準備:
① 給与システム等の対応準備
② 事前に税務署に会社が「源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申請書」を提出し、その承認が令和3年度より不要となりました。
③ 従業員に周知徹底

以上が年末調整等の概要となります。