平成31年度(2019年度)税制改正大綱:法人税

平成30年12月14日に自民、公明党は2019年度(平成31年度)の与党税制改正大綱を発表しました。以下は、その改正大綱の法人税に関する概要となります。

1.イノベーション促進のための研究開発税制の見直し
総額型について、研究開発を行う一定のベンチャー企業(設立後10年以内の法人のうち、当期において翌期繰越欠損金額を有するものとされています。スタートアップ企業が想定されています)の控除税額の上限が、当期の法人税額の40%(現行:25%)に引上げられます。税額控除率及び税額控除上限の上乗せ措置について、適用期限が2年延長されます。
オープン・イノベーション型(特別試験研究費に係る税額控除)について、対象に一般の民間企業(所定の要件を満たす研究開発型ベンチャー企業を含む)への一定の委託研究が追加されます。研究開発型ベンチャー企業への委託研究及び同企業との共同研究に係る税額控除率は25%とします。また、控除税額の上限が当期の法人税額の10%(現行:5%)に引上げられます。
高水準型は廃止され、試験研究費が高い水準の企業に対する税額控除率の割増措置を総額型に創設することによって、総額型に統合されます。
(1)総額型
⓵ 税額控除率

総額型(6%~14%)中小企業技術基盤強化税制(12%~17%)
増減試験研究費割合>8%の場合:
9.9%+(増減試験研究費割合-8%)X0.3
増減試験研究費割合>8%の場合:
12%+(増減試験研究費割合-8%)X0.3
増減試験研究費割合≦8%の場合:
9.9%+(8%-増減試験研究費割合)X0.175
増減試験研究費割合≦8%の場合:
12%
高水準型の廃止に伴う上乗せ措置
試験研究費割合>10%の場合:
上記税額控除率X{(試験研究費割合-10%)X0.5}

⓶ 控除上限額

総額型(25%~35%)中小企業技術基盤強化税制(25%~35%)
試験研究費割合≦10%の場合:
法人税額の25%
増減試験研究費割合≦8%の場合:
法人税額の25%
増減試験研究費割合>8%の場合:
法人税額の35%
試験研究費割合>10%の場合:
法人税額の25%+法人税額X{(試験研究費割合-10%)X2}
試験研究費割合>10%の場合:
法人税額の25%+法人税額X{(試験研究費割合-10%)X2

(2)オープン・イノベーション型の税額控除率

(2)オープン・イノベーション型の税額控除率
研究開発型ベンチャー企業との共同研究・一定の要件を満たす委託研究の費用の25%
上記以外の共同研究・委託研究・企業間における一定の要件を満たす委託研究等の費用の20%

2.中小企業等の支援

中小企業者の法人税率の軽減特例(年800万円以下の所得に対して15%)適用期限が平成33年3月31日までの2年延長
中小企業投資促進税制適用期限が平成33年3月31日までの2年延長
中小企業経営強化税制は、特定経営力向上設備等の範囲の明確化及び適正化を行う適用期限が平成33年3月31日までの2年延長
商業・サービス等活性化税制は、経営改善設備の投資計画の実施を含む経営改善により、売上高又は営業利益の伸び率が年2%以上となる見込みであることについて認定経営革新等支援機関等が確認することを適用要件に追加されます。平成31年4月1日以後に取得等をする経営改善設備に適用されますが、一定の経過措置有り。適用期限が平成33年3月31日までの2年延長

防災・減災設備の特別償却制度を創設:
中小企業等経営強化法の改正を前提に、中小企業における防災・減災設備の特別償却制度を創設されます。
青色申告書を提出する特定中小企業者のうち、同法の事業継続力強化計画又は連携事業継続力強化計画の認定を受けたものが、同法の施行日から平成33年3月31日までの間に、これらの計画に係る特定事業継続力強化設備等(一定の機械装置、器具備品、建物附属設備)の取得等して、その事業用に供した場合、その取得価額の20%の特別償却ができる。

対象設備具体例最低投資額(取得価額)
機械装置自家発電機、排水ポンプ等1台・1基が100万円以上
器具備品制震・免震ラック、衛星電話等1台・1基が100万円以上
建物附属設備止水板、防火シャッター、排煙設備等1件が160万円以上

租税特別措置法上の中小企業にかかる「みなし大企業」の範囲について適正化が図られ、例え資本金が1憶円以下であっても、以下の様に大規模法人の支配下にある孫会社も中小企業特例の適用対象外とされます。
① 大法人(資本金5憶円以上の法人、相互会社等)の100%子会社
② 100%グループ内の複数の大法人に発行済株式の全部を保有されている法人

3.法人事業税(所得割及び収入割に限る)の税率改正
法人事業税の標準税率を次のとおり、平成31年10月1日以後に開始事業年度から適用となりますが、同日以後に改正予定でありました税率(下記の現行と記載)の再度の変更となっていますので留意すべきかと思います。

 項目 標準税率 
平成31年9月30日以前開始事業年度平成31年10月1日以後開始事業年度
当初
(現行)
改正
① 外形標準課税対象の普通法人(資本金1億円超)の所得割資本金1億円超法人については、 後述記載を参照
軽減税率適用法人年400万円以下の所得
年400万円超年800万円以下の所得
年800万円超の所得
② 上記①以外の普通法人(資本金1億円以下) の所得割
軽減税率適用法人年400万円以下の所得3.4%5.0%3.5%
年400万円超年800万円以下の所得5.1% 7.3% 5.3%
年800万円超の所得6.7% 9.6%7.0%
③ 特別法人の所得割
軽減税率適用法人年400万円以下の所得3.4% 5.0% 3.5%
年400万円超の所得4.6% 6.6% 4.9%
(特定の共同組合等の年10億円超の所得)(5.885%) (7.9%)(5.7%)
④ 収入金額課税法人(電気供給業、 ガス供給業及び保険業)の収入割0.9% 1.3% 1.0%

上記の税率は、不均一課税対象法人(中小法人)に適用される標準税率を示しています。
不均一課税(標準課税)対象となる中小法人の範囲は、各都道府県条例によって決められております。
例えば、神奈川県の場合には、以下に該当する法人には標準税率が適用され、それ以外の大法人となる場合には、超過税率の適用となります。
① 法人事業税:資本金の額が2億円以下で、かつ、所得金額が年1憶55万円以下の法人
② 法人県民税法人税割:資本金の額が2億円以下で、かつ、法人税額が年4千万円以下の法人
東京都の場合には、以下に該当する法人には標準税率が適用されます。
① 法人事業税:資本金の額が1億円以下で、かつ、所得金額が年2,500万円以下、かつ、年収入金額が2億円以下の法人
② 法人県民税法人税割:資本金の額が1億円以下で、かつ、法人税額が年1千万円以下の法人
軽減税率不適用法人: 3以上の都道府県に事務所又は事業所を設けて事業を行う法人のうち、 資本金1,000万円以上である場合

資本金1億円超の普通法人に対する法人事業税と外形標準課税:
資本金の額又は出資金の額が1億円超の普通法人に対しては、原則として、外形標準課税制度が適用となっています。
資本金の1億円超の普通法人の法人事業税の標準税率は以下のようになっています。

課税項目区分 平成27年4月1日以後開始平成28年4月1日以後開始平成31年10月1日以後開始 
当初
(現行)
改正
外形標準課税付加価値割0.72%1.2% 1.2%
資本割0.3% 0.5% 0.5%
所得割年400万円以下の所得1.6% 0.3% 1.9% 0.4%
年400万円超800万円以下の所得2.3% 0.5%2.7%0.7%
年800万円超の所得3.1% 0.7% 3.6% 1.0%

注1: 上記の税率は、不均一課税対象法人(中小法人)に適用される標準税率を示していますガ、所得割の制限税率(超過税率)については、標準税率の1.7倍(現行:1.2倍)に引上げられます。
注2: 3以上の都道府県に事務所又は事業所を設けて事業を行う法人(軽減税率不適用法人)の所得割に係る税率については、 軽減税率の適用はありません(税率は、年800万円超の所得の場合と同じです)。
注 3: 「所得割」に標準税率ではなく超過税率を採用しているのは、全8都府県(東京都、大阪府、京都府、神奈川県、宮城県、静岡県、愛知県、兵庫県)となっています。 各税条例で超過税率が決められます。

4.特別法人事業税の創設( 地方法人特別税及び地方法人特別譲与税の廃止)
⓵ 平成31年10月1日以後(消費税率引上げ時)に開始する事業年度から地方法人特別税は廃止し、 法人事業税(所得割又は収入割)の納税義務者に対し特別法人事業税(国税)を課します。 特別法人事業税は、法人事業税と合わせて都道府県に申告納付します。
⓶ 地方法人特別譲与税も廃止し特別法人事業譲渡税となります。

課税項目区分
(地方法人特別税)
 平成27年4月1日以後開始平成28年4月1日以後開始平成31年10月1日以後開始
付加価値割額、 資本割額及び所得割額の合算額によって法人事業税を課税される法人の所得割額に対する税率資本金等の1億円以下の普通法人43.2%37%
資本金等の1億円超の普通法人93.5%414.2%260%
所得割額によって法人事業税を課税される法人の所得割額に対する税率43.2%34.5%
収入割額によって法人事業税を課税される法人の収入割額に対する税率43.2%30%

その他地方税率の参考:
(1) 法人住民税法人税割の税率

項目平成26年10月1日から平成31年9月30日までに開始 平成31年10月1日以後開始 
標準税率制限税率標準税率制限税率
道府県民税法人割3.2% 4.2% 1.0% 2.0%
市町村民税法人割9.7% 12.1%6.0%8.4%
合計12.9%16.3%7.0% 10.4%

(2) 地方法人税(国税)の税率の改正

納税義務者法人税を納める義務のある法人(人格のない社団等を含む)
税額の計算各課税事業年度の基準法人税額 X 地方法人税率 = 地方法人税額
申告及び納付申告及び納付は、 国(税務署)に対して行う。 申告書の提出期限は、 法人税の申告書と同一となります。
税率平成31年9月30日までに開始 平成31年10月1日以後開始
4.4% 10.3%

5.仮想通貨の評価方法等
(1)事業年度末の仮想通貨のうち、活発な市場が存在する仮想通貨については、時価評価により評価損益を計上する。
(2)仮想通貨の譲渡時の譲渡損益は、譲渡契約時の事業年度に計上する。
(3)仮想通貨の算出方法は、移動平均法又は総平均法による原価法とし、法定算出方法は移動平均法による原価法とする。
(4)未決済の仮想通貨の信用取引等については、事業年度末に決済したものとして損益相当額を計上する。
上記改正は、平成31年4月1日以後に終了する事業年度より適用する(時価評価に関して経過措置有り)。

6.法人設立届出書
定款等の写し以外の書類の添付を要しなくなります。

7.公益法人等又は協同組合等の貸倒引当金の特例の廃止
特例は適用期限の到来時に廃止となります。経過措置として、平成31年4月1日から平成35年3月31日までの間の各開始事業年度における貸倒引当金の繰入限度額は、現行法による割増率(10%)に対して1年ごとに5分の1ずつ縮小した率による割増となります。

8.組織再編税制
株式交換等の後で、完全子会社化された会社が完全親会社を被合併法人として逆さ合併を行う場合は、支配関係継続要件等の適格要件について、その合併の直前の時までの関係により判定することになります。
合併、分割及び株式交換にかかる適格要件や旧株譲渡損益繰延要件のうち、対価にかかる要件について、三角合併等で対価となる合併法人等の親会社の株式に、合併法人等の発行済株式の全部を間接に保有する法人の株式が加えられます。

以上

2019年2月10日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant