信託:遺言代用信託と遺言信託の違い

死亡により死亡者(被相続人)の財産は、通常その相続人に引き継がれますが、相続でのトラブルが少なくありません。 相続人間で解決できない場合には、家庭裁判所への相談(調停・裁定)となります。 現在では、その相談は年間10万件以上ということで死亡者の約10人に1人という割合になっています。 なお、相談となるケースでの相続財産は決して高額ではなく、相続財産が1千万未満で全体の約30%、5千万未満となると全体の約70%という割合を占めています。 この様に相続が「争続」にならないように事前に対策する傾向が高まってきています。 その対策の一つに信託の活用がありますが、最近では信託銀行等が提供しており活用が増えてきています「遺言代用信託」と「遺言信託」について考えてみたいと思います。

 

  1. 信託とは

信託法の改正により、 現在では信託を一定の枠組みに中で自由設計が認められるようになりました。 信託では、 契約(信託契約による信託行為)に基づき自分(委託者)の財産(信託財産)を他人(受託者)に託し、 特定者(受益者)への一定の目的(信託目的)の為に信託期間中、 それを運営管理・処分をしてもらうことです。 登場人物は委託者、 受託者、 受益者の3名ですが、 委託者と受益者とが同一人となることもありますし、 信託設定時には受益者が存在していない場合もあります。

 

  1. 信託法における信託類型

信託における課税関係では、 受益者となる者の時期等によって異なりますが、 その種類としては次の4つがあります。

(1) 遺言代用信託

委託者が生前には受益者(自益信託)となり、 死亡時に受益者となるべき者を予め指定している信託。 例えば、 契約により信託銀行が委託者から生前に金銭を預かり、 死亡時に契約した内容(葬儀費用等)で受取人に払出すという仕組にしているものです。

(2) 受益者指定・変更権のある信託

受益者を指定し、 又は変更する権利を有する者の定めのある信託

(3) 後継遺贈型による受益者の連続信託(受益者連続型信託)

受益者の死亡によりその受益者が消滅し、 他の者が新たな受益権を取得する定めのある信託

(4) 受益者の定めのない信託

信託設定時点では受益者の定めがなく、 公益目的等の為に設定しますが、 将来の受益者の為に信託管理人を設置しておく信託

 

  1. 遺言信託

「遺言信託」という商品名で信託銀行等が提供しているものがありますが、 信託法における遺言代用信託とは異なるもので、 そのサービス内容は3つに大別されます。

(1) 遺言の作成や公証役場での手続き支援

(2) 遺言書の保管(定期的に内容変更有無の確認)

(3) 相続時に遺言書の執行人(遺産の調査、 相続税の申告作業支援等)

 

  1. 遺言代用信託と遺言信託の相違点
遺言代用信託 遺言信託
対象資産 現預金のみ 制限無し
金額 主に、 100万~3,000万円 原則制限無し
費用負担 無料(信託銀行等が預かった資金の運用益の一部を受領有り) 約100万~150万円から(資産額による)
利用目的 葬儀代負担資金
毎月一定額の資金支払
依頼者の意向に沿った財産の分配

 

生前の利用として遺言信託以外に遺言代用信託も急増しています。 相続発生時に、 遺産分割の手続が完了するまでは、 原則として預金を引き出すことができませんので、 遺言代用信託はそれを回避することが可能であり、 又、 遺言のように被相続人の意向を遺産分配に反映することも可能となります。

2016年8月21日 | カテゴリー : 税務情報 | 投稿者 : accountant