平成31年度(2019年度)税制改正大綱:個人所得課税

平成30年12月14日に自民、公明党は2019年度(平成31年度)の与党税制改正大綱を発表しました。以下は、その改正大綱の所得税に関する概要となります。

1.住宅借入金等の特例特別控除(住宅ローン控除)の創設
消費税率10%が適用される住宅取得等(新築、中古、増改築等)をして、平成31年10月1日から平成32年12月31日までの間に居住に供された場合に、住宅ローン控除として従来の10年目の適用期間を3年延長され、適用年の11年目から13年目までの各年の控除額については、以下のいずれか少ない金額とされます(適用年の1年目から10年目までは現行と同様)。
(1) 一般住宅
⓵    住宅借入金等の年末残高(4千万円を限度)× 1%
⓶ (住宅取得等の対価金額 - 対価金額に含まれる消費税額等){4千万円を限度}× 2% ÷ 3 
(2) 認定長期優良住宅
⓵  住宅借入金等の年末残高(5千万円を限度)× 1%
⓶ (住宅取得等の対価金額 - 対価金額に含まれる消費税額等){5千万円を限度}× 2% ÷ 3 
(3) 東日本大震災の被災者等
⓵  住宅借入金等の年末残高(5千万円を限度)× 1.2%
⓶ (住宅取得等の対価金額 - 対価金額に含まれる消費税額等){5千万円を限度}× 2% ÷ 3 
*:居住と非居住に供する部分がある場合には、居住に占める床面積割合が控除対象となる。
*:住宅取得等に関し、補助金等の交付金や直系尊属からの住宅取得等資金の贈与を受けた場合には、その交付金や贈与額を取得金額から控除する必要はありません。
*:2以上の住宅取得等の場合には、調整計算が必要となります。

参考:現行の住宅ローン控除

居住年一般住宅(注1)   認定長期優良住宅 (注1)   
借入金等の年末残高の限度額控除率最高合計最高累積控除額借入金等の年末残高の限度額控除率最高合計最高累積控除額
26年1月~3月2千万円1.0%20万円200万円3千万円1.0%30万円300万円
26年4月~平成31年9月(注2)
4千万円1.0%40万円400万円5千万円1.0%50万円500万円

(注1):認定住宅とは、 認定長期優良住宅及び認定低炭素住宅をいい、 それ以外を一般住宅といいます。
(注2): 消費税等の税率が8%又は10%になった場合での金額であり、 それ以外の場合(経過措置の適用で旧税率が適用になっている場合や個人間の売買契約による場合も含む)には平成26年1月~3月と同じになります。
なお、 住宅を取得・居住した年に勤務先から転任の命令等やむを得ない事由により転居した場合における再居住の特例として、 居住年に一時転居しその年の12月31日までの間に再び居住した場合には、 継続居住とみなされ当該税額控除の適用対象となります。

東日本大震災の被災者等に係る住宅借入金等特別税額控除:
東日本大震災の被災者等に係る住宅借入金等を有する場合に平成31年9月30日までは、 再建住宅を取得等した場合の再建住宅借入金等に対して以下のようになります。

居住年借入限度額控除率各年の控除限度額最大控除額
平成26年1月~3月3,000万円1.2%36万円360万円
平成26年4月~平成31年9月5,000万円1.2%60万円600万

2.空き家に係る譲渡所得の3千万円特別控除の特例の適用期限延長
相続又は遺贈(死因贈与を含む)から3年を経過する日の属する年の12月31日までに、相続人が一定の「被相続人居住用家屋」又はその居住用家屋とともに敷地の土地譲渡、或いは家屋の除却後の土地譲渡の譲渡益から居住用財産の譲渡した場合に該当するものとみなして、3,000万円を控除できる特例が創設されていましたが、その適用期限が4年延長され、譲渡が平成28年4月1日から平成35年12月31日までに行われたもので、譲渡金額が1億円以下である空き家の譲渡に限ります。なお、被相続人が所有していた家屋と土地をセットで相続により取得することが大前提であり、その相続人に対して特例が適用となります。また、平成31年4月1日以後に行う譲渡から、適用対象に以下のものが追加となりました。
老人ホーム等に入所したことにより被相続人の居住に供さなくなった家屋及びその家屋の土地等は、次の要件を満たす場合に限り、相続の開始直前まで居住していたものと見做されます。
(1) 被相続人が介護保険法の要介護認定等を受け、かつ、相続の開始直前まで老人ホーム等に入所していたこと。
(2) 被相続人が老人ホーム等に入所した時から相続の開始直前まで、その家屋をその者の使用がなされ、かつ、事業用、貸付用又はその者以外の者の居住用に居されたことがないこと。

3.非課税口座内の少額上場株式等に係る配当所得及び譲渡所得等の非課税措置の拡充(少額投資非課税制度 日本版ISA; NISA)の見直し
居住者等が、 非課税口座を開設した年の1月1日以後、 投資可能期間になされた一定の適用要件を満たす少額上場株式等からの配当等及び譲渡益等に対しては、 非課税とされるものです。 以下の改正が行われます。
(1) 一時的な出国により非居住者となる場合の届出書
やむを得ない事由を起因として出国時に金融商品取引業者等に「継続適用届出書」の提出から、5年を経過する日に属する12月31日までと、帰国時に「帰国届出書」を提出する日とのいずれか早い日までの間は、その者を居住者等と見做します。
なお、当5年を経過する日に属する12月31日までに「帰国届出書」を提出しなかった場合には、「非課税口座廃止届出書」を提出したものと見做されます。
また、その出国につき、国外転出をする場合には「継続適用届出書」を提出できません。
(2) 非課税口座を開設できる年齢の引下げ
その年1月1日において18歳以上(現行:20歳以上)に引下げられます。改正は、平成35年1月1日以後に設けられる非課税口座からの適用となります。

4.子供版ジュニアNISA (未成年者非課税口座内の少額上場株式等に係る配当所得及び譲渡所得等の非課税措置)上の年齢の引下げ
未成年者の少額上場株式等に対する非課税制度となるNISAがあります。
親権者となる両親や祖父母が20歳未満の子どもや孫の名義で未成年者口座として設けた勘定区分(非課税管理勘定、 又は継続管理勘定)に応じて所定期間内に支払われる一定の適用要件を満たす少額上場株式等からの配当等及び譲渡益等に対しては、 所定の期間非課税とされるものです。
以下の課税口座を開設等できる年齢の引下げの改正が行われます。
その年1月1日において18歳以上(現行:20歳以上)に引下げられます。改正は、平成35年1月1日以後に設けられる未成年者口座等から適用となります。

5.森林環境税の創設
平成36年度より、森林環境税として年額1,000円を個人住民税と併せて徴収します。

6.未婚の児童扶養手当受給者に対する臨時・特別給付金の非課税
未婚の児童扶養手当受給者に対する臨時・特別給付金としての給付金は非課税となります。

7.政党等寄付金特別税額控除の適用期限5年延長
政党又は政治資金団体に対して政治活動に関する一定の寄付金(特定の政治献金)を行なった場合には、 寄付金控除(所得控除)か、 この税額控除のどちらかを選択できます。
税額控除額は、 次の①又は②のうちいずれか低い金額となります。
① {政党等への合計寄付額(年間所得の40%が限度) – 2,000円(寄付金控除の適用がある場合には0円)} X 30%
② 所得税額 X 25%
上記の適用期限が5年延長となります。

8.配偶者控除等に関する源泉徴収及び確定申告における見直し
(1)給与等又は公的年金等の源泉徴収における源泉控除対象配偶者に係る控除適用は、夫婦いずれか一方しか適用できません。
(2)居住者の配偶者が、公的年金等の源泉徴収において源泉控除対象配偶者の適用を受け、かつ、公的年金等に係る確定申告不要制度を受ける場合には、その居住者は確定申告において配偶者特別控除の適用を受けることはできません。
上記の改正は、平成32年度からの適用となります。

9.確定申告時の添付不要項目
平成31年4月1日以後に提出する確定申告等から以下の書類が添付不要となります。
(1) 給与所得、退職所得及び公的年金等の源泉徴収票
(2) オープン型証券投資信託の収益の分配の支払通知書
(3) 配当等と見做す金額に関する通知書
(4) 上場株式配当等の支払通知書
(5) 特定口座年間取引報告書
(6) 未成年者口座等につき契約不履行等事由が生じた場合の報告書
(7) 特定割引債の償還金の支払通知書
(8) 相続財産に係る譲渡所得の課税の特例を適用する際の相続税額等を記載した書類

10.ふるさと納税の見直し
ふるさと納税の適用を見直し、平成31年6月1日以後に行われる寄附金から適用となります。
(1) 総務大臣は、所定の基準に適合する都道府県等をふるさと納税適用の対象とします。
① 寄附金の募集を適正に実施する都道府県等
② 上記都道府県等で返礼品は、以下のいずれも満たす都道府県等であること。
(イ) 返礼品の返礼割合は3割以下とすること
(ロ) 返礼品は地場産品とすること

11.未婚者等に対する個人住民税の非課税措置
児童扶養手当の支給を受けている児童(生計を一とする前年度合計所得金額が48万以下)の前年度合計所得金額が135万円以下の父又は母のうち、未婚者又は配偶者の生死が明らかで無い者は、個人住民税の非課税対象となります。平成33年度分以降の個人住民税より適用となります。

12.国民健康保険税
基礎課税額に係る課税限度額を61万円(現行:58万円)に引上げられます。

13.仮想通貨の期末評価方法
期末に保有する仮想通貨の価額は、移動平均法又は総平均法により算出した取得価額をもって評価する等の措置が取られます。

以上

2018年12月25日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

償却資産の申告(固定資産税): 申告書提出期限1月末

1. 固定資産税とは
固定資産税とは、1月1日現在で国内に土地、家屋又は償却資産(事業用資産)の固定資産を所有している者に対し、当該固定資産の評価額を基に算定された税額を資産の所在する市区町村(東京23区内は特例で区でなく都が課税)が課する地方税をいいます。
課税対象のうち、土地と家屋については登記簿等で市区町村では実在を確認できることになりますが、償却資産は毎年1月1日に所有しているものを自己申告を通じて、固定資産(償却資産)課税台帳に登録され課税されることになります。

2. 固定資産税(土地・家屋)
土地と家屋については、登記事項のため市区町村は、その登記簿等に基づいて固定資産税を計算し、1月1日現在の所有者に納税通知書と同時に課税明細書が5月末前後に送られてきますので、当所有者は申告等の手続の必要はありません。
税率はいずれも1.4%であり、土地は課税標準額に、家屋は課税台帳に登録されている価格に掛けて税額が算定されます。なお、市区町村内に所有する固定資産の課税標準額が、土地30万円、家屋20万円未満の場合には、固定資産税は課税されません。
納期は年4回(6月、9月、12月、2月:市区町村によっては1ヶ月早まるところもあります)です。土地とは、田、畑、宅地、鉱泉地、池沼、山林、牧場、原野等です。家屋とは、住宅、店舗、工場、倉庫等です。

3. 固定資産税(償却資産)
償却資産とは、土地と家屋以外の事業用に供している減価償却対象資産のものをいいます。1月1日現在で償却資産を事業用に使用している所有者(法人や個人事業者)は、所定の申告書を作成し、1月31日までに償却資産の所在する市区町村ごとに提出しなければなりません。課税対象が償却資産に対する税金ということで償却資産税とも言われています。

(1)償却資産の対象(課税資産)
法人や個人で事業を行っている方で事業のために使用している減価償却の対象資産のうち、その取得価額が一定金額以上のものについては、償却資産となります。具体的には、以下のようなものが償却資産となっています。

① 構築物
舗装路面、庭園、門・塀・緑化施設等の外構工事、看板(広告塔等)、ゴルフ練習場設備等、並びに建物付属設備(受変電設備、予備電源設備、その他建築設備、内装・内部造作等)
② 機械及び装置
各種製造設備等の機器及び装置、クレーン等建設機械、機械式駐車設備等
③ 船舶
ボート、釣船、漁船、遊覧船等
④ 航空機
飛行機、ヘリコプター、グライダー等
⑤ 車両及び運搬具
大型特殊自動車、構内運搬車,貨車、客車等
⑥ 工具、器具及び備品
パソコン、陳列ケース、看板(ネオンサイン)、医療機器、測定工具、金型、理容及び美容機器、ルームエアコン、自動販売機等

以下の資産も償却資産として申告の対象になります。
・ 建設仮勘定で処理されている資産、簿外資産及び償却済資産であっても、1月1日現在で事業用に供することができる場合
・ 遊休又は未稼働の資産であっても、1月1日現在で事業用に供することが出来る状態にある場合
・ 耐用年数が1年未満又は取得価額が10万円未満の資産であっても、有形固定資産として計上し、減価償却している場合
・ 青色申告の中小企業法人・個人事業者については、取得価額が30万円未満の資産を一時に損金算入する処理(少額資産償却特例)がなされていても、この特例は国税(法人税・所得税)に関する制度であり、この地方税の固定資産税には適用されません。従って、この資産は固定資産税の申告対象となります。
その他、 所有権が留保されている資産(賃貸資産、 等)

(2)償却資産の非課税資産
償却資産の対象とならないものは、次のとおりです
(1) 土地や建物(いずれも登記対象資産であることから、 所有者を把握できますので敢えて償却資産として申告の対象にしていません)
(2) 自動車税・軽自動車税の課税対象(2重課税の排除)
(3) 無形固定資産(特許権、 営業権、 ソフトウェア等)
(4) 繰延資産
(5) 生物(観賞用、 興行用その他これらに準ずる生物は除く)
(6) 金額的に少額資産と言われる下記の資産:
① 取得価額が10万円未満の資産で一時に損金算入、 又は必要経費として処理されたもの
② 取得価額が10万円以上20万円未満の資産で、 税務上、 3年間で一括償却しているもの
注1: 租税特別措置法の規定により、 一定の中小企業に対する特例を適用して、 取得価額が30万円未満の資産で一時に損金算入、 又は必要経費として処理されたものでも、償却資産の申告対象になっています。
注2: 上記以外の資産で企業や個人で事業を行なっている方が事業のために用いることができる資産、 即ち、 構築物、 機械及び装置、 船舶、 航空機、車両及び運搬具、 工具・器具及び備品で有形減価償却資産が対象となります。 次のものも償却資産の対象となります。
(1) 建設仮勘定で計上されている資産、 簿外資産及び償却済資産であっても事業用に供することができるもの
(2) 遊休又は未稼働のものであっても事業用に供することができるもの
(3) 改良費(資本的支出)
(4) 家屋に施した建築設備・造作等のうち、 償却資産として取り扱うもの
建築設備における家屋(建物・建物附属設備)と償却資産とを区分して評価することになります。 家屋と設備の所有者が同一の場合に、 償却資産として取り扱うものは次の要件を満たすものです。
① 構造的に家屋と一体的でないもの (野外給水塔、 独立煙突等)
② 家屋から独立した機械及び装置として性格の強いもの (受・変電設備)
③ 特定の生産又は業務に使用されるもの (動力用配線設備等)
④ 単に移動を防止する程度に家屋に取り付けられたもの (ルームエアコン等)
⑤ 顧客の求めに応ずるサ-ビス設備

(3)固定資産税額等の算出方法(資産が所在する所轄の市区町村ごとに行ない、 申告書を作成します)
(1) 評価価額の算出方法
① 取得初年度
評価価額 = 取得価額 X 耐用年数に応ずる減価率 X 1/2(50%)
② 取得後2年目以降
評価価額 = 前年度の評価価額 X 耐用年数に応ずる減価率
(2) 固定資産税額の算出方法
① 課税標準額の集計(1,000円未満切捨て)
各資産の評価価額を集計(合算)した額が課税標準額(決定価格となります)です。
課税標準額が150万円未満の場合には、 固定資産税は課税されません。
② 税額の計算
固定資産税額(100円未満切捨て) = 課税標準額(1,000円未満切捨て) X 税率(1.4%)

(4)償却資産の申告
所定の償却資産申告書、 種類別明細書、 等の書類を資産の所在する市区町村ごとに作成し、 1月末までに提出(申告)することになります。 申告方式には、 以下の2方法がありますが、通常は一般方式を採用しています。
その方式とは、 前年中(申告対象年度)に増加又は減少した資産内容を申告するのみで、 評価額、 税額等は所管事務所で行う方式です。
注1: 前年中に増加又は減少した資産が無い場合でも申告は必要です。 その場合には、 申告書上の備考に「増減なし」等を付記します。
注2: 事業を行なっていますが、 対象償却資産を所有されていない場合でも申告は必要です。 その場合には、 申告書上の備考に「該当資産なし」を付記します。

以上

2018年12月24日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

2019年度与党税制改正大綱 車・住宅など減税

自民、公明両党は14日、2019年度与党税制改正大綱を決めた。2019年10月の消費税の税率10%引き上げに伴う反動減対策を重視し、車と住宅の減税措置を拡充した。
2019年度税制改正大綱のポイントは、以下のとおりです。

(1)家計の分野
自動車関連税購入時に支払う燃費課税を1年限定で1%引き下げ
増税後に購入して登録した車を対象に保有者が毎年支払う自動車税を最大4,500円引き下げ
エコカー減税・グリーン化特例の対象車種を絞り込み
住宅ローン減税期間を10年から13年に延長
教育子や孫への教育資金贈与に対する非課税措置で、子・孫に年収1,000万円までの所得制限。用途も制限
未婚のひとり親住民税に減税措置(寡婦控除)を適用
(2)企業の分野
企業間研究大企業同士の委託研究の費用の一部を法人税額から控除できる仕組みを新設
中小企業個人事業主の事業承継税制の創設。土地や建物、設備にかかる贈与税などの支払いを猶予
地方の中小企業に対する設備投資減税を2年延長
新興企業共同研究や委託研究にかかる費用の控除割合を25%に引き上げ
研究開発税制の法人税の控除上限を40%に引き上げ

2019年度税制改正大綱の概要は、税務情報コーナーで記載していきます。

2018年12月15日 | カテゴリー : 社会情報 | 投稿者 : accountant

年末調整の概要

1. 年末調整とは
毎年11月となりますと会社(給与支払者)の給与担当部署は、 「年末調整」の準備・対応という大変忙しい時期を迎え、 勤務者(従業員)はその年末調整の為に必要となる申告書や証明書類等を所定の期限までに会社に提出することが求められます。 会社は、 勤務者から回収した年末調整用の書類の内容を確認しその最終提出情報に基づいて、 暦年の最終給与支払時(通常、 12月給与)に納めるべき年間の所得税及び復興特別所得税(年調年税額)を算出し、 これまでの給与支給時に源泉徴収された累計年税額とを比べその差額となる過不足額を精算(徴収又は還付)します。 その一連の精算手続が年末調整ということになります。 一般的には、 年末調整により還付されるケースが多いかと思います。

2. 平成30年度(2018年度)の所得税に係わる改正
平成30年度の年末調整において、税制改正により影響を受ける主な項目は以下の通りです。
(1) 配偶者控除及び配偶者特別控除の控除額の改正
前年度までは、配偶者の合計所得金額が38万円以下(給与収入では103万円以下)の場合に配偶者控除38万円(老人控除対象配偶者48万円)、 並びに配偶者の合計所得金額が38万円超76万円未満の場合に配偶者特別控除が適用となっていましたが、 平成30年度では、 配偶者控除は世帯主(給与所得者本人)の年収に応じて縮小(本人の合計所得金額が900万円超から1,000万以下まで3段階で縮小。従って、1,000万円超・給与収入額では1,220万円超になりますと配偶者控除の適用を受けることができません)され、配偶者特別控除は配偶者の年収要件を103万円から150万円に引上げ、 かつ配隅者の年収(103万円201.6万円未満)及び世帯主の年収(1,120万円超から1,220万円以下)に応じて控除額が9段階で縮小となります。
(2) 給与所得者の配偶者控除等申告書の改正
前年度までは、「給与所得者の保険料控除申告書 兼 給与所得者の配偶者特別控除申告書」(兼用様式)から、平成30年度では、「給与所得者の保険料控除申告書」と「給与所得者の配偶者控除等申告書」の2種類の様式となりました。
配偶者控除又は配偶者特別控除の適用を受けるには、「平成30年分 給与所得者の配偶者控除等申告書」を提出する必要があります。
(3)源泉徴収簿の様式変更
① 「配偶者特別控除額」が「配偶者(特別)控除額」に変更
② 「配偶者控除、扶養控除額、基礎控除額及び障害者等の控除額の合計額」が「扶養控除額、基礎控除額及び障害者等の控除額の合計額」に変更
(4)給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の様式変更
前年度までは、「控除対象配偶者」を記載することになっていましたが、平成30年度では、「源泉控除対象配偶者」を記載することになりました。
(5) 保険料控除申告書に添付する証明書範囲の改正
保険料控除申告書に添付すべき生命保険料控除及び地震保険料控除に関する証明書に、電磁的記録印刷書面が加えられました。

3. 年末調整の対象者
年末調整の対象者は、 原則として会社に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している人は全員含まれます。 但し、 給与収入額が2千万円を超える人は年末調整を行ないませんので自身の確定申告を通じて年税額の精算をしなければなりません。 通常、 1カ所から給与支給を受けている人は、 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出し年末調整を受けることになります。
次の人は年末調整の対象者にはなりません。
(1) 年中の給与収入額が2千万円を超える人
(2) 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していない人(年末調整を行うことができませんが、 支払の際の源泉徴収においては乙欄の税額表が適用となります)
(3) 年中に退職(死亡退職した人、 非居住者として国外勤務者となった人、 等を除く)した人
(4) 国内に住所も1年以上の居所を有していない人(非居住者)
(5) 災害免除法の規定により源泉徴収について徴収猶予や還付を受けた人
(6) 日雇労働者等(丙欄の税額表適用者)

年末調整の為に提出が求められる申告書とその中に記載される控除項目は以下のとおりです。 当該控除項目以外に所得から控除可能な項目がある場合にはそれらの項目は確定申告で行うことになります。

申告書の名称控除項目
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書扶養控除、 障害者控除、 寡婦(夫)控除、 勤労学生控除、 基礎控除
給与所得者の配偶者控除等申告書配偶者控除、配偶者特別控除
給与所得者の保険料控除申告書生命保険料控除(一般生命・介護医療・個人年金)、 地震保険料控除、 社会保険料控除、 小規模企業共済等掛金控除
給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書(特定増改築等)住宅借入金等特別控除(2年目から年末調整の対象で初年度は確定申告が必要)

注: マイナンバーの記載不要の特例制度
平成28年1月よりマイナンバー制度が導入されています。原則、マイナバーを記載すべき書類の提出を受ける際には、その都度(毎回)必ず、マイナバーカード等で本人確認する必要があります。但し、平成29年分以後の扶養控除等(異動)申告書等へのマイナンバーの記載不要の特例制度が創設され、その適用要件として、過去にマイナンバーの情報が提供されており、 一度その番号確認を実施した上で作成した帳簿(特定個人情報ファイル)を会社が備えているときには記載不要となりました。 これは、確認書類の提示を受けることが困難な場合を前提とされていますが、変更が無いことが口頭等で確認されていれば参照できることでよいかと思います。なお、本人確認のうち身元確認については、過去に一度確認を行っている場合、本人を対面で確認することで明らかに本人であると認識されたる場合には、身元確認書類の提示は不要となります。
マイナンバーの記載不要の特例制度が適用できない方には、以下の対応が必要となります。
「平成30分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出にあたり、 給与所得者本人、 源泉控除対象配偶者、 控除対象扶養親族等の個人番号を記載することになります。 提出にあたり、 給与支払者が給与所得者から個人番号の提供を受ける場合は、 本人確認として、 提供の番号が正しいことの確認(番号確認)と、 番号提供者が真にその番号の持ち主であることの確認(身元確認)を行う必要があります。 なお、 控除対象配偶者、 控除対象扶養親族等の本人確認は、 給与所得者が行うことになっています。
平成28年1月以降の支払に係る給与所得の源泉徴収票には、 上記の個人番号を記載して税務署等の行政機関に提出することが必要となりますので、 「扶養控除等(異動)申告書」に必要なマイナンバーが記載されていない場合には、 源泉徴収票作成までにマイナンバーの提供を受ける必要があります。 なお、 給与所得者への源泉徴収票には、 個人番号は記載されません。

申告書記載上の主な注意点は以下のものがあります。
(イ) 12月31日時点の現況で記載
その年の12月31日現在の現況を見積もりで記載することになります。 見積記載の内容に修正が生じた場合(例えば、 扶養者数の増減、 等)には、 再年末調整(翌年の1月末までは可能)又は確定申告により適正な精算を行うことになります。

(ロ) 人的控除項目の判定基準に合計所得金額基準
控除項目の中(控除対象配偶者、 控除対象扶養控除、 配偶者特別控除等の人的控除項目)には、 その控除に該当するかの判定基準にその年度の合計所得金額がありますので留意してください。 多い誤りとしては、 配偶者の合計所得金額が控除対象金額を超えているケースです。
配偶者控除の場合の合計所得金額は、 38万円以下(給与収入額では103万円以下)でなければなりません。 「配偶者」とは、 婚姻の届出をしている配偶者をいい、 内縁関係の人は含まれません。
配偶者特別控除の場合の合計所得金額は、 38万円超~123万円以下でなければなりません。
公的年金等の雑所得だけの方で控除対象扶養者(合計所得金額が38万円以下)になる場合には、 公的年金等の収入金額が158万円以下(年齢65歳未満の人は108万円以下)という条件を満たす人です。

(ハ) 年齢16歳未満の年少扶養親族
控除対象扶養控除に関して、 平成23年度から年齢16歳未満の年少扶養親族に対する扶養控除が所得税では廃止となっています(年齢16歳未満は所得税における扶養控除対象者ではありません)。 しかし、 住民税の方では控除対象となっていますので住民税に関する欄への記載を忘れないでください。 なお、 年齢16歳未満の年少扶養親族であっても、 障害者又は特別障害者に該当する場合には、 障害者控除を受けることはできます。
平成30年度の年末調整時における年齢16歳未満とは、 平成15年1月2日以後に生まれた人が年少者となります。

(ニ) 扶養親族
所得者と生計を一にする親族(6親等内の血族と3親等内の姻族)で、 合計所得金額が38万円以下の人を扶養親族(配偶者、青色事業専従者及び白色事業専従者を除く)といいます。 その中には、 以下のように区分されています。
① 控除対象扶養親族
扶養親族のうち、 年齢16歳以上の人をいいます(平成30年度の年末調整では、 平成15年1月1日以前に生まれた人)。
② 特定扶養親族
扶養親族のうち、 年齢19歳以上23歳未満の人をいいます(平成30年度の年末調整では、 平成8年1月2日から平成12年1月1日までの間に生まれた人)。
③ 老人扶養親族
控除対象扶養親族のうち、 年齢70歳以上の人をいいます(平成30年度の年末調整では、 昭和24年1月1日以前に生まれた人)。
④ 同居老親等
老人扶養親族のうち、 所得者又はその配偶者の直系尊属でいずれかとの同居を常況としている人をいいます。
(注): 国外居住親族に係る扶養控除等の適用時に所定の書類添付等の義務化
非居住者である親族(国外居住親族)に係る扶養控除、 配偶者控除、 障害者控除又は配偶者特別控除の適用を受ける場合には、 「親族関係書類」及び「送金関係書類」の提出又は提示を受ける必要があります。
具体的な手続きとして、 適用を受ける旨を「扶養控除等(異動)申告書」上の「非居住者である親族」欄に○印を付し、 関係書類の提出等を行います。
「親族関係書類」の書類とは、
* 戸籍の附票その他の国又は地方公共団体が発行した書類及び国外居住親族のパソポートの写し
* 外国政府又は外国地方公共団体が発行した書類(国外居住親族の氏名、生年月日及び住所又は居所の記載があることが必要):例えば、戸籍謄本その他これに類する書類、出生証明書、婚姻証明書、等
「送金関係書類」の書類とは、
各人に支払ったことを明らかにする、金融機関の書類又はその写し、或いは、購入したことを証するクレジットカード発行会社の書類又はその写し、等
* 生活費を現金渡しの場合には、送金等の確認が出来ない限り、扶養控除の適用は受けられません。
* 生活費を次年度分を含めて当年度に送金した場合、その送金書類を当年度分として使用することは出来ません。その年において各人に支払っていることが必要となります。
* 生活費を長男及び次男の二人分を長男名義の口座に送金した場合には、長男のみが扶養控除の適用となります。各人に対して行ったことを明らかにする書類が必要となります。

(ホ) 生命保険料控除の改組
平成24年(2012年)1月1日からの契約分(新契約)から一般生命保険に含まれていた「介護医療保険」が独立の控除対象となりました。 平成23年までの契約分(旧契約)については、 昨年までと同様に「一般生命保険」と「個人年金保険」の2つに分けられ最高控除額は、 各5万円です。 新契約は、 「一般生命保険」、 「介護医療保険」と「個人年金保険」の3つに分けられ最高控除額は、 各4万円となります。 なお、 旧契約と新契約が混在するケースも発生することもありますが、 各保険料控除の合計適用限度額が12万円とされています。 従いまして、 支払保険契約が、 旧契約か新契約かを保険会社からの証明書で確認しながら申請書に正しく記載する必要があります。
生命保険契約等により支払われた保険料や掛金は所得者本人が支払ったものに限られています。 又、 保険金、 共済金等の給付金の受取人の全てが所得者本人又は所得者の配偶者や親族となっていることが必要です。
翌年以後に払込期日が到来する保険料を一括して前納保険料がある場合には、 本年中に相当する部分のみが支払保険料の金額となります。

(ヘ) 社会保険料控除
所得者本人と生計を一にする親族が負担することになっている社会保険料を所得者自身が支払った場合(時限措置により納付可能となった過去分の保険料の支払分も含む)には、 所得者本人の社会保険料として控除できます。
年金から特別徴収された介護保険料や後期高齢者医療保険料については、 支払者が年金受給者自身となることから、 その年金の受給者の社会保険料として控除となります。
翌年以後に払込期日が到来する保険料を一括して前納保険料がある場合には、 前納期間が1年以内の場合には、 その全額を本年の社会保険料として控除することができます。 なお、 国民年金保険料については、 2年分を前納できることになりましたので、 全額控除をするか、 又は期間按分して控除(この場合には、 按分の明細書が要作成)する方法のいずれかを選択することが可能です。

(ト) 地震保険料控除
所得者本人と生計を一にする親族が所有して常時居住している家屋や生活に通常必要な家財に対して支払った保険料の内、 一定の金額を地震保険料控除として控除できます。
一つの契約等で、 地震等損害に対する損害保険契約と旧長期損害保険契約のいずれの契約区分にも該当する場合には、 選択によりいずれか一方の契約区分のみが地震保険料控除の控除額となります(有利な方を選択する)。

(チ) (特定増改築等)住宅借入金等特別控除
現在、 各種の住宅借入金等特別控除がありますが、 控除を受けようとする初年度分については、 確定申告により控除の適用を受ける必要があります。 2年度以降分については、 年末調整の際に下記のものを給与支払者に提出します。
① 税務署長が発行した「年末調整のための(特定増改築等)住宅借入金等特別控除証明書」。 この証明書の上部に「給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書」がありますので、 控除金額等の記載を行い提出します。
② 金融機関等が発行した「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」
一般の住宅借入金等特別控除は、 居住者が一定の要件を満たす住宅の取得等して、 その人の居住の用に供した場合(その家屋の取得等の日から6ケ月以内に居住用に供したものに限られています)において、 その住宅の取得等のために一定の住宅借入金(償還期間10年以上等)を有するときには、 居住年以後10年間(平成13年7月1日から平成33年12月31日までの間で居住した場合には、 最長10年間。 それ以前のものは最長15年間)の各年のうち、 合計所得金額が3千万円以下である年について、 住宅借入金等の年末残高を基にした所定額を住宅借入金等特別控除としてその年の所得税額から控除できるというものです。
家屋に入居後、 本年12月31日まで継続して居住用に供していることが控除の適用要件ですので、 年度の途中で海外勤務となり出国している場合には、 この制度の適用はありません。
自己の居住用の家屋が2以上有する場合には、 主として居住用とする1の家屋に限られます。
連帯債務(共有)の場合には、 各年12月31日現在のその住宅借入金等の金額に控除を受ける人の負担割合(持分割合)を加味して控除額を計算します。 その割合は、 小数点以下第4位を切上げ、 90%以上である場合は100%とします。
住宅ローンの借換え: この制度の適用者が、 住宅借入金等の借換えをした場合に一定の要件を満たすときには適用が継続します。 住宅ローン金利が低くいものがあるとローンの借換えを行う場合があります。 一般の住宅ローンの場合の借換えでは、 新たな借入金が当初の借入金を消滅させるもので、 適用対象となっていた家屋の取得等のための資金に充てるものであれば住宅ローン控除の継続適用の対象となります。 その場合の新たな借入金の償還期間も10年以上であることが適用要件となっています。 ローン借換後の借入額が借換前の借入残高以下であれば、 年末借入残高が控除対象額となりますが、 逆に借換後の借入額が借換直前の借入残高を上回る場合、 次の按分計算して控除対象額を導く必要があります。
ローン借換後の借入額の年末残高 X (借換直前の借入残高 ÷ 借換直後の借入額) = 控除対象借入額の年末残高

(リ) 給与と徴収税額の集計
年中に支払った給与・賞与が対象になりますが、 本年分の給与で未払いであっても、 本年中に支給日が到来して支払の確定したものについても年末調整の対象になります。

以上が年末調整の概要となります。

2018年11月8日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

海外口座情報55万件入手 国税庁、富裕層の資産把握

国税庁は31日、約100ヵ国・地域が自国内の金融機関にある外国居住者の口座情報を交換する新制度により、同日時点で日本居住者が海外に持つ口座情報約55万件を入手したと発表した。
新制度はCRS(共通報告基準)と呼ばれ、各国の税務当局が自国の金融機関に外国に住む顧客(非居住者)の口座情報を報告させ、年1回、参加国間で情報交換する仕組み。交換で得られる情報は顧客の氏名、住所、口座残高、利子・配当の年間受取総額など。

2018年11月1日 | カテゴリー : 社会情報 | 投稿者 : accountant

相続分野で民法改正の概要

民法の相続分野の規定を約40年ぶりに見直す民法改正が2018年7月6日に成立し、7月13日に公布されました。主な法改正は以下の6点で、2020年7月13日までに順次施行されることになっています(下記に記載以外の施行は、2019年7月13日までに政令で定める日となっていますが、法務省のHP等で公表される予定です)。
一 配偶者の居住権保護(施行は、2020年7月13日までに政令で定める日)
二 遺産分割等に関する見直し
三 遺言制度に関する見直し(施行は2019年1月13日から)
四 遺留分制度に関する見直し
五 相続の効力等に関する見直し
六 相続人以外の人からの介護・看護への特別寄与分の請求権
以下、それらの概要を記載します。

一 配偶者の居住権保護
1. 配偶者短期居住権
(1)居住建物を配偶者を含む共同相続人間で遺産分割すべき場合
配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に無償で居住していた場合には、配偶者は、下記のいずれか遅い日までの間、無償でその建物を使用することができます。
① 遺産分割によりその建物の帰属が確定するまでの間
② 相続開始から6ヵ月間の間
(2)上記(1)以外に、居住建物を第三者に遺贈や配偶者が相続放棄した場合等
居住建物の所有者は建物に無償で居住していた配偶者に対して、いつでも配偶者短期居住権の消滅を申入れすることが可能ですが、その申入れを受けてから6ヵ月間は引続き配偶者は無償でその建物を使用することができます。
2. 配偶者居住権
配偶者が相続開始時に居住していた被相続人の所有建物を対象として、残された配偶者の保護を手厚くし、遺産分割の協議が調うなどすれば、残された配偶者は自身が亡くなるまで(終身又は当事者間で存続期間を定めた場合にはその一定期間)今の住居に住み続けられる「配偶者居住権」を得られ、住居の所有権を取得する必要がなくなります(配偶者は家に居住権を設定する登記手続きを法務局(登記所)にすることで権利を確保)。それにより、遺産分割では預貯金など他の遺産の取り分を増やし、老後の生活資金にあてることも可能になります。居住権のみなら、所有権を取得する場合よりも評価額が低くなるためです(これまでの相続財産の評価額が、居住権評価額と所有権評価額に分けられることになります)。なお、配偶者居住権は、協議による遺産分割の場合に限られるものではなく、被相続人の遺言によって取得させることもできます。
配偶者居住権の財産評価額方法は、今後公表されることになります。

二 遺産分割等に関する見直し
1.特定配偶者に遺贈又は贈与した居住用不動産の特別受益の持戻し計算免除
婚姻期間が20年以上で、配偶者に居住用の建物又はその敷地の全部又は一部(居住用不動産)を生前贈与するか遺言で贈与の意思を示せば、その居住用不動産は被相続人が特別受益の持戻し免除の意思表示したものと推定し、遺産分割の対象にしない(遺産分割の共有財産にならない)という優遇措置が設けられました。
2.預貯金債権の仮払い制度
遺産分割の協議中でも、相続した預貯金を葬儀費用や生活費用に充てるため、仮払いを認める仮払制度が設けられます。
(1) 家事事件手続法の保全処分要件の緩和
家庭裁判所に遺産分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、仮分割の仮処分の必要性があり、かつ、他の共同相続人の利益を害しないと裁判所が判断した場合には、預貯金債権の仮払いが認められることになります。
(2) 家庭裁判所の判断なく預貯金債権の払戻し
各共同相続人は、預貯金債権のうち、各預貯金口座ごとに以下の金額(但し、一つの金融機関で引き出せる金額については法務省令で定める金額を上限:100万円~150万円程度の予定)まで、他の共同相続人の同意なく単独で払戻しを求めることができます。
 相続開始時の個々の預貯金口座の金額 × 3分の1 × 共同相続人の法定相続分 
= 単独で払戻しを求めることができる金額
3. 遺産分割前に相続財産が処分された場合の遺産分割の範囲
(1) 遺産分割前に相続財産が処分された場合であっても、共同相続人全員の同意により、当該処分された財産を遺産分割の対象に含めることができます。
(2) 共同相続人の1人又は数人が遺産分割前に相続財産を処分した場合には、当該処分した共同相続人については、上記(1)の同意を得る必要はありません。

三 遺言制度に関する見直し
1.自筆証書遺言の利便性と信頼性の向上
これまで生前に被相続人が書く自筆証書遺言は、内容に問題があっても死後まで分からず、信頼性に欠ける等から相続を巡るトラブルも少なくありませんでした。そこで、自筆証書遺言は、今後、公的機関である全国の法務局で形式に関し事前チェック後に保管できるようにして、相続人が遺言があるかを簡単に調べられるようになります。法務局に預けた場合は、家庭裁判所で相続人が立ち会って内容確認する「検認」の手続きを不要とし、又、財産目録はこれまで全文を自筆に限定していましたが、パソコンでの作成可能となります(但し、財産目録の毎ページに署名押印しなければなりません。又、自書によらない記載が両面に及ぶ場合には、その両面に署名押印しなければなりません)。この法務局に預ける場合の手数料も数千円程度に安価を想定しているようです。
なお、遺言者の死亡届が提出された場合、法務局から相続人に通知できるようなシステムも検討されます。
2.遺言執行者権限の明確化
これまで遺言執行者は常に相続人の利益のために職務を遂行すべきであるとの誤った認識を抱く者も少なくなく、このために遺言執行者と相続人との間でトラブルになるケースが相当数生じていました。そこで、
(1) 遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示していた行為は、相続人に対し直接にその効力が帰属するという規定表現になりました。
(2) 特定遺贈又は特定財産承継遺言がされた場合における遺言執行者の権限等について明確化が図られました。

四 遺留分制度に関する見直し
1.遺留分減殺請求権の金銭債権化
これまで減殺請求により当然に物権的効果が生ずることとされているため、減殺請求の結果、遺贈又は贈与の目的財産は受贈者と遺留分権利者との共有になることが多く、このような帰結は、円滑な事業承継を困難にするものであり、又、共有関係の解消をめぐって新たな紛争を生じさせることになることがありました。そこで、
(1) 遺留分に関する権利行使により生ずる権利を遺留分侵害額に相当する金銭債権化することとしました。
(2) 遺留分権利者から遺留分侵害額請求を受けた時点で相当期間経過しており請求を受けた時点では、受遺者又は受贈者が十分な資金がなく金銭を直ちに準備できない場合には、受贈者等は、裁判所に対し金銭債務の全部又は一部の支払につき期限の許与を求めることができるようになりました。
2.遺留分及び遺留分侵害額の算定方法
(1)遺留分及び遺留分侵害額の計算式
① 「遺留分」 = 「遺留分を算定するための財産価額」 × 1/2(*1)× 遺留分権利者の法定相続分 
                 (*1)相続人が直系尊属のみの場合は1/3
「遺留分を算定するための財産価額」 
= 相続時における被相続人の積極財産の額 
+ 相続人に対する生前贈与の額(原則10年以内*2)
+ 第三者に対する生前贈与の額(原則1年以内)
- 被相続人の債務の額
              (*2)被相続人と受贈者が、遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与した場合には、10年前の贈与分も含む
 ② 遺留分侵害額 = 「遺留分の額」- 遺留分権利者が受けた特別受益額 - 遺産分割の対象財産がある場合(既に遺産分割が終了している場合も含む)には具体的相続分に応じて遺産を取得したものとした場合の当該遺産の価額(但し、寄与分もよる修正は考慮しない)+ 被相続人に債務がある場合には、その債務のうち遺留分権利者が負担する債務の額
(2)相続人に対する贈与は、相続開始前10年間にされたものに限定し、その価額を遺留分を算定するための財産価額に算入する。

五 相続の効力等に関する見直し
特定財産承継遺言(相続させる旨の遺言)や相続分の指定された場合により承継された財産については、登記等の対抗要件なくして第三者に対抗することができていましたが、法定相続分を超える部分の承継については、登記等の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができないことになります。

六 相続人以外の人からの介護・看護への特別寄与分の請求権
被相続人の親族で相続の対象にならない人でも、被相続人に対して介護や看病その他の労務の提供により被相続人の財産の維持又は増加に貢献(寄与)した場合は、相続人に金銭(特別寄与料)を請求できる仕組みが取り入れられます。対象は、息子の妻が義父母を介護していたケース等を想定したもので、特別寄与の請求権者は、被相続人の親族に限定されることになっています。これまでの介護の寄与をめぐり争った場合の家庭裁判所が示す目安は、次の通りです。
介護の日当額(8千円)× 日数(500日)× 裁量的割合(70%)
= 介護寄与分額(280万円) 

以上です。

2018年10月28日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

首相、来年10月に10%表明「消費増税へ政策総動員」

安倍晋三首相は15日の臨時閣議で消費増税につぃて「法律に定められた通り、2019年10月1日に8%から10%へ引き上げる」と表明した。「あらゆる政策を総動員し、経済に影響を及ぼさないよう全力で対応する」と述べた。
消費増税対策のポイントは以下の通りです。
* 増税後に自動車や住宅を購入する人を税・財政面から支援
* 飲食料品などの税率を8%に据え置く軽減税率の円滑な実施
* 中小の小売店でキャッシュレス決済すると2%分をポイント還元
* 幼児教育・保育や低所得者の大学の無償化を着実に実施
* 防災・減災のためのインフラ整備を中心とした公共事業の拡大

2018年10月16日 | カテゴリー : 社会情報 | 投稿者 : accountant

コンビニ食品に軽減税率 財務省方針 店内飲食の禁止条件

2019年10月の消費増税と同時に導入する軽減税率制度への対応を巡り、財務省は店内に休憩所を持つコンビニやスーパーなどの小売店について、店内で買った飲食料品を原則として軽減税率の対象とする方針だ。休憩所に「飲食禁止」と明示し、実際に客がそこで飲食していないことが条件になる。
飲食料品は買って持ち帰れば8%の軽減税率が適用される。
小売店内にあるテーブルや椅子など「飲食設備」で食べる目的で飲食料品を買えば、軽減税率の適用はなく、税率は10%となる。

2018年10月4日 | カテゴリー : 社会情報 | 投稿者 : accountant

相続税の納税義務者の範囲

相続税の納税義務者は、 無制限納税義務者(居住無制限納税義務者及び非居住無制限納税義務者)及び制限納税義務者に区分され、以下の様に課税されます。
1. 居住無制限納税義務者:国内・国外財産ともに課税
2. 非居住無制限納税義務者:国外財産にも課税(国内・国外財産ともに課税)
3. 制限納税義務者:国内財産のみに課税

課税範囲は、被相続人と相続人の双方の状況により、以下の様になっています。

相続人・受贈者
国内に住所有り
相続人・受贈者
国内に住所無し
日本国籍有り日本国籍無し
一時的住所の
外国人(注1)
10年以内に国内
に住所有り
10年を超えて
国内に住所無し
被相続人・贈与者
国内に住所有り
一時的住所の
外国人(注1)
国内財産国内財産国内財産
被相続人・贈与者
国内に住所無し
10年以内に国内
に住所有り
日本国籍のない
外国人(注2)
国内財産国内財産国内財産
10年を超えて
国内に住所無し
国内財産国内財産国内財産

水色の部分に該当すれば、国内財産のみに課税となります。その他は、国内・国外財産ともに課税となります。

注1(一時的住所の外国人):出入国管理及び難民認定法別表第1の在留資格の者で、過去15年以内において国内に住所を有していた期間の合計が10年以下の者
注2(日本国籍のない外国人):相続開始時に、国内に住所を有しなくなった被相続人で、相続開始前10年以内のいずれかの時に住所を有していたことがあるが日本国籍を有していなかった者、又は、相続開始前10年以内のいずれかの時に住所を有していない者である外国人
*「一時居住者」とは、
 相続開始の時において在留資格を有する者であって当該相続の開始前15年以内においてこの法律の施行地に住所を有していた期間の合計が10年以下であるものをいう。
*「一時居住被相続人」とは、
 相続開始の時において在留資格を有し、かつ、この法律の施行地に住所を有していた当該相続に係る被相続人であって当該相続の開始前15年以内においてこの法律の施行地に住所を有していた期間の合計が10年以下であるものをいう。
*「非居住被相続人」とは、
 相続開始時に、国内に住所を有しなくなった被相続人で、相続開始前10年以内のいずれかの時に住所を有していたことがあるが日本国籍を有していなかった者、又は、相続開始前10年以内のいずれかの時に住所を有していない者である外国人をいう。

国内住所の有無の判定基準について:
1.「住所とは各人の生活の本拠をいい、生活の本拠であるかどうかは客観的事実によって判定する」と定められています。
2.「生活の本拠とは、その者の生活に最も関係の深い一般生活、全生活の中心を指すものであるところ」と判示しています。又、「一定の場所がその者の住所とする意思だけでは足りず、客観的に生活の本拠たる実態を必要とするものと解される」と判示しています。
3.「住所」の推定規定
国内に住所を有するものと推定する場合や、逆に国内に住所を有しない者と推定する場合があります。
イ(国内に住所を有する者と推定する場合)
所得税法施行令:
第14条 国内に居住することとなった個人が次の各号のいずれかに該当する場合には、その者は、国内に住所を有する者と推定する。
一 その者が国内において、継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有すること。
二 その者が日本の国籍を有し、かつ、その者が国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有することその他国内におけるその者の職業及び資産の有無等の状況に照らし、その者が国内において継続して1年以上居住するものと推測するに足りる事実があること。
2 前項の規定により国内に住所を有する者と推定される個人と生計を一にする配偶者その他その者の扶養する親族が国内に居住する場合には、これらの者も国内に住所を有する者と推定する。
ロ(国内に住所を有しない者と推定する場合)
第15条 国外に居住することとなった個人が次の各号のいずれかに該当する場合には、その者は、国内に住所を有しない者と推定する。
一 その者が国外において、継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有すること。
二 その者が外国の国籍を有し又は外国の法令によりその外国に永住する許可を受けており、かつ、その者が国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有しないことその他国内におけるその者の職業及び資産の有無等の状況に照らし、その者が再び国内に帰り、主として国内に居住するものと推測するに足りる事実がないこと。
2 前項の規定により国内に住所を有しない者と推定される個人と生計を一にする配偶者その他その者の扶養する親族が国外に居住する場合には、これらの者も国内に住所を有しない者と推定する。

●原則、被相続人の本籍がある国の法律に基づいて相続手続きを行いますが、国によって多少異なる取扱いもあります。相続税は遺産を受取る相続人に課税されるものであり、被相続人が海外に住んでいても、又外国籍であっても、相続人に日本の相続税が課税される場合があります。
●住所・国籍の有無、 居住期間の計算は、 財産取得した時を基準とします。
●日本国籍と外国国籍とを併有する重国籍者は、 日本国籍を有する個人扱いになります。 但し、 自己の意思(志望)によって外国籍を取得している者である限り、 その取得時点で国籍法第11条の規定によって日本国籍を喪失したことになります。
●制限納税義務者の納税義務の範囲に関して、 日本国内にある財産に限定されることから債務控除の範囲も日本国内にある財産に関連する債務に限定されていますが、 その債務の範囲は5項目の限定列挙となりかなり限定的であることに留意すべきです(相法第13条②)。
●特定納税義務者とは、 被相続人から相続又は遺贈により財産を取得しなかった者のうち、 特定贈与者である被相続人より相続時精算課税の適用を受けていた財産に対して相続税の納税義務(精算の義務)を負うことになる者です。
●国外転出時課税の適用がある場合の納税猶予期限を10年に延長している個人が死亡した場合(被相続人)又は財産の贈与をした場合(贈与者)は、非居住者であっても、相続の開始前又は贈与前の5年以内に相続税法の施行地に住所を有していたものとみなされます。

2018年9月20日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant

基準地価 27年ぶり上昇 全国平均 訪日客効果広がる

国土交通省が18日発表した2018年7月1日時点の基準地価は、 前年比で27年ぶりの上昇に転じた。 全国の林地を除いた宅地(全用途)は前年に比べて0.1%上昇で、1991年以来のプラス。
2018年基準地価の変動率(7月1日時点、 前年比%、 ▲は下落):

地域 住宅地 商業地 全用途
前年2018年前年2018年前年2018年
全国平均▲0.6▲0.30.5 1.1▲0.30.1
三大都市圏0.40.73.5 4.21.2 1.7
東京圏0.61.03.3 4.01.3 1.8
大阪圏0.00.15.0 5.41.1 1.4
名古屋圏0.60.82.6 3.31.2 1.5
地方圏▲1.0▲0.8▲0.6 ▲0.1▲0.9 ▲0.6
中核地方4市2.83.97.9 9.24.6 5.8

公的機関が公表する土地価格情報には、 以下のものがあります。
公示地価 基準地価 路線価 固定資産税評価額
調査主体 国土交通省都道府県国税庁市町村
調査地点数 約26,000 約21,600 約336,000多数
調査時点 1月1日 7月1日1月1日 1月1日(原則3年に1回、 次回は2021年)
公開時期 3月9月7月又は8月 3月
公開サイト 国交省(土地総合
情報ライブラリー)
国交省(土地総合
情報ライブラリー)
国税庁資産評価システム
研究センター
その他調査対象は都市部の比重が高い。 標準地の公示地価は一般の土地取引価格の指標となるだけでなく、 公共事業用地の取得価格算定や、 国土利用計画法に基づく土地取引規制における土地価格審査の基準にも使われる。調査対象は地方の調査地点が多く、 不動産鑑定士の評価を参考に調査し、 一般の土地取引価格の指標となる。 公表は国交省から 相続税・贈与税の基準となる地価で、 公示地価の8割程度の水準土地に対する固定資産税計算の基準となる地価で、 公示価格の7割程度の水準

2018年9月19日 | カテゴリー : 社会情報 | 投稿者 : accountant