保険契約の法人から個人への名義変更

法人では各種の保険に加入されているかと思いますが、その保険契約を個人に名義変更することがあります。 その場合の会社と個人のそれぞれには、課税上どのような処理になるでしょうか。 保険の種類の中で、「低解約返戻金タイプの生命保険」を例として、検討してみたいと思います。

「低解約返戻金タイプの生命保険」とは、中途での解約時には所定の解約返戻金がありますが、保険契約から初期の段階では低い解約返戻金ですが、年数の経過により増加(急に増加するタイプもあり)し、ある経過年数でピークとなり逓減していくという商品です。俗に「逓増定期保険」と言われる商品も同様です。

法人で保険料を支払いますが、通常、この種の保険では、保険料の半額が経費として損金経理され、残りの半額は保険積立金として資産経理となります。 例えば、解約時の保険返戻率に関して、2年目で2%、3年目で25%、4年目で125%、5年目で115%、以降逓減していく保険契約のケースで、3年目で保険契約者・保険受取人の名義を法人から個人に変更する場合、個人は法人に変更時の解約返戻金を支払うことになります。 そして、個人は4年目に保険料を支払うとその年に保険を解約し解約返戻金を受領した場合の課税は、以下の様に取り扱われます。

1.法人の3年目の事業年度

(1)保険積立金総額(3年間の保険料総額 X 50%) - 解約返戻金相当額(3年間の保険料総額 X 25%)= 解約損失金(経費)

(2)3年目の50%保険料 = 経費

注:2年間の50%保険料総額は経費処理済

2.個人の4年目の申告年度

(1){4年目の解約返戻金(4年間の保険料総額 X 125%) - (3年目の解約返戻金(3年間の保険料総額 X 25%)+ 4年目の保険料)}- 500,000 = 一時所得

(2)上記の一時所得 X 50% = 総合課税所得

上記の例の様な保険契約のケースでは、法人では純保険料負担の100%が経費処理でき、個人では、保険料負担額の倍以上の収入が得られたことになります。

保険会社によっては、個人に名義変更した後に数年間は、契約者貸付(解約返戻金の範囲内で保険料を貸付)を利用して個人の負担なく続けられる保険商品もあります。

 

上記例はかなり特殊な契約内容でありますが、少なくとも保険契約の名義変更を法人から個人に承継させる上で留意すべき事項は次のとおりです。

① 名義変更先が個人の場合は被保険者本人またはその親族(2親等以内)に限られます。

② 個人は法人に名義変更時の解約返戻金相当額を支払う必要があります。

③ 名義変更の事業年度で法人は保険積立金額と個人から受領した解約返戻金相当額との差額が、解約損益金額となります。

④ 個人が保険解約時の解約返戻金は一時所得に該当しますが、その時の計算上、解約返戻金から控除できる保険料は、個人が負担した保険料に限定されます。 一時所得の計算上控除できる「その収入を得るために支出した金額」は、個人が負担して支出したものに限ることが、現行の法令・通達で明確化され、又、最高裁判決でもその様に判示されています。 一時所得の場合には50万円控除があり、更にその50%が課税所得となる扱いになります。

収益力のある法人等においては、検討されてもよいかもしれません。

2017年7月21日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant