税金の消滅時効

商取引の債権・債務を始め、 各種の事柄に「時効」という法的な規定が存在しています。 当然、 税金に関しても「時効」の規定があり、 その時効後に税務署に納付した税金は、 税務署は受領せずに返金となります。 以下に、 税金の消滅時効について言及してみたいと思います。

1.更正・修正・決定

税金は納税者(会社や個人)の自らが税法規定に法り計算し、その結果を所定の申告書に記載し法定申告期限・納付期限までに提出・納付するという、「申告納税制度」を採用しています。 申告・納付後に税法規定の取誤り等で税額計算に誤りがあったことに気が付くことがあります。 その様な場合とは、納税者側で気づく場合と、課税庁側(税務署等)で税務調査等から気づく場合とがあります。

対応者 区分 課税処分・手続
納税者側(法人・個人) 税金の過大申告

(還付請求)

更正の請求
税金の過少申告 修正申告
課税庁側(税務署等) 税務申告有り(更生:正しい税額に改める) 税金の過大申告 減額更正
税金の過少申告 増額更正
税務申告無し(一方的に税額確定) 決定
偽りその他不正行為有り(脱税行為) 更正・決定

「更正の請求」とは、税額等の計算が国税に関する法律の規定(税法)に従っていなかったり、 又は計算に誤りがあったことにより、 当初に納めた税金額が過大であることを理由として自ら正しくすることを請求する制度です。 逆に、 当初に納めた税金額が過少の場合には、 「修正申告」をおこなうことになります。

課税庁は、 所定の期限までに申告のない場合や、 税務申告の内容につき、 法律に従っていなかったり事実を正しく反映していないことなどが明らかになった場合に、補充的に確定をすることになります。この課税庁のなす確定は、 課税処分と総称されますが、 無申告の場合には「決定」、 税務申告内容がが適正でない場合のものは「更正」と呼ばれるところから、 更正・決定といわれます。更正・決定は納税者に対しての補充的なものです。

 

2.法定申告期限・法定納税期限

税金の種類 納税義務者 法定申告期限・法定納税期限
法人税 法人 事業年度終了日の翌日から2カ月以内
消費税 法人 事業年度終了日の翌日から2カ月以内
個人事業者 申告年度の翌年3月末まで
所得税 源泉所得税 給与等の支払者 原則 支払月の翌月10日まで
特例 支払1月~6月:7月10日まで

支払7月~12月:翌年1月20日まで

申告所得税 個人 申告年度の翌年3月15日まで
相続税 相続人 相続を知った日から10カ月以内
贈与税 受贈者 申告年度の翌年3月15日まで

 

3.消滅時効、 時効更新、 時効完成猶予、 除斥期間の定義

具体的な税法上の時効の期限(年数)に関連して、 次の定義を理解しておくことが望まれます。

(1) 消滅時効

権利者が、 一定期間内に何もせずに放置しておくと、 その権利が消滅してしまうことを「消滅時効」といいます。

(2) 時効更新(時効中断)

時効の進行中に一定の事由が発生することで、 これまでの経過期間がクリアーされ、 その事由が止んでから新たな時効が再スタートになること(振出しに戻る)を、 「時効中断」といいましたが、「時効更新」と用語変更となります。

(3) 時効完成猶予(時効停止)

時効の進行中に一定の事由が発生するが、 一時的に経過期間がストップされるだけで、 その事由が止んでから再び時効が進行となることを、 「時効停止」といいましたが、「時効完成猶予」と用語変更となります。

(4) 除斥期間

消滅時効と共通の法的性質を持ち、 権利者が、 一定期間内に何もせずに放置しておくと、 その権利が消滅するという点では同じですが、 時効更新がないところが大きく異なっています。

上記の国税の更正・決定の時効においても、 「時効更新」となることはありませんので、 この様な場合を「除斥期間」と言われます。

 

以上の定義事項は、 税法上の時効の時にも出てきますが、 「時効更新」及び「時効完成猶予」の用語は、 民法改正案における変更のものであり未だ成立・公布・施行には至っておりません。

 

4.税法上に時効 

(1) 国税の更生・決定等の時効(除斥期間)

税金の種類 区分 課税処分 法定申告期限の翌日から起算した時効期間(除斥期間)
法人税(注)・消費税・所得税・相続税 申告有り 減額更正:更正の請求 5年
増額更生:修正申告 5年
申告無し 決定 5年
偽りその他不正行為有り(脱税行為) 更正・決定 7年
贈与税 申告有り 減額更正:更正の請求 6年
増額更正:修正申告 6年
申告無し 決定 6年
偽りその他不正行為有り(脱税行為) 更正・決定 7年

注1: 法人税の移転価格税制に係る更正の請求期間は、 法定申告期限から6年

法人税の純損失等の金額に係る更正の請求期間は、 法定申告期限から9年

更正の請求に際しては、 納税者は更正請求の理由の基礎となる「事実を証明する書面」の添付が必要となります。

なお、 原則として、 地方税の時効期間も法人税と同様です。

以上から、 申告・更正・修正・決定等における事項は、 納税者側も課税庁側も5年、 例外として贈与は6年、 脱税行為は7年ということになります。

 

(2) 国税債権(未納税額)の徴収権の消滅期間

時効 摘要 消滅時効の期間
消滅時効 原則、 法定納税期限から5年後

時効に関して、 その援用(時効の利益を受けようとする意思表示)を必要としなく、 又、 時効満了の前後を問わず、 時効の利益を放棄することが出来ないことから、 時効満了後の納税は過誤納として還付されます。 なお、 その効力は起算日まで遡りますので、 以降の利子税、 延滞税も同様に消滅します。

時効更新 国税債権の消滅時効の更新事由として、

① 更正・決定

② 各種加算税の賦課決定

③ 納税の告知

④ 督促

⑤ 交付要求

 

民法の定める消滅時効の準用される更新事由として、

①裁判上の請求

②仮差押え、仮処分

③承認

④催告

⑤その他

左記の処分の効力が生じた時に時効は「時効更新」し、 これらの処分に係る税額の納期限、 その他所定の期間が経過した時に新たな時効が再スタートとなります。

*更正・決定の場合、 その通知書が発行された日の翌日から起算して1カ月後が納付期限となり、 その日から新たに時効が再スタートすることになります。 時効更新の効果は、 更新事由となる部分に係る税額ということから、 増額更正の増差税額の部分に限られます。

*納税の告知の場合、 告知にて指定された納付期限までの期間につき、 その翌日から新たに時効が再スタートします。

*督促の場合、 処分効力が生じる督促状又は督促のための納付催告書を発した日から起算して10日間までの期間につき、 その翌日から新たに時効が再スタートします。

*期限後申告、 法定納期限後の修正申告も更新事由(承認)となると解され、 申告日が納付期限となることから、 その日から新たに時効が進行することになります。 なお、 納税額の一部納付行為があった場合には、 全額について承認があったものとみなされます。

*請求は、 何らかの形で裁判所が関与する手続きが要求されますので、 単に書面で請求しても更新の効力は生じません。

*催告は、 6カ月以内に裁判上の請求等の法的なん対応がなされない限り更新事由にはなりません。 例えば、 督促状をその都度送付しているだけでは、 更新事由に該当しません。

時効完成猶予 脱税に係る税額 脱税に係る税額についての時効は、 法定納付期限から2年間は進行(一時的に経過期間がストップ)しないことから、 原則の5年と合わせて、 実質的に7年が時効期間となります。

法定納付期限の翌日から2年以内の間に、 税務申告書の提出があった場合にはその翌日から、 又、 更正・決定があった場合はその通知書の発付日の翌日から時効が進行することになります。 なお、 これらが法定納付期限までに行われた場合には、 法定納付期限の翌日から時効が進行します。

 

5.租税罰則・刑事罰則規定

(1)無申告(申告書不提出)における租税罰則

税目 状況 罰則
 

所得税、贈与税、相続税、法人税、消費税、等

脱税(所得秘匿のための積極的な工作という偽りその他の不正行為があり、申告書を提出せずにその結果、税を免れていた場合) 10年以下の懲役もしくは1,000万円(情状により脱税額)以下の罰金、又はこれらの併料
故意に税を免れる意思をもって申告書を提出せず、税を免れた場合 5年以下の懲役もしくは500万円(情状により脱税額)以下の罰金、又はこれらの併料
故意に税を免れる意思がなく申告書を提出せず、申告義務があった場合(秩序犯) 1年以下の懲役、又は50万円以下の罰金
過失による場合 処罰対象外

 

(2)税法違反における刑事罰則

違反行為 刑事罰則 行政制裁
①虚偽申告
・無申告等による税の免脱
不正行為を伴う過少申告・無申告・還付金受領 脱税犯(直接税の場合):

10年以下の懲役もしくは1,000万円(情状により脱税額)以下の罰金、又はこれらの併料

重加算税

(過少・無申告)

過少申告 程度により脱税犯として処罰されるケースあり 過少申告加算税
無申告 故意に税を免れる意思をもって申告書を提出せず、税を免れた場合:

5年以下の懲役もしくは500万円(情状により脱税額)以下の罰金、又はこれらの併料(直接税及び消費税)

無申告加算税
源泉徴収不納付 源泉所得税不納付罪:

10年以下の懲役もしくは200万円(情状により脱税額)以下の罰金、又はこれらの併料

不納付加算税
②秩序犯 無申告 申告書不提出罪:

(故意に税を免れる意思がなく申告書を提出せず、申告義務があった場合)

1年以下の懲役、又は50万円以下の罰金

無申告加算税
調書の不提出等 法定調書等の虚偽記載・不提出罪:

1年以下の懲役、又は50万円以下の罰金

 
③滞納   延滞税

 

 

2016年10月7日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant